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第2話 報告するのも大変です!

 クレスト君がぶち撒いたこれらのお宝の山を見てないことにして欲しいとエマさんにお願いされたのだが、どうしたものかと悩むのはギルドマスターであるライエルが同行させたベルだ。


 ダンジョンに入る為には金貨級以上の者が同行しなければならないと言うルール(これは金貨級以上の者しか入れないと良く勘違いされている)上の問題もあり、超ベテラン冒険者の同行が助けとなるのも事実であり、誰も彼の派遣に疑問は感じていない。

 だが彼はクレストの行動を抑える為のストッパー役を期待されての派遣である。


 さすがにダンジョンに入って間も無しに、バンパイアと魔界蟲とオーガの出現と言うのは予想外にも度が過ぎたが。


「エマさんはこのダンジョンで起きた事を時系列で纏めてあるんだよね。

 まずそれを見せてくれないかな。

 クレスト君が死んで生き返ったって報告したら、勘違いした馬鹿どもがこのダンジョンに押し寄せることになる」


 敢えて端折ってそう言ったベルだが、死者の復活などと言う超常現象をどのようにギルドマスターのライエルに伝えれば良いのか、そしてその報告を受けたライエルは協定違反行為である虚偽報告を行うことを既に予想している。


 一方のエマはと言えば、多くのダンジョンを制覇したベルならきっとこの話を無難な方向に纏めてくれるだろうと根拠の無い期待を込め、水晶板のような魔道具をベルに渡したのだ。


「普通ならこの魔道具も国宝指定されそうなんだけど…これを普通に使ってる君も、かなりぶっ飛んでいるのかも」


 電子メモ帳のような魔道具を手に、ベルが盛大に溜息を付く。


「やっぱり入ってすぐにバンパイアが襲ってきたなんて、普通なら誰も信じないよね…でも入り口を見張ってた子に鏡の設置の話はしちゃったから…ここを削ると証言に食い違いが出るからマズい」


 そうそう、ルケイドさんが提案した鏡反射作戦でダンジョンの中に太陽の光を取り込んだのよね。


 一枚の鏡だけだと光量が足りないかも知れないからって、幾つかの鏡の光を集めるように配置したそうなのよ。

 そんな怪しい行動をしていたら、何をやっているのか聞きたくなって当然だよね。


 だからバンパイアと戦った話を削る訳には行かないの。

 で、どうやってバンパイアを倒したかは鏡を上手く使ったのと、天井が崩れて太陽光が差してきたからだと説明出来るけど、そこに至るまでの戦闘の詳細が問題なのよね。


 魔界蟲三匹プラスオーガとバンパイア。

 こんなの普通に考えて無傷の勝利はあり得ない。


 仮にベルさんがバンパイアと一騎討ちをして瀕死に追いやったと話を改ざんしても、戻ってからギルド患部の誰かに全員の調書を作られると、話に矛盾が生じる可能性が出て来る。

 えっ? 幹部の字が間違ってる?

 良いのよ、あんな奴らは患部扱いしても。


 そこでクレストさんが魔力を無くしたってことが、報告する上でのキーポイントになるかもね。

 一騎討ちで無茶をして、死にはしなかったけど魔力の使いすぎで魔力を失ったって言う方向なら、そう言う事例が他にもあるから信憑性に欠けていないかも。


 ただ、ベルさんがバンパイアを相手にしなかったってところは糾弾されるかも知れないわね。

 バンパイアが魔界蟲より弱いのかと聞かれれば、同等若しくはそれ以上らしいのよ。


 かと言って、魔界蟲も金貨級以上のパーティー推奨の魔物だと前回の遭遇後に報告されたばかり。

 ラビィは魔族だから例外として、クレストさん一人で倒せるような魔物ではない筈なの。

 まぁ、あの人の大銀貨級ってランク自体に意味が無いのはライエルさんも言ってるけど。


 それに剣技しか使えないベルさんにはバンパイアを倒せる技は無いそうだから、元々が全滅してても不思議ではない状況だった、その一言に尽きるのよ。


「クレスト君は瀕死の重傷を追ったけどバンパイアを追い詰め、戦闘能力の低下した状態でやって来たバンパイアを鏡で倒そうとしたら地割れが発生して留めになったってことに変更しとこうか。

 地割れの発生は見張りの子も知っているから問題無い。何故あのタイミングで地割れが起きたのかは、ダンジョンに聞いてくれってぼかすしかないよね」

「クレストさんの傷が癒えたのはどうします?

