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第165話 王家の皆様と会いました

 アルジェンのソロコンサートも無事に終わり、スライム坊主とともに王城に戻ってきた。

 えっ?ソロコンサートじゃないだろうって?

 じゃあ、ゲリラライブか?


 冗談はさて置き、皇太子に昼メシ食おうぜと誘われたので、仕方なく一緒に食べることになったが、アルジェンにテーブルマナーなんて無い。

 俺がコツコツと作った食器も一通り揃ったが、やはりサイズと強度の問題で使いづらいらしく、コップ以外は使っていない。

 普段手掴みで食べるけど、国王達は許してくれるのかな?


 そんな心配をしながらエリック皇太子を見送り、スライム坊主と明日の昼に会う約束をして別れる。


 それからすぐに衣装室に案内人してもらい、すっぽんぽんになって元の下着と服に着替えると、ポヨンとナベシャツから開放された乳房がこんにちは。

 そう言えば、いつの間にか胸を押さえつけるのに慣れてたけど、やはり開放的な方が良い。


 少しマッサージをしようとすると、

「自慰はお部屋に戻られてお願いします」

とメイドさんがニカニカと笑う。


「ちゃうわ! 押さえてたから変な感じがしただけだよ」

「それならマッサージ致します。

 そう言うのも王家専属のメイドは得意なんですから」


 両手で何かを揉むようなイヤラシイ手つきと顔のメイドさんに身の危険を感じたが、そこはアルジェンが鞄から出てきて俺の肩に立つと、ピョンとジャンプしてメイドさんの額にライ○ーキック!


「アルジェンちゃん…痛いです」

「パパに代わってお仕置きペンペンなのです!」


 メイドさんが少し涙目になったけど、今回は同情の余地は無い。


「ところでパパ! どう考えてもおかしいのです!」

「何が?」

「ジャンプした場合、落下地点は反射角で決まる筈なのです!

 しかしラ○ダーキックは反射角より大きくなっているのです!

 物理的にあり得ないのです!」

「あぁ、それな。ロマンと言うプリズムで屈折が起きてることにしてやれよ。

 あの人達、大抵ほぼ垂直にジャンプしてるから、真面目にやったら敵に届かなくてマヌケだろ?」

「なるほど、さすがパパなのです!」


 バッタの改造人間の事はどうでも良いや。

 いつまでも女装で男装なんて訳の分からない状態を続ける訳にはいかないのだ…まぁ、この話をしている間、すっぽんぽんだったのは忘れて貰いたい。


「服着る前に化粧を落としますよ。

 ブラとパンティだけになってください」


 服がワンピースだから、そのまま着ると化粧が襟に付くのだろう。

 賢者のように無心になって下着を付ける。ちなみに本当に賢者が無心なのかは定かではない。

 そして椅子に座って男装のメイクを落として貰い、脱いでいた服に着替える。


「折角の男前マシマシメイクが…」

「今は女の子だから落としていいの!」

「はっ! そうですよね! 私としたことが。

 普通にメイクをさせて頂きます!」

「普通のメイクもしなくて良いから!」

「最低限の身だしなみは必要です」 


 俺の抵抗も虚しく、メイドさんの手によっていつもより綺麗なメイクのエマさんに変身…これはアカン!

 もし目の前に本物の、この姿をしたエマさんが居たら俺は理性を保てないかも!

 メイクで化けるのは分かってるけど、このメイドさん、メイク上手すぎ!


「この人、マジでリミエンで雇いたいよ」

「機会があれば、考えさせて頂きますわ」


 オホホと笑って誤魔化されたけど、悪い感じはしてないように思える。


 しかし問題は舞台関係者に掛かる人件費!

 キリアスの元捕虜二人と王都から移住した夫婦の四人には不慣れな仕事を兼業してもらわないといけないだろうが、スタッフとして確定している。

 後は演者として数名。仮に十名を食べさせていくには、最低でも毎月大銀貨二百枚、目標三百枚は稼がないといけないのだ。


 となると月三十日で毎日大銀貨十枚の売り上げが必要になる。

 これをステージの収入だけで賄うとなると、かなり無理があると思う。

 毎日十人が来てくれるとしたら、一人大銀貨一枚のチケット代だから高過ぎる。

 せめてその半分にしたいから二十人に来てもらいたい。


 それにステージ衣装や大道具に小道具の製作費も必要だから、更に倍とすれば毎日四十人も観客が必要だ!

 これは経営がかなり厳しいぞ。

 アイリスさんのアカペラだけではすぐに飽きられる。

 やはり手品やお笑い、ジャグリングみたいな大道芸を日替わりでやらないと。


 そんな事を考えている間に、最低限の筈が美人度マシマシのエマさんになっていた訳だ。


「クレースちゃん、とぅっても綺麗ですよ!」

「これは俺じゃない! 俺はクレスト二十歳!

