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銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます【第二部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 越えると見えて来るものがあるのです!
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第26話 移動を開始するのです!

 黒装束集団の人達の集落に来てみると、まさかのアイアンゴーレムとの戦闘になっていた。

 こんな特級戦力が動かせるのなら、『赤熱の皇帝』軍は二方面作戦だって可能だよね。


 ベルさん達が手こずっているのを見てKOSでそのアイアンゴーレムと戦うことに決めた俺は、タイムアップになりながらもギリギリで使えた光剣でアイアンゴーレムの撃破に成功した。


「パパ、セレモニーがあるのでもう少しシャキッとしていて欲しいのです!」

と俺の肩に停まったアルジェンがそう言うが、俺は疲労困憊でその場に座り込む。


「疲れた…」

「鍛え方が足りないのです!

 明日から毎日KOSで過ごすのです!」

「やるのは力仕事の時だけにしようよ…多分KOSを使うと、余計に疲れる気がするんだ」


 連続して使うにも、クールタイムの三十分があるのは体への負担を考慮してのことだろう。

 それに今の俺は魔力を使えないのに、中にアルジェンが入ることで爆発的な魔力を生み出しているのだ。

 これが体に良いことだとは思えない。


「慣れて貰わないと困るのです!

 三日三晩KOSで戦えるぐらいにならないと、キリアスを征服出来ないのです!」


 …何処からそう言う発想が出てくるんだよ?

 五大勢力で潰し合っている国を態々外から攻める必要は無いだろう。

 下手に(つつ)けば、却ってキリアスを結束させることになるかも知れないのだ。


「征服する予定は無いよ」

「いずれパパはそうする気がするのです」

「無理無理。

 それにね、一人で戦って局地的に勝てたとしても、トータルで負けるに決まってる。

 アイアンゴーレムを操ることが出来るような相手を敵に回して勝てるとは思えない」


 アルジェンはまさかKOSが無敵だと思ってる?

 オーガバトラー・ビアレフに腕を落とされたの忘れたの? 

 それに光剣は強力な武器だけど、魔力効率は滅茶苦茶悪いんだから。


「ブーッなのです!

 国を取ればパパはハーレム王になるのです!

 私も妻の一人になれるのです!」

「奥さんは一人で十分だよ。

 複数居てもろくなことにならないって、歴史が証明してるだろ」


 コンラッド王国は貴族階級だけでなく、上位市民権を持つ者に複数の嫁を娶らせようとする政策を執る。

 これは医学的な理由より、経済的な理由のウエートが大きい。要は金持ちの家族は金を沢山使う、そう言う単純計算なのである。

 それに消費者の絶対数を増やすことは生産者にもメリットがある。

 そう思えば、ハーレムの形成はある意味合理的な考えなのかも知れない。


 だけどねぇ…欲に目が眩む人は後を絶たないからね。まだドロドロの愛憎劇で済むうちは良いけど、その結果は悲惨なものが多いだろう。


「行きずりの女と遊んでシングルマザーを量産すると言う方法もあるのです!」

「そんなのは無いよっ!」


 突如現れた銀色の甲冑に、最初は敵か味方か判断が付かず遠巻きにして見ていた人達が続々と側に集まって来る。

 俺とアルジェンの会話が聞こえたのか、其処此処(そこここ)でハーレムの是非を問う会話が聞こえてくる。

 生活に不自由が無いならハーレム容認派が多いのは、やはり世界の違いによる物だろう。


 少し遅れて俺の仲間達とルーファスさんが走って来た。


「クレスト様っ!」


 一番に俺を呼んだルーファスさんが俺の前で片膝を付く。それを見て黒装束の戦士達も同じように片膝を付くのだ。


「あー、そんなのしなくて良いから。恥ずかしいし」


 本気でそう思う。俺は君主でもなければ将軍でも騎士でもない。ましてやリミエンの市民権を購入していないので正式な市民ですらないのだ。


 ベルさんが俺の隣に立ち、

「みんな立ってくれ。

 ウチの総大将はそう言うのは求めない人だからさ」

と笑いながら言うと、

「ですよねーっ!

