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第167話 国の形とは?

 王様達の前でミニミニ魔界蟲さんがタイプ・サンタに大変身…。

 ちなみに鹿の毛は魔界蟲さんと同じ銀色でした。


 さすがにプレゼントは準備してなかったのだが、空飛ぶサンタ擬きに王族もメイドさん達も皆が釘付けだ。

 その間にラルムとピエルのご飯にしよう。

 君達が上を見ている間に、不自然な程に綺麗になった食器を見て驚くが良い。


「シンプルジェ~ル シンプルジェ~ル シンプル オン ザ イェ~イ!」


 良く分からない替え歌と大半がフンフンフーンな鼻唄でご機嫌なアルジェン達が満足して降りてきたところを、アレク坊やがナイスキャッチ!

 わざと捕まってやるとは、御接待ってものが良く分かってるな。


 坊やの体をグルリと一周し、王族舐めてんのかと言いたくなるぐらい好き勝手に走り回ってから戻ってきた。


「アルジェンちゃん! 凄い、凄い!」

「本当、可愛いわね。

 クレストさん、ウチの子になりません?」


 姫巫女シャーリンさんは純粋に喜んでいるだけみたいだけど、王妃様は冗談にしてもちょっとねぇ。

 アルジェンが欲しいと言ってるのでなく、俺をシャーリンさんの婿にと言っているのだから困ったものだ。


「やだなぁ、俺は一般人ですよ。お姫様を頂戴するわけには参りません。

 それに絶賛婚約中ですからね」

「でも、良い相手って探すの難しいのよね。

 野心家も無能も脳筋も猿もダメ。

 年齢、性格、能力を考えると…」

「俺は非常識が歩いているって言われるぐらいなダメ人間ですからね。

 国内にどんな男性が居るのか知りませんけど」


 そう言いながら、以前に断りにくい人からそう言う話が来るから、四人の嫁の枠を早く埋めておけって言われたのを思い出した。

 それがまさかこの人とか、あり得ないでしょ!


 腐っても王女様…いや、腐ってないと思うけど。

 とにかく、こんな身分の高い人を嫁になんて貰えないし!


「商業ギルドのトリプルスターカードを持つ君ならギリギリ許せる範囲なのだが」

「将来性、意外性、経営センス、まだ荒削りであるが磨けば今より良くなるじゃろ。

 少し考えて貰えぬか?」


 国内の貴族共、もっと頑張れよ!

 未婚のお姫様が居るんだから、俺が貰うぜ!って気概を持ってくれよな。


 それに王女様なら身分的には伯爵クラスの貴族に嫁ぐべきだよな。

 幾ら金持ちと言っても、商売人との結婚は色々と言われると思うし。


 それに外国の王子と政略結婚しないの?

 コッチの世界は、他国はいずれ裏切ると相場が決まってるから嫁に出さない方針なの?


「パパはママにゾッコンで甘えるのが好きなのです!

 一緒に寝るときはいつも優しく抱いているのです! もう少し荒くても」

「アールージェーンっ!」


 …今そんなこと言わなくても良いだろ。


 ところで★三つのカードって、王女様を貰えるぐらい凄いカードだったの?

 それは聞いて無かったんだけど。

 御老公様みたいな裁量権があるだけかと思ってた。それだけでも凄いんだけどさ。


「お気持ちだけ頂いておきます。

 婚約中のエマさんに不義理なことをしたくはありませんから」

「そう。分かったわ。

 王女を貰えると言われたら、普通は喜ぶと思うけど、貴方は違ったのね」


 王女様を貰って喜ぶのは権力の欲しい者達か、ブランド物の腕時計を見せびらかす奴だけであって、権力の欲しくない一般市民には公道でレーシングカーを走らせるぐらい危険な選択だよ。


