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第179話 王都最後の一日

 サツマイモスイーツ食べすぎた…。

 ちなみにサツマイモは英語でスイートポテト、スイートポテトはスイートポテトケーキ。

 こっちの世界では見た目で赤芋と呼ぶ。日本語にも赤芋って言葉はあるらしい。


 オヤツを食べ過ぎた影響で晩ご飯は軽く終わらせ…ようと思ったが、いつものように個室を借り切った。


「ケルンさんの方は順調ですか?」

「はい。どなたかから魔道具まで王都側で用意しろと圧力があったらしく、リミエン側の費用は思ったより少なく済みそうです。

 一体どなた何でしょう?」


 ケルンさん、分かってて分からないフリするのはやめようよ。


「それだけ商業ギルドも本気ってことだ。

 良かったじゃなぃか」

と能天気なのはフレイアさん。

 多分この人を中心に世界が回っていると思っているのかも。


「ステラさんの方は?」

「リミエンに報告するのが恐ろしい状況よ。

 でも一過性のモノだから従業員は増やせないし。何年納車待ちになることか」

「そうなるのを見越して予約している商会もあるようですしね」


 ケルンさんが聞き付けた情報では、お金に余裕のある商会が急ぎじゃないけど注文してるとか。そのせいで余計に忙しくなってるとは、ありがた迷惑と言うしかないか。

 そう言うオーダーは後回しだね。


「ベルさんの方は?」

「本丸がね…フレイアとリンが付いてるからクレスト君には手は出して来ないだろうけど、中々なもんだよ。

 貴族の相手、めんどくさい!」

「そりゃそうだょ。貴族になんてなるもんじゃないよ」


 相槌を打つフレイアさんの胃袋はきっと宇宙に繋がっているのだろう。

 試食で赤芋を三本は食べてる筈だけど。


「王都に行ったら女に気を付けろって言われてたけど」

「そうだね。だから護衛にフレイアとアヤノ君達を付けたってのもある。

 クレスト君一人だったら、今頃何人の婚約者が出来ていたことか…影の人がチェックしたリスト、見てみるかい?」

「それに決闘やら暗殺やらも、だろ?」

「さぁ、どうだろうね?」


 フレイアさんの質問を両手を挙げても、さぁ?と誤魔化すベルさんだ。


「ベルビアはクレストの変身を知ってたんだろ?」

「銀色のことかい? カッコ良いよね。

 使いどころに悩むけどさ。

 あれはもう少し安定して使えないと、安心して出せないよ。最後の切り札にとっておくべきカードだね。

 そして切った時には勝たないと負ける」


 恐らく最後の一文は、局所と全体的って意味なんだろう。


「ヒーローには時間制限や弱点が在るからこそ盛り上がるのです!

 ちなみに私は甘いものが恐いのです!」


 これは『饅頭こわい』のアレンジなので嘘ではない。アルジェン嘘つかない!


「それより新しいスイーツは王都で売り出すのかい?

 僕らは試食してないんだけど」


 ベルさんの言葉にケルンさんとステラさんが頷いた。


「リミエンに戻ったら作ってあげますから我慢してください。材料もたっぷり買ってるし」


 何故このスイーツを考えたか。それは温泉旅館の名物にする為だよ!


 赤芋なら何処ででも栽培出来るし、蜂蜜もある。

 マシュマロの材料も森のダンジョンを超えた先の湿地に多数生えているそうだ。

 砂糖の代わりになる甘味料はもう少し探してみるが、ソルガムシロップと麦芽糖があるのだから騙し騙し生産してみようと思う。


 ミルク餅だけは牛乳の確保が難しいからラインナップに乗せられないけど、牛乳を使わない葛餅擬きなら作れる。

 牛乳の代わりにフルーツのフレーバーで誤魔化せば、オリジナルスイーツの出来上がりだ。


 王都では貴族しか食べれないスイーツを、リミエンなら温泉旅館で食べられる!

 うん、これならお客様がどんどん来てくれるよね?