 タイニーハウスに回復スポットが出来てたなんて非常識なことは報告出来ませんよ」

「アレを非常識と言ってくれる良識があって安心したよ」


 私に対するベルさんの評価がおかしな気がするんだけど。


 ベルとエマがそんな話をしている時のルケイドだが。

 明らかに勇者の持ち物だと分かる、現在の技術では決して作り得ない素材を使用した衣服や文房具、用途不明な物体の数々を『アイテムボックス』に収納していた。

 まだ見ぬ転生者を引き寄せる恐れがあるから、化学繊維やプラスチックを使ったアイテムはアウトであるとの判断だ。


 ルケイドは大量のアダルトグッズを持ち込んだ勇者が居たと言う事実を知り、どう言う基準で勇者召喚をしていたのかと不思議に思うと同時に、クレストがそれを普及させようとしていなかったことに安心した。


 貴族の中には人に言えない趣味を持っている人が多く居る。

 それは貴族間の歪んだ人間関係が原因なのだろうと理解は出来るが納得は出来ない。


 そう言うおかしな方向に進んだ人達にアダルトグッズを売り込めば、金に糸目を付けずに購入していくだろうと冷静に分析するルケイドだが、我が家の状況が赤字続きだとしてもその手のグッズ販売には二の足を踏む。


 それは何故か。


 この世界には『称号』と言うシステムがある。


 その人の業績を讃えて付くことが多い称号はステータスシンボルとも言えるのだが、そこに『アダルトグッズの始祖(又は伝道師)』なんて付くのは絶対に御免だからだ。


 これがゲームであれば、『称号』を得ることで身体の能力アップに繋がるかも知れないのだが。

 中途半端なステータスしか表示されないこの世界では、この『称号』を得るメリットが明確ではない。コレクター要素的な物の可能性も否定出来ない。

 それにもしメリットがあったとしても、もうすぐ十六歳になろうとしている年頃の少年が、その手の商品を扱うには抵抗があるだろう。


『僕が転生者じゃなくて、生粋のこの世界の住民なら喜んで売り捌いてたのかな』


 兄の姿をふと思い出し、日本との倫理観の違いに改めて思い至る。


 そんなルケイドを真面目に手伝っているのはセリカさん一人。

 アヤノさんは見たことの無い武器や防具に興味津々なので少々頼りない。

 サーヤさんとカーラさんも、初めて見るアイテムの数々に片付けどころではない。


 キリアス王国中のお宝をゴッソリ持って来たと言われても信じられそうな貴重品の数々に、

「セリカの鎧も私のアメンボウも、このコレクションの一つだったのね」

と納得しているサーヤさん。


「リーダーの奥義書も私のメモ帳もね。

 クレたん、コッチに来る前は大泥棒か遺跡荒らしだったのかもね」

「泥棒って性格じゃないから、トレジャーハンターだったのか。

 でも勇者グッズも多いから、やっぱり勇者の末裔なのよ」

「だよねー。幾らクレたんが凄腕ハンターだったとしても、まだ二十歳でこれだけのコレクションを揃えるのはどう考えても無理よね。

 親から譲り受けたに違いない!」


 惜しい、親からじゃなくて骸骨さんからだね。

 でも骸骨さんがこっちの世界の親から貰ったって可能性もあるのか。

 本人もどうしてあんなにアイテムを持っているのか覚えてないみたいだし。妄想するのも楽しいよね。


「親からかー。

 あっ、私達も少し余裕出来てきたから、銀貨級になってクレストさんと冒険したんだよって親に報告しに帰ろうかな」


 へぇ、サーヤさんは意外と家族思いなんだね。

 気が付いたら家を出ていた、そんな感じだったと聞いてるから家族との仲は悪いのかと思ってた。


「サーヤはそうなんだ。

 私は帰りたくないよ。絶対怒られるに決まってるし」

「でもカーラだって仕送りは続けてるじゃない。

 きっと許してくれるよ」


 カーラさんは黙って家を出て来たのかな?

