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第164話 お勤め終了!

「はぁ、はぁ、はぁ…もう無理っ!

 四人も同時になんて…」


 カーラが息を荒くしながら床に手をつく。その周りでは上半身裸の筋骨隆々の男達が満足げに笑みを浮かべている。


 カーラの服は土にまみれ、所々が無惨に破けて白い肌が露出している箇所がある。


「へへへ、まだ俺達は満足しちゃいないぞ」

「本当のお楽しみはこれからだぜ」

「可愛いからって容赦はしないからな」

「ここからが本番だぜ!」


 一人がそう言ったかと思えば即座にカーラの腕を拘束しようと掴みかかり、一人は背後から羽交い締めを狙い、残る二人も次々とカーラの慎ましい胸やスラリと伸びた脚に的を手や脚を素早く繰りだした…


「こらっ、そこ!

 紛らわしいセリフを吐かないの!

 変なシチュエーションと勘違いされるでしょうが!」

と戦女神のリーダーフレイアの怒鳴り声がカーラ達に浴びせられた。


「あねご! 何を言ってんすか!」

「コッチは真面目に訓練つけてんすよ!」

「接近戦になったときの対策を教えるようにって言ったのあねごじゃないっすか!」

「おチビちゃん相手に変なシチュエーションって何なんすか?

 あっしら、ノーマルっすよ!

 ロリコンは犯罪っすよ!言語道断っす!」

「ロリコン言うなっ! こう見えて十六は過ぎてるんだからっ!」


 …何故かカーラの言葉に同情の顔の四人。


「クレたん! 早く豊胸術を開発してよっ!」

「女は胸だけじゃないからなっ!」

「そうそう! 見た目より外見が大事!

 …ん? 見た目と外見? 同じじゃね?」

「見た目は良くても性格の悪い女は最悪っ!」

「でもAはないわ、やっぱC以上っす!」


 話している間だけは攻撃の手を止める男達。

 カーラが動けるようにとの配慮をしつつ、よく分からないことを言う。


 そんなカーラ達から少し離れた場所では『気高き女戦士の鎧(セリカアーマー)』を纏ったセリカが一対一の戦いの真っ只中だ。


「次、十六番! 前へ!」


 剣と盾を持つ冒険者がセリカの前に進み出ると、軽く頭を下げる。


「始めっ!」


 フレイアの号令で剣と剣のぶつかり合いを始めるセリカ達…冒険者ギルドの地下では丁度冒険者の力量を見る試験が行われている最中だったのだ。 


 守りに特化したセリカは現在大銀貨級。

 従来であれば剣士は一撃で魔鹿の首を落とせる攻撃力を見せる必要があったが、今のリミエンでは役割に応じて試験の内容が異なっている。

 セリカがパスしたのは大金貨級の剣士の攻撃を膝をつくことなく一定時間受け続けるイジメのような試験だ。


 そのセリカは今攻撃に特化した剣士達の力量を見る試験官として、無料奉仕の真っ最中なのだ。


 アヤノとサーヤは初心者に剣と弓の扱い方を教えている。


 クレスト達が王城でのイベントに参加している間、クレストの護衛を怠ったこととカーラが無差別魔法を放ったことに対する罰としてこのような事になっていたのだ。


「よーし、十五時(十一時過ぎ)になったから今日は終了だ。

 また明日も頼むよ」

「一日だけじゃなかったのっ?!」


 フレイアの言葉に疲労困憊のカーラが絶叫した。


「良い運動になっただろ?

 魔法使いは動き回る体力の無さと接近戦の弱さが弱点なんだ。

 そこんとこ、理解出来てる一流の魔法使いならイヤとは言わないよ?」

「ズルイっ! ズルイ! 受けるしかないじゃないですか!」


 戦女神達から見ても、カーラの魔法の腕前は既に大金貨級の魔法使いとなんら遜色は無いレベルに達している。

 それだけ魔法のモジュール化が優れていると言う証明に他ならないのだが、コンラッド王国では普及していないモジュール化を使うのはカーラ、オリビア、そしてルーチェの三人プラスアルジェンだけ。

 モジュール化を知らない者達からすれば、まさに魔法のように見える訳だ。


 そちらとは違って、

「アヤノ先輩、ありがとうございました!」

と笑顔を向ける初心者達。

 アヤノの丁寧な指導が好評価に繋がっているのだ。


 サーヤのところはスパルタ教育の影響か、残念ながらそのような笑顔は見られない。

 それでも初心者達の弓の腕が確実にワンランク上がっているのだから、リンが初心者達に御礼を言えと強要していたが。


 アヤノ達が冒険者ギルド本館を出たのは、予定より長引いた発布式の閉会が宣言されてまだ間もない頃だ。

 ゾロゾロと聴衆が引き上げていく渦がこの冒険者ギルド本館前にも押し寄せ、外に出るのを躊躇わせる。


 人の流れが落ち着くまで少し待とうかと思った綾乃達の耳に、発布式の会場の方から大きな歓声が響いてきた。


「アールージェーン! アールージェーン!」

「サンキュー! みんな愛してるよーっ!」


 我の耳を疑うアヤノ達を無視するかのように、アルジェンのステージが進行していくのだ。


「次は鳩の歌っ!

