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第149話 宴席にて

 国王と宰相の危ない会話が終わった頃、勿論王城内の遣り取りなど知らないクレースちゃん一行は個室を借りて宴会に突入しようとしていた。


「今夜は軍女神の驕りだよ!

 遠慮しないでガンガン頼みな!」


 リーダーのフレイアさんが壁に貼ってあるメニューを端から端まで指差して行き、

「せっかくだから、全種コンプリート行っちゃうかい?

 十二人も居りゃ食いきれるだろ」

と豪快な提案を出して来る。


「全部はテーブルに乗らないし、作る方も大変だからそれはやめとこうよ」


 見ただけで胸焼けを起こしそうになる量の料理は見たくない。


「なんだい、クレースちゃんは女の子だろ。

 しっかり食わなきゃ子供は産めないよ」

「俺は男だよっ!」

「こんなに可愛いんだし、もう女になっちまいなょ」


 冗談じゃない。何が悲しくてエマさんの姿で一生を過ごさなきゃならないんだよ。


「それならフレイアさんも男の体にしてもらいますよ」

「出来るならやって貰いたいよ。男の方がパワーも出るし、有難いよ」

「女より男の方が圧倒的にラクだし」

「そうだね。お洒落も適当で寝癖さえ直しゃ済むもんね」

「ブラブラさせるてるヤツの方がトイレもラクそうだ」


 脳筋の女性には無駄な説得だったらしい。しかし最後のジャンヌさん…そんなことまで平気な顔で言えるなんて男前過ぎるよ!


「クレースちゃんを弄るのはとにかく、取りあえず特盛り鍋と焼き肉全種盛りを三セット!

 枝豆は十二人前 ! ビール、エール、赤ワインをお任せで持ってきて!」


 メニューを考えるのを途中で辞めたフレイアさんが注文を取りに来た係の人にそうオーダーする。

 四人掛けのテーブルを三つ使っているので三セットは納得行くが、特盛り鍋か焼き肉全種盛りのどちらかだけで良くないか?


 ドタバタと運ばれてきた特盛り鍋は大きなおでんみたいな鍋で、焼き肉は焼き肉屋みたいに生の肉と野菜の盛り合わせが出て来た。


 凄いボリュームに圧倒されたが、他の人達は

驚いた様子もなく肉を焼き始めた。

 確かに俺が思っているよりいつも肉の消費量が多いと思っていたが、俺以外は俺基準の一人前では全然足りないらしい。


 匂いに釣られてか、カオリがバッグから出てくると焼き網の上に手?を伸ばしかけて熱かったのか直ぐに引っ込めた。


「薔薇は肉も食うんだね?」

「最近の薔薇はそうらしいよ」


 ごく普通のことのようにベルさんが回答するが、それは間違った認識である。

 だが考えてみると、肥料になるものなら食ってもおかしくないのかと少し納得…出来るかっ!


 焼いて貰った肉を両手の葉っぱで持って花に突っこむ薔薇が何処にある?

 根っ子を出してチューチュー吸いとるならまだ納得だよ。


「カオリちゃん、可愛いねぇ」

 

 未だもってこの世界の可愛い基準が理解出来ん。


『私も焼き肉を食べたいのです!』


 アルジェンが突然そう言うと、キラキラと輝きながら俺の中から出ていった。


「魔力の監視は良いのかよ」

 

 初めての魔法なので俺の中に居て監視を続けると言っていたんだけど。


「今のところ安定しているので問題ナッシングなのです。

 さすが私なのです!

 それにカオリも食べてるのに、私だけご飯抜きなんて絶対許可出来ないのです!」


 腹が減ったとかじゃなくて、単に食い意地の問題かよ。

 タダ飯だから幾らでも食っていいぞと心の中で呟き、おでんみたいな鍋にトングを突っこむ。


「鍋の具材にアスパラのベーコン巻きか。珍しいな」

「パパ、スライムがお腹減ったと訴えているのです」

「珍しいな。いつもは自己主張しないのに」

「恐らく進化の時期なのです」

「スライムが進化?」


 血を好む方に『ラルムドリューヌ』、骨を好む方には『ピエルドリューヌ』と名前を付けているが、俺には依然としてスライムの区別が付かない。

 食事と言う名の後片付けが終わった後は勝手に左右のポケットに戻って行くスライム達は、アルジェン曰くラルムが右でピエルが左を定位置にしているらしい。


「おい、それはまだ焼いてないぞ」


 まだ皿に乗ったままの生肉に推定ラルムが乗っかった。


「ん? コッチは骨が欲しいのか?」


 骨付き肉の残骸の上に恐らくピエルが乗っかかって溶かし始めた。

 どちらも透明なので、中の食材が少しずつ溶けていく様子が分かるのだ。


「スライムまで飼ってんのかい」

「トイレに入れてたヤツじゃないよね?」

「トイレスライムはバッチイ色だけど、この子達は綺麗な透明だから違う筈」

「それにしても、まさかスライムと一緒に飯を食う日が来るとはねぇ」


 軍女神の四人が口々にそう言うが、俺もこんな光景は初めてだ。


「あれ? 魔石が光ってるよ」


 生肉を何枚も平らげたラルムをステラさんが指を差す。


「コッチも光りだしたよ」 


 鳥の腿肉の骨を三本食べたピエルの魔石が明るく明滅を始めたのをベルさんがフォークで示す。


 それから暫くして二匹の体全体が光だし、その輝きが収束すると無色透明だった二匹はまるで淡く色付いたピンクダイヤモンドと白く優しいい輝きを放つホワイトダイヤモンドのような色に変化していた。


