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第175話 スライム坊主のお宅へゴー!

 海運業ギルドで七三分けさんと遊んでからお昼ご飯。

 夜中に遊びに来ていたスパイドラゴンのドランさんのお陰で、ホテルに居ながらにして潜入捜査が出来たのだ。


 アルジェンもスパイ活躍向きの魔法は持っているけど、アレコレと興味が移りやすいし忍耐強さもない。

 ドランさんは割とおっとりしていて辛抱強いので、張り込みにも向いている。


「えっ! フレイアさんってガースト宰相の姪なの?!」

「そうだよ。クレストは王城の関係者と気が付いてたみたいだけど、良く分かったな」

「元々影の見張りの動きで、四人の内の誰かは監視役だとすぐに分かっていました。

 カルマさんとジャンヌさんが居なくなっても影が付かなかったので、フレイアさんかリンさんのどちらで、後は勘かな」


 勘、と言っても相手はアルジェンが居るからだと想像してくれるだろう。

 何も全部ネタばらしをする必要はない。

 俺に隠し事をするのは難しいぞと勝手に思ってくれたらラッキーだ。


「ただの成り上がりと食っちゃ寝妖精かと思ってたんだけど、やるときはやるもんだな」

「俺って成り上がりなのかな?

 偶々(たまたま)キリアスでお宝ゲットして、『魔熊の森』に飛ばされてたんだよね。

 キリアスで何があったか全然覚えてないし」


 キリアスで、と言うよりどうして転生したのかも分からない。日本で暮らしていたときの記憶は残っているのに、転生直前の記憶は消えているのだ。

 何者かが意図的に消したとしか思えない。


 多くの転生者がこの世界には居るようだが、科学技術の進歩が今一つなのは記憶にフィルターを掛けて転生させられているんじゃないかと思う。


 召喚勇者が問題行動起こしまくりだったから、転生者の行動を制限する目的があったのでは?と勝手に思う。

 俺がスライムとして転生していたのは、骸骨さんの体が残っていたから魂の器にしたのだと想像しているが、それなら最初から骸骨さんの体で復活させて良かったんじゃないかな?


 日本のサブカル好きな転生神が『復活したらスライムな件』をやってみたいとノリで決めたのかも。


「そう深刻に考えなさんな。

 キリアスでの行動はコンラッドじゃ裁けないんだしさ、クレストの居た勢力はもう消えている可能性もあるんだろ」

「そうなのです!

 パパは私を甘やかすことに集中すれば皆ハッピーになるのです!」

「世界はアルジェン中心には動いてないと思うけどね」


 顔中を脂だらけにしながら焼き肉に食らい付くのは、元が魔界蟲さんだからかな。

 どう見てもクチのサイズとアルジェンの中に入っていく料理のスピードがマッチしていないのだが、誰も気にせず世話を焼いてくれる。


 最近は女性陣がラルムとピエルをお手拭き替わりに使い出してるしな。

 古い角質も食べてくれて手が綺麗になるらしい。


 食事が終わり、アルジェンも皆の手もツヤツヤになったことだし。


「さて、スライム坊主に会いに行くか」

「本当に行くの?」

「襲われたりしないよね?」


 アヤノさんとセリカさんが少し身を固くするが、この世界にはまだ同人誌もエロコミックも無いはずだ。

 スライムには本能的にそっち方面を意識させてしまう何かがあるのなのかも。

 それとも単に溶かされる心配をしているのかな?


 スライムだって危害を加えない人間には何もしない…と思う。性格は個体差が在るかも知れないけど。


「大丈夫大丈夫!

 スライムだって言うこと聞いてくれるよ」


 アルジェンの言うことなら多分ね。

 ラルム達は普通のスライムとは違うから参考にはならないけど。


「それにスライム液を分けて貰うのが目的だし。皆にスライムプールで遊ぼうとか言わないし」

「遊びたいと思うのは世界でクレストさんとアルジェンちゃんだけよ」

「そもそもスライムプールって何よ?

 下の方のスライム、潰れてない?」

「ぐずぐず言わないの。さぁとっとと行くよ。あんたらの旦那が行くって言ってんだからね」

とフレイアさんが二人のお尻を叩く。女同士でもセクハラ?


「旦那じゃないけど、イヤなら無理にとは言わないし。フレイアさん達は付いて来るんだよね?」

「見張り役だから当然。

 アヤノ達はホテルに引き籠もってりゃ構わない」

「行きますっ!」

「戦地に行くわけじゃないんだから、そんなに必死にならなくて良いんだけど」


 何をそんなに怖がってるのやら。

 ダンジョンの天井から突然落ちてくるアメーバタイプのスライムじゃないから大丈夫と思う。

 そっち系のスライムだったら俺でも怖くて近寄らないよ。


 それからテクテク、とぼとぼとしばらく一度通ったことのある道を歩く。

 スライム坊主の家は住宅地と学区の堺にあったのだ。

 紙を研究しているフォイユさんも、この家の前をいつも通っていてスライム液に辿り着いたのだろう。


 トイレスライムの開発でかなり儲けているはずのスライム坊主ことジェルボさんだが、屋敷はごく普通でスライム小屋は地上には見当たらない。

 庭に小屋があるが、それが地下のスライム飼育施設の入り口だろうか?