「はい。シャーリン王女様が嫌いとかではなく、私の信念のせいだと受け取って下さい」


 一応王女様には気を遣っておかないとね。


「リミエンの中では君が無類の女好きだと噂が流れているのは、誰かが君を貶めようとしているのだな?」

「はい。確かに『紅のマーメイド』の四人と家庭教師が女性で、良く私のそばに居るのでその噂が真実味を帯びていることは否定出来ませんが」

「他にもパンケーキの店の主人、雑貨屋の娘など、君の関係者には女性が多いから仕方ないな」

「まったくです。

 噂を娯楽の変わりにするのはやめて貰いたいです」


 一種の有名税みたいなものかも知れないが、された方は堪ったもんじゃない。

 それに噂は一つ消えても困ったもので新しい噂がやがて産まれてくるのだ。


「悪意を持って噂を流し始める者を捕らえない限り、これは仕方ないでしょう」

「噂の発生源を辿るのは難しいもんだよ。

 それに現況を絶たねば、ほら見ろ、やっぱりだと言われるばかりで改善すまい」


 そうですよね。KGBみたいな組織総動員で動かないと根絶は難しいよね。


「ところで国内にはシャーリン王女のお相手に適した男性は居られないのですね?」

「クレスト殿と同年代では、そう目立つ者は居らぬよ」


 やっぱり王女より少し年上で考えていたのか。俺の年齢が少し違ってれば、こんな無駄な話はせずに済んだのに。


「何か考えがあるのか?」

「いえ、王女様の相手は伯爵クラス、悪くても子爵クラスとして、その伯爵や子爵が何人居るのかと、その人達がどんな教育を受けてきたのか気になっただけです」


 王女に適した男性が居ないのは、教育がまともに出来ていないからだろう。

 今からじゃ間に合わないけどね。


「それは何故だ?」

「こんな事を王族の方々の前では申し上げにくいのですが…貴族の位が基本的に親から子に受け継がれる事に正当性を見い出せないからです」


 日本の政治家もそうだよ。二世議員は(にせ)議員。ゴミだよ、ゴミ! 


「明らかなボンクラは切り捨てておるがな」

「問題はそこです。

 何故ボンクラが産まれるのでしょうか。

 まともな教育を施していないからでは?」


 この際だから、言いたいことは言っておこう。どうせ王様に会うのはこれで最初で最後だし。


「今の教育制度では駄目だと言うことだな?」

「はい。

 爺ちゃんが如何に優れていようと、孫の代になると爺ちゃんの苦労を知らず、次第に努力を怠るようになります。

 そしてプライドだけが高い木偶の坊が誕生して家を潰すことになるのです。

 児孫のために美田を買わず、と言うことです」


 国王様が大きく溜息をつく。エリック皇太子も腕を組んで難しい顔をする。

 アレク坊やはラルムを、シャーリンさんはピエルを手に乗せて遊び始めた。


「言わんとすることは分かる。

 だが、手を付けると大半の貴族に離反されるかも知れん」

「今国王様が離反すると思った人は、正直すげ替えた方が良いでしょう。

 それが難しいのは理解しますが、結局はプライドで食ってるような人達なのでしょうから」


 違ってたらゴメン、だけどね。

 謁見の間に並んでた人参どもかな? 顔は全然見てないし。


「なるほど、クレスト殿との対話には気を付けるようリミエン伯爵が言ってくる訳だ。

 こんな言葉が他の者の耳に入れば大ごとになる。

 正しい事でも受け入れられん者の方が圧倒的に多いからな」


 伯爵から俺の話が来てたのか。どんな内容か気になる!

 性格や行動パターンを分析して、話を優位に進める資料にしようとしたのかな?


「私の持論ですが、国力の強化は教育から始まると思うのです。

 貴族の学校だけでなく、市民の学校があっても良いはずです。むしろ市民の方が成り上がる為により勉強してくれるでしょう。

 見下していた市民に負ける貴族が大量に出て来ます。皮肉なものですよ。

 だから貴族は市民に勉強させたくないのですね」


 国王様がその貴族のトップなんだけど、やっぱり国王様も今までは市民に教育なんて不要だと思っていただろう。


「シャーリン、あなたの予言はこう言う事だったのね。

 確かにクレストさんの考えを実行すれば、この国は大きく変わるわ。

 下手すれば、いえ、確実に国が割れるわ。

 王族の前で貴族制度の廃止に言及するとは、思った以上に肝が座っている子なのね」


 少し王妃様の目が恐いけど、激おこまでは行ってないと思う。

 王様と皇太子は俺の言葉にどう反応すべきか迷っているのかな?


