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第143話 思わぬ強敵です!

「私は悪くないと思うけど。

 悪いのはあの元漁師よ!」


 やりようによっては無差別殺人も可能な魔法を放ったカーラさんが、衛兵さんの取り調べを受けることに。

 セリカさんは冒険者ギルド内でのアレコレだからと、ギリギリお咎め無しで済みそうなんだけど。

 それならカーラさんのもアレコレだから、で終わらせて欲しいと切に願う。


「それにこの冒険者ギルドは腐ってカビが生えて糸引いてネチョネチョしてるの分かるでしょ!

 消毒しないとダメなことぐらい、衛兵なら分かってるよね!」

「そうなのです!

 先に暴力的な言動を取ったのはこのギルドの人なのです!

 言い掛かりをつけてきたので腹が立つのは当然なのです!

 これじゃせっかくパパがタダ飯食べ放題を断った意味が無いのです!」


 連行されて応接室に逆戻りした俺達だが、どうも簡単には収集が付きそうに無い。

 アルジェンの存在は王宮側にはそれとなく連絡が入っていたらしく、リミエン伯爵とどのタイミングで公表するかを探っていたようなのだ。


 それがジャイアントスイングなんて馬鹿な真似をした冒険者のせいで、運悪く全てご破算になったのだから王宮側としても頭を傷めているとのことで、結局誰がどう言う罪に問われるのやら。


 犯人のボードンは他のガチムキの衛兵さん達にエッサホイサと担がれ何処かに運ばれて行ったので、もう俺の目の前に現れることは無いはず。


 実質的にはギルドのドアが壊れて俺の衣装が多少傷んだ程度の被害しか出なかった…アルジェンが犯人を火達磨にしたが、それはすぐに治療されて傷は癒えているのでノーカンにしてもらいたい。


 ちなみにボードンが火蜥蜴を乱獲して王都に卸していたらしく、彼の服も火蜥蜴の革ジャンで、しかも火山地帯に行くので耐火の効果を持つマジックアイテムを身に付けていた為軽症で済んだとか。

 それでも火達磨にされたのだから、さぞやビックリしただろう。

 うん、さすが俺の娘の魔法は一味違う!


「今回は大した被害も出てないし、面倒だから何も無かったことにしましょう。

 このギルドはゴミクズ同然だから潰れても問題ない。

 俺は慰謝料貰ってるから、後のこともそれで終わらせます」


 うん、きっとそれが一番良い解決策だ。


「馬鹿なことを言わないでください。

 その妖精がキレると人を火炙りにすると言うのに、安全だと言えないでしょう」

「人をドアに向かって投げるような人が居なけりゃ、こんなことにはならなかったんですよ!

 悪いのはどう考えても元漁師でしょ」

「論点をすり替えないで下さい」


 くそ、なかなか手強い衛兵さんだぜ。

 どうやって騙そ…納得してもらえば良いんだ?


「イヤイヤ、普通に考えてさ、飛んできた人に当たったのが爺さん婆さんなら腰骨折って死んでるぞ。

 そうなってたら、その責任はどうするんだ?

 そっちを無視してコッチばかり責めるなら、アンタも腐れギルド側の人間認定してやるよ。

 あー臭い臭い、同じ空気を吸いたくないよ」


 わざとらしく鼻を摘まんで手を左右に振ってやる。

 だがこの衛兵さんは、その程度ならどうって事が無いらしい。つまらん。


「それだけでなく、下手すれば大勢が死亡又はケガしたかもしれない魔法を使っておいて、それを無しには出来ないでしょうが」

「だからそれは喧嘩をふっかけてきた元漁師が悪いと言ってるのよ!

 それにさっきも言ったけど、あの魔法はすぐに効果時間がキレるし、少ししゃがめば回避できたんだから!

 アンタ頭おかしいの? 人の話聞いてもないの?」

「そうなのです!

 待ち伏せしておきながら、私達をヤル気がなかってなんて言わせないのです!

 それを無視するなら衛兵なんてアオカビと同じなのです!」


 カーラさんとアルジェンだと話が終わりそうにないな。仕方ない、ここは俺が綺麗に終わらせようか。


「アルジェン、この衛兵さんを悪く言ってもどうにもならないからね。

 けどさ、普通ならギルドマスターに説明を求めるべきなのに、どうしてあの元漁師はそうしなかった?

 それはつまり、ここのギルドマスターってそれだけ役立たずってことなんだろ。


 アレだけ騒ぎになってるのに止めようともしないとか、どう考えてもギルドマスター失格だよ。

 ギルドマスターがそんなんだから冒険者の質が落ちるのは当然だし。

 俺達を嵌めようとして煽らせたのかも知れないんだし。


 いやさ、俺達が悪いとかじゃなくて、王都のギルドはおかしいと言いたい訳さ。


 衛兵さんだって馬鹿じゃないんだから分かるでしょ?

 だから、そっちからちゃんとギルド側に説明聞いて欲しい訳。


 それに明後日の俺の用事を知ってるよね?

 国王様の客人に対する態度として適切かどうか、よーく考えて欲しいんだよね。


 分かったよね? なら俺達は帰るから」

「ダメです!」

「ちっ、甘かったか」


 今の俺の話で誤魔化されないなんて、この人は一体どんな修行を積んでんだよ?

 普通なら分かりました、とお帰り頂けるとこだよね? 


「てか、アンタはマジどっちの味方よ?