 玄関に立ってコンコンとドアをノックすると、すぐにバタバタとジェルボさんが奥から出て来た。


「やぁ、良く来てくれたね。

 独身なもんでおもてなしは出来ないが入って入って」


 廊下には研究資料なのか羊皮紙の束が大量に積まれているが、たとえではなく、本当に埃を被っている。

 一人暮らしでスライム達の世話と研究に没頭しているものと思われる。

 紙資料のデータ化を勧めてやりたいが、スキャナもパソコンも無いのだから資料は溜まっていく一方だろう。


 通されたリビングがガラスケースに入ったスライムだらけなのにアヤノさん達がドン引きしているが、バッグから出て来たアルジェンが、

「ここのスライム達は大人しい子達なのです。頭を撫でてやると懐くのです」

と言って皆を落ち着かせた。


「その妖精…は、スライム達の事が分かるのか?」

「ふふふっ! 私を舐めてはイケないのです!

 世界で唯一のスライムライダー!アルジェンなのです!」

「人間はスライムに乗れないから当然だよな」

「あの…誰も突っ込まないけど、スライムに頭ってあるの?」


 アヤノさんの冷静な質問にジェルボさん、アルジェン、それと俺も声を揃え、

「…さぁ?」

と応える。

 

 ガラスケースの中のスライム達が何となくココ!ってアピールしてるようにも見えるけど、多分気のせいだろう。


 アルジェンは勝手にガラスケースのスライムの方に飛んで行ってしまった。

 他人のスライムで勝手に遊ばないで欲しいものだ。


「それで、今日はスライム液を分けて欲しいって話だけでは無いんだよね?」

「はい! スライム素材の可能性についての話を」

「クレストさんっ! 本気ですかっ!?」


 アヤノさんが俺の言葉を途中で慌てて遮った。何かマズかった?


「え? 俺結構マジなんだけど…ダメ?」

「ラルムとピエルを素材になんてさせませんから!」

「それはない。この子達は俺の家族だし。

 素材の研究をしちゃ駄目って言うのかなと思ったよ」


 ポケットから二匹を取り出し、背中?を撫でてやると気持ち良さそうに見える。


「ほぉ、それは初めて見たスライムだ!

 新種かもな。どこに居た?」

とジェルボさんがすかさず二匹に興味を示す。

 スライム好きにはこの子達の透明感は堪らんだろうな。


「俺が『魔熊の森』で目を覚ました時に、コイツらが居たんだよ。それからずっと一緒だ」

「クレスト殿を守ろうとしたのかも知れんな。まるで宝石のようだ。

 私の見付けたガラススライム、フェルムスライムの上を行くかも知れん。さすがスライム愛好会名誉会長なだけはある」

「名誉会長? そんなの就任した覚えは無いけど。会員は何人?」

「今のところ私と彼女達四人だね」

「そりゃ少ないな」


 名誉会長か。特に仕事がないなら引き受けても構わないか。


「ちょっと! 何を勝手に会員にしてるんですかっ!」

「本当ですょ! 私はプレートアーマー同好会にスカウトされて断ったばかりなんですから」


 アヤノさんとセリカさんがブーブー言ってくるが、プレートアーマー同好会とかあったのか。

 『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド)』が最近セリカアーマーと呼ばれ始めているし、セリカアーマーを纏ったセリカさんを多くの人に見せてあげたいから、断らなくても良かったのに。


「さすがにスライム愛好会は遠慮したいね」

「そうですね。戦女神の看板もありますし。

 特定の魔物を依怙贔屓するわけには行きません」

とフレイアさんとリンさんも拒むが、リンさんは悪くは思っていないみたい。

 でも会員一人じゃ活動も何も無いし。

 それにリミエンにジェルボさんが引っ越してくれれば、いつでも会えるから愛好会を作る意味は無いかも。


「それよりさ、ガラススライム、フェルムスライムってどんなの?」

「私が五年の年月を掛けて生み出した新品種ですよ。

 スライムの皮が生息地によって少しだけ色が違うのは知ってますよね?」

「そうなの?」

「まぁ、常識ね。知らないクレストさんがおかしいわね。

 と言っても薄らと色が付いてるだけだから、意識して見ないと分からないかも」


 だってスライムって、ウチの子達とトイレスライムしか見たこと無いもんね。


「それで何故そうなるのかを調べていったのです。

 そこでその地域の土を餌に混ぜて与えたところ、スライム液が液状化したガラス成分や鉄を含むスライムが生まれたのです」

「餌によって性質が変わってくんだね」

「ええ、ある程度は」

「それでずっとガラスと鉄を与え続けたんだ?」

「はい。何代にも渡って餌に混ぜ続けてやっと綺麗な液状のガラスが取れるようになりましたよ」


 液状のガラスって常温で液状ってことだよね?

