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第15話 アルジェンが勧誘に成功するのです!

 黒装束集団と仲良くなった…。

何を言ってんの?と白い目で見られながら意味不明だと言われそうだが、事実だから仕方ないだろう。


 内乱にあるキリアスの地で戦闘経験を積んできた彼ら黒装束集団であり、中にはまだ俺達を倒してリミエンに侵攻すべきと血の気の多い若者達も居たのだが…アヤノさんとオリビアさんが上手に説得してくれたようだ。


 彼らのすぐ傍で何かが爆発した音や複数の悲鳴らしき声が聞こえたようだが、恐らく気のせいと思うことにしよう。


 別の方向では、

「うっかり『範囲指定』をミスするかも知れないから、私達を怒らせないでね」

と笑顔でサーヤさんが若者達に語り掛け、

「このダンジョンには食べると笑い死にするキノコもあるんだ。

 味は良いけど、食べれなくて残念だよ」

とルケイドが薄い茶色の傘を持つキノコをチラつかせる。


 これも異世界コミュニケーションの一種なんだ…うん、仲良くなるためには仕方ないことなのだろう。


「『煉獄の焔(プルガトリーム)』だと?

 あのお姉さん、綺麗な顔してあんな隠し球を持っていたのか。早期降参しといて大正解だよ」

と黒装束集団のリーダーであるルーファス総隊長が顔を青くする。


「おいぉぃ! あんなのを喰らってたら、俺ら半分は死んでるっしょ?

 手を抜かれたって本当だったか」

「あの軽戦士も姉ちゃんも、オークを綺麗に一刀両断…この黒装束じゃ防げるとは思えないぞ!」

「ひょろい兄ちゃんが土で壁を作って動きを封じ、そこに『煉獄の焔』を使われていれば全滅していたかも。マジパねえ」

「総隊長! ご英断に感謝いたしますっ!

 それとクレストさん御一行の温情に感謝いたしますっ!」


 こんな感じで上手く仲良くなれた訳だ…異論は認めないからな。


 それで、現時点で転送ゲートを通ってキリアスからやって来た侵攻部隊はルーファス総隊長他百名程。居留地の守備隊が二百名、非戦闘員が約千七百名。

 それを聞いて、

「移住者は全部で約二千人か。

 戦闘があった事実は無かったことにするとして…他国民に対する人道支援と言えなくもないが、本当に大丈夫なのかい?」

と、何が大丈夫なのかとハッキリ言わないベルさんだが、恐らく彼らを本当に信用して良いのか?と言うことだろう。


 それを判断する材料は何も無いし、俺だって無条件で彼らを信用するほど世間知らずではないつもりだ。

 ただ、彼らを前にしてあからさまに疑っていますと言うのは気持ちの良いものではない。


「ベルさんの心配はもっともだけど、俺としても俺達に恩に感じてくれる集団がゲット出来るんだから多少の無理はしても良いと思う」

「いや、そうじゃなくてさ…」


 俺が勘違いしていると思ってベルさんが訂正をしようとすると、

「ベルの旦那。安心して暮らせる場所と仕事さえ貰えりゃ、俺達だって無闇に争うことなんてしたりしない。

 あんな人間同士でドンパチするような国とおさらば出来るのなら何だってやらせて貰うし、クレストさんの不利益になるような真似をコイツらにさせたりしない」

とルーファスさんが真面目な顔をして割って入ってきた。


 ルーファスさんが本心からそう言っているとしても、他のメンバーがどう考えているのか分からないし、それにルーファスさん自身も別の誰かに操られている可能性だって捨てきれない。


 そうでなくとも、今まで一切の接点が無かった国の人達を難民として大量に受け入れると言うのは、文化・習慣の違いなどにも伴うリスクがあることも承知している。


 しかも彼ら自身がリミエンを墜とす為にやって来た戦闘員であるのだから、簡単に戦争難民として受け入れました、と言えないのは当然のことだ。


 と彼らを快く受け入れられない理由は幾つかあるし、軽視すべき事項ではないのも理解出来る。

 俺は設定上はキリアス出身となっているが、その国のことを何も知らないのだから判断のしようもない。


 しかしキリアスの方が魔法や技術的な面でコンラッドより進んでいると言われると、俺としてはどうしても彼らの協力を得られるようにしておきたいのだ。


 三百人もの戦闘員を外国から招き入れる、それはクーデターを疑われる行為とも取られかねない。

 だが俺の中でメリットとデメリットを天秤に掛けた結果、彼らを招き入れる方が良いのだと結論が出てしまったのだから、これはもうどうしようもない。


 ベルさんは彼らに同情こそすれ、リスクを超えるメリットをまだ見いだせていないのだろうし、それはベルさんだけでなく、他のメンバーも程度の差があったとしても同じであろう。