 あの性格だから有り得るか。


「でもさぁ、帰ったら冒険者なんか辞めて結婚しろって言われないかな?

 それにクレストさんの名前を出したら、付き合っているのかって思われるかもよ」

とサーヤさんの心配をするカーラさん。


「うっ、それはありえる…かも。

 やっぱり帰るのやめようかな」


 家庭の事情は色々だから、俺がクチを出すことじゃないと思う。

 でも俺と違ってまだご両親に会えるんだっら、今のうちに会った方が後悔しないと思うよ。


 大学に進んで、親元を離れてアパート暮らしをしていた俺が言えることじゃないけどさ。

 日本に居たときはそんなこと全然考えなかったけど、本当に会えなくなったからそう思うようになったんだよね。


『俺は別の世界で生きてるから、心配しないで』と伝えることも出来やしない。

 それが悲しいとか寂しいとか、そう言うのは無いんだけど。

 でも死んだと思ってた息子が異世界転生してたなんて聞いたら、パニック起こすかも。

 うん、両親には報告出来ないけど、それで良いと思うことにしよう。


「エマっちはどうするんだろうね?

 クレたんはお金あるのに市民権買ってないでしょ。

 お父さんは男爵で、そのうち子爵になるんだから、やっぱり世間体的にはクレたんに市民権買って欲しいと思うよ」


 それはエマさんのお父さんが、俺を婿として認めるのが前提の話だよね。

 親の猛烈な反対で好きな人と結婚出来ない人も多い筈。特にこの世界は身分が全てみたいに思う人も居るからね。

 それに男爵や子爵だったら尚更娘の結婚相手は選ぶと思う。


 俺なんて骸骨さんやスライム達が居てくれないと何も出来ないし。


 あ、俺のスライム達…魔力が無くなったせいでリンクが切れてたんだ。

 みんなをこの地に案内するまでは繋がってたんだけど。何処に行ったんだろ?

 まだ馬車の中かな?


 あの子達は結構優秀だから、側に置いておきたいんだよね。

 でも魔力の切れ目が縁の切れ目になってないかな?


 まだ馬車の中に居てくれたら有難いんだけど。

 でもペットでスライム飼うのはヤバイ人かな? 皆に敬遠されないかな?

 後で探しに行かなきゃね。元飼い主として、野生に返すにしても最後まで責任持たなきゃ。


「それもだけど、クレストさんをご挨拶に連れて行かなきゃ。

 エマさんのお父さんは鉱山の町に単身赴任で行ったっきりらしいから、クレストさんのことは何も知らないだろうし」


 それはボーイフレンドを親に紹介するイベント的な話だね。

 あれって親の方も緊張するらしいし。

 でも結婚となると話は違ってくる。本人同士より家同士の結び付きの意味があるから、貴族になるとググッとハードルが高くなる。


 しかも俺はキリアスから逃げて来て、昔のことはかなり記憶を無くしているって設定なんだよね。

 それなのに、フィールドアスレチックや他にもアレコレ発案してるって、かなりおかしくないかな?

 記憶は無くても発想は出来るのか?


「エマさんがお父さんにクレストさんを紹介するなら、私達も付いて行かない?」

「良いね! どうなるか見たい! 

 エマっちのお父さんってどんな人なんだろね?

 『娘が欲しければ儂を倒してみろ!』的な激アツ展開見てみたいよね!」


 あのさ…そんな漫画みたいなお父さんはそうそう存在しないと思うよ。

 でも炭鉱マンならそれぐらい言っても不思議じゃないのかな?

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