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銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます【第二部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 越えると見えて来るものがあるのです!
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第29話 工場は丸ごとなのです!

 仮眠してからもう一度転送ゲートを通り、キリアスへとやって来た。

 マジックバッグに入らない工作機械の回収がその目的だ。


 コンラッド王国より進んだ工作技術を持つキリアスの技師とこの機械があれば、リミエンは他領より一歩も二歩も先を行く工業都市として生まれ変わることだろう。


 『大地変形』と『範囲指定』を上手く組み合わせれば、基礎に固定された機械を基礎ごとアイテムボックスに収納することが可能であると思われる。


 良く見てみると、機械は基礎ボルトで固定している訳ではなく、溝を掘ってそこにピッタリ固定する方法がとられていた。

 多分この場所で組み立てを行ったのだろう。


 機械の周りをパタパタ飛んで確認したアルジェンの見立てで、少々嵩張るし結構重たそうだが問題は無いとのことだ。

 

「持って帰るのは全部で六台と、溶鉱炉なのですねっ?!

 私に掛かれば朝飯前のデザートなのです!」

と機械の上に乗っていちいちポーズを取る。


「ウチは朝食前にデザートは出ないけど」

とわざと真面目な顔をして普通に返すと、

「今回は出張料金と時間外勤務の割増賃金が発生するのです!」

と少しだけ納得が出来ることを言うのだ。

 とは言え俺が知っている限り、リミエンにはまだ時間外勤務と言う発想は無い筈なので、あまり大きな声で言って欲しくはない。


 新しいことを始めると、今更だけど無用な注目を浴びることになるからね。


「分かった、それならリミエンに戻ったら美味しいデザート食わせてやるから。

 ダンジョン内では俺達だけ別メニューにすると、キリアスの人達とケンカになるかも知れないから我慢してくれ」

と、俺にもデメリットの無い提案、と言うよりいつも通りの生活を提案する。


 その返事に満足したアルジェンはフンッと鼻息を荒く吹き出すと、もの凄い勢いで次々と機械を回収し始めた。


 一つの建屋に三台ずつ、計六台の工作機械が並んでいたのだが、それらをほんの数分でアイテムボックスに収納してしまった。


 その様子に、

「機械を基礎ごと持ち運ぶ人なんて初めて見たよ」

と心底呆れたような顔で俺とアルジェンを見るルーファスさん達。


「これがウチの大将の普通だから諦めて慣れてくれ」

とベルさんが少し疲れ、悟ったように言う。


 俺はこの時どこに工場を建てようか、据え付ける場所は地面を平らに均さないといけないな、などと考えていたので彼らの会話に特に反応を示すことは無かった。


 だが一応耳には入っていたので、確かにこんな機械の運び方は地球でも出来ないなと、アルジェンの非常識さに感心しながら眺めていた。


「今パパが何かおかしな事を考えていたような気がするのです!

 私が出来るのはパパの真似ごとなのです!

 そこを忘れられると困るのです!」


 何故俺の考えていたことが分かった?

 相変わらずの勘の良さに苦笑する。


「機械は回収完了なのです!

 溶鉱炉のある工場は、チェーンブロック擬きとか移動式クレーン擬きもあるので、工場全体を持って帰ることをお勧めするのです!」


 ルーファスさん達の賞賛の声に機嫌を良くしたアルジェンが、そんなとんでもない事を言い出したのでさすが俺も驚いた。


「いくらアルジェンでも、さすがに工場丸ごとお持ち帰りは無理だと思うよ」


 アルジェンの言う通り、溶鉱炉の設置された建屋を丸ごと持ち帰ることが出来れば、資材の大幅な節約に繋がる上に工期の短縮も図れて一石二鳥だ。


 だがアルジェンのアイテムボックスの容量がどれだけあるのか分からないのだから、素直に任せたとは言い切れない。


「ノンノン! そんな甘い考えでは激動する現代ファンタジー社会では生き残れないのです!」


 チッチと指をわざとらしく左右に振ると、俺を指さしてそんなことを言うアルジェンだが、現代ファンタジー社会とは何ぞ?と突っ込みを入れたくなる。


 確かに地球からすればここはファンタジーな社会であり、リアルタイムで現在進行中なのだから現代社会には間違いはない…。

 言葉的にとんでもなく違和感は感じるが、間違いではないと納得してしまう。


「さぁルケやんっ!

