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第169話 やっと元通りに?

 アルジェン達の登録を済ませて城を出る。

 まさかの高額な登録費用にビックリだけど、お金が取れる所から取るのがこの世界の遣り方だから仕方ない。

 大銀貨百枚でウチの子達の安全を国が少し保障してくれるのなら、安いものだと諦めよう。


「この後どうする?」

「ホテルに戻って男に戻るまで籠もってますよ」

「そのままでも面白いけど」


 面白いとかそう言う問題じゃないからね。

 元の世界には階段から落ちて精神が入れ替わった男女の高校生の映画もあるけど、性別が変わると並大抵の苦労じゃないんだから。


 これがエマさんの体でなかったら、新しい世界に目覚めてた?

 いや、新しい世界じゃなくて違う世界にこの話がお引っ越しになるかも知れないか。


 ホテルに戻り、夕食までは部屋に居るからと言うとベルさんは何処かに出て行った。

 恐らくマル冒関係のお仕事に出掛けたのだろう。

 暴険者…なんてヤバイっす!


 うん、馬鹿な話は置いといて、リミエンに戻ったらすることを今から整理しておこうか。

 それに魔道具の要素も取り入れた輪転印刷機も開発したいし。


 他にもお米が食べられるようにしないといけないけど、これはリューターさんに任せている。

 けどあの人は通信魔道具にも手を出してる筈だけど、精米機の開発状況が気になる。

 こう言う時に電話が無いのが不便過ぎ。離れた場所の状況を知ることが出来ないからね。


 電話が無くて気楽な面もあるけど、デメリットの方を強く感じるのは俺がワーカーホリックになってるとか?


 そうやって整理しても、まだ時間が余ってしまった。

 アルジェン達は仲良くお昼寝中だ。

 暇なので久しぶりに何か設計しようと思い、思い付いたのがアシスト機能の無い普通の自転車だ。


 タイヤもチューブ式では無いなんちゃってタイヤが馬車用に実用化されている。

 ベアリングはボールではなくコロになるが、キリアスの機械で作れないか試してみようと思う。


 その前にダイヤルメーターやノギスなど計測機器を充実させないといけないだろう。

 高精度の部品を作るには高精度の工作機械が必要だ。それには温度管理も必要になってくる。


「地下のダンジョンなら気温も割と一定だよな。精密機器作りに向いてないかな?

 でも温度計って作れるのかな?」


 ダンジョンの天井には光石があるが、あれは恐らく赤外線は伝えない筈。

 単に木材と果物とニジマスの産地とするだけでなく、工業製品の生産拠点とするメリットに気が付いたのだが、そうするためには器具が足りない。


 そう言えば薪や他の物を燃やせば酸素の問題が出てくるが、換気のことは考えてなかった。

 ダンジョンはかなり広いうえ樹木が大量に生い茂っているから、人が生活するだけならセーフだと思うけど。

 工場を本格的に運用するとなると、ダンジョンの自浄作用がどこまで機能することか。


 溶鉱炉を稼働させるとなると、大量に酸素を必要とするし排ガスも出るから換気システムも完備しなきゃ。

 そう言うことを全然考えてなかったよ。

 いゃ、困ったもんだ。リミエンに戻ったら、あの溶鉱炉はダンジョンの外に移設しよう。

 ノリと勢いだけで物事を決めてはイケないってことだな。


 変身が解けるまでは、まだ時間があるので自転車の設計に取り掛かる。

 何故自転車を考えるかと言うと、町と町を行き来するのに徒歩、馬車、乗馬しかなく、どれも欠点だらけだからだ。


 徒歩はとにかく疲れるし、荷物が運べない。

 馬を使うと馬の餌と水が大量に必要になる。

 勿論自転車だって長距離を移動すると疲れるけど、徒歩での一日の移動距離がだいたい四十キロと設定されているところを、その倍以上は走破出来るのだから作らない手は無い。


 でも、まだ多くの街道がガタガタだからロードレーサータイプは走れない。

 サスペンション搭載のマウンテンバイク擬きになる予定だ。

 まだアルミが流通していないから、フレームは鉄パイプで作るしかないけど。


 ここでピキーンと閃いた。


「来年のコンテスト、自転車にしよう」


 今年の秋に開催するのはマジックハンドコンテストだが、このコンテストは技術者の育成が目的である。

 まだ毎年恒例とするかどうかは決まっていないが、建国記念を祝う祝典のリハーサルとして毎年一回、貯水池の競技場で大きなイベントを開くことにしているのだ。


 そのネタに自転車はちょうど良いだろう。

 自転車を思い付くまで来年はオルゴールを考えていたんだけど、オルゴールは無くても不便は感じない。

 それなら生活に役立つ商品を開発してもらう方が良いに決まってる。 

 自転車が無理でも、タイヤやサスペンション、変速機の開発、改良が進めば俺が嬉しいよ。


 ちなみに町中での自転車の使用は絶対禁止!

