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銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます【第二部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 越えると見えて来るものがあるのです!
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第41話 ただいま戻りました!

 お父さんに二千人分の食料をお願いした…と言っても、我が家にそんなお金は無い。

 私がリミエン伯爵に会いに行くと聞いて、お父さんがどう動くか楽しみだとも言えるけど、無茶な事はして欲しくない。


 リミエンに到着して、門のすぐ近くにある馬房にランスちゃん達を連れて行くと他の馬がビビって大変だった。

 二頭をそこに預けるのは諦め、オリビアさんの実家が所有する近くの牧場に運んで貰うことにしてオリビアさんと馬房で別れる。


 歩くと片道一時間は掛かる筈だけど、他に手は無いから仕方ないか。

 ランスちゃん達なら一度行った場所ぐらい覚えそうだから、乗って行って牧場の場所を教えてからリミエンにUターンして、ランスちゃん達には自力で牧場まで行ってもらうって事が出来るかもね。


 オリビアさんの心配はそれぐらいにして、私は私の用事を済ませなきゃ!


 位置的には冒険者ギルドの方がクレストさんの家より近いけど、やっぱり帰るべきお家があるんだから少しでも早く家族に会いたいと思うのは当然だよね?


 ロイ君にルーチェちゃん、ブリュナーさんにシエルさん、それと殆ど構ってあげていないけど猫のマローネちゃんの顔を思い出しながら、急ぎ足で我が家を目指す。


 通りには色々な屋台が良い香りを釣り餌にして、腹ぺこさん達を釣ろうと頑張っている。

 私も思わず釣られそうになったけど、ここは我慢!

 でもこの焦げたタレから漂う甘い香りは…クレストさんが教えた、麦芽から作るトロリと粘っこくて甘いやつ?


 まだそんなに量は作れなくて、クッシュさんのパンケーキのお店に使う分ぐらいしかなかった筈なんだけど。

 材料が余ってたのかしら?

 それに燃料も結構使うって聞いたんだけど。

 商業ギルドが生産を管理しているから、おかしなことにはならないと思うけど…あっ、おかしなことになってた…。


「はいはい、いらっしゃい、いらっしゃい!

 新しい甘味料『クレス糖』を隠し味に使った焼き鳥だよ!

 そこのお嬢さん、一本いかがかなっ!」


 これって、本人が聞いたらどんな反応を見せるか楽しみだわ。一本大銅貨二枚で御値段的には据え置きだけど、少し小振りになってるのか。


「クレ焼きを一本貰うね。

 ねぇ、おじさん。そのクレス糖って安く手に入るの?」

「まいどありー!

 いやな、今スラム街の活性化事業の一つにクレス糖作りってのがあるんだ」

「スラム街で? それって大丈夫なの?」

「ん? 今はカンファー家の坊主が開発したって噂の洗浄剤でどいつも小綺麗になってら」


 まだ洗浄剤は大規模なパッチテストの段階で、市販にはもう少し期間が必要って聞いてるけど、そのテストも兼ねてるのかな?


 パクリと熱々の串焼きを頬ばると、ジュワッと溢れる肉汁に絡む甘めのタレがベストマッチね。

 クレストさんが行き付けにしている串焼き屋さんのライバル出現かしら?


「それで、クレス糖作りは新しい魔道具の実験でもあるそうだ。

 なんでも、とてもデッカイ輪っかをグルグル回すと魔力が発生する魔道具らしくてな、体力のある奴らに回させて魔力を作って魔道加熱器を使ってるんだとよ」


 それは『カミュウ魔道具店』でクレストさんがやらかした、あの件のやつね。

 魔道扇風機の羽根を回すと魔力が発生することを発見して、専用の装置を開発することになったって話だったけど。

 それが完成して、甘味料作りに使うの?

 何か違っていないかな…そう言うのに使ってくれたら、確かにクレストさんなら喜ぶとは思うんだけど…それでもね…。


「これで少しはスラム街の改善に繋がりゃ良いんだけどな。

 そうなりゃ屋台の売上げも増えるってもんだ」

「そうなったら良いですね!