 工場の基礎の縁に沿って適当な溝を掘って欲しいのです!」

と次にアルジェンが肩に停まって指示した先はルケイドだった。


「ルケやんって…アルジェンまで。

 そう呼ぶのは流行りなの?」


 ルケイドがそう呼ばれたことに微妙な顔をするが、

「パーティーに弄られキャラは必要なのです!」

とアルジェンは我関せずを押し通すつもりのようだ。


 パーティーって言っても、俺とルケイドとオリビアさんの三人パーティーだし、ルケイドはそのうち男爵になるから外さないといけないんだよね。


 多分だけど、ルケイドと呼び捨てしたり、さん付けで呼ぶより、ニックネームで呼ぶ方が親しみがあって良いとの彼女なりの判断なのだと思う。

 それかカーラさんが俺のことをクレたんと呼ぶのを真似て、ルケたんにしたら韻が悪くてルケやんにしたのかも。


 どっちしても、ルケイドと仲良くしようと言う意思の表れだと思うことにしよう。


 ルケイドが『まぁいいか』と呟くと、魔法を使って溝を掘る。

 『大地変形』を使って溝を掘ると、動かした土を何処かに置いておく必要があるので、埋め戻しを考えない場合は素直に土属性魔法を使って溝を掘る。

 もしアルジェンがこれをやると恐らく大穴を開けることになったので、ルケイドが来ていたのは正解だったな。


 ルケイドも『範囲指定』と要素魔法の考え方を理解してから、格段に土属性魔法の扱いが上手くなっている。

 魔力による力押しではなく、三次元CADのようなイメージで加工が出来るようになって魔法が扱いやすくなった喜んでいたからね。


 アルジェンがさっき溝の深さと幅を指示しなかったのは、単に境界の目印とするための役しかないからだろう。


「さすがルケやん! それでオッケーなのです。

 では溝で囲われた内側をゴッソリ持って行くのです!

 刮目して見よ!なのです!」


 アルジェンが溝によって剥き出しになった基礎部分に手を当て、

「『範囲指定』からの~『格納庫』!」

と気合いを入れて魔法とスキルのコンボを放つ。


 次の瞬間、ヒュンっと言う物が動く音がしたと思うと、幅五メートル、奥行き約十メートル程の小さな工場が跡形も無く消え去ったのだから、これには俺も驚いた。

 その俺の顔を見てアルジェンが

「フフーン!」

とドヤ顔を決める。


 俺は驚いた、の一言でこの件は終わるのだが、ルケイドや他の同行者はそんな言葉ではとても済ませられないぐらい驚愕し、暫くクチを開けたままだった。


 ところでアルジェンが出来たと言うことは、これって俺も魔力が戻れば出来るのか?

 怖い物見たさで試してみたい気もする。

 日本では重要文化財になるような古い建築物を保存の為に移築することがあるが、俺一人で家一軒丸ごとお引っ越しする専門業者になれる可能性があると言う訳だ。


 だが改めてアイテムボックスってスキルはヤバすぎると再認識する。

 俺にこんな能力があると知られれば色々な人…特に商業ギルドや冒険者ギルドの偉い人達から便利に使われるに決まっている。


 恐らく両者とも適正価格と言って有り得ない作業費用を払ってくれるとは思うが、これはお金の問題ではない。

 マジックバッグもそうだが、収納系スキルやアイテムを所有すると言うことは、誰かが何か物を無くした時に真っ先に疑われると言うことなのだ。

 だから信用できない人にはこのスキルのことを明かさないよう気を付けねば。


 同行しているルーファスさん、フリットジークさんは勿論のこと、他のキリアスから来た人達にも厳重に箝口令を敷いておかないといけないだろう。


 俺がそんな不安を感じている最中にも、皆から賞賛の声を掛けられたアルジェンは機嫌を良くすると、

「これなら、もう一つか二つぐらいなら収納出来そうなのです!