 ポッポッポっ! 鳩ポッポッ!

 カーネが欲しいか やらないぞー

 みんなで真面目に働こう♪」


 『何この状況?』とアヤノ達が呆気に取られている間にも次の曲に。


「今日の最後の曲は、Oh牧場は緑っ!


 おーまっきばはーみーどーりー草~の海風~が吹くよ

 おーまっきばはみーどーりー 良くー繁ったもーのーだっ」

「へいっ!!!」


 アヤノ達の目には届かないが、ステージ最前列では歌に合わせてカオリとスライム二匹のダンスも披露されていた。

 国王達もバックダンサーのつもりか肩を組んで並び、リズムを取って盛り上げる。


 そんな協力もあってアルジェンのソロコンサートは盛況の内に無事終了した。


 幸いアンコールの風習は無かったので、それから暫くして観客達は三々五々に散っていく。

 予定では発布式が終わると直ちに国王達は帰城しステージを片付ける手筈であったが、

「アルジェンちゃんをもっと見たい」

「アルジェンちゃん! 何か一言お願いします!」

と観客達からの要望に応える形でいつの間にかこんなことに。


 ボードン派がアルジェンに悪い印象を植え付けようとしたことをこれで払拭出来たと思えばこの対応は間違いではないと言えるが、何故に童謡でコンサートを?

 著作権の問題を配慮してくれたチョイスに少しだけ感謝するが、異世界だから関係なくね?と突っこむクレストだ。


「クレたん、何やらしてんのよ」

「アルジェンちゃんのイメージアップ作戦かしらね?」

「そうじゃない! どうして私もステージに上げてくれなかったのよ!」


 理不尽なカーラの怒りをハイハイ、そうよねとアヤノが宥める。

 カーラがステージで何をするつもりだったのか…恐らくマジックショー、しかも本物のマジックだ。

 下手すればセットや観客達に被害が出るので出なくて正解だったとアヤノは秘かに胸を撫で下ろのだった。



 式典とコンサートが終了し、これでやっとホテルに帰れると安心したのだが、今の姿は借り物の衣装とバリバリの男装姿である。

 さすがにこのままでは戻れないので、一度城に戻って元のエマさんの姿に直さなければ。


 副団長とベルさんに挟まれて馬車に乗り込もうとしていると、一人の兵士が困った顔をしながら走ってきた。


「クレスト殿、スライム坊主がどうしても会いたいと」

と、ダメですよねと言う様子で聞いてくる。


「彼も後でお城に来る予定でしたよね?

 それなら一緒に行きましょう」

「えっ?! 宜しいので?」

「何か不都合ある?

 トイレスライムの開発者でしょ。勿論会いますよ」

「分かりました…お連れします」


 アルジェンのコンサートで忘れてたけど、彼にも一度会いに行くつもりだったのだ。

 逆に来てくれると言うのだから、アポ取る手間も省けて寧ろウェルカムだ。


 それからすぐに先程の兵士が三十代のおじさんを連れて来た。

 スライム坊主と呼ばれるだけあって、頭は綺麗なスライム形だ。つまりハゲ。


「こちらがクレスト殿です」

「はい、ステージを見ていたので分かります」


 兵士が俺を紹介したが、俺も舞台から騒動を見ていたので彼の頭を覚えていた。


「初めまして。スライム研究家のジェルボと申します」

「初めまして、冒険者のクレストです。

 実は明日か明後日にでもジェルボさんのところを訪ねようかと思ってたんですよ」

「本当ですかっ!?」

「はい。紙の研究をしている研究者からスライムの液を使って紙の材料を漂白していると聞きまして。

 その液を分けて貰えないかと相談したかったんです」


 ここで兵士が会話に入ってきた。


「クレスト殿、話は城の方でゆっくりなさってください。ここでは撤去作業の邪魔になりますので」


 確かに周りには組立式のステージをの上に置いてあった物を地面に降ろし、荷造りが始まっていた。

 そのスタッフ達を副団長が見渡すと、

「おーい、ビリーっ!

