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第174話 海運業ギルドへゴー!

 鍛冶師ギルドでオヤツを食べたら仲間が別れた…別れたと言っても居なくなった訳じゃない。

 二手に別れて行動するって意味だからねっ!

 まさかアーモンドミルクの紹介をしただけで農園に行くとは、どれだけ期待値が高いのやら。

 

 鍛冶師ギルドマスターのミッサーさんも、この人達は正気かと疑ってたみたいだけど、商機があるなら乗らない手はない。

 だけど、俺はまだ冒険者のつもりなんだけど、これで良いのか?


 鍛冶師ギルドで取り扱っている素材のリストを明日のうちにホテルに届けて貰うことに決めて、八人から四人に減った護衛を連れて次は海運業ギルドへとやって来た。


 海の無い王都には海運業ギルドの本部は無いが、王都に構えた事務所なのでそれなりに綺麗な平屋の建物である。

 ドアを開けて入ると海に浮かぶ船の絵が最初に目に入って来た。


 それからすぐに上級クラスぽい綺麗な七三分けの男性職員さんがツカツカと歩いて来て、

「海運業ギルドへようこそ。

 どのような御用でしょうか」

と聞いてくる。


「取り寄せられる商品のリストを頂けますか?」

と聞くと、俺の顔は知らない顔だと記憶で確認したのか、

「どちらかの商会の関係者の方でございますか?

 個人的なお取引は本ギルドでは致しておりませんが」

と少し威圧感を出して言ってきた。


「そうなの? おかしいなぁ」


 リミエンに来ているジョルジュさんはそんな事は一言も言わずに、椰子の実の購入を快く引き受けてくれたんだけどね。


「何がおかしいので?」

「知り合いから聞いたんだけど、海運業ギルドに海外の品物で欲しい物を買って来てよとお願いしたら、すぐに引き受けてくれたって」


 それを聞いて七三分けが少し考える。


「そのような話は伺っておりません。

 そもそも海洋貿易には多くのリスクがございます。

 それに船に積載可能な荷物の量にも限りがあります。

 個人的なお願いで動く船はありません」


 断る理由だけ聞くと、確かに理解出来ないものではないが納得は無理だな。


「俺だってそれぐらい知ってるよ。

 それに天候と運に恵まれないとイケないこともね」


 この職員さんは頭が硬いのか、堅実なのか、それとも面倒くさがり屋なのか。

 ここまでの話だけで判断が付かないな。


「まぁ、どっちでも良いや。

 取り扱っている商品リストが無いなんて有り得ないし、筆写の費用と手間賃は払うから一部欲しいんだけど。

 それなら頼める?」

「こちらは無駄になることはしない主義でございますので」

「ふぅん、そうなんだ」


 そのリストを俺に渡しても商売に繋がらないと考えているのかな?

 船主によって方針は違うだろうけど、なんか自分はエリートですっ! 貴方にリストを渡してもトイレットペーパーにしかなりませんょって言ってるようでイヤな感じ。


「無駄でも良いから頼むよ。海外にはどんな物があるのか、スッゴク興味あるんだよ」

「海運業は興味本位で行える事業ではありません。

 まともな用事が無いならお帰り下さい。業務の邪魔です」

「経費節約? 受付嬢を置かないそちらが悪いと思うんだけど」


 この人の仏頂面がどう変わるか見てみたいから、ちょっとからかってやるか。


「興味本位で出来る事業じゃないことぐらい知ってる。

 海外の珍しい食品とか取り寄せて、貴族達に売って儲けたいんだよ。

 それでもダメ?」


 勿論そんな予定はありません!

 南国のスーパーフードや和風食材があるなら、俺が船主になりたいぐらいだし。


「残念ながら、そう言う商売は既に枠が埋まっています。

 それに枠が空いたとしても、新規参入者は相手にされません」


 いかん、それは無いだろうと思わずクスッと笑いが漏れる。


「それは既得権益万歳三唱主義で、競争の原理を妨げ、一部の者で富を独占してるって理解で構わないかな?