 道路交通法もマナーも無い。車道と歩道の区別も無い。信号機も駐輪場も勿論無い。

 こんな状況で町中を自転車で走れば事故続出は確実だ。自転車の開発を提唱した俺は各方面から袋叩きにされるだろう。


 便利だからと言って何でも許される訳では無い。

 電動キックボードだってそう。

 現代人は利便性と引き替えにマナーとモラルを無くしているのが良く分かる。


 あと、公道をジェットなスケートボードで爆走する名探偵の小学生。公道をスケートボードで走るのも、プロテクターとヘルメットを被らないのもアウトだからね。


 と言うことで、考えたのはラビィ用の三輪車!

 これに籠を付けて牽かせれば、ラビィにもお買い物が出来る筈!

 いや、アイツ一人で町に出すと何をやらかすか…この計画は無かったことにしよう。


 そんなこんなを考えつつ時間を潰し、もうそろそろ良い時間に。


「アルジェン、ゲノム何とかの解除を頼むよ」

「分かったのです。

 でもママ同士のイチャイチャシーンも見たかったのです」

「言っとくけど、俺は男だからね」

「これからはバイセクシャルもスタンダードとして認知されて行くと思うのです!」


 それは魔界蟲本体さんがそうだからかな?


「でもパパが嫌がることはしたくないのです」


 うん、それは良い心掛けだね。


 いつもの如く、アルジェンがキラキラと光る粒子になって俺の中に入ってくる。

 これでやっと元に戻れると安堵しながら服を脱ぐ。


『もう見納めなのです!

 愉しむなら今の内なのです!』

「愉しむつもりは無いから、サクッとやってよ」

『パパのイケずなのです。

 でも、このままでは話が進まないので元のパパに戻すのです!


 ママ↔パパ変換オペの開始なのです!


 …ゲノムゲノム、誤報の売り切れ、以下全略!


 リバース! ゲノム・リコンポジショナー!』

「その呪文、意味が無くても全文聞きたかったかも」

『これは自己都合で毎回変わるのです!』

「つまり、前回のは覚えてないのね」

『…あぁ、夜風が身に染みるのです』


 今は昼だし、アルジェンは俺の中に居るけどね。

 そんなことを考え終わる前に俺は意識を失った。


 それから少し時間が経ち、目を覚ました俺は手を見る。


「男の手だ、今度は戻れたな」

『当然なのです。私の魔法は完璧なのです!』


 恐らくエヘンと腰に手を当てたいアルジェンだが、今のアルジェンに体は無い。

 念の為股間を確認、見慣れたアレがブーラブラ。

 服を出して貰い、着替えを済ませて備え付けの鏡を見る。


「うん、ばっちり俺だ。

 アルジェン、ありがとうね」

『エヘヘ、嬉しいのです!

 感謝の気持ちは今晩体で返して貰うのです!』

「アルジェンも肩が凝るのか。歳なんだな」

『まだピチピチのゼロ歳児なのです!

 あと千年は生きると思うのです!』

「へえ、凄いな。

 俺は百年も生きられないからな」


 俺が死んでからもアルジェンはずっと生き続けるんだな。

 魔物の寿命とか意識したことないけど、俺が居ないのにそんなに長い時間を過ごさなきゃならないんだ。

 

 もし俺の子供が産まれたら、その子にアルジェンの母性が移るのかな?

 そうやってアルジェンの寿命が尽きるまで、延々と俺の子孫を守り続けてくれるのか、それとも別の人に付くのか。

 未来のことは分からないけど、いつかこの子との別れが来るんだと初めて意識する。


『ジジ臭いことはまだ考えなくても良いのです!

 私はパパとママが大好きだから一緒に居るのです!

