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第17話 キリアスに行きたかったよ。

「今から移住大作戦を始めるぞっ!」


 グダグダと考えるのはもうやめよう。

 この地下ダンジョンはリミエン伯爵の直轄地になる筈だから、事後報告でも人が住んでるから宜しくねと伝えて代官に丸投げすれば済む話だと気が付いたからね。


 それか、元々彼らがこのダンジョンに棲み着いていたと話を少し捩じ曲げても良いのだが、恐らく聞き取り調査をされれば嘘がバレるのは確実だ。

 それなら素直に俺が難民として受け入れたことを正直に話した方が良い。


 俺に難民を受け入れる決定権など無いのだが、転送ゲートには時間制限があるのだから急ぐしかない。

 彼ら黒装束集団は一度キリアスに戻らせて、家財道具などを持ち出す支度をして貰わなければ。


「僕も向こうに行ってこよう。

 マジックバッグを持って行く方が良いだろ?」


 戦闘の疲れもすっかり取れたベルさんがキリアス行きを申し出ると、

「それなら私達マーメイドの四人も同行します。

 女性と子供とお年寄りも多いなら、男性だけで行くより良い筈ですから」

とすかさずアヤノさんが同行を申し出る。


 それを聞いてセリカさん、サーヤさん、カーラさんの三人も大きく頷くと、

「アヤノ一人では女手が足りないから、私も行きます」

「猟師にキリアスの狩りの遣り方を見せて貰うわ。獲物も多分コッチと違う筈」

「子供を相手にするならやっぱり私が居ないと。ラビィも連れてくわよ」

とそれぞれがキリアスに行く理由を述べる。

 彼女達の目がやたらとキラキラ輝いているのは、述べた理由以外に別の理由があるからだろう。


「アヤノさん…本音は?」

「転送ゲートを通ってみたいのっ!

 だって期間限定イベントでしょ!?

 これを逃すともう二度と通ることは無いかも知れないのよっ!」

「やっぱりか…」


 俺も転送ゲートを通ってみたいんだけど、先にダンジョンの設定を終わらせないといけないからね。

 居住地周辺はセーフティゾーンにしないといけないし、水場や食料となる植物も居住地の近くに用意する必要がある。

 それをアルジェンから魔界蟲本体さんに伝えて貰い、完成したのを確認しないと安心して暮らせると断言できないからね。


 他にも地上に居る筈の見張り役に、馬車の手配を頼まないと。

 もう帰還の予定日なので事前に待機させてくれているなら有難いけど、俺達が地上に戻ってから狼煙で近くの村に連絡する手筈にしているから期待は馬車が待機していることは期待できない。


「クレスト兄、僕も『植物採集』スキルが役に立つかも知れないから向こうに行ってくる。

 それに現地に残っている責任者と話を付けないといけないだろうから」


 やはりルケイドが少し大人の階段を上ったような気がするな。

 これから家を立ち上げると言う重責を担うことになるのだから、コイツなりに色々と考えてのことなんだろう。


「私とエマさんだけど…先にリミエンに戻って領主様と話を付けようと思うの。

 話はエマさんにお願いするけど、護衛は必要でしょ?」

とオリビアさんが提案してきた。


 近くの村とは狼煙で連絡を取るのだが、馬車を要求する為の狼煙と馬を要求する為の狼煙とで色が違うらしく、馬を二頭用意してもらって二人で一気にリミエンに早駆けするつもりのようだ。


 俺はそんなに急いで知らせる必要は無いと思っていたのだけど、俺が吞気過ぎるのかな?


「えっ! ママはリミエンに戻るのです?」

とアルジェンが予想以上に驚いたようだ。


「それなら、馬車を牽いているミスジちゃんとランプちゃんを使えば良いのです。

 馬車なら残りのササミちゃんとセセリちゃんだけでも大丈夫なのです!」


 へえ、あの牙持ちの馬にも名前が付いてたんだ。以外だな。


「あの、アルジェンちゃん。

 その呼び名はアルジェンちゃんが付けたのかな?」

「はいっ! 少し美味しそうな名前にしてみたのです!」


 …マジかよ。馬に食肉の部位で名前付けんなよ。


「アルジェンちゃん、動物や魔物に名前を付ける時は私に相談してね。私も考えるから」

「ハイッ! ママと考えるのです!」


 …エマさんのネーミングセンもどうかと思うけど、それって言わない方が良いのかな?


