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第12話 予想外の苦戦

 ダンジョン入り口まで戻って来た所で謎の黒装束達と遭遇し、戦闘に突入した。


「出し惜しみは無しだ!

 一気に突破するっ!」

 

 おかしらと呼ばれる自称隊長がそう言うと、まだ閉じていなかった転送ゲートから数え切れない程の黒装束軍団が出て来るの。


 どうやら今まではこちらが少人数だからと舐めていたようね。


「ボーノデック!

 …ちっ! 熊ころにやられやがったのか!」


 ラビィはボーノデックが私に掛かりっ切りになっていたのを良いことに、まず内腿の肉を切り裂いて膝を付かせたところで首に噛み付いて頸動脈を噛み切ったみたい。

 見た目は子熊だけど、やる時はやるのね。


「フリットジーク!

 そんな中年相手にいつまで遊んでやがる!

 さっさとやっちまえ!」

「おかしら…青嵐のベルを相手にそりゃねえっしょ?

 コイツがどんだけ化け物かって知ってるっしょ?」

「お前だって同じ化け物だろうが!

 ソイツを倒せばボーナス出してやる!」

「やりぃっ!

 それならマジで行くしかないっしょ!」


 フリットジークって人、ベルさんを相手に今まで余裕をこいでいたの?

 どれだけ強いのよ?

 でもベルさんもまだ狼モードになっていないから本気ではないんだけど、相手がどう出てくるかは分からない。

 恐らく強化系統のスキルを使うと思うんだけど。


「ここから先には行かせません。

 行くなら私を倒してからにしなさい。

 何人居ようと私を越えることは出来ないけど」


 ベルさんが足止めされているなら、私が引き付けるしかない。

 ヒルドベイルを押し出すようにして何人かを弾き飛ばす。

 すると斧の付いた槍…ハルバードを構えた三人組が一斉に武器を振り下ろしてきたの。


 どんな武器を持つ奴が敵になるか分からないからと、ルベスさんの持つ多才な武器スキルとレアスキル『魔石人形』で作られた戦闘人形(バトルドール)に滅多打ちにされた恐怖に比べれば…私を殺さず怪我で終わらせようなんて攻撃、こんなのは『屁でもない』と言うものよ。


 三つの斧が攻撃点に達する前に間合いを詰めれば、長い柄を持つハルバードはただの錘の付いた棒に成り下がる。


 見た目に反して遙かに軽いブリュンヒルドとヒルドベイルだからこそ、私は盾役でありながら機動力を持ち合わせることが出来る。


 私を重い鎧を纏って動きが鈍い騎士だと思い違いをしていたのが、あなた達の敗因ね。

 三人纏めて一気に弾き飛ばしたところで、狙い澄ましたように後衛の三人が魔法攻撃と矢で無効化してくれた。


 私を手強いと見たのか、私から距離を取って馬車に向かって走り出す黒装束達も居るようだけど、それをあの人が容易く許す訳がない。


「『炎熱壁(フレイムウォール)』」


 オリビアさんが境界線を引くように炎の壁を馬車の少し手前に作りだす。

 オリビアさんのすぐ隣、一号車の上にルケイドさんも並び立つと、

「敵軍に告ぐ。

 我がロムルスの槍に貫かれたい者がいれば、炎の壁を越えてコッチに来い。

 僕が相手になろう」

とカーラの拡声魔法で黒装束達を挑発する。


 ルケイドさんは敵の分断を狙うつもりなんでしょうけど、馬車から出るのは感心しないわね。


 それでもルケイドさんがこのパーティーの中心人物と見てか、火傷を覚悟で炎の壁に飛び込んだ人も何人か居るみたい。

 だけどあの子も意外と意地悪だったみたい。


「炎の向こうに何も無いって誰が言った?」

と炎の壁に沿わすように土壁を作ったルケイドさんが笑っている。

 そう、彼もクレストさんの使っていた魔法に触発されて、土属性魔法の強化に取り組んでいたものね。


「おかしらっ、これって罠ってやつじゃ?

 リミエンの主力部隊は別のダンジョンに貼り付いてて、雑魚しか残っていないって話っすよね?」

「クチ動かす前に手ぇ動かせ!

 厄介な魔法使いを先に抑えろ!」


 黒装束達の目的はリミエンへの侵攻なの?