「別に王族まで廃止する必要は無いです。

 国民の心の拠り所となる、シンボルとしての王族は存続した方が良いと思います。

 でもその他の貴族はいりません。不要です。

 家柄ではなく、能力で判断すべきです」


 選挙で代表を選べとは言わないが、長となる者は能力重視だよね。でも人柄も必要だ。

 人柄重視にすると能力的にはウーン…な事もあるからね。


 ちなみにシンボルとしての王族とは、日本の皇室と同じような扱いだね。

 でも正直言うと、皇室も時代遅れじゃないかと思う。

 こ○ろ氏の問題もあったように、純粋培養なんてしてるから人を見る目が養えて無かった訳だ。

 しかも無駄に税金食ってるしな。


 こっちの世界の人には分からないだろうけど、絶対君主制を続けると国はいずれ無くなる。

 かと言って他にどんなのが一番良い政治形態なのかは俺には分からないけど。

 一つの政党が長期的に与党を続けると国が駄目になるのは既に知れているが、二大政党と二つの議院の大国も上手く行ってない。


 それなら天下三分の計の真似で三大政党か?

 コンラッド王国には政党は無いそうだけど、誰々派的な物はあると思う。

 その派閥三個同士で競い合えばどうなんだろうね?


「パパ、国家そうなん?罪なのです!」

「それ言うなら騒乱罪だよ。

 でも一人では騒乱にはならないよ」

「ソーラン、ソーランハイハイっ!」

「ノリが良いね」

「ソーランは知らんが、国の形を作り変えようとするのだったら、適用されるのは国家転覆罪だな」


 えーと、それってつまり、国王様は顔は怒ってないように見せ掛けてるけど、腸が煮えくりかえってヤミ鍋状態?


「だが、私利私欲でないのだろ。

 国の患部の切除ではなく、病気の発生源を無くす為の予防策の一つを提言しただけだ。

 民の貴重な意見の一つとして受け止めておこう。

 ただ、他の貴族が居る前では決して話さぬようにな。気の短い者なら、即打ち首にしているだろう」


 やっぱりそうなるよね。俺は既得権益糞食らえって言ってるのだから、当の本人はカッチーンてなる。

 まぁ、アルジェンが居るから俺の首が落とされる前に黒焦げにしてもっと酷い事になる。

 良くても悪くても、貴族に手を出すとタダゴトでは済まないからね。


 俺が貴族なんていらないと言ってるのに、この王族達は手を出そうとしない。

 アルジェンの火炙り事件を知っているからこの場は我慢しているだけなのか、それとも別の理由からか。


「しかしクレストよ。

 おぬし、ただの冒険者でも商売人でも無いな。

 余程の高度な教育を受けておらねば、そのような発想には至らぬと思うのが。

 勇者と同じ世界の知識を持つのではないのか?」


 王妃様!大正解です! と喜んでいる場合じゃない。

 さて、ここはどう答えるのが正解だ?


「俺がキリアスに居た頃の記憶はありません。気が付いたら魔熊の森に投げ出されていたので」


 まずは嘘を付かないこと、これが一番。

 で、言えない真実も言ってないだけ。


「過去の記憶は無いと言いながら、良く物事を知っておる。

 少々無理のある設定ではないか?

 我々も勇者のことは当然調べておるし、この国に勇者の世界の記憶を持って産まれてくる者が居る事実も把握しておる。

 先程お主の述べた国の在り方は、恐らく勇者の世界の知識なのだろ?」


 これまた大正解! 王妃様、メッチャ冴えてます!

 でも、ここは素直にハイと言っても良い場面なのだろうか?


