第21話 ポイントのご利用は計画的に!
ミハルと名付けたマジシャンキラー?は特殊能力の持ち主だった。
ミハルの鎧を着ることで、強化人間のように力が飛躍的に出来てしまうのだ。ただし木製アーマーはどう贔屓目に見てもダサいので、見た目をアルジェンが改修することにしたようだ。
俺としてはフレーム剥き出しの外骨格型のパワードスーツでも構わないのだが、アルジェンには鎧のように身に纏うタイプのパワードスーツしか許せないようだ。
くれぐれも安全第一で願いたいと思いつつ、巨大カブトムシのゲラーナを連れてセーフティゾーンが設定済みの地域を見て回る。
わざとセーフティゾーンから外に出て見て感じを確かめていると、草むらから白い鶏とそれを追って金色の狐が俺の前に現れたのだ。
「狐さん、番犬の仕事をするなら飯を食わせてやるけど、どう?」
と真面目な顔で金狐に問い掛ける。
金狐は俺と鶏とゲラーナの順に視線を移し、ゲラーナが恐ろしいのか少し後退る。
「鶏の代わりに猪肉をやるからさ」
マジックバッグからこのダンジョンで捕らえた魔猪の肉を取り出して投げてやると、クンクン匂ってパクリと咥えてこの場を去って行く。
「残念、振られたか」
どうやらテイマーのスキルも万能ではないようだ。
ミハルやゲラーナが俺に甘えるのは、俺が召喚したことが分かっているからだろう。
そうでない野生?の魔物は、肉をやったぐらいでは仲間にはならないのが分かったところで鶏に視線を戻す。
両手…両羽で俺の足にしがみ付いていた鶏だが、金狐が居なくなるとホッとしたようにコケコケと鳴いて俺の肩まで飛んできた。
鳥は何処にでも糞を落とすからあまり服の上には乗せたくないのだが。
これが手のひらに乗る程度のサイズならまだ我慢も出来るが、立派な成鶏だから糞もそれなりの量になるだろ?
ちなみに成鶏には卵を産める状態になった鶏と、卵を産む量が減って廃鶏にする鶏の二つの意味があるらしい。
狭い業界なんだから意思統一しておいて欲しいものだが、キノコ派とタケノコ派の闘争のようなバトルがあるのかも。
俺はコイツはバンバン卵を産めそうだと言う前者の意味で、この鶏を成鶏と言うけどね。
その鶏だが、肩に乗ったまましゃがんで寛いでいるように見える。
まさか俺に付いてくるつもりか?
畑を本格的に始めれば、害虫も沸くからこう言った鳥が役に立つのは間違いないだろう。
本当はもう少しスリムだったり首の長い鳥の方が適しているんだろうけど。
キャベツやブロッコリーに付く青虫は半端ないから、そう言うのを食べる魔物も用意しないといけないかな。
ゲラーナの巨体だと木が密になりすぎていて動きにくそうだ。
この辺りで引き返そうかと思うと、この程度の木なら問題ないとアピールするようにゲラーナが木を無理矢理へし折った。
生木って簡単に折れるもんじゃないだろ?