「へぇ、進化したら色が付いたよ。

 これなら俺でも判別出来るよ」


 今でも時々アルジェンにスライムの見分け方講習を受けるのだが、成果が出ていなかったからこの変化はとても助かる。


「…普通さ、スライムの進化なんて見たこと無いんだから、そうじゃない感想を持つよね?」


 何故かベルさんが微妙な顔を見せると、他の人達も頷いた。


「あたしらも長いこと冒険者やってたけど、魔物が進化する現場なんて見たこと無いんだよ。

 魔石が光るのが進化の合図って初めて知ってビックリしてんのにさ…」


 フレイアさんがフォークを持ったまま呆れたよと苦笑すると、

「これがクレストクオリティ!

 この人と一緒に居るなら、これに慣れないとね!」

とカーラさんが親指を立てる。


「進化したことより判別の方が大事…つまり姿形が変わろうとも、スライム達を大事にすることの方が優先と言うことですか」


 ケルンさんがウンウンと頷き納得すると、ピンクダイヤモンドのようなラルムをヒョイと掴み上げて灯りに透かして見る。


「まるで宝石のようですね」

「こっちの子も白い宝石みたいよ」


 ステラさんが持ち上げたピエルもレアな宝石のようで見る者の心を奪いそうだ。


「これは好事家の目には入れちゃイケないヤツだよ。

 間違いなく売ってくれと言ってくるよ」

「売りませんよ。この子達も俺の家族ですから」


 家族と言うより、この世界にスライムとして転生した俺の成れの果てかも知れないのだ。そんな子達をお金と交換なんて出来るわけが無い。

 一種の臓器売買みたいなもんだよ。


「そうなんだ。随分変わった生活を送ってんだね」

「スライム愛好家にも色々居るけど」

「これは筋金入りね」

「まだ若いのに、スライムしか愛せないなんて憐れね」

「そんな事は言ってませんからね!」


 軍女神の皆さんが何だかカーラさんに思えてくる。アダルトなゲームやマンガ的な想像してるに違いない。


 まぁ、彼女達のことはどうでも良いとして、三匹のスライムのうち魔界蟲本体さんに預けた子、『クレールドリューヌ』はその後どうなったのかな?

 ノラの本体を食べたらしいけど、そのせいで桁違いに進化してないだろうね?

 まさかバンパイア能力を持つスライムになってたりしないよね?

 そうだったら次に会ったときにはコテンパンにヤラレル気しかしないから。


「王都にはスライム愛好家なんて居るんだ」

「居るわよ。『スライムは無限の可能性を秘めているのだ』とか言って、研究した結果がトイレスライムの利用に繋がったのよ。

 役には立ったけど…」

「クレたんと似た者同士かもね」


 何処が似ているのか知らないけど、確かにその人にはウチの子達を見せない方が良さそうだ。

 まさかスライムを研究してる人が居たなんて…ひょっとして転生者か?

 それならスライム愛も納得出来るし、スライムの産業利用を思い付いても不思議じゃない。


「そのトイレスライム研究の人は他にどんな事をやってるの?」

「どうもスライムの触手に興味があるらしくて…かなりの変態よ」

「クレたん…会いに行くのは絶対やめてよね!」

「さすがにそれは俺も引くわ」


 薬草ばっかり食べさせてポーションを作るとか、そう言う役に立ちそうな実験をしてるなら褒めてやるけど。

 そんな人だから俺も変態扱いをされ掛かったのか。


 出来ればゼリーの容器に使えるようなスライム皮の研究をしていて欲しかったよ。

 

 赤色の薔薇のカオリがラルムを変形させてピンク色のソファにして上に乗ると、アルジェンも負けじとピエルをソファに変形させてドカッと腰を降ろして一言、

「ふぁー、最高の座り心地なのです!

 立ちたく無くなるのです!」


 モチモチ感が超絶的に堪らない、魔物を駄目にするソファの出来上がりである。

 俺も同じのが欲しい…。


「それにしても…レアどころか見たことも聞いたことも無い魔物ばかり連れてるね。

 魔力を無くしてるのにカオリちゃんが懐いたってことは、テイムのスキルは魔力と関係ないんだね」


 他にもクリスタルドラゴンのドランさんが居るとは言える雰囲気じゃ無いな。

 カオリ以外は皆ちょっと訳ありの魔物だから見たこと無いのは当然だけど。


 それより初代勇者が妖精を連れて居たってことの方が俺は気になる。

 骸骨さんが初代勇者の生まれ変わりって可能性がゼロでは無さそうなんだけど、そうなると俺の魂って何度転生してるのか見当が付かなくなる。


 今までは骸骨さんが出て来たことによって実害は出てるようで出てないような微妙なラインだったけど、王都の冒険者ギルドでスオーリー副団長の弟に喧嘩を売ったのはチョイとヤバすぎないか?