 そこで再度リミエン側とキリアス側のグループに分かれて今度の方針を議論することにしたのだが…。


 相棒のミニミニ魔界蟲をタイプ・テヴァ仕様の五百系擬きに変身させたアルジェンが魔界蟲に(車輪は無いけど)乗車して、歓声を上げて黒装束集団の集まる中へと突入して遊び始めた。

 しかも触発されたように子熊モードのラビィがその後を追い掛けて走り回るので黒装束集団のグループからは歓声や悲鳴が彼方此方で沸き起こって騒がしい。


 まだ若い…と言うより幼さの残る戦闘員は更にラビィの後を追い掛け始め、今まで漂っていた緊張感がこの場から一気に消し飛んで行った。


「クレストさん…アルジェンちゃんを止めないと話が出来ないわよ」

と心配そうな顔でエマさんが俺の袖を引く。


 それもそうだとアルジェンを止めに行くと、アルジェンは走り回るだけならともかく、

「下手な考え、安売りしてるっ!

下手な鉄棒も鍛冶打ちゃ当たる!

 蟹食えば、金が無くなり、ほぉ求人!

 犬が西向きゃ終わりガチ!なのです!」

などと訳の分からないことを楽しそうに言いながら走り回っていたのだ。


 そんな間違っている諺やら俳句…いや、勇者が間違って伝えたのだからこの世界ではこれで間違いではないのだが、俺からすれば間違っているアレコレだ。

 これは一種の呪文か何かか?

 俺達の心配をよそに、タイプ・テヴァの上でそう唱えるアルジェンだ。


「考えるだけ無駄…と言いたいのか?」

とアルジェンの行動をそう分析するベルさんだが、それは恐らく不正解。

 アルジェンがそんな意味深な行動を取るわけがない。本能と好奇心があの子の行動を方向付けるのだから。


 だがベルさんの解釈もそれ程的外れでは無いのかも。

 何も分からない状況の中でアレコレ考えたところで、最良の答えなんて出て来るわけがないのだから行動しろと言っているようにも受け取れる。


 飯を食うにはお金が必要だから働かないといけないのは当たり前のことだが、終わりガチとはどう言う意味?

 尾は東でないと意味が通じないのだが、勇者が一体どんな覚え方をしたのかと興味が沸いてくる。


 黒装束集団の言っていることが正しいかどうか確認するには、直接キリアスの現状を見てくるのが一番だろう。

 キリアスのダンジョンと繋がっている転送ゲートは、幸いなことに約一日間は双方向が可能らしいので、俺も自分の目で彼らの居住地を見てこよう。


「パパっ! お友達がいっぱい出来たから今夜は焼き肉パーティーしたいのですっ!」

とやりきった感満載で満足げな顔をして戻ってきたアルジェンがお強請りし、ハアハア息を切らせながら戻ってきたラビィはアルジェンにリンゴジュースを出すように要求する。


 アルジェンがアイテムボックスからテントやテーブル、各種ジュースや紅茶など次々と出してくるので適当に並べて即席の休憩所を設営する。

 俺達は慣れたものなのでパパパと終わらせたのだが、アイテムボックスを持っていない黒装束集団は、普通では有り得ない行動に目を丸くしている。


 マジックバッグにはバッグの口より大きな荷物は入らないと言う制限があり、ダンジョンの中に丸テーブルや椅子を持ち込む手段など普通は存在しないのだから。


 使い捨ての紙コップは存在しないが、代わりにバナナの葉っぱのようなもので作られたコップ(五十個で銀貨一枚)を並べると、

「ワイはコップは使われへんのや」

とラビィが愛用の皿を出せと催促するので、富士型のペット用食器にリンゴジュースを注いでやる。


 この世界のリンゴは高級品なので、恐らく一皿で大銀貨一枚ぐらいの売値が付くジュースなのだが、ラビィはそんなことは知らずにガツガツと犬の舌で掬い飲み干していく。

 贅沢を覚えさせてしまったと後悔しているが、今回は戦闘後のボーナスだと割り切ろうと思う。


 今後リンゴジュースを出してやるのは、ラビィが何か特別な働きをしたときだけにしようと内緒で誓う。


「ラビィは狡いのです!

