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銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます【第二部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 越えると見えて来るものがあるのです!
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第39話 うそ、何でここにいるの?

「ママっ! 安全第一だけど早く戻って来てねっ!」

と、アルジェンちゃんの言葉を受け取って私はオリビアさんと二人で一度リミエンに戻る事にしたの。


 キリアスからの移住者約二千人を受け入れる為には、幾らクレストさんがお金を持っていると言っても一人で養える訳は無いのよね。

 それに衣食住をちゃんと調えてあげないと不満がすぐに出て来る筈。

 お肉だけならダンジョンで幾らでも獲れるけど、他の食材は分からないわ。


 アルジェンちゃんが『ランプ』と『ミスジ』と名付け、クレストさんが『ランス』『ブリッジ』と名付け直した牙馬に跨がり地下ダンジョンを出口に向かって掛けだしたの。


 最初こそ普通の馬と同じ速度で駆けていたこの子達だけど、ほんの数分後には慣らし運転が終わったと言わんばかりに一気に速度を上げる牙馬達に、私はビックリしながら必死に跨がり続けたわ。


 アルジェンちゃんが普通の馬の倍の速度が出せると言っていたけど、御免ね、乗っている私がそれに耐えられないかも。

 乗馬は子供の頃から父親に教え込まれ、どんな暴れ馬にでも対応出来るようにと色々な馬に乗っているけど…この子はまるで別物。


 規則正しい駈歩なのでタイミングを掴むのは難しく無かったけど、普通の馬の全力疾走…所謂襲歩並の早さはあると思うのよね。

 躰も普通の馬より一回り以上大きいけど、一歩の距離がとても広いのはそれだけ尋常ではない脚力を持っているってこと。

 食事をしてからまだ間もなしだと、胃にかなり来るわ…。


 オリビアさんは実家が馬や牛を扱う大きな農場を経営しているので、やはり馬の扱いにはとても慣れていたわ。

 私より平気な顔をしてブリッジちゃんを乗り熟すのは、さすが冒険者と言うところかしら?

 私はデスクワークばかりしていたから、やっぱり体力勝負になると不利なのよ。


 ランスちゃんのすぐ側にブリッジちゃんを並走させると、

「エマさん! かなり速いけど、平気ですか?」

とオリビアさんが尋ねてきたわ。


 蹄鉄が地面を蹴る音が凄くて叫ばないと聞こえないから、

「大丈夫! 駈歩の指示、なのに、全力疾走、みたい、ビックリ!」

と舌を噛まないように注意しながら大声で返事をする。


「とても速い馬です!

 ダンジョン出てから、速度落としましょう!」


 そう言うってことは、オリビアさんも涼しい顔をしているけど実はいっぱいいっぱいなのよね?

 仲間ハズレじゃなくて良かった…今は二人しか居ないからそう言うのは大袈裟になるけど、同調出来ない相手と一緒に居るのはシンドイものね。


 少し安心して手綱を軽く握り直す。


 私の気持ちがランスちゃんに伝わったのか、とても気持ち良さそうに走り続けてくれるランスちゃんに、『この子も勘違い系?』と内心で思うけど声には出さないわ。 


 それにしても、牙馬は忌み子として殺処分されたり、仲間の馬達に攻撃されて死んでしまうと聞かされたのだけど…大人しくて私達の言うことは大体聞いてくれるし、頭の良い子だから勿体ないと思うわ。

 王都との緊急連絡に使う早馬に牙馬を使えばかなりの時間短縮が図れるだろうし。騎手はその分大変だけどね。


 ダンジョンの出口まで一時間も掛からずに到達し、エレベーターと言う昇降式の部屋に乗り込んで地上に戻る。

 エレベーターの動く音がしたからか、出口では見張り役の若い冒険者…まだ成り立てホヤホヤですって感じの二人で出迎えてくれたわ。


「ご無事で何よりです…えっ、馬?」


 ランスちゃんとブリッジちゃんに跨がる私達を見て驚く二人に当然だわねと少し同情する。

 エレベーターに乗ってダンジョンに入った時は全員徒歩だったもの。


 それが見るからに逞しく、綺麗な馬具一式を揃えた二頭の馬を連れているのだから何だこれ?!と驚いても無理はないわ。


「お二人だけですか?