「私なら、タコス、ブリトー、他には…」

「わぉっ! ママはグッドなセンスなのですっ!」

「えっ?そうかな? そうよねっ!

 さすがアルジェンちゃん、良く分かってるねっ!」


 この二人にはどう言う教育を施せば良いのか…先が思いやられるょ。

 心なしか、その二頭の牙持ちの馬もイヤそうな雰囲気を醸し出しているし。


「じゃあ、中間取ってランスとブリッジでどう?」


 アルジェンがランプと呼んでいた牙馬の斜め前に立って『ランス』と呼んで頭を撫でてやると、目を細めて頭を擦り付けてくる。

 多分だけど嬉しいのか甘えている感じがする。


「ランプちゃんがパパに甘えているのです!

 人には懐いたり甘えたりしないのに、これはおかしいのです!

 パパは馬たらしなのです!」


 馬たらし? そんな言葉は無いよね?

 ミスジと呼ばれていた牙馬も『ブリッジ』と呼んで頭も撫でてやると、ランス同様に甘えてくる。

 ひょっとして、この馬達もそれが自分に付けられた名前だと認識しているのか?


「遊んでいるところ申し訳ない。先遣隊の一時帰還が完了した。

 ベルさん、ルケイドさん、ラビィさん…?、アヤノさん、セリカさん、サーヤさんとカーラさん。

 転送ゲートに入ってください」


 部下達を先にキリアスに帰還させ、ルーファスさんが最後まで残ったようだ。


「俺も一回転送ゲートを通って良い?

 少しぐらいキリアスを見に行っても良いと思うんだけど」

と皆に聞いてみると、

「ごめん、君が行くと絶対トラブルを起こすから」

と速攻でベルさんに拒否された。


「それに君の言うことしかアルジェンは聞いてくれないだろ?

 僕達が戻る迄に受け入れ準備を整えていてもらわないと」

「クレスト兄、ベルさんの言う通り早く準備しておいて。

 二千人が暮らせるようにするのはダンジョン管理者でも大変な作業だと思うよ」

「クレストさん、キリアスのことは私達に任せてください。

 もしもの時は、『紅のマーメイド』で対処しますから」


 誰か一人ぐらい、一緒に行こうと言ってくれても良くない?


「クレストさんはリミエン側の責任者として、キッチリ二千人のお迎えの準備を整えておいてくださいね。

 移住が終わってからでも転送ゲートは通れるかも知れませんから」

とアヤノさんがウィンクする。


 良い意味で取れば、終わったらキリアスに行っても良いってことだよね?

 よし、なる早で受け入れ準備を終わらせて俺もキリアスを見に行こうっ!

 俺だって一回ぐらいは転送ゲートを通ってみたいんだしさ。


「じゃあ、一番に僕が行くよ。

 向こうの状況が確認出来たら一度コッチに戻って来るから、それまで待ってて」

と言うと、道路の上に浮かぶ不思議な空間の前に立ったベルさんが良い笑顔を作り、僅かの躊躇も無くその空間へと脚を踏み入れ…姿を消した。


 本当なら『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド)』を身に纏ったセリカさんを先鋒にするのが一番安全だと思うけど、危険は無いと判断してのことだろう。


 実はルーファスさんが俺に忠誠を誓ったのは演技で、転送先で各個撃破を目論んでいたとか言うことは無いのだろうか?

