表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます【第二部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 越えると見えて来るものがあるのです!
30/194

第27話 移住は問題だらけなのです!

 アイアンゴーレムに襲われていたルーファスさん達の拠点から大勢の住民が移動を始めた。


 本心ではまだこの地に未練があるかも知れないのだが、再度襲撃される可能性のあるここに居座り続ける訳にも行くまい。


 そう言う意味では、あのアイアンゴーレムの襲撃はナイスなタイミングだったかも…と言うのは不謹慎か。

 あの襲撃で命を落とした人も居るのだから。


 乗り心地の悪い荷馬車に揺られて約三十分。

 ダンジョンの入り口へと到達した。途中に見える赤黒いマグマはまだ熱を帯び、イヤな臭気を漂わしている。


「アレをこのチッコいのがのぉ…大したもんじゃよ」


 体の大きさと魔力量等は比例しないのは分かっていても、それでも人の八分の一スケールのアルジェンが大地を赤熱化するとは想像が付かないようだ。


「『火山噴火』はパパの編み出した魔法なのです!

 褒められるべきはパパなのです!」


 感心したような様子で手綱を引くお爺さんに機嫌を良くしたアルジェンが、俺の肩の上で恐らくポーズを決めている。


「パパは大魔法使いなんじゃな。

 その割には娘が随分チッコいが…もっと食べさせてやらんと、大きくなれんのじゃわい」


 …アルジェンが本当に俺の子供だと思ってる?

 まさかそこまで耄碌していないよね?


「ホォホォホォ。冗談じゃ。

 人間が妖精を生む筈は無かろうの。それにしてもよぅ懐いておる」

「冗談かょ」

「私とパパはラブラブなのです!

 パパは私が居ないと生きていけないのです!」


 いや、それは言い過ぎじゃないかな?

 役に立つ立たないを除いて、アルジェンが居ないと寂しいとは思うかも知れないけど、生きていけないことは無いと思うぞ。

 そうクチに出さないけどさ。


 …まさか、物理的にアルジェンが居ないと俺の体は維持出来ないように作られているとか?

 神様に再生してもらった体だから、そんなことはないと思うけど。


 それとも魔界蟲本体さんが俺の中から出た時に、何か影響が出たとか?

 確か本体さんと俺の融合が進んでいたってアルジェンが診断結果を出したことがあったし、その影響があるのかも…。


 俺が考えごとをしながらダンジョンに入ると、すぐにコケコケと鳴きながら鶏さんが飛んできた。


「そう言えば、まだ手羽しか食べていないのです!」

「コケッッ!」

「鶏さんと再会して一言目に言うのがそれかよ!」


 俺の腕に着地した鶏さんが羽根を広げてアルジェンを威嚇する。

 自分を食べるつもりかと警戒しているようだ。


「コケコは食べないのです。

 その代わりにニワトリーダーとして働いて貰うのです!」

「コレだけ懐くと食べないのは賛成だけどな、ニワトリーダーって何?」

「私が捕獲した鶏達のリーダーなのです!

 クレスト地底王国の一員となった以上、鶏と言え働かざる者に食わせる飯は無いのです!」

「イヤイヤ、俺としては鶏さん達には雑草とか害虫を食べてもらって、卵を産んでくれたらそれで構わないんだけど」


 それにクレスト地底王国ってなんだよ?

 アングラ組織みたいでヤバイだろ。思うところはあるけど、王国に対して弓引くつもりは無いんだけど。


「パパは甘いのです!

 百羽の鶏がその程度で満腹になるはず無いのです!」

「基本、魔力があれば食べなくても生きていけるよね?」

「コケコケッ!」

「魔力と食べ物は別腹なのです!と言ってるのです!」

「今のはそんな長いセリフに思えないけど…」


 俺には鶏のコケコケを解読出来ないが、アルジェンは本当に解読しているのか?

 適当に言ってるようにも思えるが。


「まぁ、それは置いといて、名前、コケコは却下な。

 よく転んでる子みたいで可哀想だ」

「それならカシワか、ハツか」

「だから部位はやめろって!」

「コケッ!」

「それが駄目なら…ニラタマ、オムレツ…」

「一回食い物から離れような」

「パパならなんて付けるのです?」


 鶏の名前ね…家畜枠の生き物だから、名前は付けたく無いんだよね。


「ニワトリーダーだよな?