 他の皆さんは?」

と不安そうに聞く見張り役に、

「みんな無事よ。少し領主様と相談することが出来たから、二人で先行することにしたのよ」

と答えて笑顔を作る。


「そうでしたか。

 この山道と街道との合流地点に、テント村を設営しているのでそちらで休憩されると良いですよ。

 馬や馬車も用意されていると思います」


 まだ駆け出しの冒険者の男の子が丁寧にそう教えてくれる。キチンと教育を受けた子のようだけど、冒険者を続けるつもりなのかしら?

 もう一人はモゴモゴしているだけなので、多分人見知りなのね。

 腕に自信があっても人付き合いの苦手な人って意外と居るから、それは気にはしないけど冒険者って依頼人とのトラブルも起きやすいから、コミュニケーション能力って大事なのよね。


 多分この二人はお小遣い程度の日当とお弁当を貰って、立っている時間に剣の練習をしていなさいって言う初心者専用の依頼を受けているのだと思う。


 監視員が居ないところを見ると、真面目な二人なのだと思うけど、何かの魔物が出たときにどうするつもりなのかしら?

 ぁ、そうね、この山には大した魔物は住んで居ないのは調査済みだったわね。


 職業柄か新人冒険者には興味はあるけど、今は急いでリミエンに戻らないといけないからね。

 軽く御礼を述べてランスちゃんを走り出させると、二人の新人がおおーっ!と歓声を上げ他のはきっと牙馬のスピードにビックリしたからね。


 つづら折りの坂道を猛スピードで駆け降り、カーブに差し掛かっても殆ど落ちないスピードに悲鳴を上げる。


「曲がるときはスピード落としてよ!」

と言葉で言っても分からないと思っていたけど、次のカーブでは減速してくれたのでやっぱりこの子達は人の言葉を理解出来るんだと感心した。


 クレストさんが綺麗に整備した山道は牙馬達にも走りやすいようで、暴走する馬車より怖い乗り物なんてこの子達しか居ないと思えるぐらいの勢いで一気に街道との合流地点に到着。

 ぽつぽつと距離を開けてテントが張ってあり、柵の中では馬を走らせている良く見知った人が居た。


「お父さんっ!」


 ここから離れた場所にある鉱山にある筈のお父さんが、一体どうしてここに居るのだろう?


「エマ! 心配したぞ」

と馬を寄せようとするお父さんだけど、乗っている馬がランスちゃん達を怖がっているのかピタリと停まって動かなくなった。


 仕方なく馬から飛び降り、ランスちゃんのすぐ側まで歩いてきたお父さんがランスちゃんを見てビックリしている。


「この馬は一体…?」

「ダンジョンでクレストさんが用意してくれたの! とても良い子達よ! この子はランスちゃん。もう一頭はブリッジちゃん」


 私の答えにオリビアさんが軽く咳払いして注意する。そうだったわね、ダンジョン管理者になっていた時に用意してくれてたなんて言える訳は無いもの。


「ダンジョンの中に馬が居たのか?

 それは初耳だな」


 それは私だってそうよ。

 でもダンジョン管理者になれば、魔力を消費して魔物やアイテムの出現を自由に行えるんだから何でもありなのよね。


「お初にお目に掛かります。

 私はオリビア・シュタールと申します。実家は各種家畜類を扱う商社を営んでおります」


 ブリッジちゃんから飛び降りたオリビアさんが綺麗な姿勢で自己紹介をすると、お父さんも居住まいを糺し、

「エマの父親のヒューストン・ロックウェルと申す」

と名前を名乗るとニコリと微笑んだ。


「いつも娘がお世話になっているようで申し訳ない。同じ男爵家同士、仲良くさせて貰えるとありがたいと思う。

 それにしても…これ程素晴らしい馬は見たことがない」

と言ってお父さんがランスちゃんの首を撫でようとすると、プイっとそっぽを向いて触れさせようとしないランスちゃんに思わずクスリと噴き出す。


「あ、それよりどうしてここにお父さんが居るの?

