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第162話 やっと終わった献上の儀

 献上品を渡すだけのつもりで国王に会ったら、何故か長話をする羽目になった。

 しかもベルさんが森のダンジョンの管理責任者に立候補。

 ルーファスさん達と仲も良いから人選としては良いかも知れないけど、それだと王都からダンジョンにお引っ越しになるんじゃない?


「ベルビアーシュ、ソチがそれで良いと申すのならリミエン伯爵にこちらから話を通しておく。

 何かあった際にも戦力的にソチであれば問題も無かろう」

「我が儘を受け入れて頂き、有難き幸せでございます」


 悪いけど茶番に見えてきた。

 芝居がクサイとかじゃなくて、これ、絶対事前に話し合って決めてるよね?


「しかし、今のリミエンは移住ブームが起きておるな。

 スオーリー副団長も引退後はクレストに世話になると申しておるし」

「えっ!聞いてないよっ!

 あっ…すみません」


 国王の言葉に反射的に反応して叫んでしまったので慌てて頭を下げて謝る。

 マナー教室で教えられた作法なんてすっ飛んでるし。

 クククッと隣で笑っている副団長を軽く睨むがスルーされた。

 

「職人を目指す者や舞台関係者も王都を出ていると聞いておる。

 王都には既に新しい雇用を生み出す力が無いと見切りを付けられたのかも知れんな」

と国王の恨み節が炸裂したが、俺に言われてもどうしようもない。


 職人のことなんて知らないし、舞台関係者は舞台を閉める切っ掛けを作った演者さん達に文句を言ってくれ。

 それと舞台関係者でイベントの司会が出来る人が居たら一人欲しいんだけど。


「国王陛下、王妃様、そろそろ本題に入られては」

「ガースト宰相、そう急かすでない。

 参列している者の中には、クレストの行動に疑問を持つ者も少なくないのだ。

 その者達の代わりに儂らが聞いておると思ってくれんか?

 ついでにこの場に居る者達に言っておくが、個別にクレストの元を訪れることの無いようにな。

 少々勝手は過ぎるところもあるかも知れんが、リミエンのことを第一に考えておることは先程からの受け答えで知れたであろう。

 各部署に戻ってから配下にもそのように伝達すること」


 と言うことは国王陛下自ら、俺を良く思わない人達が俺に接触してくるのを阻んでくれたと受け取って良いんだね?

 アンチ俺派なんて派閥があったらイヤな気がするけど、他人の考えることは良く分からないから気を付けなきゃ。


「この後に広場で法令発布式もあるのだが、クレストの連れて来た妖精は今どこに居る?」

「ここに連れて来ております。

 他にもウドルの町で知り合った薔薇の魔物とスライム二匹も一緒です。

 恐らく妖精等希少魔物保護令の対象になる子達ですよ」


 ここで会場全体からがどよめき始めた。

 聞こえてくる声を集めると、どうやら計四匹も希少魔物を連れていることが信じられないらしいのだ。

 リミエンにもう一匹居るんだけど、ドランさんのことは黙っておこうかな?


「静粛に!

 スオーリー副団長、ベルビアーシュ殿、クレストの申すことは真実であるか?」

「こやつなら誰が開けるかも分からんような場所に、可愛い魔物達を置いておく愚は犯さんでしょうな」

「クレスト君は普段から魔物達と仲良くしていますから、その礼服のポケットにでも入れてきたのでしょう。

 それとリミエンにもう一匹、可愛いトカゲを飼っていますから計五匹の希少魔物を管理していますよ」


 ガースト宰相が頭を押さえたが急にカゼでも引いたのか?

 風邪の引きはじめには部屋を温かくして、葛根湯を飲んで寝るのがお勧めだよ。


「すまぬがクレスト殿、王都で話題になった妖精を見せることは出来るのか?」

「アルジェンの機嫌次第ですが…アルジェン、出てこれる?」

『仕方ないのです』


 渋々と言った様子で返事をしたアルジェンがキラキラと輝く粒子を撒き散らしながら俺の前に姿を現した。


「スーパー美少女妖精アルジェン!

 コクオー様の呼び出しに応えて参上したのです!」


 パタパタとホバリングしながら左手を腰に、右手で横ピース!

 さすがアルジェンクオリティ、相手が国王陛下でも態度は変わらない。

 しかしコクオーと呼ぶと少しかっこ良い響きに感じるのは、俺の中に眠るチューニスト精神の影響か?


「おぉ、まことに妖精である!

 しかもこれ程美しく、流暢に喋るとは予想以上であるな!」

「あら、この子可愛いわね。これは保護令を出して正解ね。あなたには珍しくグッジョブよ」

「これが妖精…美しい…」


 王家の三人がアルジェンに見蕩れ、ついでに王妃様が国王をディスる中、エリック皇太子の目がまるでフィギュアを見つめるヲタクのように…。


 ここはやはりリミエンに戻ったらアルジェンのフィギュア化計画を本格始動せねばなるまい。

 本人が八分の一スケールなので、原寸大フィギュアも不可能ではないっ!