 ニ○リは家具屋だし…」

「コケコケコケコケッ!」

「嘘ッ! カグヤが良いのです?

 一発で決まったのです!」


 名前を出したつもりは無いのだが。

 でも鶏さんが喜んでいるのは俺にも分かる。


「…鶏にカグヤ…合わねぇ」

「コケコケコケ! コケコケッ!」

「カグヤが怒ってるのです!」

「悪い悪い! カグヤ、悪かった!」


 こうしてニワトリーダーのカグヤが誕生したのだ…マジか。


「あんちゃんら、コント中に悪いけどさ…ちゃんと行列に並んで進んでくれ」


 ダンジョンに入ってすぐの所でそんな遣り取りをしていたせいか、中年男性がそう声を掛けてきた。

 ちゃんと行列を作る文化があることに安心した一方で、俺も転送ゲートの順番待ちか?とウンザリする。

 もう前には千人を越える行列が出来てるんだけど。単純計算で二時間近く待たなきゃならない。


 スタッフ枠と言うか、主催者枠は無いの?

 それに俺が先に行かないと食事の支度で不都合あるんだけど。


「あっ! もうクレストさん!

 なんでそんな所に居るんですか!

 先発組は向こうでずっとクレストさん…と言うかアルジェンちゃんを待ってるんですよ!」


 そう言って俺を迎えに来たのはアヤノさんだ。

 そこはアルジェンを、でなく俺を待ってるって言い切って欲しかったけど、アルジェン待ちと言うことはやはり食事の件だよな。


「…クレストさん?

 えっ! あなたがあのクレストさんだったんですか!?

 失礼致しましたっ!」


 さっき声を掛けてきた男性がガバッと土下座する。

 するとその土下座が伝染したかのように、ダンジョンの内部へと広がって行くのだ。


「嘘っ! なんで土下座なんてするの?!

 みんな、早く立って立って!

 下は岩で脚が痛いでしょ!」

「何とお優しい!」

「神のようです!」

「いや、俺はただの人間だよ!

 でも先に向こうに行かせて貰えるのは有難い。

 食事の用意しながら皆が来るのを待ってるからねっ!」


 アヤノさんに手を引かれて転送ゲートへと最短ルートで進み、やっと飛び込むことが出来た。


 真っ暗な魔力の通路を通って出た先の地下ダンジョンは、もうすっかり夜になっていた。


「クレストさん! やっと来てくれた!」

とエプロン姿のセリカさんが出迎えてくれる。

 初めて見るその姿に新鮮味を覚えながら眺めていると、

「パンとスープの下拵えまでは手分けして終わらせていますけど…この後どうしようかと」


 俺達パーティーメンバー用の食事を出しても全然足りない上に喧嘩が起こるのは目に見えている。

 皆が平等に同じ物を食べられるようにしないといけない。


「アルジェン、今夜は焼き肉パーティーだ!

 手持ちの肉をどんどん出してくれ!

 遠慮するなよっ! どんどん焼いていこっ!」


 それに仲間達が反応する。


「土属性魔法使いの人、居たらテーブル作りを手伝って下さい!」

「肉を切る係を募集しまーす!」

「木工スキル持ちの人、居ませんか! 食器を用意して欲しいの!」

「水場はこっちです!

 洗い物? スライム二匹で処理しますから!」

「おトイレ?

 クレストさん、おトイレはどこですか!

