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第170話 主役はこの人?

 やっと男に戻れたよ!

 しかも今度は遺伝子組換えでスーパークレストに大変身っ!


 当初の予定より長い間エマさんに変身していたお陰で、アルジェンがエマさんの色素の情報を特定出来たのだとか。


 ホテルのロビーに鍵を預ける時に、ボーイさんが『あんた誰?』って顔をしたけど気にしない。


 アルジェンはバッグでお眠、カオリは窓辺でドランさんはリミエンに帰るそうだ。

 晩御飯は毎晩ブリュナー飯を食べることに決めたらしい。

 ドランさんが居れば、リミエンにも手紙やお土産をマジックバッグ経由で直接送り届けることが出来るようになる。


 ただし体のサイズの都合上あまり大きな物は運べないが、そもそもマジックバッグはクチのサイズより大きな物は入らない。

 チビでもドラゴンだけあって怪力のドランさんだからダンベルだって出し入れ出来るけどね。


 それで、だ。

 今はベルさんがマル冒の職場に行ってしまったし、マーメイドの四人も居場所が分からない。


 つまり、自由! なんて素敵な言葉の響き!


 しかも髪の色が茶色に変わっているので、町の人も俺が妖精を連れている冒険者とは思うまい。


 さぁて、晩御飯まで二時間はある。気楽に王都のお店を見物してみるか。

 行くならやっぱり武器屋と防具屋かな…でも使う予定が今のところ無いし、違う所を覗いてみるか。


 明後日にはビリーと観光するから、観光とは無縁の場所で…何々、『閉鎖中』の立て札があるのは劇場じゃないか!

 俳優さんのスキャンダルで潰れてしまったそうだが、まだ建物は残っていた。建物は壊すのも面倒だし、何かに流用するんだろう。


 構造は町の小学校の体育館ってイメージだ。

 イケメン俳優や美女俳優の絵が壁に貼られていて、以前は演劇が上演されていた演目のタイトルとキャストの名前もズラズラと書かれている。


「これ、欲しいな」

と思わず声に出る。

 でもさすがにこれは持って帰る訳にはいかないよね。欲しいのは建物丸ごとだからね。


 いいなぁ、欲しいなぁ、そう思いつつぐるりと劇場を一周する。

 誰に言えば貰えるのかな?

 大きな正面玄関に近付いて連絡先が書いてないかと探してみるが、特に目印になる物はない。


 そうこうしていると、

「済みません、劇場の関係者の人ですか?」

と後ろから女性に声を掛けられた。

 振り返ると十代半ば、今日会ったシャーリン王女と同じ年頃の女の子が息を切らしていた。

 服は質素で良いものではなさそうだけど、キリッと締まった顔付きと短い髪は少し格好いい男の子にも見える。


「関係者と言えば関係者だけど、ここじゃ無いからなぁ」

「はい? どっちかハッキリしてください!

 私の人生が掛かっているんですよ!」


 いきなり何だよ? 劇場に縁がある人?


「王都じゃなくて、リミエンに作る劇場の関係者。分かる?」

「えっ?! リミエンって畑しかない所ですよね。劇場なんか作っても潰れますよ!」

「うん、普通に考えればそうなる。

 だから潰れないように色々考えてる最中。

 それで、君は?」

「役者を目指して王都に来たんです!

 なのに、その劇場が閉鎖してるってどう言うことなんですかっ!」


 そして俺の首をガシッと掴んで力を入れるなって!

 言っとくけど、俺はか弱い一般人なんだからポキッて頚骨折れるかも!

 

「パパに何をしてくれてるんです!」

とアルジェンが出て来て女の子の額にチョップ!

 小さいからと、アルチョップを舐めてはイケない。

 こう見えて成人男性と同程度の筋力はあるのだから、ほぼ点と化したアルチョップが痛く無いはずがない。

 強力なデコピンを食らったみたいにベチッと音がする。


「痛いじゃないですか!

 ソレになんですっ、その妖精は!」

「オッス! おらアルジェン!なのです!」

「アルジェン、なるべく出てくるなよ。面倒になるから」

「分かったのです! カイオーセーで睡眠学習するのです!」


 聞き分けよく鞄に戻ってくれたが、アルジェンに気が付いた人もそばに何人か居るようだ。

 だが、俺の姿が変わっているからか、遠巻きに見ているだけで近寄ろうとはしてこない。


 どうでも良いが、俺のバッグはカイオーセーでもなければ睡眠学習の設備も無い。

 あと、カイオーセーで睡眠学習する意味は無いと思う。


 アルジェンのことはどうでも良くて、今はこの女の子だ。


「この劇場が閉鎖したのは、花形スターのスキャンダルが原因らしい。

 人伝に聞いたんだけどね」

「嘘~! じゃあ私はどうすれば良いんですか!

