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銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます【第二部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 越えると見えて来るものがあるのです!
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第43話 久し振りの我が家!

 黒装束の三人組、リリーさん、アイリスさん、トッド君とライエルさんの五人での夕食の後。


「私達の行動はずっと監視されていたのか?」とリリーさんが不満そうに聞いてきた。


「キリアス以外の国からの旅行者ならそれ程注視されなかったけどね。

 二週間前からキリアスとの国境は完全閉鎖されていて、普通ならキリアスから君達がコンラッド王国に来ることは出来ないんだ。

 タイミングが少し悪かったね」


 タイミングだけの問題なのかな?

 ラビィからもたらされた、キリアスがコンラッド王国に向けての地下トンネルを掘っていたと言う情報も、キリアス国民に対する監視の理由となっていた筈。


「それにしても、私達に気付かせないとは随分と優秀な監視役が居るのだな」

「お褒めに与り光栄だね。

 それと君達とエマ君が偶然出会ったと思っているかも知れないけど、そうなるように誘導していたんだよ。

 中々大変だったと思うけど、優秀な人達で嬉しいよ」

「そちらの手のひらの上だったわけか。

 それならジタバタしても仕方ない」


 トッド君が私のあげたパンを口いっぱいに頬ばる中、諦めた顔でリリーさんが俯いた。

 アイリスさんもライエルさんの渡したオニオンリングを美味しそうに齧っている。余程お腹が減っていたのね。


「貴方達は家族なの?」

「親は違うが、同じ人に育てられた兄弟姉妹みたいなものだな。

 キリアスで一家仲良く暮らせるのは政治家と軍関係者と一部の商人ぐらいだ」

「食料や資源の確保は?」

「都市部ではダンジョンで生産される物を利用する。

 巨大なダンジョンの上に都市が作られると思えば良い。

 地方は普通に野山に畑を作り、鉱山を開拓しながら暮らしている」


 それはダンジョンで農業が出来ると言うことね。クレストさんも同じ事をしようとしていたのは、やはりキリアス出身者の発想と言うところなのか。


「三人には暫くギルドの提携する宿屋を用意する。

 三食監視付きの好待遇だと思って欲しい」

「…この人、頭おかしい?」


 トッド君はライエルさんの冗談を受け流せなかったみたい。女性二人は渋い顔をしながらも了解の意思表示をしているけど。


「トッド、私達に与えられていた任務は失敗して、それでも命を取らないと言うのだから有難く受け取らないとダメよ」

「どうせ上手いこと言って、お頭達にエッチな事をしようとしてるんだよ!」


 そう言う発想をストレートに言えるのは若い証拠ね。

 確かに以前のギルドマスターならそんな事を考えたかも知れないし、他にもお偉いさんの中にそう言うゲスが多数居るのも事実だけど。


「それは魅力的な話だけど、生憎そんな時間が取れなくてね。

 僕はこの後、領主館に行かなきゃならないし。

 暫く徹夜になるかも。もう歳だから徹夜は堪えるんだけど」


 そう言うと軽く溜息を付くのは本心からだと思う。

 それに忙しくなるのは領主様も同じだし、冒険者ギルドや商業ギルドもそうなるかも。


「新型馬車の試乗会を前倒しにすると言えば、伯爵も明日から動いて貰えるかも知れないし」 


 軽くて丈夫なタイタニウムと言う金属でフレームを作ったクレストさんのカラバッサと言う馬車は試作機も含めて二台しか作らないことになっている。

 その理由はお値段が桁違いと言うことだけでなく、性能を知られたくないと言うこともあるの。

 見た目は長方形の箱みたいでお洒落ではないけど、他の馬車を圧倒するスピードが出せるからね。


 そのカラバッサの材質を鋼に変更した量産機はある鋼材店でフレームを作り、クレストさんが援助している二軒の馬車工房が艤装を施すことになっている。

 材質を変えたことで従来の馬車と同じぐらいのスピードしか出ないけど、衝撃と振動を吸収する足回りに前輪には舵取り装置が備わっているので乗り心地と扱いはかなり改善されている。


 貴族向けには少しデザインを工夫する必要があるけど、それはそう言うのが得意な馬車工房に丸投げね。

 

 新型馬車の形を頭に思い浮かべながら、試乗会をするんだ!と少し驚いたのと、試乗会を急に明日しますと夜の十二時(九時)前に言いに行く根性に恐れ入ります、と言いたくなるわ。


「とりあえず、ギルド職員用の制服と緊急時用の衣類を三人分提供する。

 明日から君達をギルド職員見習い扱いとするけど、それで構わないかい?」

「それも監視の一環なのだろ?

