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第18話 準備はIT化でバッチリなのです。

 やっと地下ダンジョンにキリアスからの移住者を受け入れる作戦が開始した。


 百人の黒装束集団がキリアスに戻り、その後にベルさん、ルケイド、ラビィ、マーメイドの四人が続いてキリアスへと向かった。


 そしてエマさんとオリビアさんは、この地の領主であるリミエン伯爵に話を付ける為にリミエンへと帰還することになった。


 その結果、現在地下ダンジョンに残っているのは俺とアルジェンの二人だけだ。

 長い間大勢と過ごしていたので少々の寂しさを感じるが、だからと言って仕事をサボる訳にはいかない。


「パパと二人きりなのです!

 独占なのです!」


 何が嬉しいのか、揚羽蝶の羽根を出してパタパタと俺の周りを飛び回るアルジェンが意外と鬱陶しい。

 と言うか、今更だが魔界蟲の生み出したコイツにハッキリとした喜怒哀楽や味覚や好き嫌いがあることを意外に思う。


「アルジェン、嬉しいのは分かるけど早く皆の受け入れ準備をしないと。

 本体さんにセーフティゾーンの範囲設定と川のルート変更をして貰わないといけないんだぞ」


 右腕を曲げて前に出すと音を立てずに着地するアルジェンの様を見て、まるで鷹匠にでもなった気分だ。

 残念ながら鷹ではなくて大きな揚羽蝶なのだが。


「そうなのです!

 本体さんに連絡を取るので待って欲しいのです!」

と言うと、小さな水晶板を取り出してスマートフォンのように耳に当てる。

 毎回思うのだが、それって気分的な演出の一つで、無くても本体さんと連絡取れるんじゃないの?

 だってアルジェンは魔界蟲の手足として働くために生まれた疑似生物なんだからさ。


 でもそう言うのを言うと機嫌を悪くするから無駄に人間っぽいと言うか、芸が細かいと言うか。

 

「ハロハロー、本体さん!

 ……あ、要件は分かってる? うんうん、さすがなのです!

 ……えっ?! それだけの作業をするには魔力がまだ足りてないって?

 ……何処かの馬鹿がバカスカと魔力を…って、それは前にも聞いたのです!」


 話ながらチラリと俺にジト目を向けるが、さすがにこのフィギュアサイズのアルジェンにそんな顔をされても対した感情は動かない。

 それよりも、俺がノラを倒すためにやったアレコレの影響は二週間経っても回復していなかったことにビックリだよ。


「……セーフティゾーンを広げるか、それとも川の流れを変えるかのどちらか選べと言うのです?

 ……両方終わらせるには最低一週間は掛かるのですか。

 パパ、どっちを選ぶのです?」


 耳に当てていた水晶板を右手で覆い隠す細かな芝居を入れるアルジェンに思わず笑いつつ、どうしようかと頭を悩ませる。


 まずはどちらも半分ずつ終わらせると言う選択肢は排除すべきだろう。

 土地だけ用意して人を住まわせても、水が無ければ生活も農作業も出来ないが、かと言って水だけ用意しても魔物に襲われるのならやはり暮らすことは出来ないだろう。


 それなら先に居住エリアを確保をして、水は面倒だろうけど魔法で出して貰うことにするか。

 でも畑の水も、となると魔法で出すのは無理かも知れないけど。


 そうか、川は後回しにするとして、とにかく近くに水源地を用意すれば良いんだよ。

 川のルートを変えるより、池か泉でも一つポンと置けば…。


 そう言えば、回復スポットに改造していたタイニーハウス。

 アレをグレードダウンして、普通の泉に変更すれば水を出し続けることが出来ないか?


 もし可能だったら、ボディの側面にコックでも付ければ即席の給水車の代わりになる。車輪を付けて可動式にしておいて正解だったな。


「あっ、パパ、また長考モードに入ってるのです。

 せっかく二人きりなのに無粋なのです」


 俺の頭に乗って遊んでいたアルジェンがゲシゲシと踵で額を蹴る。

 見た目は身長二十センチ程のフィギュアでも意外と力が強いので地味に痛い。


 それにしても、体感的に三十秒程度の思考だったはずなのに、何故長考モードと言われるのだろうか?