 まさか前の鉱山は廃坑になったの?」

「カンファー家の山の地質調査で来たんだ。

 植林が出来なくなってもう十年以上経っておると言うのに、やっと動き出したようだ」


 それは…植林の話は魔界蟲が原因だと知れたのでもう問題は無くなった筈。

 何とも来るタイミングが悪いわね。


「地質調査…あ、お父さんはそう言うの詳しかったのね。忘れてた」


 もっと早くカンファー家当主が対策を打っていれば、あの魔砂土の層がもっと早く発見されていたかも知れないのよね。

 クレストさん情報だと、ダンジョン管理者もそれを望んでいたって話だったし。


「それよりエマ!

 お前、お父さん達に内緒で結婚したそうじゃないかっ!」


 ガシッと私の両肩を掴んで前後に振るものだから頭がグラグラと揺れて痛い。


「お父さん、それじゃエマさんの首が取れますよ」

とオリビアさんがお父さんを止めてくれなかったら、本当に首が無くなってたかも。

 見た目によらず馬鹿力なんだから…。


「オリビアさん、ありがとう。

 天国のお爺ちゃんとお婆ちゃんに手招きされてたわよ」

「それはスマン、が、結婚したのは本当かっ?!」


 肩から手をどかせたものの、返事次第ではまたガクガクやられそう…。


「オリビアさん、説明頼める?」

「御自分で…と言いたいデスが、他人視点で述べた方が納得されそうですよね」


 ですって所が少し怖かったけど、気のせいよね?


「ロックウェル男爵、クレストさんとエマさんは…」

「ここには他の貴族は居らぬ。

 ヒュースと呼んでくれんか、同じ爵位同士、ざっくばらんで良かろう」


 オリビアさんが少し困った顔を見せるけど、頷くと、

「分かりました、ではそのように。私の事もオリビアで構いません。

 で、デスね、コンラッド王国の一般人としての習慣的にはお二人は結婚されている、と言われる状況かも知れません」

と言葉を探しながら答えていく。


「ギルドの寮を出て同居しとるんだ。

 寮母も嬉しそうに話しておったぞ。

 何も取り得のないエマが、まさか今リミエンで一番話題の男と」

「取り得がなくて悪かったわね!」

「ゴホン!

 ですが、クレストさんはコンラッド王国の習慣的なものは良く理解されておらず、まだ同居人の一人として接しようとしているようにも見えます」

「エマ、何をやっとる!

 早く既成事実を作らんか!」

「お父さん、娘にそんなこと言うの?」


 思わずお父さんの頬を抓るけど、私は悪くないよね?


「ライバルは相当な数に上るらしいぞ!

 『子供から人妻まで、女性を見つめている』と言われておるそうじゃないか。

 …かなりの女好き…と言う話も出て当然か」

「『オハヨウからオヤスミまで』の獅子のマークの商社のキャッチフレーズみたいに言わないでよ!

 スラムの子供を保護したり、パンケーキを焼いていた露天の奥さんに商売の話を持ち掛けただけなのよ…噂を鵜呑みにしないでよ!」


 確かにクレストさんの回りには女性の数の方が多いけど、別に女好きって訳でも無いのよね。

 セリカさんの胸は好きみたいだけど…はぁ。

「今日も私のターンじゃなかったのです!

 でもママが自爆したのでヨシなのですっ!」

「あら、ママのお話しは不要って言うの?

 そう言う悪い事を言う子は明日の御飯抜きの刑よ」

「それはズルイのです!

 メインヒロインの座を奪われたからと言って、そんな横暴は野鳥の会が許さないのです!」

「あら、野鳩料理も悪くないわね。

 手羽先、食べる?」

「貰うのです、私は手羽先は骨まで食べる派なのです!」

「はい、どうぞ。そうね、明日も私のターンだから」

「ポリポリ…マ、バリ、マ、ボリ、ズル、ポリ、いの、ボリ、です!」

「良い子は食べながらお話ししちゃダメだからね!」

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