「お前が凄いパワーなのは分かった。
でも折角倒してくれた木だけど、俺もお前も持ち帰りは出来ないぞ」
他の木が邪魔になるから木を一本丸ごと運び出すのは不可能だ。全部枝打ちして丸太にしないとね。
それを聞いて反省するような素振りを見せる辺り、ゲラーナの頭の良さがよく分かる。
他には果物を少し採取した以外には特にトラブルもイベントも無いままに道路まで戻り、水晶板を取り出すとプログレスバーがほぼ終わりを示していた。
何だかんだと森の中で結構な時間を過ごしたようだ。
やはり緑一色の森で黄色や赤い色の果実を見付けるとやたらテンションが上がるので、それで予想外に時間が掛かったのだ。
しかもゲラーナがムシャムシャ食べ出すから尚更ね。
それと知ってはいたけど、森の中は植生が地球の常識を無視してグチャグチャになっていた。
熱帯地方にしか実らない果物を見付けと思えば、そこから割と近い場所にリンゴやオレンジなどが実っているんだから。
季節感も地域差も完全に無視だよ。これがダンジョンの当たり前ってやつか。
採取する側としては有難いって一言に尽きるんだけどね。
マップを見ながら道なりに歩き、町づくりの大変さを実感しながら、
「勢いだけで仲間に招いたけど、いきなり二千人ってやり過ぎだろ?」
とぼやくが勿論誰も相槌を打たない。
鶏は肩の上で目を閉じているし、ゲラーナは俺の前をズンズン勝手に歩いている。
止まれ、と指示を出せば止まる優秀なカブトムシだが、誰かがリモコンで操作しているんじゃないかと疑いそうだ。
今歩いている道路の幅は、馬車が二台並走可能な程度とそれ程広くはないが、森の中にクッキリと馬車の通れる道があること自体が異常なんだと今になって思う。
ギリギリ人が歩けるぐらいの道は元からあったけど、エマさん達をダンジョンの最奥地に招く為にその道を俺が管理者権限で作り変えたんだよね。
その道を挟んで住居スペースや畑にする空き地などを魔界蟲本体さんに用意して貰っているので、それを水晶板に表示されたマップと照らし合わせて確認する作業も必要だと思う。
作業用に貸し出された水晶板には消費可能な魔力コストが表示されていて、残量を気にしつつキリアスからやって来る人達が不自由なく暮らせるようにと設定したつもりだけど、小さな画面の上で考えるのと、現地を見るのとで全然違うことがあるかも知れない。
「突発事項に対応するためにポイントはそれなりに残しておかないとまずいよな…でもやっぱりこれだと狭いかな?
そう言えば、居住エリアや畑にする場所は不可壊設定を解除しないと穴も開けられないんだよな」
試しにゲラーナに角で地面を掘って貰うと、意外とあっさりと大きな穴が開く。
ゲラーナのパワーのお陰だが、こんな魔物がこのダンジョンで敵として出現していた可能性に気が付き、背筋がゾッとした。
穴を埋めてもらい、他の場所へと移動していると、
「パパ、さっきからとても楽しそうなのです!」
とパタパタ羽音を響かせてアルジェンが飛んできた。
「リアル箱庭系のゲームみたいな感覚だからね。
でも、これに二千人の生活が掛かってるから真剣だよ」
「そうなのかも知れないけど、遊んでいるみたいで納得行かないのです」
タブレット片手に現場で作業って、遊んでるように見えるのか。
A1サイズの図面や分厚いファイルの時代から、IT化の進んだ現代社会に移行したことによる思わぬ弊害だ…ここ、一応ファンタジーな世界の筈なんだけど。
苦笑する俺には目もくれず、アルジェンは構って欲しいのか、飼い猫が飼い主の操作するノートパソコンの上に寝そべるみたいに水晶板の画面にへばりつく。
「あっ、こら、邪魔しないのっ!」
「私をタップして遊ぶのです!
ちょっとしたエロゲーなのです!
高得点で一枚脱ぐのです!
しかもリアル3D!
CGやVRなんて目じゃないのです!」
確かに立体だけど、人形突いて遊ぶ危ない人になるから絶対にやらないからね。
魔界蟲って、俺の中に居たときに記憶を勝手に覗いていたようだから、この世界には無い筈の言葉や文化をアルジェンが普通にクチに出すから、たまにここが異世界なのかと疑う時もある。
「パパはノリが悪いのです!
そう言う時は、お主も悪よのぉと言いながらあーれーとクルクル回るものなのです!」
そんなの知らんっ!
知識はあるけど、実際にその時代劇は見たこと無いんだからさ。
ピコ。
ピコピコ。
ピロリーン。
アルジェンが水晶板の上でバタバタするたびに何処かをタップして反応したようで、何かの処理が開始されたらしい。
今までダンジョンの中は晴天だったと言うのに、急に辺りが暗くなり始める。
「おい、これってヤバイやつじゃないだろうな?」
アルジェンが飛び退くことで明らかになった水晶板に表示されたモノ…それはカミキリムシをモチーフにしたと思われる甲冑を全身に纏った魔物の姿だ。
それが今、目の前で空間をこじ開けて俺達の前に姿を現そうとしている魔物はそのカミキリムシの甲冑その物なのだ。
空間に開いた穴から甲冑を纏った魔物が完全に姿を現すと、靄のような不思議な空間が閉じてなくなった。
天に向かって雄叫びを上げる魔物の声に、魂が本能レベルで恐怖を覚えた。
「そんな! まさかっ!