 どうせどこに居ても見張られているなら同じことだ。それで構わない」

「理解が早くて助かる」


 三人の監視の為に近くに置いておくと言うことね。

 それなら他のギルド幹部もイヤとは言えないけど、それもまた揉め事の原因になるのよね…幹部の中にには頭でっかちが居るから困るのよ。


「よし、後はミランダ君に処理を任せて僕は出掛けてくる。

 エマ君は早く帰って寝たいだろ?

 明日の朝、また遠征が出来るよう身支度してから出勤して欲しい」

「明日ですか? ダンジョン…ですか?」

「早い方が良いんだろ?」


 ちょっと待って!

 どうして伯爵様の都合も聞かずにそんな予定を決めるの?

 もしかして伯爵様は別行動で、とりあえず明日は私だけ先にダンジョンに行ってこいってこと?

 てっきり同行するもんだと思ってたわ。


「運が良ければ…いや、事は急を要するから運とか言ってる場合じゃないか。

 とにかくいつでも出発出来るつもりで頼む」

「分かりました…」


 ライエルさんの、この決断力が恨めしい。

 確かに食料の問題があるから、お金と権力を持っている人に早く動いて貰えるのは有難いんだけど、仮にもリミエンで一番偉い人を急に動かせると思う?


 それとも実は伯爵様が常在戦場の心意気を持って、常日頃から生活しているの?


 手を振ってVIPルームを出て行くライエルさんを見送ると、気まずい雰囲気が部屋を支配する。


「全く非常識な奴だな」

「でも、悪い人じゃなさそう」

「飯、旨かった」


 リリーさんがライエルさんを非常識と言うのも今回は納得出来る。

 アイリスさんは好意的に受け止めているし、トッド君はお腹いっぱいでもう他の事は頭にも入らない様子ね。


「じゃあ、動こうか。

 ここでボケっとしてても時間の無駄よ。今夜は宿屋に泊まってゆっくり休んで、明日からバリバリ働きなさい」

「それは良いが、一つ教えてくれ。

 お前達はルーファス総隊長と戦って勝ったのか?」

「最初にルドラさんが百人を率いて出てきたところに遭遇して、それには勝った。

 ルーファスさんは後から転送ゲートを通って出てきたの。

 それで戦えば一人でも私達に勝てると言ったけど、彼と戦うことはなかったわ」


 腕を組んで私の話の返事を聞いたリリーさんは何か納得したようで、

「戦って負けた訳ではないのだな。

 それなら良かった」

と安堵の表情を見せる。

 対人戦にかなり自信があったみたいだから、何かのスキルを持っていると思って間違いないわね。


 クレストさんが戦える状態だったら戦いになったのかな?

 多分そうなっただろうな。

 うん、クレストさんが魔力を無くしたのは残念なことだけど、その結果無用な争いが回避できたのなら結果オーライって言うものよ。


 ミランダさんがドアをノックして入ってくるなり、

「ほいほーい、さっさと宿に移動するわよ。

 私に付いてきて。

 服も用意したから、明日は制服に着替えてギルドに来ること」

と荷物の入ったバッグを各自に手渡す。


「真面目に働いてくれたら、誰も何も言わないわよ。

 これからこのギルドはもっと大きくなっていくから、貴方達に期待してるわ」

「どこの馬の骨か分からない我々をそう簡単に雇って良いのか?」

「どこの誰でも別に気にはしないわ。

 生まれで差別、区別するなんてナンセンスだと思わない?