 確かにレシピは門外不出にするべきだと納得だ。


「クレストさんが悪い顔して笑ってる」

「何か思い付いたのね」

「さすが嫁候補だょ。良くクレストのことが分かってるじゃないか」


 俺の知らないうちにアヤノさん達の間でこんな会話がなされていたのだが、その後も俺の耳に入ることは無いだろう。



 そして翌日。朝十二時(九時)少し前ににビリーが迎えに来た。

 服装は騎士見習いの物ではなく、ごく普通の市民の姿だ。潜入捜査の時に使う物なのかもな。


「リミエンに居た時より筋肉が付いたんじゃないか?」

「食べる量が増えたから」


 それが本当なら、普通の人は増えた分って贅肉になるんだよ。でも、それを本人は分かってないだろうな。


「従者の普段の一日ってどんな感じ?」

「起きて馬の世話して朝練の準備して訓練に付き合って、朝ご飯食べてエベル曹長がお城に入れば自主練、エベル曹長が訓練の時は補助する感じ。

 城外にパトロールに出る時は装備を持って行く係かな。一回だけオークの群れに突入したことがあったけど、オークって見た目の割に脆かったんだね」


 恐らくビリーは自分の強さに気が付いていないんだろうな。


「シゴキがキツいとか、仕事が多いとか、重たい荷物を運ばされるとか、ツライことはないのか?」

「全然! 皆は僕に手加減してくれてるのか、訓練もしんどくないし。

 小隊長と模擬戦をして、二合で終わらせてくれたし。従者で僕だけ勝たせてくれたの、なんでだろうね?」


 恐らく、じゃない。コイツ、完全に自分が強いって言うことに気が付いてない!


「お前、実はかなり強いんじゃない?

 勝たせてくれたんじゃなくて、自力で勝ったと思えよ。そうすれば自信に繋がってくから」

「そうかな? 全小隊長に勝ったら次は中隊長なんだ。

 中隊長全員に勝ったはら試験を受けるんだって」


 昇給試験的なやつ?

 合格したら、見習いから騎士になれるのかな? その試験、見てみたいぜ!


「よし、じゃあ外に行こうか。

 俺、王都に来てから武器屋とギルドと市場と学区にしか行ってないんだ」

「そうなんだ。僕なんか武器屋も市場も行ったこと無いし」

「えっ? じゃあ、どこに行った事があるんだ?」

「宿舎、訓練場、倉庫、王城…王城前広場…後は…?」

「すまん、従者に休みは無いの?」

「月三日は休める。でもすることが無いから倉庫で荷物を運ぶを手伝いか、訓練場で皆の手伝いをして時間を潰してる」

「…休めてないだろ?」

「そりゃもう十分休めてるょ」


 笑顔がすてき!じゃねぇよっ!

 コイツ、完全な仕事中毒(ワーカホリック)だろ、まだ二十歳にもなってないってのに。


 元々休む習慣が無いから仕方ないんだろうけど、肉体労働者が休みなく働き続けてたら体壊すぞ。

 大体こう言う元気そうな奴に限って、肺炎でポックリ逝ったりするんだよ。


「仕方ない、今日は俺が王都案内をしてやるよ」

「良いのかい?! ありがとう!」


 嬉しそうに俺の手を取り、上下にブンブン!

 骨がボキッて逝った気がする…。


 暫くお待ち下さい…………


「御免なさい! わざとじゃないから!」

「それは分かってる。お前の馬鹿力を甘く見た俺が馬鹿だった」


 そう言えば、コイツはリミエンの兵士が泣きそうになる浮草回収を笑顔で一日中続けてたもんな。

 俺は筋力強化スキルを使ったけど、多分コイツは素で…基礎体力の桁が違うのは異世界アルアルなのかも。


 アルジェにこっそりと治癒魔法を掛けてもらって治したけど、そうで無かったら…多分コイツ、クビになってるぞ。

 後で上司に馬鹿力注意って進言せねば、被害者友の会が結成されるに違いない。


 それで最初に向かったのは例の武器屋だ。


「兄貴っ! また来たんすねっ!」

「アーヒルさん!、メジーロさん! おはようございます!」

「この人達は?」

「王都の友達。コスプレ仲間?」


 今日のアーヒルさんは、白い海軍将校用のマントを羽織っている。

 その背中には『惡』一文字…。


 メージロさんは、Tシャツに群青色のシンプルな制服スタイルだが、そのTシャツの胸には『悪・即・バン!』の文字が…その言葉、どこかで聞いたような…。


「この店で全身コーディネートが出来るようになったぜ!

 兄貴のお陰っす!」

「いや、それ程でもないよ。ロッティーさんのお陰だよ。お店の方に感謝しないとね」

「さすが兄貴! 懐が温かいっす!」


 それを言うなら懐が深い、だと思うが、こう言うのは真面目に突っこむと寒くなる。

 敢えてスルーがオトナの対応なのだ。


「そちらの体格の良い人は? 兄貴分のお友達っすか?」

「そうそう、元リミエンの冒険者で、今は従者をやってるんだ」

「えぇーっ!! 冒険者から従者って!

 方向性が三回転の屈身トカチェフじゃないすか!」

「うん、最後にコバチ挟んでからの伸身2回宙返りね」


 意味分からんけど、まぁ付き合っとこ。


「それで着地をピタッと決めてんすね!