 堅苦しいのはちょっと苦手なもんで、ラクなのは有難いよ」

とルーファスさんが笑いながら立ち上がった。


「じゃあ最初からそんなのしなけりゃ良いのに」


 少し不満げな顔で答えると、

「こちらはクレスト様に忠誠を誓ったんだ。目に見て分かる態度は示さないとマズイだろ?」

と冗談半分、本気半分と言った様子でルーファスさんが返事する。


「俺は偉い人じゃないし、地位がある訳でもないから忠誠とかじゃなくて、普通に接して欲しいんだけど」


 普通の対応でお願いしたいと切実に思う。

 世の中の社長さんや二世の副社長さんの中には、社員の態度が少しでも気に入らなかったら降格させるような勘違いパワハラ野郎も存在しているようだけど、俺はそう言うのって生理的に無理。


「それにしても、良いタイミングで来てくれたよ。斬っても再生するし、コッチの武器が傷むだけで手が出せなかったんだ」

「まさかアイアンゴーレムが実在するとはね。

 それを人が操ってたなんて。キリアスはかなりそう言う研究が進んでいるってことだよね」

とベルさんが手をヒラヒラさせ、危機感を露わにするのはルケイドだ。


 ラビィは子熊モードに戻って俺の脚にスリスリ。


「ここの場所がバレた以上、この拠点はもう廃棄するしかない。

 リミエン行きをグズっていた人も居たけど…アイアンゴーレム様々ってことか」


 ルーファスさんが微妙な表情を見せるが、確かにこの場にいつまでも暮らすわけにはいかないだろう。

 次は必ず今回以上の戦力が押し寄せる筈だからね。


「キリアスは太っ腹なのです!

 こんなに沢山の鉄をただでくれるのです!」


 アルジェンは何が嬉しいのか、アイアンゴーレムの残骸の上に立つとコンコンと叩いてから根こそぎアイテムボックスに収納した。

 巨大な鉄の塊が一瞬で姿を消したことに、アルジェンのこの能力を知らない人達から(どよ)めきが起こる。


「太っ腹なのは『赤熱の皇帝』や他の五大勢力だけどな。

 俺達みたいな弱小勢力には武器を作る鉄も貴重品だ」

「キリアスは資源は豊富なんだよね?」

「製錬するにも燃料が必要だろ。

 燃黒石の鉱山を奴らに抑えられると、もうお手上げなんだ。

 錬金術師頼りになる」

「燃黒石を燃やすと臭い煙は出るわ、目は痛いわ、堪ったもんじゃねえけどさ。

 五大勢力の奴らの町は煙で酷えことになってやがる」


 こっちでは石炭を燃黒石と呼ぶのか。

 石炭を燃やした煙で公害が起きてるのは、産業革命期のヨーロッパと似たようなものだろう。


 そんな話をしている間に、アルジェンは更に脱がされてその辺りに転がっていた赤い鎧も回収したようだ。

 リミエンでも鉄は貴重品だからね。貰えるのなら持てるだけ持って帰って良いだろう。


 満足げなアルジェンに、

「負傷者の手当てをする魔力は残ってる?」

と聞いてみると、少し考えて

「たった今手に入れたアイアンゴーレムの魔石を使えば出来るのです」

と横ピースを出して答える。


「そうか、それなら味方で怪我した人をサッと治してから、敵の生き残りで元気そうなの何人か治してくれない?」

「捕虜にするのです!

 さすがパパは心が広いのです!

 クッコロさんを探すのです!」

「いや、そう言うのは探さなくて良いから」

「ブーッなのです!

 パパは妖精使いが荒いのです!

 夜な夜な枕元に立つのです!」

「アルジェンの方が先に寝て、後から起きてるんだけど」

「…パパのいけずなのです!」


 肩に停まってボカボカと頬を殴るので手でガード。やはり我慢できるのはペチペチまでだな。


 その会話を聞いたルーファスさんだが、やはり薬物の影響で捕虜にしても無駄だと言ってきた。

 過去に何度となく試したらしいのだが、会話が成立しなかったらしい。


「アルジェン、ルケイド、後で赤鎧の人の薬物中毒を治せないか試して欲しいんだ。

 運が良ければ捕虜の中にも薬を持っている人が居るかも知れないし」

「化学合成した薬品だと難しいけど、植物由来の薬なら何とかなるかもね」


 植物に関係することなら、ルケイドも力になれるかもと気合いを入れたようだ。


「ルーファスさん、指揮官クラスの持ち物があれば回収頼みます。

 ダンジョンの方の指揮官は、アルジェンが燃やし尽くして残ってないんだ」

「じゃあ、あの三回の爆発はアルジェンの姉御が?」

「そうなのです!