 人生なんて短いんだから、やれる事を全力でやれば良いのよ。もし、おかしな事を言う奴が居たら私に言いな。ガツンと一発かましてやるからさ」


 可愛らしい力こぶを作って見せるミランダさんにリリーさんがクスッと笑みを漏らす。


「エマ、お勤めご苦労さま。

 今日は愛しい人が居なくて寂しいだろうけど、帰って寝なよ。

 明日とんぼ返りさせられるんだろ?」

「えぇ、ホントにそうなるか分からないけど」

「帰ったらブリュナーさんに聞けば伯爵様のことを教えてくれるよ。

 とにかく疲れを取ること。おーけー?」

「説破詰まってる感じ?」

「まあね。それが解消出来るなら喜んで何処にでも飛んでくわよ」


 リミエンの木材不足が待った無し、いえ、もう一部には影響が出始めていたのよね。

 恐らく魔力を発生させる魔道具の開発も強力に推し進めたに違いない。

 薪を燃料としない魔道コンロの利用促進にもそれが役に立つからね。


 そう考えると、クレストさんがリミエンに来たのは良いタイミングだったわけよ。

 神様に感謝しないといけないわね…って、神様はクレストさんを復活させてくれたんだった。

 像を作って毎日拝まないと怒られるかな?


 冒険者ギルドを五人で出て、途中でミランダさんと三人組と別れて広い通りを真っ直ぐ我が家へと向かう。


 二週間しか離れていないけど、随分懐かしく感じるものね。

 我が家に到着して、スライド式の門扉をゴロゴロって開けて玄関に立つ。

 まだ二十歳の人が買ったとはとても思えない大きなお家。過去にこの建物の中で起きた悲惨な事は事件はリミエンに住んでいる人に大きな衝撃を与えたそうね。


 でも私は当時リミエンには住んでいなかったから、そう聞かされてもピンと来ない。

 むしろそのお陰でクレストさんの持ち物になり、私の住む家にもなったのだから逆にありがとうって言うべきよね。


 蹄鉄の形をしたドアノッカーを軽くコンコンと叩くと、殆ど待つこともなくドアが開いた。


「ただいまっ!」

と待ちきれずにそう挨拶すると、驚きを隠せず目を大きく開けたブリュナーさんに大満足。


「お帰りなさいませ。

 ダンジョン遠征、お疲れ様でした。

 …お一人でしょうか?」

とブリュナーさんが居るはずのクレストさんを探す様子を見せる。


「皆はまだダンジョンに用事があるから、急遽私とオリビアさんだけが戻ってきたのよ。

 話したいことはいっぱいあるけど」

「まずはお風呂に入って疲れを落としてください。

 すぐに用意致します」


 私の声を聞いたシエルさんもリビングから出てきてお帰りなさいの挨拶をすると、お風呂の用意に走ってくれた。


「夕食はギルドで食べてきたから。

 ホントは先にこちらに来るつもりだったんだけど、お客さんにばったり会ってね」

「そうでしたか。食事ならではマジックバッグに詰めてありますから、急な来客でも対応致します。

 ギルドマスターに用事のあるお客様だったので?」

「うん。訳ありの厄介な人達ね。でもお陰で私の用事も片付いたから良かったかな。

 あ、私のお父さんって、ここに来た?」

「向こうでお会いしたのですね?

 ええ、一昨日でしたか、朝方にお見えになられました。

 鉱山の方に出入りする業者からクレスト様のお話を伺っていたと仰っておられました」


 その業者さん、おかしな噂を流したりしてないよね?

 クレストさんは良い噂も悪い噂も多いからね。実際に会えば噂が嘘だとすぐ分かるんだけど。


「クレストさんのことは何か言ってた?」

「レイドル副部長とお話をされていたようで、悪い話はありませんでした。

 結婚にも賛成でしたし。

 自分に一言ぐらいあっても良かっただろうとぼやくぐらいですかね」 


 …その業者さんって間違いなくレイドル副部長の指金ね。

 あの人もクレストさんを誰かと結婚させてリミエンに定住させようと画策してるみたいだし。


 でも、そうなると後はクレストさんの気持ち次第なのね。

 ひょっとしたら、私達の結婚式ってもうすぐなのかも!?

 

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