鎧の中の魔物はオーガなのですかっ?!
つまり、まさにこの魔物は『オーガバトラー』!
しかもこのデザインはミハルに任せたものにクリソツなのです!
僭越ながら、私のイメージでこの魔物に『ビアレフ』と名付けるのです!」
「名前はともかく!
アイツは敵か? 味方か?」
何を悠長なことを言ってんだよ。
あの禍禍しさを感じる鎧と中の魔物、かなりヤバそうな雰囲気を出しているんだけど。
「ハロー! 本体さんっ至急なの! あ、見てたのです?!
……パパが残してたダンジョンポイントを全部注ぎ込んで生まれた新しい魔物なのですか?」
「おいっ! そのポイントって戻ってくるんだろうな?」
「……戻らないって!
……あの魔物…さっき私とミハルが設計したデータがアップロードされて、それが素になってるっ?!」
「だから! その説明は後で良いから敵か味方っかっ! ウッわっ!」
もう確認するまでもない。
左右の手に持った斧を俺に向かって振り下ろしてきたのだから、もうコイツは敵に決まっている。
「アルジェン! 本体さんにソイツを返還させてっ!」
「……それ無理って!
ダンジョンポイント残量ゼロだから本体さんでも動かせないそうなのですっ!
……五分ぐらい粘れば転移させられるから、それまで時間を稼いで欲しいそうなのですく!」
「そんなの無理だろっ!
一応聞くけど、さっきのピロリーンでコイツが生まれたのか?」
「…不本意ながら、そうなのです」
「犯人はお前か…」
「だってパパが構ってくれなかったんだもん!」
俺にまた攻撃を仕掛けようとしたオーガバトラー・ビアレフだが、その前にゲラーナが立ちはだかる。
「ゲラーナ! ソイツの斧を受けるのはマズイのです!」
「ゲラーナの装甲ならそう簡単には抜けないだろ?」
「ビアレフは暴走したゲラーナを制圧するのを目的に設計したのですっ!
私の計算が間違ってはいなければ、ゲラーナでもヤラレルのです!」
「なんて物を作ってんだよ!」
「科学的好奇心には勝てなかったのです!」
「何処のマッドサイエンティストだよ!」
それを聞いて心なしかゲラーナの額に冷や汗が流れた気がする。
カブトムシが強いと言われているのは、あくまであの長い角を相手(昆虫)の下に潜らせて跳ね飛ばすことが出来るからであり、人型にそんな攻撃は通用しない。
それ以外の攻撃となると、一度空を飛んでからの特攻になるのだろうが、残念なことにカブトムシは離陸するためには高い場所に上る必要がある。
つまり地面を這っているカブトムシは、人型の魔物を相手にすると勝つことは出来ないのだ。
しかもビアレフの斧はゲラーナの硬い攻殻を貫くと言うのだから、ゲラーナには戦いようが無い訳だ。
この状態で五分も保たせられる訳が無い。
ウルトラな人でも三分過ぎれば星に返ってしまう時間なのだ。
「こうなったら…ぶっつけ本番でアレをやるしか無いのです!
『ミニミニ魔界蟲さん!』、『ラルムドリューヌ!』、『ピエルドリューヌ!』、
覚悟を決めてよ!」
「えっ! この子達も?」
俺のストレージベストの専用ポケットから顔?を出した二匹のスライム。
一体何をさせるつもりだよ?
「それとパパもっ!」
「…俺もっ!?」
「当たり前です! パパがやらなくて誰がやるのですかっ!?」
「何をやるのか聞いて無いし!」
「だからぶっつけ本番っと言ったのです!
ゲラーナが頑張ってくれてる今の内にやるのです!」
何をやるのか知らないけど、痛いのはイヤだからなっ!




