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銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます【第二部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 越えると見えて来るものがあるのです!
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第40話 帰ってきたと言うのに残念

 ダンジョンを出た先にあった、新しく出来たキャンプ地にお父さんが居た。

 話している感じでは、クレストさんと付き合う事を否定していない…と言うよりもっと行けって感じ。


 でも今の私としては、クレストさんがダンジョン管理者になっていた時に『大好きだった』と言ってくれただけで十分なの。

 他の皆は気を使ってくれて、私とクレストさんをいつも隣に座らせてくれている。でもオリビアさんも『紅のマーメイド』の四人も皆、あの人のことを好きなのよね。


「…噂を鵜呑みにしないでよ!」


 クレストさんに会ったことが無いお父さんだから、情報源は限られている。

 しかも噂の中には悪意を持ってクレストさんのことを悪く言ってるものもあるから、もう酷いったらありゃしないってやつ?


「それで、お父さんがここに居るのは分かったけど、まさか一人で来た訳じゃないよね?」


 男爵家と言ってもお金がふんだんにある訳ではないわ。

 移動の時に護衛を雇えば一人につき一日大銀貨一枚ぐらいの日当が必要ね。それも三人ぐらいは付ける筈だし、炭鉱の町からここまで一週間以上は掛かると思うから…大銀貨二十枚以上は護衛に払っている筈。

 それに地質調査の間も払い続けなきゃならないのよね。


 それだけの費用を支払って、結局何も使える物は出てこないってことになると丸々損になる訳ね。だから鉱山を持っている人はバクチ好きって揶揄われるのよね。


 かと言って、ずっと誰か一人を雇い続けるのもかなりの出費になる。

 仮にお給料を一人につき毎月大銀貨二十枚だとすると年間で二百四十枚。護衛って銅貨の一枚も稼がない仕事だから、それだけ支払える余裕がある家庭じゃないと、専属の護衛なんて雇えないのよね。


 クレストさんみたいに家令にメイドに家庭教師と三人もあっさり雇えることが普通に考えておかしいし、更に千五百人もの移住者を受け入れるとか…うん、有り得ない判断だわ。


 それをこれから領主であるリミエン伯爵にお願いしなきゃいけないのよね…胃が痛い。

 でも伯爵と会ってざっくばらんに話せる人って他には居ないし。


 ベルさんなら伯爵じゃなくて王様とだって普通に話せるかも知れないけど、クレストさんが起こした問題を王都住まいの人に任せるのは違う気がする…あ、そう言えばクレストさんも伯爵と会ったことあったんだわ。


 確か貯水池周辺の開発にとんでもない金額を出してくれってお話しをしたのよ。

 普通そんな話を持って行ったら、馬鹿な事を言うなと怒られて出入り禁止になるんだけどね。さすがはクレストさんと言うか、伯爵に気に入られているらしいのよね。


 今ここに居ない彼の事を思い出しながら顔をニヤニヤさせていると、奥の方のテントから冒険者が出てきたわ。

 あれは確か銀貨級冒険者パーティー『丘の鯨団』。

 クレストさんが貯水池の依頼で一緒になったアンバーさんが所属している、男性五人の脳まで筋肉系のパーティーね。


「おっ! エマ嬢じゃないか!

 ダンジョンに潜っていたって聞いたぞ!」

と体が大きめでリーダーを務めるバレイアさんが私を見付けて、そう大声で話し掛けてきた。


「お久しぶりです。鯨団が父の護衛を務めてくださったんですね。ありがとうございます」

「エマ嬢ってロックウェル男爵の娘さんだったのか。道理で若手ギルド嬢の中でもしっかりしている筈だ」


 えぇと、私を煽てても木には登らないし、何も出ないわよ?

 そうクチには出さないけど。


「エマ嬢、クレストはどうした?