 あ、その四角いのが公衆便所ですって」


 キリアスから来た人達も手伝ってくれて、食事をとる場所や肉の準備が整うと、パーティーのような夕食がなし崩し的に始まった。


 焼き肉パーティーはそれから四時間にも及んだが、これは約千五百人と荷馬車が順に転送ゲートを通過するだけで三時間も必要だったのだから仕方ないだろう。


 これだけの人数の寝床を確保するのは難しいので、地面を砂場に変えてフカフカにした上に布キレを敷いて寝床にしてもらったり、ハンモックを作らせたり。

 難民キャンプ並の酷い有様かも知れないが、とにかく休んでもらうことは出来たと思う。


 肉だけは腐る程ストックしていたのでまだ何とかなるが、野菜はアルジェンに持たせていた物は使い切ってしまった。

 明日の朝食はキリアスから持ち出した物で作って貰う必要がある。


 当初二千人程こちらにやって来る予定だったが、今日の不意討ちとアイアンゴーレムの襲撃によって幾つかの村が壊滅。

 約五百人もが犠牲になったそうだが、それはまた別の話。


 キリアスから運んできた食糧は数日もあれば食い潰してしまうだろう。

 リミエンからの援助がないと、この地下ダンジョンでの生活なんてすぐに頓挫してしまうのは明らかだ。


 特に主食となる小麦粉が必要だ。

 明確な四季の無いコンラッド王国では年中何処かで小麦が収穫されているので、食糧難になることは早々無い。

 だがリミエン領内に千五百人分の食糧が余っているとは思えない。


 それに俺が始めさせた高濃度アルコールや麦芽糖の生産で余剰作物は放出されている筈。何ともタイミングの悪いことか。


 他の領から買い付けするにしても、すぐのことにはならないだろうし、俺の資産で買ったとしても何日か持たせられれば御の字だろう。


 食料生産なんて、種を蒔いて収穫出来るまでに二ヶ月、三ヶ月は掛かるもの。

 甘く見すぎていたかも知れないが、それ以上にとにかく事態が急変し過ぎたのである。


 なお、重たい荷物はゲラーナとピンク色の鎧を纏ったアヤノさんが効率良く運んでくれたので、意外とすんなり片付いた。

 ピンク色の禍禍しい鎧を着たアヤノさんと巨大カブトムシのゲラーナが、子供達…特に男の子から大人気となったのは当然のことだろう。


 ルーファスさんを含むキリアス側の幹部達が食事を終えて俺の前に集まってきた。

 幹部と言っても黒装束集団の幹部ではなく、村長や地域の世話役のような人達だ。

 俺に土下座した中年男性もその中に居る。


 俺達のパーティーとか黒装束集団がここで戦闘となったのは今日の正午過ぎ。

 話を聞いてキリアスからの移住を受け入れると決めたが、まさか今日の今日にそれが決行となるとは予定に無かったのは俺達もだし、キリアスの人達もだ。


 もしここで俺達と黒装束集団が鉢合わせず予定通りにリミエンに向かっていたら、キリアスの彼らの集落はアイアンゴーレムによって壊滅させられていただろう。

 そう考えると、不幸な出来事ではあるが運は良かったと言えるかも知れない。


 受け入れるこちら側に十分な準備が出来ていないのは、時間的に考えれば当然だろうと納得してくれているが、それでも不便を強いる事になるので申し訳ないと思う。


 衣食足りて礼節を知ると言う言葉があるように、食べ物も服も必要だし、清潔にしておかないと病気も起こる。

 住居も無いので、プライバシーも無ければ安心して着替えも出来ない。


 天井があって雨風は凌げる。しかもこのダンジョンは暑くもなく寒くもないので住むには快適だ。

 そうなると住環境の整備を早急に求める声が出始めるだろう。

 明日からはキリアスからやって来た人達にも働いて貰わないと、まともな暮らしが出来るようにはならないのだ。


 狩猟、採取、畑に建築…これらを同時進行させて町を作っていこうと言う、方針とも言えないような方針を幹部達が決定した。

 下手な考えで行動せず堂々めぐりするより、少しでも動いてこの場所を早く住みやすい場所に整備することが何より大事だと言うのが幹部達の共通認識である。


「もう少し転送ゲートが開いてる時間が長けりゃ良かったんだけど」

「いや、『赤熱の皇帝』の軍が転送ゲートを通ってここに侵攻してくる可能性があるから、短い方が安全なんだ」


 今日大敗を喫しただけにすぐに侵攻があるとは思えないが…果たして赤熱の軍に取って今日の負けは大敗なのか?

 奴らがどれだけの規模の軍隊なのか全然分からないので、大敗と決め付けるのは早計かもな。


 さすがにアイアンゴーレムを量産しているとは思いたくないが、またアレと戦うことになれば時間制限のある俺のKOS一体だけでは戦力不足だ。

 アヤノさんのビアレフで対処出来るかどうかだが、メインウェポンが斧なので鉄の塊を相手には期待薄だろう。

 やはりビアレフにも鉄を溶かすだけの高熱を発する兵器が必要だと思う。


 転送ゲートさえ閉じてしまえば赤熱の皇帝がリミエンに侵攻してくることは無いだろうが、決して敵を甘く見ず、出来る備えは早めに整えなければならないだろうと独り思いつつ会議は終わったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