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銀色のダンジョン管理者は今日も水面で回り続けます【第二部として完結】  作者: 遊豆兎
第2章 越えると見えて来るものがあるのです!
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第25話 鉄の巨人

 ダンジョンの外でどんな遣り取りがあったことは一切知らず、俺は名前も知らない女性に介抱されていた。

 間違っても解剖ではない。


「あなたがクレストさんなのね!」


 俺を膝枕して頭を撫でながら、嬉しそうにそう言う女性が俺を中々離そうとしない。


「戦闘後に倒れるようじゃ、まだまだじゃ。

 甲冑を纏っていた時とはまるで別人よな。

 魔力のマの字も感じんぞ」


 毒舌な爺さんも居るようだが、事実だから反論はしない。


「お爺ちゃん! クレストさんがあの妖精を連れて来たから腰痛も治ったのに、なんてこと言うのよ!」


 …えーと…ここに居る人達って戦闘で怪我をしたんじゃ無かったの?

 てっきりそうだと思ってたよ。


「それでもじゃ! 戦闘可能時間の短さと言い、覚悟の無さと言い、こんな奴を戦場に立たせる訳にはいかん」

「それって、まともに戦えない子は下がってろってことね。

 私もそう思うわよ」

「それにじゃ!

 あんなチートな武器を持っておきながら、一人も殺してないとはどう言うことじゃ?

 無意識に殺さないよう調整しておったのじゃないかの? 余計な仕事を増やしおってからに」


 そうなの? 結構サクサクとやってた気がするけど、誰も殺していなかったのか…それは偶然?

 でも俺が戦闘不能にした人を他の人が殺して回っていた訳で…ここが戦場で、先にやらないとコッチがやられる場所だから仕方ないんだけど。


「ところで…この赤い鎧の人達は?」

「キリアスの五大勢力の一つ、『赤熱の皇帝』の軍隊じゃな」

「…発症してるのか」

「発症? 奴を知っておるのか?」

「知るわけ無いでしょ。

 でもどう考えても『赤熱の皇帝』って自称出来る人はチューニ病だよ」

「そんな病気は初めて聞いたが…重症なのか?」

「会ってみないと何とも言えないよ。

 でもまあコレは中々治らないしさ」

「そうか…だから焦って攻めてきたのか…」

「え? それは多分関係無いよ」


 中二病だから攻めて来るなんて訳が無いでしょ。それだとマジでアチコチで戦争だらけで世も末だ。


「で、赤い鎧って何か特別な鎧なの?」

「鎧自体はただの積層構造の合金製じゃな。

 鎧より着用者が薬物の影響を受けておるからの。苦しまぬよう留めを刺してやらねばならんのじゃよ」

「…マジかよ。酷い奴だな」

「そんなのは兵を短期間で戦場に送り出す為に編み出した秘策の一つに過ぎん。

 五大勢力の中には肉体改造を施す奴もおる。

 この国は言わば実験室みたいなもんじゃ…」


 ラビィから聞いたのは二百年も前の話だ。今はもっと酷い状況になっていそうだよ。


 俺を膝の上から離そうとしないおばさんを振り切り、ようやく起き上がることが出来た。


「もう、無理はしちゃ駄目なのよ」

と甘えたような声では言うおばさんに警戒心を覚え、冷や汗を垂らす。


 適当にお茶を濁して逃げるように転がる赤い鎧の集団の方へ向かった。


「コイツ! 生きてるぞっ!」

と兵士の一人が赤鎧の兜を奪い、そう声を上げた。


「すぐに留めを!」


 もう一人の兵士が喉元にナイフを突き立てようとしたところで、

「待って!」

と慌てて駆け寄り手を止めさせた。


「邪魔するな! コイツは敵だぞ」

「貴重な情報源だから。生かしておきたいんだよ」

「無駄だ。薬の影響で会話にすらならんのだ」


 …マジで?