 骸骨さんが勇者の生まれ変わりだとすれば、やっぱり勇者は碌でもないヤツって公式が成り立ちそうだ。

 でも待てよ。俺と骸骨さんの人格がまるで違うように、初代勇者と骸骨さんの人格も違う可能性があるのか。


 勇者の身に起きた悲劇を知って、骸骨さんがブチ切れて乱暴者になったって線もギリギリあり得るし。


 俺以外がアルジェン達の話で盛り上がっているところを邪魔するようで悪いが、初代勇者の話を教えて貰おう。

 大した記録は残っていないと思うけどね。


「あの、ごめん。妖精を連れた初代勇者ってどんな人だったの?」


 ソファに化けたスライムごと持ち上げてカオリと遊んでいたフレイアさんが俺を見る。


「初代勇者…記録に残ってるって意味で一般的に初代と呼ばれているんだけどさ。

 外見は言った通りクレストと同じ濃紺の髪と瞳だ。

 初代が来た頃はキリアスも内乱なんてしていない頃で、ぶっちゃけここらの国同士が争っていた暗黒時代なんだよ。

 けど、その争いを圧倒的な武力で終わらせたのが初代なんだってさ」


 じゃあ、その頃は魔物達との争いはそれ程無かったってことか?


「何処の国が召喚したのかも分からないんだけど、最初は妖精だけを連れていて、次第にお伴の魔物を増やしていって国々を制圧したそうだ」

「制圧? じゃあ、ここら一帯のボスの座に就いたってこと?」

「そうらしい。

 国が一つになったんだから、当然国同士の争いなんて起きなくなった訳さ」


 想像してたのと規模が全然違ってたよ。

 でも、それだと勇者と言うより王とか帝王とか呼ばれるべきだよ。


「その初代が統一を果たした後だ。

 魔界の王が宣戦布告をしてきたのがね」

「へぇ、それで魔界の侵攻を食い止めて勇者と呼ばれるようになったのか」

「そう言うことだ。

 けどね、これ、どこまで本当かは定かでないんだってさ」


 そりゃ、昔のことだから確かな記録が残ってるかどうか怪しいよね。

 それに立場が変われば相手の見え方も変わってくるから、良い印象を持った人の記録と、悪い印象を持った人の記録では色々と変わってきて不思議ではない。


「魔界との戦いに備えて人間の国を統一し、一枚岩になって対抗したと言うのが初代勇者の功績として語り継がれているんだよね。

 その魔界の通路がキリアスに在ったことから、以後キリアスでは魔界の侵攻に備えて勇者召喚を試みるようになった、と言われているんだ」


 あの骸骨さんの性格からして、そんなまともな対応は出来そうにないから間違いなく初代勇者とは別人格だな。


「けど、クレスト君が持っていた『ブリュンヒルド』と『ヒルドベイル』は対魔界戦で使用された物だと思うんだよね」

「私もそんな気がするよ。

 ダンジョン産の武具でも、ここまで見事な魔道具作なんて私らも見たことはないよ。

 魔法の勇者が魔道具作製のプロだと言われているけど、恐らく使われている技術はセリカアーマーの方が上だよ」

「魔法の勇者は、武具には興味が無かったと言われているしね」


 ギルドカードのシステムと鎧じゃ方向性はまるで違うからそうかも知れないけど、実はダンジョン管理者になれば魔道具作製も魔力を消費すれば自在になるんだよ。

 クチが避けてもこの事は秘密にしておくけど。


 でも俺が好きなように魔道具を作れたのは、元々あのダンジョンに桁違いの魔力がストックされていたからなんだよね。

 電気に換算すればざっと原発三機ぐらいの発電量を好きな工場に割り振れた感じ。

 魔力はエネルギーの一つに過ぎないと過程すれば、あとはどう消費するかの違いだけなんだよ。

 

「もうセリカアーマーみたいなの残っていないのかい?

 貰えるんなら、私を好きにしても構わないんだよ」

「持ってないし、もし持っててもあげませんし、好きにはしませんからっ!」


 いきなり酷いお強請りしてくるなぁ。さすが人妻?


「残念。たまには若い子の相手も良いと思うんだよね」

「そうよね、旦那とばかりじゃマンネリと言うかさ」

「言えてるわ。若い頃は燃えたのにね」

「はぁ、今じゃウチの旦那も作業で腰振ってるだけみたいに感じるのよ。

 どうにかならないかなぁ」


 食事の席ではぶっちゃけるようなことですかっ!

 これも異世界なら当たり前なの? 

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