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第163話 法令の発布は

 チェスボードをあげたら皇太子殿下に懐かれた…。


 こうなりゃ利用しまくってやるぜっ!なんて思う俺ではない。

 出来れば権利者と知り合いになるとか、仲良くなるとかそう言うのは極力勘弁願いたい。

 だっていつか必ず厄介な事件に巻き込まれるのがお約束だから。


 それとスオーリー副団長が他のお偉いさんから俺を守る防波堤役になってくれたけど、それだってヤッカミの理由になる。

 冒険者の出の一般人ごときに、なんで栄誉ある副団長が後ろ盾になるんやねんって、妬みつらみがてんこ盛り。


 聞こえるか聞こえないかの声で、そう言うの喋ってるのが偶然聞こえてしまったのだ。

 アルジェンが爆睡してたお陰で助かったよ、言った人の命がね。


 直接俺に接触するなと国王様に釘を刺されているので、コソコソと影で悪口言うのが貴族のやり方らしい。実に情けない奴らだよ。


 愚痴はそれくらいにしておいて、王城から前の広場まで左右を隙間無く騎士の列が埋め尽くす中、先頭に騎士の偉い人達、次に国王の乗った馬車、その後を俺と副団長とベルさんの乗った馬車が続く。

 更にその後ろに宰相や他の役人の乗った馬車が二、三台続く。


 城から広場までは馬車で五分と少々程か。ぶっちゃけ馬車の用意をしている間に歩いて行けると思うが、これは護衛の都合と演出的な都合もあるので致し方ない。


 広場には普段は屋台以外の何も無いのだが、式典があるときは組立式のステージと演台が運搬されて突貫工事で組み立てるそうだ。

 広場の近くに専用の倉庫があってそこから運ぶのだが、かなりの重労働らしい。

 筋力強化系のスキル持ちが活躍する場でもあるので、ビリーが駆り出されたかも知れないな。

 

 現場に到着し、馬車から降りるとコンサートの警備のように柵を立て、その後ろに警備員ならぬ警備兵がずらりと肉の壁を作っている。

 リミエンではこんな光景は一度も見たことが無い。


 広場に作られた特設ステージの裏に案内され、手順をお復習いして式典の開始となる。

 騎士の案内で何とか大臣達が次々とステージに上がりひな壇につく。

 そして宰相が上がり、国王陛下、王妃、皇太子の三人を壇上に招く。

 俺とアルジェンは舞台袖で待機する。


 銅鑼のような物がドーンと三回叩かれて大きな音を立て、広場がシーンと静まる。

 まぁ、初めてこの様子を見る子供達の声は聞こえてくるけどね。


 ガースト宰相の合図で制定、改定する法令のリストを書いた紙が次々と壁に掲げられていく。

 順番的には先に改定する法令の説明をしてから、新しく出来た法令を紹介していく。


 最初からインパクトの大きな新規の法令を紹介すると、後に紹介する改定は注目されなくなるからだ。

 オークションのやり方と似てるかもね。


 今回はダンジョン管理法、市民権管理法、公共工事関連法の細部がマイナーチェンジされたそうだ。

 そして新しく出来たのは移民受け入れ法と妖精等希少魔物保護令だ。


 移民受け入れ法はリミエン伯爵がエマさんから話を聞いてから、すぐに叩き台を作って伝書バットを王都に送ったらしい。

 要は俺のやったことを正当化するのがその目的なのだ。


 前例が無いからダメとは言う人も居るし、どんな事に対しても反対するひねくれ者も居るのだから、法令に準じていますと言えるようなればイチャモン付ける馬鹿を相手にする必要が無くなる訳だ。


 新しい法令を制定した経緯を軽く説明し、外国から人が沢山移民の申請が来たときはこうしましょうね、と聴衆に教える宰相に俺達のためにありがとうと、軽く感謝する。


 キリアスから千五百人も来たことを知って会場が暫くざわついたが、リミエン伯爵が上手に手綱を握っているので安心してくれと宰相が言葉を操り皆を落ち着かせる。


 そして最後にメインイベント、ウチの子保護令が発表される番が来た。


 ガースト宰相がその保護令の話に入る前にアルジェンを起こしておく。


 ちなみにこの保護令を最初に提案したのは、なんとエマさんらしい。

 俺達とダンジョンで別れて伯爵様と面会した際、アルジェンの可愛らしさを目当てに誘拐を目論む悪党が出てこないかと心配し、伯爵に法令化をお強請りしたそうだ。


 その事を広場に向かう馬車の中で副団長から聞かされ、

「母は強しか、親馬鹿か」

と頭を抱えてしまったょ。


 伯爵様もよく法令化を王都に上申する気になったもんだと感心するが、その判断のお陰でこのタイミングでウチの子保護法令が制定されたのだ。

 うん、後二日ぐらいは伯爵様の方に足を向けて寝ないようにしよう。

 多分、南に頭を向ければ大丈夫!