 その赤熱の皇帝ってただの中二病患者じゃなくて、性格まで歪んでいるじゃないか。ただの患者なら仲良くなれたかも知れないのに。


「でも一人ぐらいは話せる人が居るかも知れないからさ。サンプルは多い方が良いでしょ。

 それにウチの植物学者と妖精さんが居れば、その症状が治せるかも知れないし」


 希望は薄いかも知れないけど。


「なので手脚縛って転がしといてよ。

 他にも生きてる人が居たら同じように頼むね」

「俺達だって何度もやったんだぞ。無駄に決まっている」

「そうかも知れないけど、そうじゃないかも知れないし。

 あ、君達は黒装束集団には居なかった人達だよね?」

「そうだが…それが何か?」

「いや、単に黒装束集団の皆は俺に忠誠を誓ってくれてるからさ。それだけのこと。

 ちょっと外を見てくるから、捕虜の扱いは頼んだよ!」


 微妙な顔を見せる二人の兵士をその場に残し、ダンジョンの外に出る。

 だって苦しんでいる人の姿を見るのはイヤだからね。


 それに少し外の空気を吸ってリラックスしようと思ったし。

 だけどそうは行かなかった。


「アルジェンの姉御っ!

 さっきの魔法、凄かったっぜ!」


 どうやらアルジェンが『火山噴火』をぶっ放したようだ。

 大きく立ち上る煙が三ヶ所か。


 戦闘が終わり、どうやらこのダンジョンに皆が戻って来ているようだ。


「あっ! パパが入り口に居るのです!」


 目敏く俺を見付けたアルジェンが急いで飛んで来た。


「無事で何より。それに大活躍みたいだね」

「はいっ!なのです!

 パパの『火山噴火』はエグいのです!

 後ろから指揮官を吹き飛ばしてやったのです!」


 …それ、一番やって欲しくなかったんだけど。

 指揮官クラスはなるべく生け捕りにして情報源にしたかった…でも今更か。

 アルジェンと一緒に戻って来たのはマーメイドの四人だけで、男性三人がこの場に居ない。


「アヤノさん、ベルさんとラビィとルケイドは?」

「集落の方で防衛ラインを作っているわ。

 ルーファスさん達も居るから、こっちより安定してるはず。

 と言うより、戦力の薄いこちらを狙い撃ちされた感じかしら」


 皆が無事なら良いのだが。

 マーメイドの四人はアヤノさんが俺を呼びに来た時に怪我をしていた以外には掠り傷程度で済んだようだ。

 こちらでもセリカさんは鉄壁の守りを果たし、サーヤさんの弓も活躍したとのことで兵士達から賞賛の声が上がっている。


「集落は近いの? 応援に行きたいんだけど」

「半時間弱の所ね。

 かなりの数がこちらに回されたみたいだから、多分向こうの主力部隊の足止め程度の兵力だと思うわ」

「リーダー、それはそこの小隊長さんの見立てだよ。リーダーの考えみたいに言わないの」


 サーヤさんがアヤノさんにそう突っ込む。

 アヤノさんのピンク色のビアレフモデルの鎧が解除されているのは時間切れのためかな?


「それよりリーダーのあのピンクの鎧!」

「…そうよね、私の『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド)』も反則だと思うけど、アレも凄かったわ…禍々しさを色で誤魔化してるみたいで」

「禍々しいって…そうだったの?

 私は樹の魔物に捕まって知らないうちにアレを着せられたのよ。

 と言うか、クレストさん! あの樹の魔物は一体なんなの!?」

「アハハ、新しい仲間としか…」

「その肩の鶏さんも?」

「…コイツも…まあコイツは勝手に居着いているんだけどね。

 鎧の話より、残りのメンバーの安全を確認するのが先だろうな。ゲラーナ、頼めるか?」


 コクコクと頷く利口なカブトムシだ。体がデカイ分、脳味噌も大きいのだろう。

 そのゲラーナに鶏さん達を運ぶのに使った籠を持たせて、それに乗って集落へと飛ぶことを決めたのだが、その決断はすぐに後悔することになった。

 とにかくずっと揺れっ放しで気持ち悪いのだ。

 前後方向、左右方向だけならともかく、俺が重たいのか上下方向への揺れ幅も大きいのだ。

 自分で魔法を使って飛ぶのがやはり一番だよ。今はKOSを装備しないと飛べないんだけど。


 空から集落のある位置はすぐに分かった。赤い炎が立ち上り、戦闘状態であることが見て取れたからだ。


「急いで来た成果はありそうだよ」

「さすがパパなのです!」

「アルジェン、戦闘準備を頼むね」

「アイアイサーなのです!」


 まだゲラーナは上空を飛んでいるのだが、思い切って吊っている籠から飛び降りた。

 ゲラーナは着陸させるよりそのまま飛行を続けさせた方が効率的だからだ。 


「落下しながらの変身なんて、何処かのヒーローみたいなのです!」

「喋ってないで、早くKOSを!」


 マジで頼むからっ!