 ちょっとコッチに来てくれ!」

と大声で叫んだのだ。


「ビリーも居たんだ」

「アイツは力仕事なら三人分は働けるからな。重宝しておるぞ」


 それって雑用だろ。従者だから仕方ないけど、出来れば早めに騎士になれる機会も与えてやれよな。


 頭にねじり鉢巻きをした大柄な男がドタバタと走ってきた。

 少し見ないうちに、顔付きが男らしくなってきたじゃないか。


「ビリー、こちらはリミエンの半冒険者のクレストだ。

 今は訳あって魔法で姿を変えてあるが、明日には元の姿に戻る予定だ」

と副団長が俺を紹介する。


 だが元の俺の顔を知っているビリーがそれをすぐに信じる訳もないだろ。


「なんだ、クレストさんだったんですか!

 ビックリしました!

 名前は同じなのに、ずいぶん背が低くなったから違う人かと思ってたんだ!」

「おいっ! 普通は顔だろ!

 頼むから身長で判断するなょ」


 コイツ大丈夫か? しごかれすぎて頭に来てる?


「やだなぁ、背は変えられないけど、顔なんて化粧でどうでもなるって姉ちゃんが言ってたし」

「アイツか…間違っちゃないけど、納得行かねぇ!」


 ビリーはリミエンで一番大きな武器のお店のファロス武器店の息子で、彼の姉のリイナ嬢はとんでもないポンコツだった。

 彼女の言うように確かに化粧で顔は誤魔化せる…けど、それにも限度はあるだろ?


「そうだな、ビリーは明後日、一日の休暇を与える。クレストを王都案内してやってくれ」

「はい、喜んで!」

「居酒屋かっ!」


 騎士見習いのする返事じゃないだろ?


「ビリーは明後日の朝十二時(九時)に『カーリントンホテル』にクレストを迎えに出るようにな」

「はい! 明後日の朝十二時、『カーリントンホテル』に迎えに行きます!

 装備は標準装備でよろしいでしょうか?」

「ビリー…目的は観光だよ。戦いに行く訳じゃない。

 私服で頼むよ」


 何が悲しくて武装した騎士見習いと観光しなきゃならないんだよ?

 それともスーパーブラックな職場で普段着を着る暇も無いほどこき使われてるのか?


 少しビリーが気の毒に思えてきたが、これは彼の選んだ道なのだ。

 可哀想だからと俺がクチを挟むことではない。

 だが、ラッキーの連続でビリーと会う手筈も整ったことだし、手間が省けて良かったよ。


「はい! 明後日はヨロシクお願いします!

 では作業に戻ります!」


 ルンルンな様子で持ち場へと走っていったビリーを仲間達が優しく迎え、素早く大きな荷物を彼に持たせた。

 頼りにされてんだ…よな? 他意はないよね?

 キチンと職場環境のことも聞き取り調査しなければ。


 ビリーの相手をしていた間にベルさんがジェルボさんを馬車に拉致していたので俺と副団長も馬車に乗り込み城に戻る。


 先に到着していた皇太子が玄関で俺を見付けるなり、

「一緒に昼食をとらないか?」

と聞いてきた。


「待ち伏せは犯罪ですよ」

「そんな法律は無いはずだが」


 残念、コッチには迷惑防止条例は無かったか。

 えせでー爺っすの転生者っ! しょうも無いこと教えてないで、ストーカー規制法とかソッチ系を先に充実させろょな!


「食事なら仲間達と楽しく食べますから大丈夫です」

「弟妹達がアルジェンと話をしたいと駄々を捏ねていてな。

 仕事の都合で食事の時間ぐらいしか合わせてやれないのだ」


 うーん、面倒だけど権利者の一家を仲間に引き込む良い機会?

 相互理解が進めば無用な弾圧、反発も起きなくなるってことだから、アルジェン保護令を制定してくれたお礼として我慢するか。


「分かりました。

 では、着替えを済ませておきますので。

 スオーリー副団長とベルさんは?」

「儂は昨日までの報告書をまとめる仕事があってな。

 残念だがここで失礼せねばならん。では!」

「僕もさっき捕らえた冒険者達の尋問に立ち会わないといけないからね。

 じゃあ、終わったら迎えに行くよ」


 風が吹き去ったように二人がこの場を離れて行った。


「うむ、良い仲間を持ったな」

「どこがだよ!」


 腕を組み納得したような顔で頷くエリック皇太子に突っ込んだ俺は悪くない!

 スライム坊主のジェルボさんが顔を青くしたのはスライム研究の影響か?


「ジェルボさん、どうしたの?」

「皇太子にあんなクチきいたら、不敬罪で打ち首になるって…」

「えっ? そうなの?ですか?」


 一応マナー教室で学んだのが、やはり付け焼き刃では効果が無いか。


「その程度で不敬罪など適用せんよ。

 有益な者をつまらんことでみすみす失うなど、却って不経済で愚かな行動だからな」

「そうですよね!」

「三日前なら打ち首だったがな」


 …やっぱり貴族は恐いです!

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