 しかもリミエン側にキリアスに情報を流せる人物が居るってことね…これはリミエンに戻ったら内通者を探して捕らえないといけないわね。


 オリビアさんの作った炎の壁に対して、強力な水流が次々と発射され始める。奴らにも魔法使いが何人か居るようね。

 何人かの黒装束達が炎が消えて剥き出しになった土壁を身軽に乗り越え、そこで絶叫する。


「壁の向こうに地面があるって誰が言った?」


 ルケイドさんが人の悪そうな話し方をするのは、敢えて怒らせようとしているのね。 


 それでも人海戦術とは良く言ったもので、三人の遠距離攻撃で何人倒れようとも次々と押し寄せる黒装束軍団が遂にルケイドさんの前に到達する。


 ラビィがまだフル充填出来ていない首輪を使って熊人化し、巨大な戦斧で次々と倒し始めたけど、それでも数を頼る敵の勢いは止まらない。


 サーヤの『アメンボウ』には集団戦専用の特殊技があるけど、この低い天井のせいで真価を発揮出来ないでいるみたい。

 それに飛び道具対策を取った者から順に出て来るような節もある。

 この黒装束達は、かなりの資金力と戦力を有する集団だと思われる。

 誰がコイツらを誘導したのかしら?


 私の前には私が倒した黒装束達が呻き悶えながら人の壁になりつつある。

 ベルさんは狼モードに変身しているけど、相手はツノを持つ灰色の動物に変身してベルさんと対等に渡り合っている。

 しかも強敵に出会えてハイになってるように見える。


「コイツらシツコイにも程があるっ!

 一体何人あの穴から出て来るのよ!

 腹立つわねっ!

 こうなったらルケイド、サーヤ、アレやるわよ!

 『範囲指定』」


 一番堪え性の無いカーラが敵の多さにイライラしてきたようね。


「…仕方ない…非人道的兵器だけど…」

「アイツらはゴブリンだから気にしない。

 『リミエンの赤い霧』、発射!」


 この三人の連携技は、カーラが指定した範囲にルケイドさんが調合した強烈な刺激で目や呼吸器にダメージを与える薬を発射、蒸発させることで霧を発生させると言うとても危険な技なの。


 それをベルさんと私が被害に遭わないように範囲調整しながら広げていくのよ。

 まともにこの赤い霧を吸い込めば、暫くは呼吸困難に陥るから風の流れには気を付けないといけないのよね。


 でもカーラなら心配無い。

 元々風属性魔法の適性持ちで、しかもクレストさん直伝の『範囲指定』を自在に使い熟せるからね。


「敵は大量、まだまだやるわよ!」

「アホンダラっ!

 ワイまで殺すつもりかいっ!」


 範囲指定から逃げ出したラビィがサーヤ達にそう怒鳴る。

 戦斧を振り回すラビィを忘れていたみたい。

 カーラのことだから、ラビィなら何とかなるって考えていたのかも。


 でもその効果は抜群だったみたい。

 突出したラビィが立ち去った最前線では、至るところで苦しそうに悶え、黒装束達に倒れていく。


 その様子に動揺が走ったようで、私達に背を向けて逃走を始める者が出始めると、

「逃げる奴は儂が撃ち殺すっ!」

と自称隊長が二人に矢を放った後にそう言い放つ。


「百人部隊がたったの七人相手に退いてみろ!

 末代までの笑い種だろうが!」

「そうは言いやすけど、あの女騎士も異様に強いし、後ろの女三人も化け物っすよ!

 ベルと熊魔族は元々化け物だし、弱そうなのはあの槍の男ぐらいしか。

 ここは一旦退却して、立て直した方が良さげな気が」


 私としても、副官の意見に賛成だわ。

 黒装束達が使用した転送ゲートが双方向の通行を可能としているのなら、これ以上の被害が出る前に撤退するのが利口と言えるわ。


「馬鹿を抜かすなっ!

 逃げ帰ったところで我々に安住の地など無いのだぞ!」


 つまりはこの集団、キリアスから逃げてきてリミエンを奪取するつもりだったのね?