 次の建物を指示して欲しいのです!」

と嬉しそうに俺の周りをパタパタと飛び回る。


 それならばと、機械が置いてあった小さな工場を二棟を収納して貰うように頼むとルケイドとアルジェンのコンビネーションは上手く機能し、希望通りに二棟とも収納が出来た。


 建物を計三棟も持ち帰ることになるとは想定外にも程がある。

 ひょっとしたら魔物のような元は生きていた物を収納するより、建築物や資材の方が構造や組成などが単純だから可能だったのかも、と勝手に想像する。

 アイテムボックスにはサイズや重量以外のファクターがあっても不思議ではないからね。


 考えごとをしていた俺を放置して、続けて小振りな住居も同じように収納しようとしたアルジェンだが、

「残念、無理みたいなのです…」

と悔しそうな顔を見せた。


「アルジェン、工場を三棟も持って帰れるだけでも凄いんだから、そんな顔をしないの。

 可愛い顔が台無しになるよ

 これだけの成果で万々歳だよ」


 ご機嫌取りになるかも知れないけど、ここはアルジェンを褒めて良い気分になってもらった方が良さそうだ。

 良くも悪くもアルジェンは素直な性格だからか、喜怒哀楽の哀をズーンと堕されると一緒に居るだけで辛くなる。


「可愛いのは当然なのです!

 パパのお陰でやる気が出て来たのです!

 試しにバラしたら入るか試してみるのです!」


 俺の言葉に吹っ切れたのか、ニッコリ微笑むと力こぶを作る真似をする。

 バラして入れるってことは、建材にするつもりかな?

 それは有難いけど、解体しながらの収納は凄く難しそうだと思う。


「無茶はするなよ。

 バラすのは危ないんだ…あ、やっぱりやめておいた方が…」


 もし解体中に大きな物音を立てて、『赤熱の皇帝』の残党に居場所を知られるのは非常にマズイ。

 もっとも残党が近くに居るかどうかは不明だが、今は丑三つ時を過ぎた頃か? 何故か夜間は音が遠くまで響くからね。


「天井からバラしていってみるのです!

 今は気分が良いので何でもやれそうな気がするのです!」


 そう言ってパタパタと屋根まで飛んで行き、姿が見えなくなったところで、

「『格納庫っ!』」

と声が響いた。


 ちなみに試しているのは石を組んだ壁と木製の屋根の平屋で、あっさり屋根が無くなったのだがアイテムボックスの中はどうなっているのだろう?

 木材同士は釘やカスガイ、継ぎ手加工等で連結されていると思うが、部材ごとに別れて入ったのか、それとも屋根の形を残したままなのか。


「ムムムっ!

 この石の壁を全部入れるのは無理ぽいのです…もう少しだと言うのに悔しいのです!」


 屋根から降りてきたアルジェンが俺の頭に着地する。

 俺としてはもう十分だし、もしまた来られるならもう一度来れば良いのだ。

 そう思ってアルジェンをそっと掴んで頭から降ろし、頭を撫でてやると気持ち良さそうな顔をする。


「パパ……顔がエロいのです!」

「せっかく撫でてやってるのに、そう言うことを言うとは。もう撫でてやらないぞ」

「私は良いけど…ハタから見ると人形で遊んでニヤニヤしてる人みたいでアブナイのです!」


 アルジェンを撫でるのはこれが最後と心に誓うのって当たり前だよね?

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