 まさか魔物にやられたりはしてねぇよな?」

と聞いてきたのはアンバーさん。

 鯨団の中ではクレストさんと一番面識があるし、結構仲も良かったものね。


「まだダンジョンの中に居るわよ。メンバー全員、元気にしてるからそこは心配しないでね」

「それは良かった。ま、アイツは簡単にヤラレルたまじゃねえだろうし。

 そう言や、エマさんはクレストと一緒に住んでるって聞いたぞ。結婚したんだな」


 アンバーさんまでそんなことを。どうして皆、そう言う方向に話をしたがるのかしら。

 他人のことなら私も興味本位でアレコレと想像しながらクチを挟んだかも知れないけど、自分の事となると余りアレコレ言われたくないものね。


「まだクレストさんの家に下宿させて貰ってるだけなのよ。料理の上手な家令の方に料理を教えて貰おうと思ってね」

と結婚を否定しようとすると、即座にオリビアさんがチャチャを入れてきた。


「あら? 毎日美味しい料理が食べられるから引っ越ししたいと言ったのよね?」

「もー、オリビアさんったら! それは内緒にしといてよ!」


 確かにそれっぽい事を言ったけど。

 でも料理を教えて貰ったら、私が毎日クレストさんに御飯を作ってあげられるものね!

 エプロン姿をまだクレストさんには披露していないけど、料理が出来るようになったら悩殺してあげる…って、エプロン姿でどうやって?


 まさかフライパンで撲殺とか…?

 えっ! 調理場が戦場ってそう言う意味だったの?


 私がとんでもない真実?に辿り着いて悶えている中、マジか!と、アンバーさんとバレイアさんは唸り、お父さんは呆れた顔をしていたみたい。


「旨い物を食うために引っ越しをしたのか?

 我が娘ながら、なんとまぁ…」


 額に手を当て、大袈裟な溜息をつくお父さんの手を無理矢理剥がす。


「でも! ご近所さんにはちゃんと近い内に妻になる予定ですってご挨拶して、引越パスタをお配りしたからね!」

「それ…クレストさんはパスタを配ったことしか知らないのよね?」


 どうしてオリビアさんは言わなくて良い事をお父さんの前で言うのよ。

 きっとオリビアさんもクレストさんの妻になりたい気持ちが強いのね?


「それは…まずは外堀から埋めていこうと思ってるのっ!

 それにロイとルーチェは始めから私の味方だもの!」

「あの子達は…両親の代わりを求めているものね。

 先に私と会っていたら、私をママの候補にしていたかもよ」


 何もこんな所でライバル心を燃やさなくても良いのに!


「やっぱりクレストはもてるんだな。二人とも娶って貰えば良いだろ?

 パーティーに入れてるぐらいだから、アイツもオリビアさんを嫌いじゃないんだろ」


 腕を組んでウンウンと頷くアンバーさんにバレイアさんがチョップをかます。


「お父さんの前でなんちゅう事を言う!」

「いやいや、アイツ金持ちだし、子供も好きらしいし、二、三人ぐらいは嫁が居てもおかしくないだろ。

 甲斐性があるなら、脱・少子高齢化に向けて頑張らせないといかんだろ」


 その遣り取りを聞いてお父さんは腕組みしつつ顎を撫でると、

「そのクレスト君に会いたいのだが、いつ会える?」

と急に聞いてきた。


 あの地下ダンジョンに大勢の移住者が来る予定だけど、教えて良いのかな?

 いずれは知られることになるだろうけど、まだ積極的には公開すべきではないと思うの。

 察するのなら仕方ないけど。


「あ、ごめん!

 至急伯爵に相談しないといけない事があって今凄く急いでいるの。

 ここでゆっくりしている場合じゃなかったわ」

「クレスト君には会えんのか?」

「そこの地下ダンジョンに入って道なりに真っ直ぐ進んだ所に居るわ。

 でも今は色々とあって忙しい筈だから。

 もし会いに行くなら、大量の食料と衣類と寝具を用意してからにしてね、ざっと二千人分!」

「二千人っ?!