 いや、それ以外の理解の仕方があるなら、それは意図的な曲解に過ぎず、不当に俺との意思疎通を拒む態度を取りつつ、なんだこの馬鹿野郎と内心思っているのを上手く隠せてシメシメな気持ちになっていると理解しますが、どれだけ間違ってますかね?」

「…」

「あら、図星梅干し天日干しの大正解だったかな?

 今の気持ちは、お前みたいな口煩いだけで女ばっかり連れてヘラヘラしている若造はギルドの威を借りた儂の力でケチョンケチョンのポポイのポイにしてやんぞ、ってとこかな」


 ココまで言えば、七三分けも顔を赤くして沸騰寸前みたいになってきたね。


「それに海外にはその独占者達の知らない品物がまだまだ眠っている筈なのに、それを掘り起こそうとしない海運業ギルドのお偉いさん達の馬鹿さ加減の理解に苦しむよ。


 それとも全ての品物を知り尽くし、コンラッドの益になるものは今の取扱い商品以外には無いって言うのかな?

 それなら証拠の耳をイチミリ単位でキッチリ揃えて出して貰おうか。


 それとも、俺みたいなどこの熊ったちゃんの骨か分からないような奴の相手は時間の無駄無駄無駄オラオラオラーッと言ってるのかな?」


 どんな罵倒を浴びせられるか、楽しみだ~。

 さあ、来るぞ来るぞ! スリー! ツゥー! ワンっ! 


「(とっとと出て行けっ!)」


 精一杯の声を出して叫んだみたいで、ゼーハーしてるとこ悪いけど、君の周囲には既にアルジェンが遮音魔法を掛けてるからさ、こちらには何も聞こえないんだよ。

 わざとらしく耳に手を当て、もう一回どうぞと煽ってやる。


 すると指をドアに向けて、物凄い剣幕で出て行け出て行け出て行けーっ!と言ってるみたいだけど、何も聞こえないのでアヤノさん達がポカンとしている。


 ここでアヤノさん達には種明かし。


「アルジェン、ありがとう。

 あのオッサンが可哀想だから、サイレントサークルを解除してやって」

「嘘ッ! いつの間にっ?!」


 揃って驚いたアヤノさん達の前で少しぐらい優越感に浸っても構わないよね?


 鞄から姿を見せたアルジェンを目にして、七三分けの表情が怒りの赤から恐れの青へ、そして過呼吸でも起こしたみたいに落ち着きが無くなった。


「じゃあ改めて自己紹介しようかな。

 俺はリミエン冒険者ギルド所属のクレスト。

 気軽にクレストさんって呼んでくれ。

 あぁ、ついでにこんなカードも持ってるんだけど、このカードの意味は知ってるよね?」


 そう自己紹介し、金色のギルドカードを七三の目の前に突き付けてやる。さすがトリプルスターを目にすると、大きく目が開くらしい。


「クレスト…何故?」

「何故ここに居るのか?

 そりゃ、最初に言っただろ。

 それとも何故そんなに格好良いのか、か?

 いやー、照れるなぁ、生まれつきだぜ」

「それは絶対聞いてないょ」

「おぉ、クレスト、あなたは何故クレストなの、ってセリフを言いたかったのも違うからね」


 アヤノさんとセリカさんに真顔で突っこまれた。


「ちょっとはこのおじさんで遊ばせてよ」

「そうなのです!

 こんな可愛いパパのお願いをアッサリコッテリニッコリ却下するような人はこの世に存在してはならないという法律を作って欲しいのです!」


 俺の肩の上でビシッと七三分けさんに指を差し、腰に手を当てる姿はいつものアルジェンだ。

 特に機嫌が悪い訳でもない。


「おまえ、どんな顔で七三さんが怒ってたか見て無いだろ」

「声でイメージしたのです。

 もう少し悪人寄りの顔をしてたら、もう少し悪口を付け加えてやるのです!」


 フフフと笑うアルジェンに七三分けが蛇に睨まれた蛙の子みたいに竦みあがる。


「試しに付け加えたバージョン言ってみて」

「私のパパのお願いをアッサリホッコリモッコリドッサリ却下す…」

「アルジェンちゃん、不毛だからそれ以上言わなくて良いからね。

 それにクレストさんも言わせないでよ」

「…るような人はゴキブリにも嫌われてお仕舞いなのデス!

