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第16話 覚悟が決まったのです。

 黒装束集団にオレンジジュースを振る舞ったら、俺の仲間になると申し出てきた。


 オレンジジュースも市場で販売すれば売価は銀貨一枚が妥当だから、それを一人二杯で百人だと単純計算で銀貨二百枚=大銀貨二十枚。 

 この程度の出費で黒装束集団が俺の仲間になってくれるのなら、むしろこれは安すぎると言っても良いだろう。


 実際には引っ越しが終わってからの方がお金が必要になるだろうから、安くてラッキーと喜ぶ訳には行かないんだけどね。


 休憩が終われば次の行動に移らなければならない。彼ら黒装束集団以外に、後からやって来るのが千九百人も居て、一日で移動を完了しないといけないのだ。


 移動後は暫くこのダンジョンで自給自足の生活をしてもらうことになるのだが、魔物の配置はアルジェンを通してダンジョン管理者である魔界蟲本体さんにお願いすればセーフティゾーンは簡単に設定出来る…はず。

 境界線はキッチリ引いておかないとマズイだろうけど。


 住居はテントの他、ルケイドに土でかまくらのような家を作って貰えば良い…と思っていたのだが、考えてみればルケイドには以前の俺みたいな馬鹿みたいな魔力量はなかった。

 自分基準で安易に考えていたので、いきなり予定が躓くことになる。


 俺の使っていた魔法ならアルジェンも使えるようだが、あの子にはこれ以上人前で魔法を使わせたくは無い。

 黒装束達の治療は特別感の演出って意味もあってやらせたけど、これからも便利に使われるようになるのは宜しくないからね。


 幸い樹は辺りに腐るほど生えているので、簡易的な住居を作る為の木材には困らないだろう。

 ただし、樹を斧で斬り倒し、運搬して製材すると言う工程がどれだけ大変かは考えたくないが。


 待てよ、領主様に彼らの居住の許可が下りればリミエンに所属する魔法使いの冒険者達も使って一気にかまくらを沢山作れば済むのか。

 それにキリアス側にも土属性魔法の得意な人が居るかも知れないし。


 そうと決まれば、転送ゲートが開いている間に出来るだけ多くの物資をキリアスから運びこまないとね。


「…これがクレストさんの長考モードだから覚えておいてね」


 はっと気が付くと、ベルさん他パーティーメンバー全員とキリアス側からルーファスさん、ルドラさん、フリットジークさんの三人が集まって俺の様子を観察していたようだ。


「大抵この後に碌でもない事を言い出すのよ。

 でも悪いようにはしないと思うから、なるべくそっとしておいてあげてね」

と、何故かアヤノさんが俺の取り扱いに付いてルーファスさん達にレクチャーしている。


「戻ってきた?」

「みたいね」

「そんなので良いのか…?」


 …俺は珍獣かよ?

 ルーファスさん達がどう言う反応を見せれば良いのかと判断に困っているのがよく分かる。


「クレスト君、考えは纏まったかい?」

と代表してベルさんが声を掛けてくる。そんなに気を使わなくても良いのにさ。


「あ、はい、まずはダンジョン管理者に頼んで居住地周辺には魔物の出てこないエリアに設定してもらいます。

 二千人だと結構広いエリアになりますけど。アルジェン、頼めるか?」

「そんなの晩飯前なのです!」


 パタパタとホバリングしていたアルジェンが胸を叩いて咽せる。力加減には気をつけろよな。


「でもそれより先に、伯爵がここに住むことを許可してくれるかどうかが問題なんだが。

 上手く説得出来るのかい?」

とベルさんは彼らの移住にまだ消極的な様子を見せる。


 ダンジョンの所有者は基本的にはその土地を治める領主になる。

 その領主の許可を得る前に住居を建てるのは本来良くないことであることは俺でも分かる。だから黒装束集団がこのダンジョンに居なければならない理由付けをするのだ。


「ルーファスさん、このダンジョンの木を斬ってリミエンに運ぶ仕事を請け負ってもらえますか?