 月に代わってお仕置きしたのです!」


 俺の肩の上でポーズを取ったアルジェンに、黒装束集団からワーッと賞賛の声が掛けられる。

 あまり褒めすぎると調子に乗るので、

「三連発はやり過ぎだと思うけど」

と釘は刺しておく。


「それなら…次は指定範囲の空気を無くして集団窒息死させるのです!」

「その発想が怖いよっ!」


 俺もそれは考えついてたけどさ、あまりにも怖すぎて実行出来ないよ。

 それに空気を扱うってことは風の属性魔法だから、アルジェンが使うと予想外のとんでもない事態に発展するのは間違いない。

 空気を無くしたつもりで真空にしてしまうとか…その結果を想像したくないので次の話題を探しに歩いてみた。


 上空ではゲラーナが警戒飛行を続けていたが、動く赤鎧を見付けて攻撃体勢に入ったようだ。


「ゲラーナ! 殺さない程度に!」


 ゲラーナが力具合を調整するのは難しいと思うが、背後から激突して弾き飛ばした赤鎧の人は意識を失っただけで生きていた。

 ロープを噛ませてまともに喋れないようにしてから、手脚を縛り上げておく。


 その後でアルジェンに『エクストラヒール』が打ち止めになるまで治療を続けてもらい、黒装束の戦士と住民の救助を手早く終わらせると千人以上の住民の大移動が急ぎ足で開始されたのだ。


「パパ、ダンジョンまでゲラーナ便で行く?」

「…疲れたし勘弁してくれ。

 そうだな、捕虜の一人、二人を搬送するか」


 そう言うと、ここに来る時に乗った籠に赤鎧を脱がされ手脚を縛られた兵士を一人放り込む。


「快適な空の旅をっ!」


 ダンジョンに向けて飛び去ったゲラーナの下から悲鳴が聞こえるが、まあすぐに慣れるだろう。

 慣れた頃にはダンジョン前に到着しているだろうけど。

 尋問が手早く出来るならわざわざリミエンに連れて行く必要なんて無いのだが、薬物の影響があるのだから仕方がない。治療した上でお話しするしかないのだ。


 ルーファスさんの案内で集落を回ってみると、持ち運びが出来る物はマジックバッグや荷馬車に乗せられていたのだが、金属加工用の機械など大きな物はそのまま放棄されるとのことだった。


「実に勿体ない…」

「今は『格納庫』にも余裕が無いのです!

 一度リミエンに戻って荷物を出してから回収に来るのです!」


 無限に収納可能だと思っていたアイテムボックスだが、意外にも限界があるらしい。

 それが品数によるものなのか、重量かサイズ的なものなのかは知らないが。


「お腹減ったのです!」


 アルジェンが脈絡も無くそう言うが、現実問題としてアルジェンは物理的に食事を摂らなくても生きていける。

 元々魔力を摂取すれば生きていける体なのに、単に人の食べ物の味を覚えてしまっただけなのだ。


「…俺もだ。一度戻って飯にするか。それから回収に来ても構わないよね?」

「転送ゲートの残り時間次第なのであります。

 荷馬車を通すと魔力消費が増加するので、残り時間は減るのです!

 だから早く通らないといけないのです!」


 事前に聞いてはいるが転送ゲートはそう言う仕様らしい。だから荷馬車を通さない時は人一人しか通れない幅にするのだと。


「と言うことは、同時にキリアス側とリミエン側から通ることって…」

「出来ませんね。

 中を人が通っているときは次の人は入れません。それをやるとガチで二人で一人になるかも知れませんから」


 そう言う合体はノーサンキュー!

 安全第一で通して下さい!

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