第33話 好敵手?
予約投稿を一日間違えていましたm(_ _)m
『テレポーテーション』でやって来た場所は、俺の居城から東に徒歩で三日から四日の距離にある山の上だ。
この山を下って更に東に向いて進めば敵対勢力の一つ、キリアスの中心部を長年に渡り占拠し続けている『鋼鉄王デュークアード』の領地に到達する。
四方向に敵対勢力を抱えながらも、未だ衰えの見えないアイツは俺から見ても一段階上の存在と言って良い。
もっとも倒そうと思えば他の勢力と同時に侵攻すれば倒せないことは無いと思うが、その間に本拠地を奪われないとも言えない上に、やはり中心部は何かと狙われるのだから後が面倒なのだ。
だが、テツタローさんが俺の手に入ったことで『鋼鉄王』とのパワーバランスに変化が生じたのだから、中心部から少し領地を戴いても悪くないよな?と考えていたのにさ。
まさかの弱小勢力相手にテツタローさんをヤラレルとは思ってもみなかったのだ。
女性だけで構成した俺の親衛隊『レディガード』の二人と手を繋ぎ、山頂に設置した通信基地の俺の部屋に瞬間移動してくる。
『レディガード』は勿論ムフフなことの出来る俺好みの相手を集めた隊であり、予定通りクラッと倒れると優しく抱き止められる。
テレポーテーションで同時に運べるのは左右の手を繋いだ二人までであり、ヒョイドロさんにも言った通り俺は男同士で手を繋ぐ趣味は無い。
挨拶で握手しないのか、だと?
全く何の冗談だよ。そんなのやるわけねえだろう。マジ意味わかんねぇ。
ベッドに乗せられ、レディガードの二人が添い寝をすること数分間。
頭がシャキッとしたところで、イチャイチャしたい気持ちをグッと我慢して部屋を出る。
そしてこの通信基地を管理するゴージー所長の下を訪れ、テーブルに置かれた地図を見ながら状況を確認したのだ。
「コリオ隊長とはこの時計で一時間おきに定時連絡を取っておりました」
とゴージー所長が昔懐かしの壁掛け時計を指差す。
ゼンマイをキュッキュと巻いて動かすあのチクタク時計と外見はそっくりだが、動力には魔石を使う。
俺がこの世界に来た時は、半日が十六時間の長針のみの機械式時計しか存在しなかったのだが、その数年後に短針付きの時計が販売され始めたのだ。
この時計を見て何故半日が十六時間?と最初は疑問に思ったが、この世界では元々方位と合わせた時間体系が取られていたことを思い出す。
そうなると一時間が四十五分になる筈だが、そこは逆に十六掛ける五で八十分となっていたのだから笑うしかない。
この時計を見るだけで労働時間が伸びて無性に損をした気分になるのだが、その分楽しい時間も延ばせば良いのだと心のバランスを取っている。
はあ…それでもやはり一時間がやたらと長く感じられるぜ。
時計を見ながら溜息をつき、視線を地図に落とす。
「ここからどれぐらいの位置にルーファスの拠点があるんだ?」
「そうですな…兵の足なら山道を四時間ほどでしょう。
今から皇帝自ら行かれるので?」
「そうだけど、四時間もかぁ…レディガードの二人に夜の山歩きなんてさせたくないんだよなぁ。
ゴージー所長、二人ほど道案内に赤鎧を付けてくんないかな?
特別手当てを支給するから、元気な人を選んでよ」
「了解しました。
念の為、こちらで預かっている小隊を安全確保の為に先行させておきます」
えっ? 小隊を預けてたっけ?