 凄いじゃないすか!」


 技名を完全スルーする出来る君の能力も凄いけどね。


「それだけ体格が良かったら、騎士団対抗ロープ引き大会にも出場するんすよね?!」

「何だそれ?」

「毎年一回、四つの騎士団が強化系スキル禁止のガチでロープを引っ張り合う大会なんすよ。

 鍛練の成果を同僚に見せ付けるのが目的なんすかね?」


 まさにビリーの為にあるような大会だな。

 えーとぉ…まさかあの人、その大会に勝ちたくてビリーをスカウトしたんじゃないよね?


「で、兄貴! 今日はどんなポージングを披露してくれんすか?」

「そうだな…オッ!そうだ、アーヒルさんとメージロさんの二人でビリーをコーディネートしてみるか?」

「俺らがやって良いんすかっ!」

「コーディネーターとしてのお前達の成長を見せてくれっ!」


 …てな訳で、あーだこーだで楽しく午前中が潰れてしまった。

 王都まで来て何をやってんだか。


 店主の筋肉ムキムキのロッティーさんもバンダナ巻いて参加してきたし。

 二階フロア担当の店員さんまで降りてきて、勇者軍対魔王軍(妄想)をテーマにしたコスプレ大会になったのがいけなかったんだよね。



 そうやって俺が楽しく遊んでいた頃。


 元青嵐のメンバーで現在は宮廷魔法士の職に就くサウザスが『魔熊の森』の探索を続けていた。


「『悪魔の壺』は破壊した。

 後は逃げた本体さえ見付ければミッションコンクリート…だったが…最後の最後に…なんてこった…」


 サウザスの言葉は途中から力を失い、呟くように吐き出されていた。


 彼が遠く視界に入れているのは、この森の主だった、クチから火山弾を吐き出すことの出来る巨大な魔熊だ。

 普段は暴れることもなく、森の主として悠然と暮らしていた為コンラッド王国は彼を積極的に討伐しようとしていなかったのだが。


 しかし、今サウザスの目の前に姿を現した魔熊は知性も理性も無くして暴れ回る、凶暴で凶悪な破壊神へと変貌していたのだ。


「選りに選って、魔熊にアレが潜り込んでいたとはな…」


 サウザスの任務は『悪魔の欠片』と呼ばれていた、実体は無く精神体を持つ幽霊のような魔物の討伐であった。

 その魔物の本体である壺は既にサウザスが発見、破壊済みであったが、最後の悪足掻きか精神体が魔熊の体に入り込み、彼の精神を支配していたのだ。


「魔熊が欠片に支配された?

 そんなバカな…弱い心に付け込むしか出来ない低級魔物が、魔熊の精神より強力な支配力を持つだなんて有り得ない…」


 サウザスには悪魔の欠片が魔熊に憑依した経緯を察することは出来ないが、当然これには理由がある。


 骸骨さん、ことセラドリックが復活直後に倒したあのゴブリラは魔王の素質を持つものであった。

 そのゴブリラと偶然遭遇した魔熊は本能的にゴブリラには勝てないと判断し、戦うことなく逃亡を選択したのだった。


 ただ魔熊の名誉の為に付け加えておくが、ゴブリラには魔物を支配する特殊なスキルを有しており、そのスキルに魔熊が抵抗したためゴブリラの軍門に下ることが無かったのである。


 だが、戦えば勝てる筈の魔熊に対してゴブリラの方が強いと誤認識させる効果が発揮されたく為、やむなく敵前逃亡を果たしたのだ。


 その事がこの森の王者として長きに渡り君臨してきた魔熊のプライドを大きく傷つけ、次第にやさぐれていったところを悪魔の欠片に乗っ取られたのである。


「これは応援を要請すべきだな。

 アレにはタイマンで勝てる気がしない」


 狂気が支配する魔熊を後にし、サウザスは最寄りのリミエンへと急ぐのだった。



 はたまたクレスト達が楽しくコスプレで遊んでいた頃、ある農場からの帰りを急ぐ四人組が遠方から急速に接近する飛行物体を発見した。


「カルマ! あれって!」

「信じたくないけど…アレよね…王都方面に向かって行ってる」

「アレって何なんです? とても大きかったけど。ワイバーン?」

「ソレなら良かったわね。

 ドラゴンょ…王都、無事だと良いけど」


 カルマとジャンヌが過去に対戦したドラゴンとは色違いだと思われるが、地上から見えたのは灰色ぽい腹と、何色とも言えないボンヤリした不思議な色だった。


「とにかく急ぐわよ!

 今日が王都の最後の日になんてさせないんだから!」


 そう自分を鼓舞したカルマが馬に鞭を入れる。

 残る三人も同じく馬を急がせるが、サーヤとカーラの二人は自分が急いだところでドラゴンの相手など出来ないのに、と複雑な心境を持ちながらただ前に向いて走るしかなかった。

 

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