 いつも不思議に思ってたいたので、思い切ってアルジェンに聞いてみた。


「なぁ、俺ってさっきどれぐらいの時間、考えこんでた?」

「うーん、一分と少しぐらい?なのです」


 自分が思ってる倍の時間か。これって何かの意味があるのかな?

 それよりこの世界には一分や一秒と言う時間の概念が明確には無いので、今までこのことは誰にも聞けなかったのだ。


「パパが考えごとすると、何故か脳味噌が真空管並になって処理速度が著しく低下するのであります。

 ……これは、パパの生い立ちとも少し関係あるので、生まれ変わった今の体であればいずれ普通の人と同じになると予想されると、本体さんが言っているのであります」


 つまり、骸骨さんとスライムの俺が魔力融合とかで肉体を得たことに起因していたのか。

 肉体的には普通の人と変わらなかったけど、脳の処理速度だけは影響を受けていたと言う訳だな。


「……普通に暮らしている分には全く影響の無い範囲なので、気にするなと言っているであります」


 …俺って魔界蟲にまで心配されてんのかよ。

 まるでダメな子だろ。


「……それより早くどんな作業をするのか教えろと要求されているのです。

 ……ほぉほぉ、なるほど、それを使って指示すれば良いのですか!

 ありがとサンキューなのです!」


 そう言うと、スマホのような水晶板を収納して何処かから取り出すような仕草でタブレットパソコンサイズの薄い水晶板を取り出して俺に手渡す。


「…何かあるのです?」


 受け取った水晶板とアルジェンを見比べ、自分と同じぐらいの大きさの水晶板を平気な顔で持っていたアルジェンに驚きを隠せなかっただけだ。


「アルジェンって、思ったより力持ちだとビックリしたんだ」

「そこはウルトラスーパー可愛いアルジェンちゃんと呼ぶのが正解だと愚考するのです!」

「あー、はいはい、ウルトラスーパー可愛いアルジェンちゃんが予想より力持ちだから頼りになると思ってる」


 おかしい…何故かアルジェンと会話をするだけでライフゲージがゴリゴリ削られて行くような気がする。


「分かれば良いのですっ!」


 嬉しそうにパタパタと頭の周りを飛んでは俺の顔に体当たりをするのだが、一体何をやってんだか。


「DNAレベルでパパの成分補充完了なのです!」

「…何処かの鑑識かよ?」

「今の私は仮装研のマリッコなのです!」

「はいはい、じゃあマリッコさん。

 そのタブレットの使い方を教えてよ」

「…えーと、『アルジェンちゃん大好き』と言いながら起動しても、この地下ダンジョンのマップ表示されるのです」


 今の間は?

 よし、そこは無視して進めるか。エマさんに渡した魔道メモ帳と似たようなもんだろう。

 

「アルジェン、悪いけど本体さんにタイニーハウスの回復スポットを常に水が湧き出る泉に変更するように頼んでくれないか?

 出来るなら、本体側面に水道の蛇口かコックみたいに簡単に水を出せるような仕掛けを幾つか設置して欲しいんだ

 その後、お茶とクッキーを出してくれ。勿論アルジェンも食べて良いから」

「任されたのです!」


 横ピースを決め、パタパタと回復スポットのあるタイニーハウスへと飛んで行くのを確認してから水晶板を起動させる。

 俺のミジンコレベルに少ない魔力でも起動したのはラッキーだった。間違えてもアルジェンに大好きとか恥ずかしくて言えないし。


「ちゃんとマップが表示されたな。UIはタブとアイコン式か。

 スライドでも次のページに移動可能ね。魔界蟲ってこんな物まで作れるのか?

 それともこれも魔道具なのかな?