 教えてくれてありがとう。」


 クレストさんがもたらした新しい知識がこうやって人の役に立っていると知り、とても誇らしげな気持ちになる。

 私はどこにも噛んでいないんだけど、でも未来の夫になる筈の人の成果だもの、私が喜ぶのはおかしなことじゃないよね?


 上機嫌なままで家に戻っていると、視界の端に黒いマントを羽織った怪しげな人達を見付ける。

 それを見て、黒装束の人達が本当なら今頃この町を襲撃していたのかも、と恐ろしくなる。


 夜の町に溶け込むような黒一色…クレストさんも黒色の服を好むから彼の仲間みたいね。


 あ、仲間って?


 確かリミエンには内通者が居る筈だけど、あの黒一色の人達がその仲間なのかな?

 男性一人、女性二人…ルーファスさんからもう少し詳しく聞いておけば良かったと後悔しつつ、三人の方に足を向ける。


「あの、ちょっと良いですか?」


 メインの通りに交差する細い路地に、たむろするように立っていた三人が私に警戒心を露わにしたわ。


「怪しい者じゃありませんから!」

とブンブン手を振ると、

「怪しいやつ程そう言うって知らないのか?」

と少し険のある表情で真ん中の小柄な女性がそ応えた。


 純粋なコンラッド人と違うと思うのは、僅かなイントネーションの違いから。


「私は冒険者ギルドの受付嬢をしているエマと申します。

 質問宜しいでしょうか?」

「スマン、トラブルが起こったらしくてな」

「そのトラブルって、ルーファスさん達が来ないってことですよね?」


 周りに人が居ないことを確認し、小声でそう聞いてみた。


「何か知っているのか!」

と驚いた表情で反応したので間違いないわね。


「会えて良かった!

 ルーファスさん達、予定変更してこちらで暮らす準備を始めていますよ」

「嘘をつくな!」


 怒鳴られた…信じろって言うのが無理かな?


「嘘じゃないもん。

 貴方達、地下のダンジョンを通ってこちらに来たんでしょ?

 ちょうど侵攻部隊百人と私達が遭遇して…色々あって、そう言う話になったんですよ。

 で、私はリミエン伯爵様に難民として受け入れをお願いするために、今日急遽帰って来たんです」

「総隊長がお前の仲間に負けたと言うのか?

 そんな訳があるまい」


 んー、どうすればこの人達に納得して貰えるかな?

 でも考えてみれば、ルーファスさんのことを知らないリミエンの人間が、こうやってルーファスさんの話をしていること自体が証拠じゃないのかな?


 一旦家に戻ろうと思ってたけど、先にこの人タチを連れて冒険者ギルドに向かった方が良さそうね。


「貴方達、晩御飯は?」

「こちらの金がなくて食えていない。

 まさか貨幣が違っていたとはな」

「両替商は行かなかったの?」

「…我々の目的を知っているのだろ?

 そんな場所に行く訳があるまい」


 グルルとお腹を鳴らす三人にクスリと笑い、

「それなら安くて量のある御飯を食べさせてあげる。付いて来て」

と笑顔を見せる。


「だから、お前な、我々の」

「いいのいいの、どうせ今日はルーファスさん達は来ないって。

 それに、腹が減っては戦は出来ぬと昔からいうでしょ?」

「…キリアスでは、腹が減ったら敵から奪え!と言うのだが」


 何それ、怖い!

 キリアスってどれだけ荒んだ国になってるのよ。ルーファスさんを見てたらそんな感じはしなかったから、アレでもまともな方だったて訳ね。


「とにかく晩御飯は私が驕るから。

 後でクレストさんに支払わせてやるから、食べ放題よ!」

「…お頭、この女、頭は大丈夫か?」


 ここで始めて男性の黒装束が声を出した。

 随分若いわね。ルケイドさんと同じ年頃かな?

