(番外編)とある空間で
「局長の賭けてる子、あっさり死んじゃいました。
残念でしたね」
服務規程に違反しない程度の魔改造を白いトーガに施した職員があんパンとコーヒー牛乳で昼食の簡素な昼食を取りながらモニターを見ている。
「それはどうかな?
あくまで私の予想は、最終的にアイツが勝って五世紀の安定確保だから。
一度死のうが二度死のうが関係無い」
「局長、負け惜しみは見苦しですよ」
「まだ勝負は決まっておらん。
良い具合に、あの場所にはお節介爺が住んで居るからな」
とあるダンジョンを監視する為の五十インチのモニターには、灯り石に照らされ、風にそよぐ世界樹と小さな泉が映し出されていた。
「それにしても、アッチで死んでコッチで死んで、死ぬたびに異世界転移やら骸骨化やらダンジョンマスター化やら、ホント面倒くさいヤツですね」
「それはお前が出した企画なんだが…承認したのは俺か」
そうぼやき、無意識に空間から薄茶色の紙袋を取り出すと中から大判焼きを一つ。
それをクチに入れ、「アチッ!」と悲鳴をあげる。
「局長は猫舌じゃないですか!
そんな人が大判焼きなんてズルいです!」
と女性が言うと、綺麗な手を紙袋に突っ込んで大判焼きを二つ取り出しいきなりかぶり付く。
「ハフハフ、熱くておいひぃ」
「よく餡こばっかり食えるな。胸焼けしそうだ」
「そう言う局長だって、朝は餡トースト、昼は大判焼きか今川焼きか回転焼き、夜は人形焼きのアソートじゃないですか!」
なぜ俺の朝食をコイツは知っている?
だが、餡塩バターハミチツトーストとお汁粉が俺の定番の朝食なのだ。
まだまだリサーチが甘いな。
「たまにカスタードの大判焼きも買っているが…おっ、やはりお節介爺が動き出したな。
エロ展開を期待してのことだろうが、アイツは奥手でヘタレだからな」
モニターには好々爺然とした人の善さそうな神が泉の上に浮いた水晶にチョッカイを出し始めていた。
「その割りには周りは女ばっかりじゃないですか。
ハーレムタグ付けないのは詐欺です」
「まだ未来が確定していないからな…」
アイツの周りには確かにアイツを好きな女性が多いが、まだ誰にも手を出していない。
監視する側としてもイライラするのだが…これは監視であって覗きではない…。
それに下手すればこのレポート一式、別の管轄下に置かれることになる。
そうならないようにするには、アレぐらいヘタレで優柔不断で鈍感なぐらいが丁度良いのだ。
「あの女、神に喧嘩売ってますけどイエローカード出さなくて良いんですか?
お節介爺、笑ってますけど…あ、水晶から復活した。
へぇ、テロメア半分を復活の代償にしたんですか。
中々エグいですね」
「それは違うな。
クローンのテロメアが半分しかないってのは実はデマなんだからな。そこは管理局職員として良く調べておくようにな」
「テロメアが短くて云々って、色々な作品の設定に使われてるのに夢が無いこと言わないでくださいよ。
それにしても…
あっ! 監視対象B八六零七で核戦争勃発です! プルチン大統領にボタン持たせたのは誰っ!? 惑星消滅しました!」
「異世界転移管理局、全職員は至急魂の救済にとりかかれっ!
数が多すぎる? 救済処理数三位までに入った者には肥村屋の羊羹と小豆アイス食べ三時間食べ放題チケットを配布する!
さぁ頑張れ!」
「餡こばっかり、そんなに食べられませんからっ!」
これが『異世界転移管理局』の通常運転であるらしい。
この職場が不人気なことを察して貰えれば幸いである。