 まぁ、どっちでも良いか。

 早いとこ本体さんにセーフティゾーンを設定して貰わないといけないし。作業にどれだけ時間掛かるか分からないもんな」


 渡された水晶板式タブレットで一通りのページを確認し、マップのページを表示する。

 現在のセーフティゾーンは俺が設定したときと変わっていないと思う。

 操作もシステムもスマホのゲームアプリのようなものなので、すぐに理解出来た。下手なデザイナーより本体さんの方がセンス良いかも。


 アイテムのエディットもこのタブレットで指示が出来るようだけど、アイテムの項目が多すぎて探すのが大変そうだ。

 回復スポットの変更は本体さんに任せて正解だったな。


 パタパタと羽音を響かせてアルジェンが戻ってきた。思ったより早かったので、少し驚いた。


「それはマップ画面なのですね。

 フムフム、本体さんが現在使えるダンジョンポイントが画面左上に表示されるので、ポイントを消費しながら設定していくみたいなのです」

と腕に着地して羽根を収納してから画面を指差す。ちょっとしたアシスタント機能気取りだな。


「なる程ね。そのポイントを気にしつつ、俺の『範囲指定』みたいな感じで設定してくんだね。

 あ、ドラッグだと間違えそうだ。タッチペンはある?」

「……残念、無いそうなのです」


 ここ、魔法の使える異世界だよね?

 ちょっとIT化が進みすぎていないかな?

 便利なのは助かるけど、もう少しファンタジー要素が欲しいと時々思う。


「そうそう、こんな感じでバッチグーなのです!」

と嬉しそうに言ってアルジェンが差し出してきたのは、六角形の鉛筆のような形のタッチペンだ。


「ミニミニ魔界蟲のタッチペンバージョンなのです!

 これを使って…っ!

 って! パパっ! いつの間にかその子を起動してるの、ずるいのです!」


 気が付くの遅くない?

 胸をポカポカ叩かれてもそれ程痛くはないけど。


「狡く無い、狡く無い。

 恥ずかしいからクチには出さないけど、アルジェンが居てくれて助かってると思ってるから。

 ほら、クッキー食べな」


 アルジェンが皿に乗せたクッキーを出してくれたので一枚渡すと、嬉しそうに両手でしっかり抱き抱えた。

 自分の頭よりデカイ大きさのクッキーなんて普通は喰えないと思うけど、アルジェンはお構いなしにガブリといくと、そのままガツガツと食べ進めるようだ。


 その間にセーフティゾーンに指定する範囲を決めて、決定ボタンをタップする。

 画面にプログレスバーが表示されるとか、どれだけ芸が細かいんだ。


「そう言えば、荷物を運ぶのはどうするのです?

 私を頼りにされても困るのです」

とクッキーのカスを顔中に撒き散らしたアルジェンが聞いてくる。


 転送ゲートを通って運び込まれた荷物をスムーズに動かさないと、すぐに出口で渋滞になってしまって移住作戦が失敗する恐れがあるのだ。

 かと言ってアルジェンのアイテムボックスを頼るのは本人も嫌がっているし、今後も何かある度に当てにされそうなのでやめた方が良いだろう。 


「お助けモンスターを召喚して荷捌きさせてみようかな。

 …けど、セーフティゾーンを設定した後には、まともなモンスターが呼べないのか」

「低コストで力が強い魔物は見た目が良く無いのです。

 …知能も低くてろくに働かないので、お勧め出来ないと本体さんも言ってるのです」

「でも何体かは欲しいんだよな。

 人の言うことを聞いてくれる魔物って召喚コストが結構かかるんだよね」

「それをパパが言うのです?

 百階層のダンジョン維持する魔力を浪費して、数分で一階層にしちゃったパパが…」


 それぐらいしないと、ノラは倒せなかったんだから仕方ないと思うんだけど。

 それに皆の装備も新調しないと心許なかったしさ。


「……あ、なる程。

 それならパパが以前、地上に送ってすぐに戻した魔物の大軍を使えば良いと言ってるのです。

 パパが既に召喚済だから、ここに移動させるだけなら消費コストはそれ程多くないそうなのです」


 俺がダンジョン管理者になった時に召喚したのは、各種のワーム、昆虫、植物系だったけど、そんなのをここで運搬に使っても大丈夫か?

 力は強そうだし、人には危害を加えない設定にしているけどさ。

 まぁ、後で考えるか。


「本体さんに魔物達を呼んでくれるように頼んでくれるか?」

「了解なのです!

 ……どの子から送るか指示をくれって?

 適当で良いと思うのです。

 ……荷を運ぶならビートル系かトレント系と。

 とりあえず一体ずつここに連れてきて欲しいのです」


 荷運びにビートルって、ドイツの自動車メーカーのアレじゃないか。丸っこくて可愛い姿の奴。

 そんなのを想像していたんだけど、突然目の前に現れたのは人も乗せて動けそうな巨大カブトムシだった…俺、こんなの召喚して何をしようと思ってたんだよ?

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