 私も専用の食器が欲しいのですっ!

 パパ、今から作ってくださいなのです!」


 お供のミニミニ魔界蟲を食器に変形させてオレンジジュースを飲んでいたアルジェンだが、突然そんな催促をしてきた。

 今朝まではそんな我が儘は言ってこなかったのだが。


 さすがにダンジョンの中を移動している最中には、ミニチュアの食器を作る余裕など無い。

 だが現在時刻は昼ご飯を食べてからそれ程時間も経っていないのでダンジョン内も明るいし、今日はここから移動しないから時間は取れるだろうと判断したのかもな。


「みんなー! 飲み物用意したからコッチおいでーっ!なのです!」

と揚羽蝶の羽根を出してパタパタと飛びながら黒装束集団に飲み物を勧める。

 

「妖精が仲間に居ると、こんなことまで出来るのか」

「勇者にはアイテムボックスってスキルがあったらしいけど、それと同じスキルなんすかね?」


 黒装束集団は作戦行動中なので荷物は最小限しか持っていない。

 飲料水にも余裕があるではなく、アルジェンの予想外のお持て成しに飛び付きたい気持ちと、これは罠ではないのかと疑う気持ちがせめぎ合っていたものの、果物のジュースが発する甘い香りとオリビアさんが淹れたばかりの紅茶の芳醇な香りに我慢仕切れなかったようだ。


「お前らが飲まないなら俺が貰うぜ」

と一番に動いたのはフリットジークさんだ。

 エマさんが手渡した葉っぱのコップにアヤノさんがピッチャーに分けたオレンジジュースを注ぐと、躊躇うことなくゴクリといった。


「うめぇ! 甘くて酸っぱくて、こんなの飲んだことねえ!

 お前ら、我慢してねえで早くコッチに来いよ!」


 そう仲間達に声を掛け、ゴクリゴクリと喉を鳴らして旨そうに飲み干し、

「もう一杯貰えるか?」

とお替わりを要求する。


 ジュースも大量に作り置きしてあるとは言え、そんな勢いで飲まれ続けたらすぐに無くなるぞ。それにオレンジジュースだって安くはないんだけど。 


 フリットジークさんの様子を見て、どうしようかと躊躇っていた若者が一人後に続く。

 そして同じような反応を示してからは、餌に群がるアリの集団のように我先にとテーブルの周りに群がるのだ。


「量に限りがあるから一人二杯までなのですっ!」


 機嫌良く現場を仕切るアルジェンの姿に、この子を俺に付けてくれた魔界蟲に何度目かの感謝を捧げる。

 俺達だけだとしょうも無い利害関係や損得勘定で行動を決めていたのだろうが、アルジェンにはそんなものは無い。

 既にコイツにとっては黒装束集団もイイねを貰ったフレンドとなんら変わりはないのだ。


「じゃあパパ、私の食器お願いなのですっ!

 黒装束の皆のことはベルっちに任せておけば良いのです!」

と言うと俺の頭にパイルダーオン。

 御膳立ては終わらせたのだから、後の政治的な話はベルさん達に任せろと一方的に決めたようだ。


 任されたベルさんは、やはりまだ彼らの受け入れを決めかねているようだったが、紅茶を飲んでリラックスした様子のルーファスさんを俺の前に連れて来る。


「俺達は今日からこのクレストさんの傘下に入ることとする!

 もし俺の連れて来た者がクレストさんに不利益を与えるようなことがあれば、俺の指を落としてくれ」


 ルーファスさんがそう言って頭を深く下げる。指を落とすと言うのはキリアスの習慣なのか?

 確かに指が一本無くなるだけでも拳を十分に握れなくなるから、俺と同じ格闘家スタイルのルーファスさんには十分なハンディになるけど。


 それともヤクザ的なケジメか?

 そう言えば、召喚された勇者の中にはヤクザっぽい人も居たらしいから、キリアスでは指を詰めるのが不始末に対するケジメの付け方なのかも。

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