 でも私を侮辱するとは良い度胸ね。


「酷い! 百人程度でリミエンに喧嘩売ろうとしてた貴方達よりマトモだと思ってるわよ。

 金貨級冒険者は出払っていてもね、リミエンにはまだ化け物がいるんだから貴方達の思った通りには行かないわよ。

 ま、それは今はどうでも良いの。

 貴方以外の二人、付いてきて。御飯食べに行くから。

 貴方は何処かのゴミ箱でも漁っていなさい」


 私を馬鹿にした男の子にシッシと追い払うジェスチャーをして、女性二人を手招きする。

 なるほど、このメンバー構成なら警備の人達の油断を誘えるかも知れないわね。


「…仲間達は全員無事なのか?」

「ええ、戦闘になったから腕を落とした人も居るけど、キチンと繋いで動かせるように治療してある。

 それより早く行きましょう、私は他にも用事があるのよ」

「そうか…先程のコイツの非礼を詫びる。

 人生経験が足りないものでな」


 お頭と呼ばれた真ん中の小柄な女性が男の子の頭を無理矢理倒して謝らせる。

 見た目によらず、力持ちだったみたいで男の子が涙目になりながら謝罪の言葉を述べた。


「お頭さんに感謝しなさいよ。

 じゃあ、ガラの悪い客は多いけど、安くて美味しくて量もあるお店にゴーッ!」


 予定外の連れが出来たけど、これは逆にラッキーってことかな?


 スタスタと通り慣れた道を歩いて冒険者ギルドを目指すのだけど、黒一色の三人を連れて歩くと目立つことこの上ない。

 明日は古着屋さんにでも連れて行かなきゃダメかな。


 少しばかり二度見する通行者の視線に耐えながら冒険者ギルドに辿り着くと、

「ここはギルドじゃないか!

 俺らを突き出すつもりか!」

と男の子が大きな声を出した。


「何を言ってるのよ、突き出すなら衛兵詰め所に行ってるわ。

 ここの御飯も美味しいのよ。さぁ入って」


 不審げな顔をしながらも三人が私の後ろにカルガモの親子のように付いてくる。

 美味しそうな匂いの誘惑には勝てなかったみたいね。


「あっ、エマ! お帰りっ!」


 元気にお出迎えしてくれたのは、ギルド嬢の姉御的存在のミランダさんだ。

 私の良き友でもある。


「ミランダさん、ただいま!」


 カウンターから出てきたミランダさんとしっかり抱き合い、お互いの無事を確認しあう。


「で、エマ一人だけなの?」

「ううん、後ろの黒い人達も」

「そうじゃなくて。ははぁ、分かってて惚けてるな。

 何かあったな?」

「先に御飯を食べさせて。

 その後、ライエルさんとお話し。大至急で。ライエルさんは居る?」

「聞こえてるよ」


 開けっ放しの執務室のドアの陰からヒョコッと顔を出したライエルさんが軽く手を振る。

 それに応えてお辞儀すると、食堂を指さされたのでキリアスの三人に付いて来るように頷く。


 先に歩き始めたライエルさんが一番奥を指さすのでそちらを見ると、今まで無かった『VIPルーム』と言う看板が目に入った。


「誰かさんのお陰で、最近ここに色んな偉い人が来るようになったからね。

 急遽作ったんだよ」

とライエルさんが苦笑いする。

 誰かさんって、やっぱりクレストさんのことよね?

 別にぼかさなくても良いのに。私に気を遣ったつもりなのかしらね?


「そちらの三人も一緒にどうぞ。

 遠慮は不要ですから」


 珍しく威圧感を覗かせたライエルさんが黒装束の三人にそう言うと、額に冷や汗を流す三人がコクコクと頷き、壊れた人形のように足を動かすのだった。


「クレストさんの新しいビジネスパートナーのお連れの方達ですよ。

 脅さないでください」

「…彼は一体何をやらかすつもりなのかね?

 まぁ、食事をしながら話を聞かせて貰おう」


 ひょっとして、この三人の情報が流れているのかしら?

 怪しげな三人組だもの、諜報部門からマークされていても不思議ではないけど…少し心配になってきたわね。

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