 ガラスは熱して溶かしても、冷えたら固まる。

 だからそれを作るのって物凄い技術だと思うけど、スライム坊主ってトイレスライムしか知られて無いよね?


「その液状のガラスって、何かに利用してるの?

 大量に取れるなら、ガラスの実験してる人に分けてあげたいんだけど」

「残念ながら、まだ個体数が少ないんです。

 栄養価が足りないのか、消化不良を起こしやすいのか、生存率が低くてね。

 鉄の方も同様ですね。

 将来的にはガラスや鉄を与えなくても、それが採取出来るようになれば資源の節約になりますよね」

「なるほど。品種改良は難しいんだ」


 触手の研究してるとか噂されてたけど全然違うじゃないか。

 やっぱり先入観が悪い噂を呼んでるんだね。

 そう言うまともな研究なら、国の機関でやっても良いと思うけど。


「触手の研究をしてると聞いたんだけどね」

と俺の代わりにフレイアさんが聞いてくれた。


「触手も研究してましたよ。

 いくらでも生えてくるので食用に使えないかと思いまして」

「食うんかいっ!

 ソレはちょっと無理矢理ぽくない?」

「与えた餌の量より少量しか取れないのでやめましたけど」

「そこ、量の問題じゃないと思うわよ」


 アヤノさんの言葉にジェルボさん以外が一斉に頷いた。


「ですが、その実験でスライムの皮が樹脂の原料として使えそうだと分かって、材料研究所とタイアップ出来るようになりましたよ」

「なるほど、それで素材研究所に風当たりが強くなった訳ね。

 役人の中にもアンチスライム坊主派が居るから」


 フレイアさんが役人の事を教えてくれたが、人の役に立とうと研究してるのに許せん奴だな。

 まぁ、それ以外にスライム坊主側のプレゼン不足も原因の一つなんだろうけど。


 研究するなら偉い人達にきちんと筋道立てて説明して、ウンと言わせて研究費を出させるように持っていかないとダメだよ。


 趣味で育てた薔薇の中にカオリが居た事例もあるように、魔物ってどう言う原理で発生するか分からない部分もまだ多いのだ。

 だから、周囲の人達がジェルボさんの飼っているスライム達を恐れるのは仕方ない。


 ジェルボさんもアルジェンのようにスライムとも意思疎通の出来る仲間を得ないと、この先も本当に安全とは言い切れないかも。


「ところで、トイレスライムって餌をやらなくなったら死ぬの?」

「次第に小さくなっていくけど、ある程度の大きさになったら共食いを始め、最後に一匹から四匹ぐらいに数を減らす。

 それから更に二センチぐらいになったら活動を休止する。

 それで次に餌が来たら復活するんだ。餌が十分にあれば成長と分裂を繰り返していき、そのトイレの大きさに適した数で落ち着くんだよ。

 これ、スライム全般的にこのようにして種族を保存していくんだ」


 と言うことは、スライムには寿命が無いってことか?

 となると、俺がスライムに転生させられたのは寿命が無いから長い期間を掛けて強くなり、骸骨さんと合流させようと転生神が画策したって可能性もゼロでは無いか。


「スライムは魔石を破壊、若しくは取り出さない限り、いずれ再生する。

 ただ、ガラスと鉄のスライムの実験中に体力の無いスライムは他のスライムに食われていったから、スライムの中にも上下関係はあるかも知れないな」


 食われたと言うより吸収合体なんだろうね。

 そうやって環境に適したスライムだけが勝ち残る、実にシンプルな野生の世界じゃないか。


「不老不死を研究したら、行き着いた先がスライムでした!みたいな話、クレストさんは好きそうよね」

「妄想系っていうのかしら?

 それに恋愛要素も入れたらヒットしそうね」

「クレストは何処かにオチを求めるようなやつだからな。

 途中に失敗していて最後にそれで自滅するような話になるんじゃないか?」

「言えてるね。

 発布会で保護令の対象の妖精に歌わせたんだもん、あれは歴史に残るオチよね」


 女性陣が好きずきに言ってくれるが、俺の指示じゃなくてアルジェンが勝手に歌い出したんだよ。

 止めなかったけどね。


 暇が出来たら小説を書くのも悪いないな。

 勿論その前に印刷機を作らないとダメだけどね。

 そうだ、最初に作る印刷物は、識字率アップの為に絵本にしよう。

 勉強が貴族や金持ちの特権の時代はいつか終わらせてやるからな…あ、そう言う考えをするから、姫巫女シャーリンさんに国を変えるなんて予言されたのかも。

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