 リミエンは木材不足なんですよ。道具や運搬用の荷馬車はこっちで用意しますけど」


 ルケイドが微妙な顔をするのは仕方ないだろう。

 このダンジョンの上はルケイドの父親が管理する植林地で、それが魔界蟲によって植林事業の妨害を受けたせいで木材不足を招くことになったのだから。


 それでも別の山林を用意するか別の事業に乗り替えるかを早く判断していたのなら、カンファー家に対する奪爵の動きなど無かった筈だ。

 だがルケイドの父親は何も対策を取らぬままズルズルと十年以上も放置してきたのだから、誰だってこの人は能力足りて無いよね?と思うだろう。


 それでもルケイドがもうすぐ十六歳になり、石鹸と紙の製法確立に貢献したことで叙爵は確実。

 実家を出て新たに貴族家を立ち上げることになるだろう。


 そうなると、この地下ダンジョンの管理をルケイドに任せれば良いと思うのだけど、利権が絡む話だからどうなることやら。

 石鹸と紙から得られる利益で、キリアスから来た人達を支援すればルケイドにも十分なメリットが出てくるだろう。


 他の貴族家がどう出てくるかが全然見えないのが怖いが、三百人の武装集団を傘下に収めていれば、そうそう手を出してくる馬鹿は居ないと思う。

 馬鹿はそれでも手を出してくるから馬鹿と呼ばれるんだけどね。


「俺的には、今後はこのルケイドにこの地下ダンジョンの管理を任せたいんだけど、リミエン伯爵と要相談だからね」

とルーファスさんの前にルケイドを立たせると、

「いやいや、クレストさん。

 まずはダンジョン管理者に自由に連絡が取れると言うのが普通ではないが、本当にそんなことが可能なのか?」

と疑われた。

 まぁ当然か…普通じゃない…と言われると少しショックだけど。


 それを聞いたアルジェンが突然ハリセンを取り出してルーファスさんの頭をバチーンとどつくと、ビシッと指を差して

「ちょっとちょっとなのです!

 私のパパの言うことを疑っているのです?!

 私のパパは仲間を守る為にバンパイアと一騎打ちするようなイカレタ人なのです!」

と啖呵を切ったのだ。


「バンパイアだとっ!? このダンジョンにはバンパイアが居るのか?」

「ちょっと待てよ、バンパイアなんて人間が倒せる相手なのかよ?」


 俺もそう思うよ。火山噴火に巻き込んで生きてるような奴をどうやって倒せって言うんだよ。

 直射日光でしか倒せない、と言うか直射日光さえ当てることが出来れば勝ちなんだけど、普通なら地下一階に居るような奴じゃないからそんなのは無理なんだよ。

 

「パパが天井をぶち抜いて、お日様で天日干しにしたからもう出てこないのです!」

とアルジェンがエマさんのデータで作られた胸を張る。


「天日干し? じゃあ魔力を無くしたのは、それをやった影響なのか…凄いよ、クレストさん」


 どうやら良い具合に勘違いしてくれたようだな。

 まさか一度死んでダンジョン管理者になって、地形変化で無理矢理天井に穴を開けたと教える訳にはいかないもんね。


「そう! 私のパパはとっても凄いのです!

 分かったらパパの言うことを良く聞くのです!」


 俺の周りをグルリと華麗にターンを決めた後、頭に乗ってモゾモゾしているのはきっと何かのポーズを取っているのか、それともミニミニ魔界蟲を出しているのか。


 スライムだった頃と違って頭上は見えないし、二匹の水晶のようなスライム達とのリンクも切れて視聴覚を共有することも出来ないからどんなポーズを取っているのか分からないが、アルジェンの性格なら間違いなく偉そうなポーズをしていることだろう。


 俺が頭の上に気を取られて居る間に黒装束集団が十人十列に整列する。

 一体何のつもりかと思うと、一歩前に出たルーファスさんが、

「はいっ、分かりましたっ!

 これからは我ら一同、クレストさんに忠誠を尽くし、命を懸けて御守りすることを誓います!」

と力強く宣言し、その後一斉に土下座をして額を地面に着けるのだ。


「まぁ…こうなったらクレスト君が彼らの面倒見るしかないよね?」

と畏まるルーファスさん達を目にして、ベルさんが肩を竦めて両手を上げた。


「これってクレストさんの私兵団ってことで良いの?

 リミエンで一番の私兵団を持っているのは…ファロス武器店かしら?

 でも百人も居ない筈だわ。多すぎると叛意有りと受け取られかねないもの」

とエマさんは頬に手を当て、頭の中のデータベースを検索したようだ。

 

 ベルさんにエマさん、冷静に見ていないでちょっとは助けてよ。俺には私兵団なんて必要ないんだし。

 ちなみにファロス武器店ってのはリミエンで一番大きな武器のお店で、ビリーって息子が騎士団にスカウトされて王都に行ってるんだ。


 でもビリーの姉リイナさんはポンコツだったし、付き合っていたのがルケイドの兄ディアーズさんで、コイツもポンコツだったからなぁ。


 ここに居ない人のことを思い出すのはこれぐらいでやめておこう。問題は黒装束集団の扱いだからね。


「俺には私兵団とかいらないし、維持するお金は持っていないよ」

「そうなのです!