 ちなみにこのセリフは発動すると、途中で解除不能な設定があるかも知れないって思わせるような気がするのです!」


 誰かが「気がするだけで無いんだよね?」と確認してるけど、間違いなくそんな設定は無いからね!


「冗談はさて置き、商売人は…」

「冗談だったのです?

 完全に騙されたのです! 酒宴俳優賞ものなのです!」

「それは()し物レベルってことかしら?」

「話し合い、進めて良い?」

「あら、ごめんなさい。続けてあげて」

「それなら私はお昼ご飯まで寝る子は育つなのです!」


 多分アヤノさんは場を和ませようとしているのだろう。アルジェンも素直にバッグに戻ってくれたし結果オーライ。


「えーと…ともかく七三分けさん、商売人は人を年齢や外見だけで判断したり差別したり、ましてや特定の人物を組織から除け者にしたり、不当に左遷させたりしちゃダメだと思うんだよね。

 勿論、業務上横領、賄賂、架空計上、粉飾決算などなどは当然だ。

 そう思わない?」

「その通りで…」

「だけど七三分けさんは俺を見て、若くてヘラヘラしてる何処かの馬鹿だと思い込んで、まともに取り合おうとしなかったでしょ」

「…」

「偉そうにする貴族ならまず名前を名乗って貴族アピールするから、名前を言わない俺はただの成り上がりに思えるもんね。

 で、何故トリプルスターのゴールドカードなんて持ってるかって聞きたかったの?」


 こくんと頷く七三分け。


「欲しいと言った訳じゃないよ」

「くれないわよ」


 …今から説教しようと思ったのに、誰だよ、マジメに突っこむのは?


「あんたみたいなムカつ…ゴホン、人によって態度を変える日和見野郎を懲らしめたいって思ったお偉いさんが居るからだろうね」

「ゴールドカードは知ってたけど、まさか三つ星レストラン級とは知らなかったわ」


 犯人はフレイアさんか。

 ギルドカードのトリプルスターをレストランのランクと同一視するのはどうなの?

 貰える難しさは同じぐらいかも知れないけど、社会的影響は全然違うからね。


「商売人に一番求められるのは誠実さだ。

 不誠実で信用出来ない商売人とは誰だって取引したくないもんね。

 七三分けさん、ここの一番偉い人?

 違うなら呼んで来て、いゃ、案内してよ。

 あと、オヤツはさっき食べたから出さなくていいから」

「何を言ってるのです!

 貰えるときは貰わないと失礼に当たるのです!」


 バッグから顔を覗かせるアルジェンがオヤツっ!オヤツっ!とアピールする。


「まだ寝てなかったの?」

「歳を取ると寝付きが悪くなるとか、ならないとか、でも私はまだゼロ歳なので歳のせいではないのです」

「良く分からないけど分かった。

 事務のお姉さんにお強請りしてきて良いから」

「了解なのです!」


 アルジェンがビシッと敬礼して、パタパタと受付窓口と看板のある部屋に飛んで行った。


「これでアルジェンが居なくなったから落ち着いて話せるよね?」

「アルジェンを離す為にオヤツの話を振ったんだ。

 さすがクレストさんね、アルジェンちゃんの性格を良く分かってるわ」


 …ごめん、そう言うつもりは一切無かったんだけど。

 そう勘違いしてもらえるなら、このまま黙っていよう。


「それじゃ予定変更、パターンBに話を変える。

 リミエンに運んでる俺の荷物を載せた馬車を襲った連中、雇ったのはこのギルド支部だよね?」

「…急に何の話だ?」


 まぁ、これぐらいで顔色変えるとは思わないけど。


「そう惚けなくて良いから。

 ジョルジュさんの船から降りた女の持っていたマジックバッグが目当てだったんだろ?