 男だ!」

「何を言ってるんです。

 ここは王城なのに往生際が悪いですよ。

 女は度胸!

 これなら皇太子様もイチコロで昇天ですよ!」

「やらないし!

 男に惚れられてどうすんだよっ!」

「あら、素直に抱かれれば宜しいのでは」

「絶対ダメ!

 俺は体と心の性が違う人なの!」


 あー、綺麗って罪深いって!

 これで本当に言いよられたら、股間を蹴って逃げるに限る!

 そんなことしたらこの国に居られなくなると思うけど。


「人間って大変ねー」

と、人の美醜に興味の無いアルジェンが何処からか取り出したパンケーキに丸まって遊びながらそう言う。


「アルジェン、そのパンケーキ、俺がマジックバッグに入れてたやつだよな?」

「そうなのです。

 私にはマジックバッグの制限なんて関係無いのです!」

「じゃあ、セキュリティの意味がなくなるだろ?」

「ノンノン! 私にはパパの遺伝子が流れているのです!

 マジックバッグは遺伝子情報をキーにして開閉するので、パパが入れた物なら私にも出せるとさっき気が付いたのです!」


 言われてみれば、俺もマジックバッグのセキュリティに遺伝子情報が関係してると仮定してたのに忘れてたよ。

 まぁ、アルジェンが出したいのはどうせ食べる物だけだろうし、被害はそれ程無いだろう。


 でも絶対に食べちゃ駄目なやつにはそう書いておかないとダメなのか。

 そう言うのはケーキみたいに紙箱に入れてから収納しないと駄目だな。


 でもリミエンに置いてきたドランさんはリタが入れた物を取り出せたんだから、アルジェンよりもっと凄い能力を持っている。

 チビだけど、さすがドラゴンの血を引くだけの事はあるよ。


 アルジェンが三分の一程パンケーキを食べたところで外からお呼びが掛かった。


「アルジェンの食べかけだけど、良かったらどうぞ」

「これが噂のリミエン名物、パンケーキ!

 頂きます!」


 このメイドさんとはもう会うこともないだろう。

 お世話になった御礼がコレだけど、まぁ良いか。美味しそうにガツガツ食べてるし。


「じゃあ、行ってくるね。今までありがとう」

「こひらこほ、はりばとー!ゴクッ!」


 食べながら喋ってたから分からないけど、ありがとうって言ったみたい。

 軽く手を振って衣装室を出ると、今度は執事さんとバトンタッチするらしい。


「それではクレスト様?…食堂の方へ御案内致します」

「はい、ヨロシク」


 俺の女っぷりに驚いたのか、途中で言葉を詰まらせながらそう言うとクルリと振り返って先導を始めてくれる。

 この豪華なカーペットは平米当たり幾らするのか想像しながら、新人メイドさんにトラウマを植え付けそうな工芸品の飾られた通路を執事さんの後ろに付いて歩く。


 そして案内された部屋のドアが開き、明るい光が廊下に溢れ出てくる。

 中には長テーブルがあるのかと思っていたのだが、あったのは大きな丸いテーブルだ。


 上座となる真っ正面に国王陛下、その向かって右隣に王妃様がいるのは謁見の間と同じ。


 後はエリック皇太子夫妻と三歳児ぐらいの男の子が一人、ルケイドと同じぐらいの年齢に見える男女が一人ずつ。

 恐らく国王陛下の次男と長女だろう。

 この人達が適当に距離を開けて座っている。


 これってかなりアットホームな配置なの?

 角が無いので皆の顔が良く見えるから、和気あいあいと愉しむには丸いテーブルが良い。

 それに人数が一人ぐらい増えてもずらせば座れるからね。


 あっ、そうか、皆でアルジェンを見たいからこのテーブルを選んだのか。

 長テーブルだと端の人は見えないもんね。


「クレスト殿、急にエリックが我が儘を申して済まなかったな。

 家族の中で儂と王妃とエリックの三人しかアルジェン殿達と会っていないのは今後の関係に悪影響が出るぞと脅すものでな」

「イヤだなあ。

 脅したのでなく、事あるごとにイヤミを言われるようになると、過去の事例に基づいたアドバイスをしただけですよ」


 うん、それも多分脅しの手法の一つに該当するよ。


「まあ先に座ってくれ。自己紹介はそれからにしよう」


 国王様の合図で一つだけ空いている席に執事さんが座らせてくれる。


「うむ、では自己紹介を簡単にしよう。

 知っての通り、儂がコンラッド王国現国王のルシウム・ド・コンラッド。コンラッド国王の四代目になる。

 先王の父はまだ存命であるが、腰を痛めて階段の上り下りが出来なくなってな。

 隣の離宮で楽隠居をしておる。

 兄弟は弟が一人で、政争を嫌い山奥に引っ越してのんびり暮らしておるそうだ」


 弟のことは初めて聞いたが、兄が国王として苦労してるんだから補佐しろよと思う気持ちと、スローライフって羨ましいと言う気持ちと、実は仲が悪くて引き離したんじゃないかって疑いの三つが芽生えた。


