第42話 食事をどうぞ
リミエンに戻ってきたら、ルーファスさんの仲間達を見付けてしまったの。
放置しておく訳にもいかず、晩御飯に誘って冒険者ギルドをにやって来るとライエルさんが少しピリピリしていたわ。
VIPルームは中の会話が漏れないように作られているみたいね。ドアのところを見ると、壁が普通の物よりぶ厚く、ドア自体もとても重たそうだったから中に鉄板が仕込んであるのかも。
部屋の中には安い料理を提供する食堂には場違いなほどの豪華な家具が置かれていて、随分奮発したことにビックリ。
料理はライエルさんが厨房に五本の指を示していたから、恐らく五人分を持ってきてくれと言う意味ね。
六人掛けのテーブルに先に席に座ったライエルさんが私を自分の前に座るように指をさし、三人組は困った顔をしながら私の隣にお頭さん、その隣にもう一人の女性が座って、男の子が間を空けてライエルさんの隣に座る。
落ち着かないのは三人組だけでなく私も同じ。
ライエルさんが頭の回転が早いのは良く分かっているけど、正体不明の三人を良く個室に招いたものよね。
「さて、と。まずは自己紹介をしよう。
私がリミエン冒険者ギルドのギルドマスターを務めるライエルだ。
気軽にライエルさんと呼んでくれ」
いつもこれを言うけど、私が知っている限り初対面でそう呼んだのはクレストさんぐらいかな。
ギルドマスターって、権威的に言うと伯爵様や軍のお偉いさんに匹敵するのよ。
ギルドは民間団体ではあるけど政治的にも発言力が強く、そこのトップの機嫌を損ねるとその町には居られなくなると言われるぐらいだもの。
「そちらの三人は?
外国の方とお見受けするが」
「我々はキリアスから訳あってやって来た。
私はリリー、隣がアイリス、向いがトッドと呼んでくれ」
少々乱暴な物言いだが、権威にビビっていないところを見るとリリーさんはそう言う人の対応に慣れているってことかしら。
「すぐに食事がくるから、三人の話はそれからにして、先にエマ君、無事に帰って来てくれて良かった。
他のメンバーは元気にしていると思って良いかな?」
「えぇ、元気にやっていますよ。
ちょっとリミエンに移住を希望する人を見付けてしまいまして。それで早めに伯爵様にお願いをしたいと思っています」
「ちょっと待って。
植林の件は解決出来そうなのかい?
それが片付かないと、移住も何も無いと思うんだけどな」
「それならバッチリです。
説明するより現地に行って、確認していただきたいぐらいなんですけどね」
まだ山の地表面には僅かに草が生えているぐらいだけど、地下ダンジョンの中は文句の付けようがない程の森!
クレストさんも、キリアスの人達にあの樹を伐採してリミエンに運ぶ仕事を任せるつもりだし。
「良くやった!
それなら多少の無理も聞いて貰えるだろうね。うん、クレスト君を派遣して正解だったよ」
とライエルさんが満面の笑みを浮かべ、親指を立てる。
そうだった、私達の本来の目的はあの山に起きた異常の原因の調査だったわね。
直接の原因は魔界蟲だったから、ノーラ何とかが連れて来た魔界蟲以外にはもう出て来ない筈。本来、魔力の豊富な魔界にしか棲息していないんだものね。
「報告書はこれに纏めてあります」
とクレストさんから貰った魔道具のメモ帳をマジックバッグから取り出し、ライエルさんに軽く見せる。
「…気のせいかな?