 でもリミエンを奪うにしても、たったの百人程度の部隊じゃ難しいと思うのだけど。


 いえ、黒装束は夜陰に紛れるための物。

 それに内通者が手招きをしているとすれば…意外と可能だったのかも。


 だけど、それを考えるのはこの場を生き延びてからにしないと。

 私の前にはまだ敵が何人も立っているものね。


「しかし無駄死にを増やして無能と罵られるのも敵わん。

 とっとと終わらせるぞ!」

「へいっ、承知のすけでさぁ!」


 隊長と副官の二人がポイっと弓を手放すと、右手を上に突き上げる。何かの儀式かしら?


「降りろ! レッドオーガソウルっ!」

「誰か着替えを用意しておいてくれっ!

 来いっ! ブルーオーガソウル!」


 二人の体に上から何か光のような物がゆらゆらと降りてくる。


「やらせないわっ!」


 その二人に向かってカーラの魔法とサーヤの矢の攻撃が降り注ぐ。だけど矢は跳ね返り、魔法は消滅する。


「変身シーンの邪魔するのはナシだろ!

 一度戦隊ショーを見て勉強しろっ!」

「ほんとはポーズ取らなくても変身出来るんだ…」


 魔法無効化に物理防御力のある光?

 そんな物をどうやって作りだしたのよ?


 私の疑問は未解決だけど、自称隊長と副官の体がどんどん大きくなっていく。

 そして自称隊長は大きな赤茶色、副官はくすんだ濃い青色の肌の人型の魔物に姿を変えたの。

 二人の足下にはビリビリに破れた衣服の残骸が散らばっている。だから着替えを用意とか言っていたのね。


「死にたく無ければ道を開けろ!」


 大声でそう叫んだ赤茶色のオーガのような魔物と化した自称隊長が私の前に歩いて来た。

 元人間の姿だったけど、このオーガに変身した姿は真っ裸…下半身の作りは何ら人間と変わりが無い。


「どうやらあなた達は露出狂のようね…」


 股間でブラブラする物がちょうど私の目の前にある。


「ラビィは変身してもちゃんと鎧で隠してくれているのに…こんな物を見るのはお父さんの以来ね」

「生娘か。

 後でお前の穴にぶち込んで楽しませて貰おうか」

「その前に教えてくれるかしら?

 オーガソウルとは…身長三メトルの巨人になるスキルと思って良いのかしら?」

「スキルじゃねえ。

 新しい魔道具だ。これに耐えられる儂は選ばれた存在として…」

「選ばれたとかはどうでも良いわ。

 ちなみに…そのブラブラしている物は剣を防げる程の硬さはあるのかしら…ねっ!」


 巨大化して勝った気になってたみたいだけど。

 振り上げたエターナルファールムは容赦なくその汚い物体を貫き、

「グッ…ギャーァーッ!」

と特大の悲鳴を自称隊長にあげさせることになった。


「性転換はサービスよっ!」


 私の目の前でそんな物を堂々とブラブラさせた罪は万死に値すると言っても構わない。

 一切躊躇することなく自称隊長のブツを根元から切り落とすと、余りの痛みに耐えかねたのか突然意識を失ったの。


「逆に弱くなるってどう言うこと?」


 巨体から繰り出させる連続攻撃に恐怖するようなことも無く。

 一体何がしたかったのかしらと疑問しか出て来ない。気を失うとオーガソウルは解除されるみたいで、元の人間サイズの自称隊長が裸で転がっている。


「なるほど。オーガソウルを使うと頭までオーガ並に落ちてしまうのか。

 それとタマタマは文字通り急所になるから、対策を練らなきゃならない…まだ実戦投入には時期尚早っと」


 そんな落ち着いた声が敵陣から聞こえてきた。

 青色のオーガの肩に乗った小柄な男性が声の主のよう。


「それにしても…まさかコイツらがこんな少人数に押されていたとは驚いた。

 ベルが居たのは不幸だったとしても、そこの女騎士もかなりのものだよ。

 ちょっとお遣いを頼まれただけだと思ってたけど、これは思わぬ拾い物になったかも」


 敗戦濃厚な雰囲気が漂いだしたと言うのに、この男は焦ることなく平然とそう言うと、オーガの肩から飛び降り…自由落下より遙かにゆっくりと…不自然な速度で地面に着地する。


「ジー君はそのままベルを抑えてな。

 残りのは俺一人で相手するから」


 その男はぞっとするような雰囲気を漂わせると、吊り上がった赤い目を細めるとニヤリと笑い、私の視界から一瞬で消えた。

苦戦したのは黒装束達!

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