「既に見聞きした者も居ると思うが、コンラッド王国に可愛い妖精を連れた者が現れた」

「私とパパのことなのです!」


 舞台袖に立つ俺の頭の上で、恐らくアルジェンがビシッと横ピースでポーズを決めている。

 頭皮に伝わる足の感触でアルジェンのポーズが分かるようになるとは、俺もかなりの親馬鹿かもね。


「これまでにもテイムと言う魔物を使役する能力を持つ者が稀に現れる事があったが、テイムされた魔物は家畜として活用する以外の用途がなかった為、法令による保護はされておらなかった」


 テイムもこの世界ではレアとは言わないまでも少数派のスキルに相当するんだよね。

 でも恐らくは、冒険者しか生きている魔物と接する機会がないから、テイムスキルを持っている事を知らずに一生を終える人が多いだけなんだと思うんだ。


 スライムの研究をしているスライム坊主って人もスライムをテイムしたのが研究の切っ掛けなのかも。

 まさか毎日スライムの世話をしていたらテイムスキルが身に付くなんて無いと思う。


「だが今回この地に現れた妖精は、サイズこそ手のひらに乗せられる程度であるが、人と会話する能力と魔法を操る能力を持つ。

 見た目以外はなんら我々と変わらんのだ。

 いや、寧ろ愛でたいと願う者が現れるやも知れぬ!

 そのような不届き者の魔の手から妖精を守るには、適正な法令の整備を急ぐ必要があったのだ!」


 ウンウン、急いで法令化をしたのはグッジョブだけど、そんなに力説しなくても良いと思うよ。


「本日発布する『妖精等希少魔物保護令』は、その妖精だけでなく、人とコミュニケーションが取れるような、又は唯一無二の希少な魔物達を悪党の手から守る為に事を第一としておる。

 もし、他にも保護を要請したい魔物を飼っている、知っている、そう言う者が居れば遠慮せず申し出て欲しい。

 保護対象と認められた魔物は王城にてリストを作成し、認定証を発行する」


 まぁ、俺みたいに特殊なケースでないと対象になる魔物は早々見付からないと思うけど、カオリは薔薇おばさんが見付けたから本当ならおばさんが飼い主になるんだよね。 


「他にも詳しい事は幾つかあるが、対象の魔物を所有する者は王城に来るように願いたい。

 この保護令が無かった為に隠れて飼っていた魔物が居るかも知れんからな」


 居ないと思うけどね。


「レアなスライムは対象ですか?」


 あれ? 聴衆の中から声がしたぞ。

 まさかスライム坊主と呼ばれてる人?

 意外と社交性があったんだ。人の集まる場所には出てこないと勝手に思ってたよ。


「もちろんスライムでも希少性があれば、申し出てきて欲しい。

 スライムも用途によっては人間に有益な魔物であることは既に知られておる」

「おー、それならこの後に行ってみる!」

「この式典の閉会後、我らの撤収が終わってから尋ねて来るが良い。

 さすがに直ちにとなると、警備の者が間違って逮捕するかも知れんぞ」


 最後のは笑いを誘おうと思った通りのかも知れないが、

「スライム坊主なら逮捕しても問題ないぞ!」

と宰相の予想に反してヤジが飛んできた。


「小屋には何千ものスライムを飼ってるそうじゃないか!

 想像しただけでも気持ち悪くてかなわんぞ!」

「そうだそうだ!

 もし脱走したらどうしてくれるんだ!」


 スライムの大軍の脱走か。消化酵素を持つからアレコレと溶かしながら脱走するかも知れないのか。


「スライム小屋は地下にあって、扉以外はアクセス出来ないし!