 ここでスターになる気満々で村から出て来たんですよ!」


 気合いだけでスターになれるなら警察いらないだろ。


「俺に文句言うなよ。俺だってここの劇場関係者を探してたんだし。

 それにスターになんて簡単にはなれないぞ」

「闇営業も枕営業もやむなしと覚悟してきたんですよ!」

「どっちもやっちゃ駄目っ!」


 闇はともかく、若い女の子が枕営業とか言っちゃ駄目だよ。多分、売春防止法違反だろ。


「あとパワハラ、セクハラも駄目!

 それが原因でここのスター達が地に落ちて劇場がつぶれたんだから」


 それにしてもこの子は役者志望か。

 かいわれ大根になるかも知れないけど、使えるならキープしとこうかな。


「役者の卵さん、得意な役は立木とか?」

「そうそう。舞台の端っこでずーと立ってるだけの…そんな訳ないでしょっ!」

「なら、ちょっとこのセリフを気持ちを込めて動作を付けて訴えるように言ってみて。

 『何だコリャー!

 実に面白いぞ、謎々は全て解けたよ、お前のやったことは、全部お見通しだよ。

 同情するなら金は倍返しだ!

 八さん、やっておしまいなさい!

 承知しました。

 ちょっと待ってよ、僕は知りましぇーん!

 お坊ちゃまの目は節穴でございますっ!

 続きはウェーブで!』」


 うん、我ながら良いセリフを思い付いたな。


「なんです、その変なセリフは?

 別に構わないですけど…では…

 『何だコリャー!

 実に面白いぞ、謎々は全てじっちゃんが

解いたよ、お前のやったやつは全部スルーパスだ。

 同情するから土下座しろと言ってんだ!

 御隠居、コイツはうっかりだぁ

 僕はちがう! 五十年後の君と、今と変わらず挨拶してる!』」


 うん、役者志望って言ってるだけあって、照れとか無くて声も良いけど、俺の言ったセリフがかなり変わってるね。


「悪く無い。けど、役者になるなら記憶力も必要だよ」

「急に言われても覚えられないし!」

「それでアドリブね。

 じゃあアクションの方は?」

「当然自信はあります!」


 ふむ、それなら少し試して判断しよう。

 マジックバッグからホクドウを二本取り出し、一本を彼女に渡す。


「変わった形の…木剣ですね」

「まぁね。これも意外と役に立つんだけどね。

 俺が打ち込むから、格好良く反撃してみて。

 じゃあ、行くよっ」


 奇襲気味に上段からブンと一振り、だがそれは横に倒したホクドウで受け止められ、カツンと大きな音を立てた。


 その音に反応した通行人が『何だ! 喧嘩か!』と注目するが、目の肥えた人達なのか本気でないのが分かったらしく、すぐ散って行った。


 彼女に剣の心得は無いと分かるが、反射神経とスピードは悪くない。


「まさかと思うけど、格闘系?」

「だったら何よ! 悪いのっ?!」


 おや? 怒るってことは当たってる?


「それなら試しに俺に本気で攻撃してきて。

 じゃあ、左、左、右から」


 パンチングミットを手に装着したように構えるが、こう言う時は何も言わなくてもアルジェンが気を効かせてシールドを張ってくれる。

 まだ爆睡してなければ…うん…爆睡してました。


 仕方なく素手でバシバシ!バシッと彼女の放つパンチを受ける。

 そしてついでに放たれた左のミドルキックは前腕でガード…それは予定にないんだけど。


「残念、入らなかった」


 ローキックなら入ってたと思うけど、キックはスカートが邪魔でキレが無かったかな。


「どう? 中々のもんでしょ?」

「まぁまぁだね。

 側転、バク転は出来る?」

「パルクールで鍛えてたから当然よ」

「うん、採用!」


 アイリスさんが格闘系と聞いて、どう活かそうか悩んでいたんだけど、もう一人格闘系の女の子が居るならアクションショーとして成立しそうだ。


 ダブルヒロインにしても良いし、敵役にしても良い。

 シナリオライターの腕の見せ所…でもそのシナリオライターってビステルさん?