 全身に銀色の甲冑を纏い、羽根を出して飛行を始めたのは地面に激突する本当に直前でオシッコちびりそうだったよ。

 少し八つ当たり気味に赤い鎧の騎士に光剣で斬り掛かる。

 一人目の両腕を二撃で斬り落とすと次々と赤い鎧目掛けて斬り付ける。

 そしてベルさん達の姿を見付けた時、自分の目を疑った。


「マジもんのアイアンゴーレムだとっ!」


 身長三メートルを越える鉄の巨人が動いているのだから、赤い鎧の主力部隊をダンジョンに回せた訳だよ。

 動きは鈍いがそれはサイズが補うので、トータルで見れば決してノロいと言える攻撃速度ではない。

 剣、槍、斧がメインウェポンであるベルさん、ルケイド、そしてラビィではアイアンゴーレムに有効打を与えることは難しいだろう。

 下手をすれば武器をあっさり破壊することになる。

 魔法の攻撃が嫌がらせのように黒装束集団から放たれているが、鉄そのものの躰には殆ど効いた様子がない。


「アルジェン! KOSの残り時間は?」

「飛行モードをカット! …六十秒!」

「急ぐよっ!」


 建物を殴りつけたアイアンゴーレムの背後から光剣でまずは様子見とばかりにふくらはぎを斬り付ける。

 ジュッと鉄の溶ける音が聞こえ、独特の匂いが立ちこめた。


「効いてるのです!」

「だな。防御はアルジェンに任せた!」


 左右の手に光剣を持ち、アイアンゴーレムをメッタ斬りにしていくこと三十秒。

 両脚を破壊され、駄々っ子パンチを繰り出すアイアンゴーレムの攻撃を掻い潜って両腕を落とすのに二十秒。


『残り十秒!』

「弱点はっ?!」

『額に魔石なのです!』


 それを聞いて頭部への攻撃に入ろうとした瞬間、アイアンゴーレムのクチがパカッと開く。


『高魔力ビームなのです! 喰らうのはマズイのです!』


 咄嗟に右手の光剣をアイアンゴーレムのクチに投げ付けると、着弾と高魔力ビームの発射がほぼ同時だったようだ。


 アイアンゴーレムの頭部が爆発を起こし、破片が銀色の甲冑へと次々と飛んで来るが装甲を抜けることは無かった。だが爆発で俺も弾き飛ばされ、アイアンゴーレムから距離が大きく開いてしまう。

 そしてKOSのタイムアップとなり甲冑が姿を消したのだ。


「魔石はどこだっ!?」

「頭蓋骨にガッチリ埋めてあるのです!

 早く取り出さないと再生するのです!」

「…KOSの光剣だけでも使えないか?」

「今度はジューダイの騎士なのです!」

「無駄グチはいいから!」

「もう二十歳だと突っ込んで欲しかったのです!

 光剣を出せるのは…良くて三秒なのです!」

「一撃で決めるよ! 俺が突いたタイミングで!」


 先に切り刻んだ筈の足は再生を開始している。

 驚くべき再生スピードだが、腕が無いせいでまだ立ち上がれていない。

 クチから発射する高魔力ビームがまだ再生していない今がコイツを倒す最大のチャンスだ。

 頭部の半分が無くなってもまだ動くアイアンゴーレムに少々ビビリながら、意を決してバルドーさんのホクドウMKⅡで突きを放つ。


「今っ!」


 アルジェンが『なのです!』と言わずにタイミングを合わせたのだ。

 銀色の光剣は狙いは僅かに逸れて魔石に直撃はしなかったが、それならばと円を描くように動かして魔石を取り付けてある周囲を切り取った。

 そこで光剣はスッと消えたが、アイアンゴーレムの額から魔石をフレームごと奪い取ることに成功したのだ。


 思わぬ反撃に一瞬やられたかと思ったが、幸い無傷でやり過ごせたことでKOSの装甲に対する評価を上方修正する。

 どちらかと言えばビアレフの攻撃能力が破格過ぎたのだろう。


 赤い鎧の騎士達はゲラーナの活躍もあり、守備隊によって全滅となっていた。

 戦闘が終結し、勝ち鬨の声がアチコチで上がり始めた。


 立て続けにKOSで戦ったせいか、どっと疲れが出てその場に座り込むと、

「パパ、セレモニーがあるのでもう少しシャキッとしていて欲しいのです!」

とアルジェンが笑うのだった。

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