それは水晶の板にしか見えないんだけど」
「えへへっ。ダンジョンで手に入れた私専用のアイテムなんです!」
「…それはちょっと…手続きが面倒そうだが。
あのダンジョンの所有者は今のところ、カンファー家…なのは分かっているのかい?」
ダンジョンで発見したアイテムの所有権って、結構微妙な問題なのよね。
国や領主が管理を行っているダンジョンなら持ち主に返還するのが原則なんだけど、この規定はあって無いような物。
だってマジックバッグに入れてしまえば他の人には取り出せなくなるんだからね。
それは置いといて、現在カンファー家があのダンジョンを管理しているかと言うと、これは否と言える。
冒険者ギルドから派遣された見張り役が立っていることから分かるように、便宜上はあのダンジョンの管理者は冒険者ギルドと言えるのね。
その冒険者ギルドが発見されたアイテムの所有権を放棄した場合、発見した者に所有権が譲渡されると言うお馬鹿な慣例が罷り通っている。
だけど、欲に目が眩んだ冒険者ギルドは冒険者からそっぽを向かれることになることは想像が付くと思う。
『あそこの冒険者ギルドはケチだ!』と評価されるようになると、腕の立つ冒険者達はよそのギルドに移動してしまうのよね。
そう言うことがあるから、冒険者ギルドが管理しているダンジョンから発見されたアイテムは冒険者が自由にして良いってことになっているのよ。
でも、そうなると…冒険者同士で争いになることがあるのよね。
幸い今回はカンファー家の人間も居たし、『青嵐』と言うコンラッド王国を代表するパーティーのメンバーも居るから、多少妬まれることはあってもそう変な事にはならないと思うけど。
「他に何か手に入れた物はあるのかい?」
「色々あります…ですが、残念ながら武具の類いはダンジョン管理者から直接渡された物なので、今の所有者以外には使えないようです。
詳細は言える事と言えない事がありますので、後日ベルさん、ルケイドさん同席のもとで報告を行います」
「ふぅむ、言えない事の方がウェイトが大きそうだね。僕の胃に穴が開きそう?」
「はい。そうなると思います!」
「…そう言うのは、嬉しそうに言わないで欲しいんだけど」
少しお茶目な私を演出して緊張している三人を和ませる。成功したかは微妙かな?
「でもそうなると、男爵家の管理下に置けるようなレベルのダンジョンにはならないな」
「はい。最低でもリミエン伯爵様の管理下に置かれるべきダンジョンです。
それを確認するためにも、伯爵様にあのダンジョンに一度御足労をお願いしなければならないのです。
それと移住者の件もありますので」
「そうか…分かった。なるべく早く実行してもらえるようにお願いしてみる」
たかだか冒険者ギルドのギルドマスターにそんな事が可能なのか?と三人組が不思議そうな顔をするけど、これは当然かもね。
リミエン伯爵はよく他人の意見を聞く事が出来る人なの。
やり過ぎると主体性が無いとか、自分では何も決められないとか陰口を叩かれるのだろうけど、それでも人の言うことを聞く振りだけする政治家より遙かにマシだわ。
ここでドアがノックされ、料理が運ばれてきた。
VIPルームだからと言って特別なメニューではなく、普通に出されているオツマミにパンにスープと果実酒と言うチープなものだった。
しかも受付嬢であるミランダさんが給仕役を務めるのだから、適当にも程がある。もっともやっている本人はノリノリの様子であるが。
「マスターのお任せスタミナ満点セットだよ。
メインは岩蜥蜴のガーリックバターソテー、スープは何とか鳥のガラスープ、付け合わせにオニオンリングとマッシュポテト。
パンはお替わり自由だから、欲しかったら料理作ってる方のマスターを呼んでね」
「えっ? ミランダさんじゃなくて?」
「私は受付カウンターに座ってるから。今日は夜勤なのよ。不規則な生活はお肌に悪いからスキンケア手当てを所望するわよ」
「…夜勤手当ては出しているんだが」
「真面目に突っ込まなくて良いんだけど」