 二人とも居なくなったら、その時は誰かの遺伝子を取り込むか、本体さんに戻るか、その時に考えるのです!』


 今から俺とエマさんの死後にこうしてくれってお願いするのはちょっと早いか。

 でも、出来ればこの子との不思議な縁は俺の子孫に受け継いで行って貰いたい…決めるのはアルジェンだけど、アルジェンが人に危害を加えないように上手く誘導してやる役目は必要だもんな。


 それはドランさんもカオリも同じだ。

 でもラルムとピエルはどうなるんだろう?

 元々は俺の器だったと思うんだけど、今はただの少し変わったスライムに過ぎない。

 ダンジョンに置いてきたミハルとゲラーノもだし、ランスとブリッジもだ。


 俺と繋がりを持つ魔物達が俺の死後も大人しく人の言うことを聞き続けてくれるだろうか。

 俺が居なくなっても、人間と一緒に今まで通り暮らし続けることを選択して欲しい。


 まぁ、それが叶わないなら死後は何処かのダンジョン管理者になって、そこで皆と暮らすってのもありかもな。


「まだまだ先は長いのです!

 そんな先の事を考えるより、今夜の晩御飯を美味しく食べることを考えるべきなのです!」


 俺の中から出て来たアルジェンが、俺の頬を両手で押さえながらそう言った。

 俺の中に居るときは、俺の考えが分かるのかな?

 

「食い意地張ってるな。

 それは野生の本能なのか?」

「私は飼い慣らされて牙の抜かれた獅子と同じなのです。

 食っちゃ寝以外はしたくないのです!」

「見事なまでの駄目っ子宣言だよ。でも時と場合によっては頼りにさせて貰うよ」

「任せなさーい!なのです!」


 上機嫌になってフフフンと鼻唄を歌い始めたアルジェンが、俺の頭を指さした。


「出掛けるなら、お城で貰ったカツラを被るのです!」

「あ、そうだったな。忘れてた」


 王都でも黒に近い濃紺の髪の毛はゼロに等しい。

 何故黒髪が濃紺に変わったのか不明だが、召喚された時に魔力の影響で髪の毛に変化が起きたのかもね。

 それなら一生禿げにならないようになったら良いのに。


 貰い物のダークブラウンの髪の毛のカツラを被り、鏡の前で確認する。

 見馴れない俺の姿に違和感があるが、目立つ髪の色のままで出歩くのはまだ控えておくに越したことはない。


「頭だけ栗毛色なのです。

 瞳が黒っぽいし、髭も鼻毛も脇毛も下の毛も色が違うのです」

「それは無理だよ、カラコンもヘアカラーも無いんだし」

「そうなのです。

 ずっとおかしいと思っていたのはそれなのです」

「コンタクトは無理として、ヘアカラーなら錬金術師頼りだけど作れる…か」


 リミエンに戻ったら、錬金術師ギルドにお願いしてみるか。

 でも髪の毛って人の外見的特徴のかなり大きな要素を占めるから、捜査機関の関係者なら変えて欲しく無いんじゃない?


「乗り気でないのなら、パパの髪の毛と瞳の色素の遺伝子情報にママの色素の情報を書き換える魔法を使ってみたいのです」


 エマさんとお揃いになるなら、悪くはないかな。

 でも個性を残しておきたいから、全く同じはやめておこうかな。


「その魔法、俺とエマさんの情報を混ぜることは出来るの?」

「うーん……差し替えるだけなら簡単なのです。

 でも新しい情報を作るには、世界樹さんにデーターを保管しないと元に戻せないと思うのです」


 アルジェンは世界樹さんをサーバー代わりに使えるんだよね。

 クラウドでは無いから今はアクセス出来ないけど、リミエンに戻ればミニミニ魔界蟲さんにデーターを託して送ることが出来るそうだ。

 ミミズみたいって言ったの謝っとこう。

 ああ見えてミニミニさんもかなりハイスペックなんだからね。


「色素情報の差し替えはすぐに出来る?」

「気絶はしないけど、軽い目眩は覚悟して欲しいのです。

 それと色を変える時は全身から金色の光が放出され、かつシュインシュインと効果音が流れるのです!」

「スーパー野菜人かよ…」

「形から入る人向けの演出なのです!」

「アルジェンが遺伝子情報を操作出来るの、俺しか居ないよね?」


 その後、ホテルを出て行ったクレストの髪が明るい茶色になっていたことは想像に難くないだろう。

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