俺はそんな指示した覚えは無いから、ヒョイドロさんが手配してたのかもな。
「あ、あぁそれで頼む」
ルーファス達の待ち伏せを警戒してのことだろうから、ゴージー所長の好きなようにさせておこう。
そもそも俺には軍事的センスなんて何も無く、全部人任せだからな。
それで上手く回ってるってことは、幹部連中がちゃんと働いているって証明なんだと思う。
それから四半時間も経たないうちに、警備担当の二人を道案内にして通信基地を出発するのだが…連れて来たレディガードの二人にゴージー所長他所員達のイヤラシイ目付きがなぁ。
こんな山の上にずっと閉じ込もっているんだから、女性に飢えているのは仕方ない。
こう言う時は我慢させるのは逆に良くないので、彼女達との適度な性的交流を許可しておいた。
こう言うサービスが戦乱の中で部下を持つ身には必要だと、皇帝と言う身分になってから身に染みて理解したのだ。
もし彼女達がうっかり妊娠したとしても、ある薬を処方すれば事なきを得るのもこんなサービスが提供出来る理由の一つなんだけどね。
現在時刻は日付の変わる一時間ほど前か。
本当なら第二回戦の真っ最中の筈だったのに、まさかの夜間登山になるとかどんな罰ゲームだよ。
でもなぁ、もしテツタローさんを破壊されたのなら、ルーファスの戦力はうちの騎士小隊以上ってことになるんだから、看過できない事態と言える訳さ。
面倒だけど仕方ない。
グチグチ文句を言いながら、星明かりが照らす山道をひたすら歩く。
これって例えるなら、織田さんとか豊臣さんとか徳川さんが直々に現場に出向いてるって訳よ。
普通ならいきなりトップが出張ってくるような案件じゃないんだろうけど、それだけ俺も焦ってたって訳なんだよ。
それに動けないテツタローさんをお持ち帰り出来るのは、俺のアイテムボックスだけなんだしさ。
途中からウチの工作部隊が作った道に出てやっと一安心。
ルーファスは荷馬車もろくに通れないような細い道しか通っていない、山あいの土地に拠点を作ってたんだよ。
これなら確かに軍の派遣は難しいだろうが、ちょっと気分がハイになるお薬を使って働かせてやれば、多少の不可能なら可能になるってやつ。
ちなみにこの隠れ里への道を見付けた兵士には報奨金をやって、ついでに気前よく騎士団に取り立ててやったんだけどさ。
暴走したテツタローさんに殴り飛ばされアッサリ昇天したって言うんだから、やっぱり人材は適材適所の配置が大事だってことだよな。
それはともかく…道案内の二人に案内されたのはダンジョン入り口だった。
まぁ、これはこっちの方向的に近かったんだから当然な訳で。
そのダンジョンの奥から聞こえる音は戦闘のものだと理解し、先行した部隊が役に立ってるじゃないかとゴージー所長を内心褒めてやる。
だが、音が聞こえなくなっても赤鎧の連中は一向に出て来ない。
「…アイツら負けたの?」
勝ったなら一度は外に出て俺達との合流を選択する筈だ。
それが無いと言うことは、運悪く全滅させられたと考えて間違いないだろう。
「一度逃げた犬のクセに随分威勢が良いことで。
ま、そうでなきゃ来た甲斐が無いってか」
いつもニコニコしていた元部下の顔を思い出しつつ、道案内で連れて来た赤鎧の二人を連れてダンジョンの中へとゆっくり脚を運ぶ。
ランタンに照らし出されたダンジョンの中に、突如現れたのは土の壁だ。
「何だコレ?
コレどうすんの?」
「土の壁です! それと倒れた兵士達です!」
俺が馬鹿みたいにクチを開けて出した言葉に、右手側の赤鎧が即答する。
「そりゃ見れば分かるだろ?
馬鹿にしてんの?」
「いえ!滅相も御座いません!」
慌てて謝罪し、土下座しようとするのを手で止める。
ちなみに二人の名前を聞いていないのは、どうせ聞いても忘れるだろうと思っているからだ。
それにもし華々しい活躍をしたなら、イヤでも名前を聞くことになるからな。
「何で土の壁があるのかってことと、コイツらを倒したやつがこの壁を作って隠れてるんだから、早く壊せと言ってんの。
分かる?」
先行したのは確か隊長一人、隊員十名と言っていたかな。
遺体の数は全部で十名分…一名足りない…。
「はっ!