 地下ダンジョンに人が住んでおったのか?」

「その事で伯爵とお話しをしなきゃいけないから急いでるの」


 二千人と言うのがインパクトが大きすぎて、他の事はお父さんの頭から飛んで行ったみたいね。

 さすがにそれだけの量となると、男爵家程度の財力で賄える量ではないわ。それにリミエン中から掻き集めたぐらいでは足りないだろうし。


「それをクレスト君一人が決断して、お前が伯爵様にお願いしようとしておると言うのか?」


 お父さんの理解が早くて助かるわ。


「大きなビジネスチャンスになるのか、それとも火中の栗を拾う事になるのか…」


 ルーファスさん達がリミエンに牙を向けないと言う保障は今のところ無いのよね。

 新規労働力として魅力的だけど、どこまで彼らを信用出来るか…きっとクレストさんには彼らがリミエンに攻撃するより、もっと大きな旨味を用意出来る勝算があると思うの。

 でないと、自分の肩に二千人もの命を乗せられる訳が無いものね。


「そんな大量の人員を確保して何をしようと?」

「考える時間があるならサッサと動く!

 私達は先を急ぐから!」


 もうこれでお喋りは終わりとばかりにランスちゃんに跳び乗る。


「じゃあ行くからねっ!」


 発進の合図は足で送るのが基本だけど、この子は言葉を理解してくれるのでその言葉だけで既に歩き出していた。


 少しだけ遅れて付いてくるオリビアさんが、

「せっかく久しぶりにお会いできたのだから、もう少しゆっくりしても」

と気遣ってくれたけど、私にはお父さんより少しでもクレストさんに良い結果をもたらすことの方が大事なの。


 ただでさえクレストさんの周囲には女性が多くて、油断すると正妻の座を奪われかねないもの。

 今のところ一番のライバルはセリカさんの胸…あ、胸は関係なくない?

 それにオリビアさんもアヤノさんも手強そう…やっぱり戦える女性の方がクレストさんは良いのかな?


 あ、考え事してランスちゃんに乗るなんて自殺行為か。空を飛ぶようにひた走るランスちゃんの上下動に体を合わせながら、明日は久し振りに筋肉痛になりそうと恐怖を覚えていたわ。 


 そしてヘトヘトになりながらも城門が閉じる前にリミエンに到着することが出来た。

 真面目な衛兵にギルドカードを見せて門を通り、すぐ側にある馬房へランスちゃんとブリッジちゃんを連れて行く。

 馬房の中には他の馬がたくさん繋がれているのだけど、どの子もランスちゃん達を見てとても恐れているように見える。


「これはマズいわ」

とオリビアさんが呟く。


 体は普通の馬に見えてもクチを開ければ牙を持つ牙馬に、草食動物である馬が本能的な恐怖を持つのは仕方がない。

 でもランスちゃん達のせいで他の馬達に異常が出たなんて言われても困るし。


「ここにはこの子達を置けないわね。

 ウチの牧場を使いましょう。町の外だけど」


 長針しかない時計は夜の十時(七時半)を過ぎている。切角リミエンに到着して、家に戻って休憩出来ると思ったのに残念。


「二頭は私が連れて行くから、エマさんは冒険者ギルドに連絡をお願い。

 それに伯爵様への面会手続きも至急しないといけないでしょ」

「…そうね、悪いけど頼みます」


 オリビアさんの家の牧場ってどこだっけ?と周辺の地図を思い出しながら、今から夜道を一人で行くのは大丈夫かなと心配になる。

 でもオリビアさんには『光輪』があるから、誰かに襲われても大丈夫かな。

 それなら寧ろ私の方が危険かも。うん、気を付けて行かなきゃね!

「まさか明日もママのターンなのです?」

「時間軸的に私の話が一番遅いものね」

「ギルドに行った!面会手続きをギルマスに任せて、帰って寝た!って話にしかならないから、もう必要無いと思うのです!」

「あらら、そんな事を言うならオリビアさんの話も途中に入れちゃうわよ。

 それと、リミエン側の皆の話もしようかしら?

 アルジェンちゃんのターンは何話先になるかしらねぇ?」

「明日はママが大活躍する話なのです!

 期待して待つのです!」

「活躍しないデスよぉ。帰って御飯食べて寝るだけだ・も・の」

「ママが怖いのです!」

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