 安全性は王城の人に確認して貰ったから大丈夫だと言ってるだろ!」


 スライム坊主はご近所さんとトラブルを起こしていたらしい。


「スライムってモチモチプリンプリンで気持ち良いのにね」

「スライムソファの良さを知らないから、あんな事を言うのです!

 国民皆にスライムソファを配布すれば、皆がスライムを大事にしてくれるようになるのです!」

「人間が座れる大きさのスライムは居ないと思うけど」

「八匹のスライムを合体させてキングにすれば良いのです!」

「多分だけど、リアルで合体されると八匹じゃ体積が足りないけどね」

「そこは夢と根性で補正を掛けるのです!

 システムの都合上、同時に扱えるのはマックス八匹なのです!」

「それ、何のシステムだよ?」


 ここは国民的コンピュータゲームの世界が舞台じゃないんだから。


 仮にスライムが球形だとして、ノーマルスライムとキングのスライムの直径の差を十倍とすると、体積は球の公式から千倍になる事が分かる。五倍だと百二十倍。そりゃどう考えてもシステム的に無理だよね。

 ちなみに直径が二倍で大体八匹の体積だけど、たったの二倍の大きさだとキングとは認められないよね?


 そんな事はどうでも良い。

 スライム坊主が吊し上げに遭い、兵士が彼を守ろうと動き始めて会場がちょっとしたパニックに陥っている。


 スライムの大脱走が実現すると確かに問題だが、スライムって基本的に殆ど動かないんだよ。

 餌さえちゃんと与えてやれば全然問題ないので、スライム坊主がスライムのお世話を続けられる環境を維持することの方がより重要となるのだ。

 しかし王都の住民の理解が得られないなら、お引っ越しもやむ得ないのでは?


 どこにスライム坊主の家があるのか知らないけど、スライムの出す液体は俺も必要としているので、この際だからスライム諸共纏めて預かってやるか。


 でもスライム何千匹とか言ったっけ?

 全部運ぶのに荷馬車が何台必要なんだろ?

 と言うか、アルジェンの出番はいつ来るんだろ?


「皆のもの! 一度静まれっ!」


 ドーンと銅鑼の鳴る音が響き、暫くしてやっと興奮した馬鹿共が大人しくなった。


「スライム坊主のジェルボ殿は!

 トイレスライムの開発により、コンラッド王国の衛生環境を著しく改善した功績を持つ者であるぞ!

 其方らはその恩を忘れ、ジェルボ殿を変態だのド変態だのと悪口しか言っておらんではないか!

 毎日何千匹ものスライムの世話をするのは常人には出来んことではないのか!

 彼の変態性があって我々は清潔なトイレを手に入れることが出来たのである。それを忘れてはならんぞ!」


 結局、ガースト宰相も変態ってとこは認めるんだ。

 しかし変態だのトイレだの、普通の宰相のクチから出るもんかねぇ?

 トイレが綺麗なのはとっても有難いことなんだけどね、流した先にスライムがウジャウジャ居ると思うと…想像しちゃ駄目な奴だね。


「ふぅ、再度言う。

 対象の魔物を所有する者は王城に来るように願いたい。

 それとだ。今日ここに妖精と妖精を連れた冒険者を招いているので紹介しよう。

 ではクレスト殿、アルジェン殿、壇上へどうぞ」


 ガースト宰相の声が掛かったので、アルジェンを肩に乗せて舞台袖から宰相の隣に向かって移動する。

 指定された位置に立ち止まり、教えられた通り国王達に頭を下げる。

 アルジェンも俺の真似をした後、パタパタとステージの前まで飛んで行く。


「みんな~っ! 私は妖精のアルジェンだよっ! のってるかーぃ!」


 …いきなりナニ言うてんねん?

 確かにステージみたいになってるけど、乗ってるやつなんて居るわけないだろ。


「ヘーイッ!」

「イェーェイッ!」

「アールジェーンちゃーん!」


 …居たみたい。空気読んでくれてありがとね。


「でもね! 私、普通の女の子に戻りたいの!

 だから町で見掛けてもアイドル扱いはしないでねっ!」

「それなら遠くから見守りますっ!」

「ストーカーは絶対ダメっ!

 メーワクボーシ除霊違反だから!