恐らくルーファスの兵が土を魔法で操作して作らせた壁でありますので、破壊にそれ程手間は掛からないかと。
すぐに破壊します」
ビシッと敬礼した二人がガンガン剣で土の壁を殴り始めたが、意外としっかり固められているようで一向に壊れる気配が無い。
二人にハンマー系の武器は手持ちに無いので仕方ないが、それにしてもよくコンクリート並の硬さに仕上げたものだな。
突きの剣技で多少は抉れたようだが、この調子だと穴が空く頃には日が昇っていそうで待っていられない。
「よし、ご苦労さま、交代しよう。
少し下がってな」
痺れを切らしてそう言うと、不本意ながら付けられた『赤熱』の二つ名に相応しい火炎放射器のような炎熱魔法で壁を熱していく。
「暑い…」
そう漏らす二人に、
「だから下がってろと言った。聞かないお前達が悪い」
と不満気に言い放つ。
もっとも、この魔法を使い続けると周囲の温度は上がり続けるのだから、閉鎖空間であるこのダンジョンだと少々下がった程度では余り意味は無いがな。
多少の時間は掛かったが、鉄やガラスが溶けていくように赤く熱せられた壁に大きな穴が空く。
空いた穴の向こうにはルーファスと部下のフラット何とかと言う剣士、それと見慣れぬ甲冑が立っていた。
「真ん中の奴が『赤熱の皇帝』だ!
と俺を指差すルーファスに、人を指差すのはイケないことだと教えてやりたい。
「さすが赤熱皇帝陛下!
後は我々が!」
と道案内の二人が良いところを見せようとしたのか、脆くなった壁に向けて高圧縮した魔力による攻撃を連射した。
中々の威力で残っていた壁が粉々に破壊されたのは良いのだが、そのせいで周囲に大量の粉塵が舞い散り埃っぽくて堪らない。
こんな後先考えない馬鹿は俺の部下に必要ない。後でゴージー所長に閑職に回すよう伝えてから城に戻ろうと思いつつ、二人を怒鳴りつける。
それより気になるのはあの甲冑だな。
何かのロボットのような、鎧のような…見たことは無いが、素直に格好良い。
「銀色の…?
何かのプラモをデカくしたのか?」
とアホなセリフをついポロリと漏らすとルーファスが不思議な顔をした。
この世界にプラモなんて存在しないから当然だな。
失敗したなと思いつつ、そんなことはどうでも良いと開き直ると、
「コソコソ逃げるのか。
相変わらずの負け犬さんだな」
と馬鹿にし、右手を前に出す攻撃姿勢を取る。
すると手のひらサイズに集まる魔力に反応したのか、銀色の甲冑が銀色に輝く光の剣を構えたのだ。
色こそ違えど、それはハリウッドの大ヒットSF映画に出てくるアレなのだ!
「ライトシェーバーっ?」
そんなロマン武器を持つ奴を殺したくは無いが、一度発動シーケンスを開始したこの魔法を止めれると実は反動で俺がヤバい。
従って、
「まぁ、いいや、『メガトンフレアッ!』」
と俺の代名詞とも言うべき特大ファイアーボールを発射しようとする。
「陛下! それでは我々が!」
道案内の二人もこの魔法を知っていたらしく、魔法の発動をやめさせようとしたのだが少し遅かった。
惜しいとは思うが、ルーファス諸共あの銀色の甲冑の人にも消えてもらおうか。
そう言えば、ルーファスの後ろにユラユラしているアレは、転送ゲートか?
『メガトンフレア』の爆発で転送ゲートまで壊れてしまうが、これは仕方ないか。
フラット何とかさんはいつの間にか先に転送ゲートを通っていたようで、ルーファスもギリギリのタイミングで『メガトンフレア』の爆発前に転送ゲートに飛び込んでしまったのが甲冑の後ろから少しだけ見えたのが非常に悔しい。
気持ちを切り替え、甲冑の人だけはヤバそうなので確実に倒そうと思ったのだが、炎渦巻く火の玉の形をしたメガトンフレアは甲冑の人に着弾する直前、振り抜かれた光の剣によって綺麗に二つに切り裂かれてしまった。
だが高圧縮した魔力の塊を幾ら斬ろうが攻撃の為のエネルギーは然程変わらぬ筈。
それが証拠に幾つもの手榴弾が爆発したような爆発がそこで起こり、辺りは爆風と炎に包まれる。
やべーな、やり過ぎたか?
俺の斜め後ろに立っていた二人の道案内が爆風の煽りで背中から倒れたようだが、俺は慣れているので少し踏ん張れば飛ばされることは無い。
だが驚いたのは、爆心地にいた甲冑が全くの無傷で立っていたことだ。
これは素直に凄いと賞賛し、俺の陣営に加えることに決めたのだ。