 少しだけ不安はあったけど、二分程経ってベルさんが転送ゲートから戻ってきた。


「うん、向こうはルドラ隊長が話を付けててくれたようだ。

 僕達の受け入れも問題無い。転送ゲート内部の体感移動時間は三拍程。真っ暗で魔力しかない通路に引っ張られて行く感じだね」


 危惧していたような危険は無いのか。それだけ黒装束集団の住んでいる地域は他の勢力に脅かされているってことだね。


「それとこの通路、今は魔力消費を抑える為に人一人分のスペースしか取ってないけど、馬車も通るぐらいの幅にも広げられるってさ。

 方法は分からないけどね」


 俺がダンジョン管理者の前任者から受けたチュートリアルにも、転送ゲートの操作については説明が無かったからな。

 恐らく彼らも向こうのダンジョン管理者とコンタクトを取る何らかの手段を持っていると考えるべきだろう。俺みたいに仲間が犠牲になったのかも知れないし。


 でも馬車が通れるなら、マジックバッグに入らない家具なんかも運べる訳だし。二千人分の荷物の運搬にどれぐらい時間が掛かるか分からないけど、馬車が通る通らないの違いは大きいだろうね。


「あぁ、そうだクレスト君。

 転送ゲートを通った荷物を転送ゲート前に置きっ放しにしてたら次の荷物が運べなくなるから、その辺の管理も宜しくね」


 言われてみればそうだったな。

 アルジェンに全部お任せでラクしようと思ってたけど、荷物が次々と運び込まれて来るならその荷物を動かさないと渋滞して身動き取れなくなる。

 そんなの俺一人で捌ききれるのか?

 フォークリフトもクレーンも何も無いのに、これって滅茶苦茶ヤバくないかな?


 俺がどうしようかと深刻に考え始めたことに気が付かなかったようで、ベルさんは言いたいことだけ言ってすぐ転送ゲートへと消えて行った。

 続けてルケイド、ラビィ、嬉々とした表情のマーメイドの四人を見送り、リミエンに向けて出発するエマさんとオリビアさんの支度を手伝う。


 支度と言ってもマジックバッグに少量の食べ物、飲み物を詰めるだけだ。

 メンバー全員にマジックバッグを持たせてあるから、着替えや消耗品などは各自に管理を任せている。


 アルジェンのアイテムボックスに収めてあったお茶とパンケーキとリンゴを持つと、二人ともひらりとそれぞれの牙馬に跨がった。

 額の柄が少し違うのでランスとブリッジの見分けが俺にも出来る。


「ママ! ランスとブリッジは普通の馬より速く走れてタフさも段違いなのです!

 半分の時間でリミエンに到着出来ると思うのです!」


 いやさ、幾ら馬の方が凄くても乗る側は普通の人だよ。

 片道四十キロの道を一気に走り抜けるのは厳しいと思う。馬が速く走るってことは、騎手の負担がそれだけ増えるってことだからさ。


「分かった。アルジェンちゃん、ありがとうね。

 クレストさん、少しの間お別れになるけど、伯爵との話が終わればすぐに戻って来るから」


 普通ならリミエン伯爵にそんな簡単に話なんて出来ないんだけど、お仕事でいつも領主館に出入りしていただけあって慣れたものなんだね。

 でも面会予約が必要じゃないの?


「コッチのことは私に任せて貰えればオールクリアなのです!」

「そうだね! アルジェンちゃん、パパの面倒見てあげてね!

 じゃあ、行って来るから。

 クレストさん、ここは一人になるけど無理はしないでね」


 馬上の人となったエマさんが俺にウィンクする。


「エマさんも無理はしないでね。

 オリビアさん、エマさんを宜しくお願いします」

「はい、無事リミエンまで送り届けます。

 伯爵との話が終われば、私もここに戻って来ますから」

「うん、頼むね。オリビアさんも気を付けて」

「はいっ!」

「ママっ! 安全第一だけど早く戻って来て欲しいのですっ!」


 笑顔を見せて馬を出したエマさんとオリビアさんに、残された俺とアルジェンが暫く手を振って後ろ姿を見送る。

 角を曲がって二人が見えなくなったところで、

「さぁパパ! チャキチャキ支度しないと間に合わないのです!」

とアルジェンが『気合』と書かれたハチマキを額に巻いて俺に檄を飛ばすのだった。

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