「そう心配するな。

 例えそうであっても外部に漏らしたりはせんよ。我ら家族や国に危害を加えようとせん限りにおいてはな」

「はい、もとより王族の方々を害するつもりはございません。

 リミエンにて平穏な暮らしを送るには、現在の治世を安定して続けて頂くことが一番だと考えますので」


 王妃様は俺が転生者だと確信していても、それは言わないでやるからソッチも穏便にしろと言ってる訳だ。

 それならお世辞を含めつつ、あんたらに任せるよと長い物に巻かれる事を選択するのが世渡りのコツ。


 もし結婚を意識していなければ違う選択肢もあっただろうが、エマさん達に迷惑を掛ける訳にはいかないからね。


「急激な社会構造の変化は国を滅ぼす要因となり得る。お主の言う案はその危険性を帯びておる。

 貴族より一般市民の数が圧倒的に多いのだから、貴族に不満を持つ者達が立ち上がれば我々貴族はアッサリと滅びるだろう。

 だがな…」

「はい、そうして勝ち上がった者達が善政を敷くとは限りません。

 次世代を担える優れたリーダーが居なければ、ただイタズラに国を壊してオシマイです。

 それは私の望むことではありません。

 私の老後の夢は、孫に囲まれてノンビリと田舎で安心して暮らすこと。その為にも国の安定を望みます」


 皆ハッピーになるには皆が多少の我慢をすることが必要だろう。

 所詮人間なんだから、完全なんてあり得ない。誰かが得をすると言うことは、誰かが損をすると言うこと。

 俺が儲ける裏にはその反対に利益を失う人々が居る。

 それを忘れて自社の利益を優先する企業の多いこと。でもそれが資本主義の行きついた先だ。


 それを考えれば、まだコンラッド王国は呑気で良い。

 アルジェンとカオリがさっきから好き勝手に動き回っているけど、誰も止めないし。

 被害が出ないようメイドさん達が食器を片付け、行司に早替わり。相撲でカオリがアルジェンに勝ったのは意外だよ。薔薇なのに柳腰か?


「そろそろお時間でございます」


 ここでガースト宰相が国王様を迎えに来た。

 テーブルで遊ぶアルジェン達を見てみぬふりはさすがだよ。


「ガーストよ、エリック達に宿題を与えておる。若手だけで纏め上げさせようと思っておる。

 柔軟な発想が出来て擦れていない文官を二名程紹介してくれんか」

「若手でございますか。

 …クレスト殿絡みの件で?」

「詳細は歩きながら話そう。

 ではクレスト殿、楽しい時間を過ごせたぞ」

「国王様、ありがとうございました」


 ヒラヒラと手を振り国王様が部屋を出て行く。もう結構な時間が過ぎていたらしい。


「さて、エリック、ジェリク、シャーリンよ。

 これからはクレスト殿に負けぬよう、其方らは励まねばならぬ事が良く分かったであろう」

「はい…まさかここまで国の在り方を考えられる方とは思っておりませんでした。

 短期間にガバルドシオンを作り上げたのも納得出来ました」


 王妃様の言葉にそう皇太子が続くが、ガバルドシオンはレイドルさんの悪企みだぞ。

 俺には作るつもりは無かったんだし。


 それに国みたいな大きな枠で物事を考えられる能力は俺にはない。

 ぶっちゃけ、転生者が国を興すなんて現実問題無理あり過ぎだ。

 最初は良くてもいずれは破綻するはず。

 根本的なレベルで意識が違うのだから、転生者と役人、市民が同じベクトルに向かい続けることは恐らく不可能。

 出来るとすれば、単なるクーデタによる王の差し替えだけか。

 後は優秀な配下に国政丸投げ、自分は左団扇で好き勝手。それじゃ結局元の王とやってることは変わらないだろ。

 異世界転生したら、大人しく右向け右が正解だ!と俺が言っても説得力はゼロかもね。

 

「パパ、悪い物を食べたのです?」

「失敬な。俺だって年に一回ぐらいは真面目に国のことを考えるよ」

「それより先にマジメにプロット考えるのです!

 行き当たりばったりで話を作るからアチコチおかしくなってるのです!

 作者に代わって謝るのです!

 許してチョンマゲ~」

「それで許せる読者は居ねえょ」

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