笑って退出するミランダさんを見送り、久し振りに味わうギルド飯に懐かしさを感じながらゆっくり食べていると、
「旨い…」
と岩蜥蜴の尻尾のお肉を頬ばったトッド君が一言呟く。
「ホントだ…こんなに旨いとは、特別な料理なのか?」
とリリーさんが聞いてきた。
「岩蜥蜴の尻尾肉は割と柔らかめだけど、特別なものじゃないわよ。
ソースはマスターの特製だけど、簡単に作れるものだし、材料も安いものしか使っていないよ」
福利厚生の一環として、特にお金の無い新人冒険者達への支援の意味合いが強いこの食堂では、そんなに高い材料を使うわけにもいかないの。
お肉は冒険者達の狩ってきた魔物を捌いたものなので、原価はたかが知れている。
農業大国であるコンラッド王国では当然野菜も酒も安価であり、調味料が少し割高であっても材料費の低さで十分相殺される範囲だ。
「キリアスじゃこんな旨い物は食えない」
「そうね、皆にも食べさせてあげたいよ」
リリーさんとアイリスさんが噛み締めるようにそう呟くと、涙を流し始めたの。
「三人はキリアスから来たんだね。
現在、コンラッド王国とキリアスの国境は閉鎖されていてね…どう言う経路でリミエンにやって来たのか、教えて貰えるかい?」
それを今聞くライエルさんに空気読んでよ、と言いたくなるけどぐっと我慢。
「キリアスにある彼らの集落と、カンファー家の地下ダンジョンは転送ゲートで繋がっています。
私達はダンジョンの最奥地に到達して、帰還の途中にこの三人組の組織の代表と遭遇しました」
「転送ゲートだと? それはずっと開きっぱなし?」
「いえ、時間制限と人数制限があるそうです」
転送ゲートの仕様についてはルーファスさんに教えて貰わないといけないだろうけど、考えてみればどうやってその仕様を知ったのか不思議なのよね。
クレストさんみたいなダンジョン管理者に教えてもらったのかな?
「その転送ゲートを通って一週間前にリミエンにやって来て、リミエンの調査を行っていたのは何故?」
「彼らの住む地域は戦乱の中にあって、彼らは新しい定住可能な土地を求めていました。
正直に言うと、彼らは場合によっては武力によるリミエンの制圧もやむなしだったようですが、どうやらこの三人組の行動は監視されていたようですね。
ひょっとして、リミエンの戦力を下方修正した情報を渡したのですか?」
食事の手を一時止めて、何か考えるような様子を見せた後、
「来られる筈の無いキリアスから来た三人組の行動を監視するのは治安維持の為に当然だ。
キリアスから繋がる地下トンネルの出口を探している最中なのだから、余計に警戒するだろ?
だが転送ゲートとなると、そのダンジョンに出入りしない限り発見は出来ないな。
これは至急伯爵様に報告しなければならない案件だ」
といつになく真剣な顔になる。
「勿論三人にも同行をお願いしたい」
「リミエンを攻めようとした私達に伯爵に会えと?! 騙し討ちするつもりだろ!」
ライエルさんの申し出に、リリーさんがフォークにお肉を突き刺したまま怒鳴る。
「騙し討ちも何も無い。ヤルならサッサとやっているよ。
ここは疑わしいだけで罰するような国では無いしね」
と言って笑うライエルさん。
「君達の安全は保障するし、ここでの衣食住は私が手配する。
さすがに移住希望者全員となると私一人では無理だが、三人ぐらいなら不便はさせないよ」
果実酒を手に、ニッコリ微笑むライエルさんに三人が複雑な表情で顔を見合わせる。
「我々を懐柔して何をさせるつもりだ?」
「そうだね…やりたいことをやれば良い。
これからリミエンは大きく発展していく予定だから、仕事は幾らでもある。
人間同士で争うような暇があるなら、魔物の一匹でも狩る方が時間の有効活用だし、人の役に立つ。
早めに君達の代表にも会ってトップ会談も必要だ。明日中に伯爵と話が出来るようにしておくから」
やっぱりこの人がギルドマスターで良かったと思う。私が思っているより早く伯爵様に動いて貰えそう。