 着せ替え衣装のラインナップは受付嬢ルックをベースにゴスロリメイド服や他にも…


 はっ、イカンイカン!

 国王陛下の御前でとんでもない妄想をしてしまったのだ。

 それにアルジェンは清純派で売り出すべきだ!

 スケベ心満載のオタッキー共に腿を見せて良い訳が無い!


「アルジェンとやら、人間の世界の暮らしは不便は無いか?」

「はい!なのです!

 お風呂で泳ぐのは駄目なのです!」

「お前、いつも泳いでるだろ」

「あれは背泳ぎしながらパパにナイスバディを見せつけているだけなのです!」

「今、泳いでいると自白したよ」

「えっ!…パパは策士なのです!」


 国王達がクククッと声を潜めて笑っているが、いつ怒られるかドキドキものだ。


「さっきのは策でも何でもないと思うぞ。

 それでアルジェンよ、人間の食べ物は旨いと思うのか?」

と聞いてきたのは王妃様だ。

 壇上に居なければ、間違いなくアルジェンを捕まえて頬擦りしてるだろう。


「ハイ!

 パパがいつも美味しいご飯を用意してくれるので、パパに付いてきて大正解だったのです!」

「最近食べた物で美味しかったのは?」

「うーん、どれも捨てがたいのですが、ドラ焼きなのです!

 ワッフルを中に入れてパンケーキを焼くなんて夢の競演なのです!」

「それ程かっ!」


 ヤバイ、王妃様に試食のを渡したら国王様の分が無くなるかも…仲良く半分こして貰おうか。

 想像だけで王妃様が唾を飲み込むなんて、罪なドラ焼きだぜ。


「パパとはクレストのことであるな?」

とコクオー様。そこは流れで察してスルーして欲しかったんだけど。


「そうなのです!

 私は魔力になってパパとママの中に入ったのです!

 そしてパパとママの遺伝子情報を持って生まれたのです!」

「イデンシジョーホー?

 それは儂は知らんが、クレストを父親と認識しておるのだな?」

「ハイ!なのです!」


 恐らくは、魔界蟲本体さんが俺のアイテムボックスとエマさんのタンスにドンドンに入った時に、俺達の遺伝子情報を抜き出してたってことだよな。

 収納スキルはマジックバッグと違って単に亜空間か異空間に繋がってる訳じゃなく、個人の遺伝子情報を持った何かを出入り口の目印にしているのかも。


 それならセリカさんは防具だけ、サーヤさんは弓矢だけって言う収納スキルの制限にも納得出来る。

 

 俺がそんな事を考えている間にアルジェンへの質疑は進んでいた。


「妖精は一人だけだが、寂しくはないのか?」

「魔物は退屈を感じることはあっても寂しいと感じることは無いのです!

 それにカオリもラルムもピエルも良く遊んでくれるのです!」


「アルジェン達は人間をどう思うのじゃ?」

「魔物と違って美味しいご飯を作る素晴らしい生き物なのです!

 パパとママは優しいのです!

 パパの仲間も遊んでくれるので好きなのです!」


「冒険者を一人火炙りにしたと聞いたが、殺すつもりだったのか?」

「人を殺すとパパが大変な目に遭うので殺すつもりは無いのです!

 あの人は火の魔法に耐える魔道具を持っていたので、敢えて火を選んだのです!

 私はパパとママの安全を優先するのです!