 三十人もよく実行部隊を雇えたな。

 でもね、人数が多いってことはそれだけ秘密が漏れる可能性も増えるってことなんだよ」

「……」

「まさかボードンの線から盗賊団に繋がるとは思ってもなかったよ。

 たまには空飛ぶ人にぶつかってみるもんだ。

 悪い奴らって仲間意識が強くさ、ゲロさせるの大変だったらしいけど」


 アヤノさんとセリカさんが複雑な顔を見せる。

 急に話が跳んだことに戸惑うのは当然だね。

 勿論パターンBってのはクチからデマカセだ。


「オリビアさんが殆ど一人で片付けたって言う、あの事件の黒幕がこの人?」


 アヤノさんが七三分けさんを指差した。


「それにブリッジちゃんを大暴れさせたり、光輪で樹をなぎ倒したり、あと『煉獄の焔(プルガトリーム)』でキャラバンを脅して大将の座に就いたって話よね」


 その話は初めて聞いたけど。

 あぁ、それで護衛の人達がオリビアさんにペコペコしてたのか。納得だ。

 話が跳んだから複雑な顔をしたんじゃ無くて、オリビアさんの活躍振りがそうさせたんだね。


「オリビアさんの話は帰ってから本人に聞くよ。

 で、こっちはリストだけ貰って大人しく帰るつもりだったんけど、七三分けさんの態度に少し腹が立ったから、ついでに強制執行させて貰うよ。

 だってこのカード、年会費が大銀貨百枚だからさ、使わないと凄い損害なの!

 元は取れるときに取らないとね」

「八つ当たりで強制捜査…を?

 クレストさんらしいわ」


 アヤノさんが額に手をやり、頭が痛いわアピールだ。


「だがそうであっても、商業ギルドのゴールドカードでは海運業ギルドの捜査は出来まい」


 七三分けさんがフンと鼻を鳴らす。やれるもんならやってみなって軽い挑発のつもりかな。


「そうだと思う?

 俺がここに入った時点で、捜査当局は泳いでる白鳥の脚みたいにバタバタと動き出してるんだよね。

 そう言う手筈を整えて来てるからさ。

 まぁ、隠れて見張られたり、正体を隠して付いてきたりするのは、如何なものかと思うけど」


 フレイアさんに視線をやるが、何のことかしらと涼しい顔だ。

 けどね、そっちも王城からの回し者だってことはバレてるんだよ。

 戦女神が付いている時は影の人達が居なくなるってアルジェンが気が付いて、ドランさんにコソッと影の人達の話しを聞いて貰ったんだから間違いない。


 海運業ギルドの件も同じだ。

 ボードンの居場所は分かっていたので、ちょっと盗聴させて貰ったら、誰も聞いてないと油断してたのか、ぶつぶつ独り言で黒幕の話しをしていたわけだ。

 水晶の体で空も飛べるわ、猫に化けるわ、ドランさんってスパイするために生まれてきたんじゃないのかって思うよ。


「まぁ、悪事はいつかバレるもんだ。

 商売人としても、化かし合いの勝負でも、七三分けさんは俺の足元にも及ばなかったね。

 素直に諦めて、痛い目に遭う前にゲロゲロゲロッピーになりなよ」

「クレストさん、本当に証拠はあるのね?」

「アルジェンが処分させないように見張ってるからね。

 うん、実にラッキー。

 チャキチャキと隠し場所に案内しなよ。俺だってこの後の予定が詰まってんだ。

 あ、そうだ。スライム坊主を連れてきて、七三分けさんをスライムプールにご案内して貰おう。

 どこから溶けるか楽しみだな~」


 そんなにスライムプールで泳ぐのがイヤだったのか、七三分けさんは素直にゲロッてくれた。

 捜査当局云々は嘘だったから助かったよ。


 皆! スライムを脅迫に使っちゃダメだからねっ!

 昨日は元日の大震災と言う、過去に例の無い一日となりました。

 私の住むのは瀬戸内海地域なので被害はありませんでしたが、寒い中で停電になったり、津波が来たり、火事が発生したりと、ニュースを見るたびに心が痛みました。

 被災地域の一日も早い復旧と被災された皆様の安心が早く確保されますように。

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