 あの人で大丈夫かな…


 本当は運営スタッフを先に確保しておきたいんだけど、やる気のある人が居るなら囲っておいて損は無いだろう。


「採用って? そんな権限、あんたに無いでしょ」

「それがあるんだよ。

 リミエンの舞台は俺の発案だからね」

「へぇ、じゃぁ、やっぱりあんた…」

「俺が何?」


 そこで何か言い掛けた彼女だが、何でも無いと首を振る。

 何を言いたかったのかは想像が付くし、下手に追求して逃がすのは惜しい。


「今のところはまだ施設も出来てないから役者に専任出来る保障は無いけど、リミエンに来てくれるなら仕事を紹介するよ」

「モデルと偽って変なことさせるんじゃないでしょね?」

「いや、モデルはやってもらうと思う。

 ファッションショーもやりたいし、今の文化を少しずつで良いから変えて行きたいんだよ」

「面白そうね。本当にエッチなことさせるつもりは無いのね?」

「スカートの丈が膝上になるのがエッチと言われてるけど、それぐらいかな」

「コッチはミニスカってないもんね…」


 今、コッチって言ったね。

 さっきの長いセリフで俺が転生者だと気付いただろうし、彼女のアドリブも元ネタ知らなきゃ出てこない言葉が入ってたし。

 俺達に危害を加えないなら保護対象だ。

 どんなスキルを持ってるかは特に問題じゃない。単なる仲間意識ってやつ。


「そうなんだよ。

 リミエンでもミニスカ流行らそうとしてるところ。キリアスには勇者がもたらした文化が残ってて、普通に歩いてたからね」

「見せパン履かせてもらえるなら問題なし。

 パンチラアクションショーとか、流行らない訳ないもんね」

「それは魅力的な提案だけと、さすがにそれは規制が掛かると思う。

 一分丈のスパッツもアウトだろうね」

「すぐにハレンチ言われるもんね。おしゃれ感覚が違うのよ…分かった、お金持って無いから仕事の世話してもらうわ。

 冒険者ギルドで登録しようとしたら、武器が使えないからって門前払い食らって困ってたんだ」


 レイドルさんと同じパターンだね。

 受付嬢によって対応が変わるのかどうか知らないけど、新人は町中の依頼からスタートするんだから初期の頃は関係ないのにね。


「じゃあ自己紹介しとこうか。

 俺はクレスト。リミエンの冒険者だけど、何故か商人とかイベント関係の仕事を任されてる」

「クレスト? つい最近聞いた気がするけど…気のせいよね。

 私はアリア。母親が付けた名前よ、楽器とは関係ないけど」

「そうなんだ。楽器はリミエンで作る予定だし、奏者も居るからそのうち広がってくかも」


 貴族の嗜みとしてウクレレでも流行らせてやろうかな。でもフォークギターを持って馬に乗るのも面白いかな。


「俺は明明後日の朝に王都を出る。馬車二台で来てるから、アリアさんも乗せていけるけど」

「明明後日っ!?

 私、今日の宿代も無いのよ!

 そんなノンビリ出来ないのっ!」


 そう言われても王都に俺の関係先は無いからなぁ。

 ミドルアットホテルでアヤノさん達と同室させてもらおうかな。


「アリアさんに会えたし、王都に来た甲斐があったな」

「ナンパには乗らないわよ」

「そんなのしないし。それに婚約者居るし。

 仲間のお泊まりしてるホテルに同室させて貰えるか聞いてみるからちょっと待ってて」


 鞄に手を入れてアルジェンを起こすと、パパのエッチ!と怒られた。

 電車の中で隣に座った女性が自分にもたれて眠りだしたら、起こそうとして触らないこと。

 それだけで痴漢扱いされるかも。


『俺は今からコイツを起こす!』と宣言し、ギャラリーの証言を得られる状況を作らないと冤罪確定! 実に理不尽にも程がある!


 愚痴はともかく、アルジェンレーダーの出番だな。


「アルジェン、アヤノさん達の居場所は分かる?」

「浮気する決心が付いたのです!?」

「あほか。そんなのしないから。俺はエマさん一筋だよ」

「二人に手を出しても誰も文句は言わないのです。

 でも、ヘタレで奥手で恋愛下手なパパらしいのです。

 では、探知してみるのです」

「そこまで言わなくても…」


 一度家族会議を開いて、アルジェンとよく話しあわないといけないかもね。

 でも恋愛下手な俺がよく短期間でエマさんと結婚する気になったもんだ。

 リタの行いが酷すぎて、その後に会ったから余計に良い子に見えたのかな?


 ロイとルーチェだけじゃなくて、今から思えばギルドの人達もそう言う雰囲気を積極的に作ろうとしてたよな。

 ライエルさんの策に嵌められた感じはするけど、エマさんとの結婚を選んだことは後悔していない。


 そんな状況なのに俺に周りから浮気と言うか、他の嫁を娶ることを薦めるこの世界、『フリンハブンカ』と言った昔のトレンディ俳優なら大喜びで転生するかもね。


 まあ嫁問題は今はポイってしておいて…


 アルジェンはアヤノさん達の出す魔力の波形を記憶していて、半径ニキロ弱の範囲を探査出来るのだ。

 普通の人間には到底出来ないが、漫画にはそう言うスキルもあるから、アルジェンだけが特別って訳ではない。


「発見したのです!

 パパには百メトル案内するごとに、甘やかして欲しいのです!」

「自己主張の強い妖精なのね」

「かなり助けて貰ってるから、つい甘やかしてね」


 アリアさんがアルジェンのセリフに呆れているが、かなりどころか魔界蟲本体さんには返しきれない恩がある。

 その本体さんの派遣した…予定ではアルジェンが本体さんの手脚になってダンジョンで行動する筈だったが、俺のスライム一匹とトレードした…子だから、無碍には出来ないもんね。


「さすがに歩きながらは危ない人だから、ホテルに帰ったらスイーツ食べ放題にしてやるよ」

「交渉成立なのです!」

「何とも見事な甘過ぎシンサクさんね」


 何と言われようとも、アルジェンの代わりは誰にも出来ないから仕方ない。

 右、左と指示を出してもらい、そして到着したのは見覚えのある武器店だった。

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