 パパとママに敵対する人はお仕置きなのです!」


「それ程クレストが好きなのか」

「勿論なのです!」


 こんな感じだ。

 それでもさすがに痺れを切らしたガースト宰相が本題に入れとコクオー様に教育的指導をビシッと出したところで、俺も長考モードから復帰した。


「ゴホン、これより『雑貨工房ガバルドシオン』の職人達によって製作された『ブロック式チェスボード』の献上の儀を執り行う。

 尚、少々予定外の時間を使ってしまった為、この儀は最速で行うこととする」


 ガースト宰相が冷や汗カキカキそう補足する。

 最速と言っても、この献上の儀は参列する人参共へのプレゼンも兼ねているので、小さなテーブルを運んできて国王様と皇太子殿下の対局が行われた。

 ちなみに俺はルールも面白さも知らないので、対局中は退屈を持て余したけど。


「うむ、これなら馬車の中でも使えると宣伝しても詐欺にはならんな」

「そうですね。

 これ、壁に貼り付けて観客からもよく見えるように作ってみてはどうでしょう?」


 チェスはちょっとした大会も開催される程コンラッドではメジャーな娯楽であったらしい。

 テーブルに並べてのプレイだと確かに観客からは見えないので、壁に貼るのは良い案かも。

 ただし駒の形を上から見ても判別出来るように作り変えてやらないといけないだろう。


「クレスト殿、その案はいかがかな?」

「ええ、とても面白いと思います。

 すぐ手紙を書いて職人達に送りましょう。

 少し離れても見えるように、大きめに作ると良いかも知れませんね」

「それもそうだな。

 今までテーブル横の観客にしか見えなかったのが次の大会から変えられそうだな」


 皇太子殿下は縦の物を横に出来る性格らしい。こう言う柔軟さが上に立つ者にあると有難いよね。

 でも磁石があればもっと簡単なんだけど、無いからこの差し込み式がこんなに評価されたんだよ。

 俺としてはこんな微妙な商品をここまで高く評価されて素直に喜べないが、人参共からの評価も上々だった。


 どうやらあのブロックの丸い凸を盤の凹に突き刺す感触が楽しいらしい。

 そこはボビースさんがかなりこだわりを持って仕上げてたそうだからね。


 で、結局と言うか、献上の式典は対戦時間を除くと本当に数分間しか無かったよ。

 製作秘話とか長々と語る必要が無くて助かったけど、実は今回職人ではない俺を呼んだから急遽ダンジョンの話やアルジェンの話をしたのかな?

 それか、最初から俺に説明させるつもりだったかだ。


 ガースト宰相が閉会宣言をしてすぐに、

「国王陛下、クレスト殿、広場の方へ移動しますぞ」

と俺にも早く動けと催促してくる。

 その俺の隣に立ったのは皇太子殿下だ。


「後で一局どうだい?」

「あいにく私はチェスのルールを知りませんので」

「それなら私が教えてやろう。

 クレスト殿もチェス協会に入りたまえ」

「…いえ、頭を使うゲームは苦手なので」

「そう言わずに考えてくれないか」


 何となく皇太子殿下の目がハートになっているように見えるのは…まさかこの人、男の子が好きなのかっ!

 ヤバイっす!

 まさかチェスを教える振りして俺に性的イタズラをするつもりなんじゃ…権力者ならあり得るぞ…


 あ、待てよ、今の俺は当社比二百%増しの中性的なイケメンだった。

 免疫の無い人には超絶魅力的に見えても仕方ないかも。


「エリック皇太子殿下、クレスト殿が困っております。

 チェスに興味の無い者に加入を無理強いしても協会の為にも良くない事で御座います」


 皇太子の世話をする人なのか、やんわりと皇太子の行動を諫めたのは五十代に見える少し怖そうなおじ様だ。


「分かったょ、ブレントン。

 クレスト殿、無理を言って悪かった」


 皇太子は頭こそ下げないが軽く気持ちだけ手でゴメンねとジェスチャーする。

 次期国王が決まっているから、軽い気持ちで頭を下げるようなことはしないのだろう。


 俺からすれば、そう言う考え方があるから国会議員が悪いことやっても誤魔化したり煙に巻いたり答弁に応えなかったりするのだ思えてしまう。

 いかに高い地位に居ようとも、悪いと思えば素直に声に出し頭を下げて謝罪すべきだ。

 そう言う気持ちで国政に臨んで貰いたいが、この国でもきっと難しいんだろうな。


 けど、下手に言うとまたアルジェンが俺にキリアス盗りを勧めてくるだろうから言えないし。

 そのアルジェンだが、今はバッグの中でスライムベッドに潜ってお休み中だ。

 これだけ周りに人が居ると、俺に話しかけてくる人も居るので鬱陶しいらしい。

 アルジェンを怒らせるような人が居るかも知れないから、寝ててくれた方が安全なのは間違いないし。


 前後をベルさんと副団長がガードしてくれてて、更に皇太子が侍従か何かと隣に付いてくれてからは話しかけてくる人が居なくなったけど、この状態って王族並の対応だよね?


 ベルさんは冒険者だから良いとしても、副団長は軍の仕事してこいよと思うのだが、俺の護衛がその仕事?

 普通なら兵士か騎士がやることだろ。

 昨日まで出張だったから、今日は休暇で暇潰しに来てるなんてことはないよね?


 城を出て馬車に乗り込むまで皇太子がブロック式チェスやラクーンの事を聞いてくる。

 よほど新商品の事が気になっていたそうで、王都にも工場を建てて量産したいらしい。


 チェスはオール手作業で作っても良いが、ラクーンに使う金属部品は高精度の計測機器や専用の加工機械から作らないとダメだろう。

 今はビステルさんに美味しい物を食べさせたり、ご機嫌取りつつベアリングとサスペンション作りをしてもらっているけど。

 いつまでもビステルさん頼りって訳にもいかないのは分かっている。


 次のステージに移行するには、皇太子殿下のご機嫌取りもしておくべきかな。

 新しい機械の開発を伯爵にお強請りしても、お金が無いからダメって言われるだろうし。

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