 パパの護衛はウルトラチャーミングなこの私が一人居れば良いのです!

 朝から晩まで、ついでに夜の相手も私が面倒見るのです!」


 恐らく頭の上でドヤ顔決めてんだろうな。


「クレスト兄貴にそんな趣味が…あ、いぇ、何も聞いていません!」


 誰が言ったか分からないけど、聞いてないならクチに出すなよ…幼女趣味じゃなくて人形遊びをしていると、アルジェンの一言でえらい誤解されちまったぞ。


「ウチは守ってもらう程の屋敷でもないし。

 それにラビィも居るから防犯はバッチリだよ」

「そやでっ! さすがあんちゃん、分かっとるやん!

 ワイの目がクマのうちは、誰にもあんちゃんには指一本触れさせへんで!」

「ラビィの目は一生クマだよね?」

「…そやな」


 エマさんがラビィの冗談を理解せずに指摘したので辺りがシーンと静まり返る。


「えっ?! えっ、変なこと言ったかしら?」

「…ママ……ラビィはラビィなりに和ませようとボケてたのです。

 確かに面白くないボケだったけど、乗ってあげるのも優しさなのです」

「おもろないんや…」

「アルジェンちゃん…留め刺しちゃダメよね?」


 ガッカリと項垂れるラビィを抱き上げ、背中を撫でてやる。何度も言うが、中身は戦斧を振り回すオッサンなんだけどね。

 子熊モードの時は、感覚も普通の子熊と変わらないらしいから可愛い反応を示すんだよね…オッサンのくせに。


「ゴホン!

 あの、転送ゲートの開いている時間は制限があるから、そろそろ動きたいので指示をお願いする」


 どうでも良いことで無駄な時間を潰してしまったようで、ルーファスさんが土下座から復帰してそう言ってきた。

 確かに行動を起こすなら早い方が良い。


「あぁ、済まない。

 ベルさん、皆、俺はルーファスさん達二千人をこのダンジョンに招く。

 政治的に色々と問題があることは理解しているけど、同じ人間として、それに俺もキリアス出身者として、彼らを放置することは出来ないんだ。

 面倒を掛けるけど、協力してもらえるかな?」


 もう今の段階で拒否を表明することもないと思うが、俺の意思表明も必要だと思ったし、俺一人じゃ黒装束集団の相手もろくに出来ないのだ。だから皆に協力してもらわないと。


「クレスト兄、僕達は誰も反対なんてしないよ。

 クレスト兄が居なければ見てみぬ振りして、話も聞かずに追い返すことしか出来なかっただろうし。

 政治的な厄介事が一番影響あるのは僕だと思うけど、何とかやってみる。だから何も気にせず好きなようにやってよ」


 そう言うとルケイドが珍しく親指を立てる。

 ダンジョンに来るまでは研究以外では何かと頼りない奴だったけど、最近少しは大人っぽくなってきたな。


「リミエン伯爵には私からも上手く話を持っていくようにするわ。

 あなたの決めたことだもの、私も全力で後押しするのは当然だからね」


 エマさんもルケイドの真似をして親指を立てた。ここであなた呼びするのは狡いでしょ?

 もう家族なんだから一蓮托生だよって言っているようなものだから。

 まだご両親にも会ったことが無いし、そんなに長い時間を二人で過ごした訳でもないから、まだ俺は正式に婚約したつもりは無いんだけど。

 でもエマさんは婚約したつもりなのかな?

 それとも文化の違い的な何かがあるのかな?


「そう言うこと。家族と配下と領民を持ったつもりで、クレスト君は思うようにやってごらん。

 面白そうだから暫くは僕も付き合うからさ」


 領地を経営するシミュレーションゲームじゃないんだから、やってごらんと軽く言われて『はいっ、やります!』と簡単に返事出来る訳がない。

 でも黒装束集団が移住してくるってことは領民になる訳か。

 そうなると、この地下ダンジョンは領主様の直轄地になって誰かが代官になって派遣されてくるだろう。


 彼らの生活が落ち着くまでは色々とサポートしないといけないだろうけど、それも代官に丸投げすれば済む話だよね。

 うん、実質俺自身がやることってそんなになさそうだから、それなら何とかなるだろう。


 一歩前に出て気持ち咳払いをすると、意を決する。


「よし! じゃあそう言うことだ!

 今から移住大作戦を始めるぞっ!」


 黒装束集団からウオーッと歓声が起こり、ベルさん達が拍手で盛り上げる。

 お祭りでも学園祭でもないんだけど、そう言うイベント的なのが好きなのかな?

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