 今のところ国政に大きな不安要素は見られないので、弟については現状維持が良いのだろう。


「ルシウムの妻のサリアスと申す。

 特に取り得は無いが、王妃として国王の足りておらんところを補助していると思ってくれれば有難い」


「第一王子のエリックだ。

 次期国王として父の傍に付いて国政を学んでいるところだ。

 今日は久し振りに楽しい時間を過ごすことが出来た。感謝する」


「エリックの妻のフランソワです。

 この子はアレクセイ。もうすぐ三歳よ」


「第二王子のジェリクだ。

 兄のサポートが出来るよう色々と勉強中だ」


「長女のシャーリンです。

 姫巫女とも呼ばれています」


 この子があの中途半端な予言の人か。


「私の予言のせいで大変な目に遭ったと聞いております」


 今もその影響で変身してるんだけどね。


「責任をとって嫁ぐことも考えたのですが、女性なら無理ですね」

「…えーとぉ…はい、無理です!

 男性であっても王家の娘さんなんて絶対無理です!」


 この子には俺の性別が伝わってないの?

 それとも敢えて言わなかった?

 アルジェンがパパと呼ぶし、俺の言葉遣いで男と分かるけど。

 実は面白くて伝えてないだけ?


「ではクレスト殿と、連れている子供達の紹介を頼む」

と国王様がニヤリと笑う。これは二人にわざと俺のことを教えなかったパターンだ。


「私は冒険者のクレストです。

 こう見えて二十歳の男性です。婚約者もいます」

「嘘でしょっ!」

「それで男なのか!」


 二人から予想通りの反応が出て来て満足。

 クワッと大きく目を見開いて俺を見るのは王族の態度としてどうなの?

 まだオチビのアレクセイだけは我関せず。


「俺の今の姿は魔法の力で変えているんです。

 今日のオヤツの時間が過ぎた頃に魔法が解けて男に戻ります」

「真・下世話シンドロームねっ!」

「シンゲセワ…?」

「勇者の世界にはそう言う魔法があるそうなの!

 日付が変わると変身が解けるのよ。

 アレの最中に魔法が解けてビックリするの…でも男同士で…イヤだぁ!」


 そう言って姫巫女シャーリンが手で顔を隠す。中指と薬指の間からこちらを覘いているけどね。


「勇者の世界…それ、シンデレラ?」


 異世界翻訳機能が誤訳したか、腐れ勇者がわざとそう伝えたか。

 でも途中からビーエルに話が変わってるぞ、それって…大丈夫か?


「その話を書いた本を印刷した為に印刷機が販売禁止になったの有名な話だ。

 知らんのか?」


 大丈夫じゃなかったみたい。

 てかさ! なんちゅーもんを印刷してんだよ!

 漫画の中にキスシーンがあったせいで漫画が悪い物扱いされてた昭和以上の衝撃だぞ!

 まさかビステルさん、その事を知ってて漫画が読みたいと言ってたのか。


「写本する人の仕事を奪うから印刷機が禁止になったと聞いていましたけど」

「勿論、職を失う者の反発も強かったそうだが、それは副次的なものだ。

 それより過激な表現や文化を無秩序が広まることを阻止せねば国が乱れるからな」


 えーと、ミニスカはそこんとこ抵触するのかな?

 膝上何センチまでオッケーかなんて、何処かの校則みたいに法律で決められるのな?

 アイリスさん達のステージ衣装にダメ出しされないように、先に裏から手を回さないとマズそうだな。


 それに印刷機がダメなんて俺には許し難いのだ。


「実は印刷機の製造も考えていたので、段階を追って世に出させて貰います。

 法令発布式では聴衆に法令の内容を書いた物を渡した方が、より理解が深まると思いますし」

「印刷機が便利なのは承知しておるが」

「初期には写本業者を印刷機のオペレーターに就かせるとか、そう言う支援が必要と思います。

 城内の会議に使うレジュメを手書きで写すのと、印刷機で一気に作るのと、どちらが時間短縮になるか。

 お城の中や行政機関の業務の効率化の為に、印刷機は欠かせない物だと私は確信しています」


 印刷機と言っても種類は幾つもある。

 青写真とも呼ばれるアンモニア臭のするジアゾコピー機でも会議資料に使うには十分だろう。

 ジアゾコピーを使うには原本はトレーシングペーパーに書く必要があるが、トレーシングペーパーはフォイユさんに研究してもらおう。

 それさえ出来れば、鉛筆と消しゴムもあるから運用に問題は無いと思う。


 しかし、まだアルジェン達の紹介が終わってないのに、何でコピー機のことを考えてんだろね?

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