 エクトプラズムがアーメンでゾンビがくるりと輪を書きながら襲ってくるから気を付けて!」

「よく分からないけど、よく分かりましたっ!

 とにかくそれぐらい危険なんですねっ!」


 それ、絶対分かってないやつ!


 それでアルジェンは満足したのか、パタパタと肩に戻ってきた。


「…ゴホン…このアルジェン殿と主のクレスト殿は王城からの招待客でもあるので、先程アルジェン殿が申したように彼らに過度な接触を図らぬように願いたい」

と、額に青筋を浮かべながらも落ち着いた様子を装う宰相…だったが、会場から怒号が飛んできた。


「馬鹿やろーっ!ソイツは魔法で人を燃やしただじゃないかっ!

 どう見ても危険物な生き物だぞ!

 保護なんかするんじゃねえ!」


 どうやらボードンを擁護する仲間がここにも来ていたようだな。

 イラッとしたが壇上で取り乱す訳には行かない。


「その件については今から話す予定であった」

と懐からメモを取り出す宰相は、そんな中でも涼しげな顔をしている。


「一昨日、冒険者ギルド前にて冒険者ボードンがアルジェン殿によって魔法で焼かれる事件が発生した件について警備の者から報告しよう」


 ここで反対側の舞台裾から頭に角があるヘルメットを被った衛兵さんがススッと出て来た。

 角かと思ったら鳥の羽だった。


「本件につき調査を行った結果の要点のみ以下に述べる。


 第一に彼女の主、クレスト殿に向かって冒険者バックスを冒険者ボードンが投げ付け危害を加えたこと。


 第二にボードンは普段から素行に問題のある者であり、当方も要警戒人物としてマークしていたこと。


 第三にアルジェン殿はボードンが耐火の魔道具を装備していたことを知った上で火の魔法を選んだこと。


 第四に冒険者ギルドには治癒魔法の使える魔法使いが常駐しているのを知っており、治癒可能なレベルに調整して燃やしたこと。


 そして最後に、人間との価値観の違いはあるがそれでも主に対して迷惑を掛けぬよう、殺す意志は無かったこと。


 非は明らかにボードンに在ることが明白であり、かつアルジェン殿にはボードンを適度に火に掛けたに過ぎない。

 よって本件においてアルジェン殿に罪は無いものと認める」


 少し脚色されている気もするが、今まで言ってきたことは踏襲されているので細かい所には目を瞑ろう。


「それともう一つ儂から付け加えよう」

と国王様がしゃしゃり出る。


「冒険者ギルドには老人も依頼を持ってくるが、ドアを破壊する勢いで冒険者バックスを投げて運悪くクレスト殿に命中したそうだな。

 これが彼でなく、依頼を持ってきた老人だったら痛いでは済まされんかったことよ。


 その事を棚に上げ、妖精が危険だと民に無用な不安を煽るとは、そちには何か良からぬ考えがあるとしか思えぬ。

 衛兵っ! かの者と聴衆を煽ろうとした者達を捕らえ、徹底的に調査せよ!」


 羽付きの衛兵さんから国王へのバトンだが、美味しいところを国王に譲った形だな。

 それにこの茶番、敢えてこの場で異分子の炙り出しを行うように仕向けたと考えて良いだろう。


 怪しげな動きを見せた何人かも同時に捕らえられ、

「話せば分かる!」

と叫んでいるが、

「離せば逃げる、だろうが!」

と小悪党供をみすみす逃すような衛兵さんと市民達ではなかったようだ。


「ようやく落ち着いたな。衛兵隊、御苦労であった」

と国王様がニコニコ顔だ。


「姿こそ人より小さいが、アルジェンは優れた知性を持っており、現在人間社会の中で生活するための勉強中である。

 まだ至らぬところもあるが、民の皆には優しい目でアルジェン殿を見守ってくれる事を期待する」

と国王が会を閉めようとする。


「クレスト殿、何か付け加えておきたい事はあるか?」

と宰相が振ってくるので、

「それなら…俺のカオリとラルムとピエル、あとリミエンにドランさんも居るのでヨロシク!」

と、ポケットに入っていた子達を手に取り観客達にアピールっ!


「まだそんなに居たのかよっ!」

と誰かが叫んだが、多分俺は悪く無い。

 この子達のことを付け加えたのは、みんなの可愛いさを知って欲しいって気持ちだけだから!

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