 シツコイよ。粘着は嫌われるから」

「嫌われて結構。それが仕事ですから」

「グレス副隊長並にマジメだな。

 あそこの隊長はサボってばっかりなのに」

「グレスは私の弟ですから当然です」


 へぇ、道理で似てると思った…はぃ?


「こっちも弟なの?

 弟率が高くない? 王都ってどうなってんのょ? 人類皆兄弟な訳?」

「それは知りません。たまたまでしょう」


 副団長の弟は何故かリーダーとして肝心な部分がダメダメな感じだったけど、こっちの弟はガチガチだな。実に手強い。


「そうなんだ。へぇ、副隊長も言ってくれたら良かったのに。

 知ってたらスイーツのお土産ぐらい買ってきたのに」

「堂々と買収ですか。犯罪ですね」

「お土産で買収出来る人なんて信用しないよ。

 それにしても兄弟揃って衛兵副隊長とか凄いな」

「マジメに勤めれば、なれない地位ではありませんから」


 大したことはないとあっさり言うけど、ストレス溜まる仕事だと思うよ。

 仕事の内容は良くは知らないけどね。


「弟の知り合いってことで、もう俺の方は大丈夫だよね?

 まだギルドのハシゴしなきゃならないんだよ」

「アルジェンとカーラさんの身柄を拘束させて頂けるならどうぞ」

「それは無理。カーラさんはともかく、アルジェンを俺から離すことはお薦めしないよ」


 アルジェンに聞こえた話の内容次第では、暴走して確実に人が死ぬっての。


「ええ、ですからクレストさんにも残って貰います」

「だからこっちは忙しいの。分かってよ」

「それはお互い様ですから」

「もう、分からず屋だな!」

「それもお互い様ですね」


 これじゃラチが開かない。そのうちアルジェンがキレると思うよ。俺もだけど。


「このままお二人を野放し…放置するわけには参りません」

「そうやって拘束しようとするから、この子がキレるの。

 何も手を出さなければこんなに可愛いんだから」


 アルジェンを俺の頭に乗せてやると、機嫌良く髪で遊び始める。

 頼むから変に結んでくれるなよ。


「可愛い、可愛くないは問題ではないのですよ。

 可愛い見た目でも獰猛な魔物も多いですから」

「妖精と魔物を一緒にしない。

 こんなに知性的な魔物なんて居ないでしょ?」

「そうなのです!

 百掛ける百まで暗算出来るのです!」

「それはスゴ…ゴホン…知性が高ければ、尚更注意深く対応せねばなりませんね」


 ちっ、これも効果無しか。


「それなら監視でも何でも付けてよ。

 こんなカビ臭い所で無駄に時間を潰す訳にはいかないんだよ」

「それもお互い様ですね。

 ですが、それで良いなら監視を付けると言うことで妥協しましょう」

「…それ、副隊長の権限で決めて良いの?」

「…隊長はろくに仕事をしていませんから」

「そっちもかいっ!」


 そりゃもうここぞとばかりに全力で突っ込んだよ。余計な所までリミエンと似せる必要はないだろ!

 まさか隊長まで兄弟だったら、これ以上どう突っ込んだら良いんだよ? 


 そんな心配をしながら副隊長の後をカルガモ親子のように付いて歩く。

 応接室を出て階段を降りたところで、ニコニコしながらベルさんが待っていた。来るの遅いよ!


「やぁ、やっぱり騒ぎを起こしてくれたね。

 ウンウン、見込んだ通りだよ」


 はい? この人、ヘラヘラ笑いながら何を言ってくれてんの?


「まぁ、そうおかしな顔をしないで欲しい」

「この顔は生まれつきなんで」

「じゃあ、諦めて」


 この人、いつか泣かせてやるから!


「いやさぁ、事前にこのギルドの現状を伝えたらイケないと思って、僕らも話したいのをずっと我慢してたんだからさ」


 僕らって、それはベルさんとライエルさんってことですね?

 でもギルドに問題があるか無いかぐらい教えてくれても良かったでしょ。


「はぁ…色々言いたい事が有りますが…一回と言わず三回殴ってもノーカンにしてもらえます?」


 ベルさんが凄腕冒険者で顔が利くからと言っても、こう言うやり方はズルイだろ。


「それは私も是非お願いしたいわね」

「リーダーに同じく」

「えっ? やるの?」

「良いチャンスね。やっちゃいましょう」

「みんなやっておしまい!なのです!


 俺だけでなく、彼女達も良い具合に腹が立っていたらしい。


「訓練の時なら構わないよ。

 鈍ってるクレスト君のパンチなんて僕には当たらないだろうけど」

「いえ、俺じゃない方が相手になりますからご心配なく。

 治癒魔法使いの用意が必要ですよ。マジで」

「それなら心して掛からないとイケないな。

 なのでクレスト君には監視役として僕が付いて行こう」


 この人、またまた何を言ってんだよ?

 今日のベルさん、なんかおかしいぞ。王都に帰ってきたから本来の王都仕様に戻ったとか?


「それを決める権限がベルさんに?」

「それならあるよ。だって僕は特別治安維持部隊の隊長だからね!

 ちなみに特別治安維持部隊って、取り締まり対象にするのは冒険者だから」


 王都の治安維持部隊は幾つかの部隊に分かれていて、それぞれが受け持つ地域が違うんだよね。言ってみれば県警みたいなもんだ。

 その特別治安維持部隊は…いわゆるマル暴ってところか?


「それなら人を玄関に向かって投げるような非常識な人は冒を真っ先に辞めさせて下さいよ」

「実は僕がこの役職に就任したのは一時間前なんだよ。

 せっかく女の子と仲良く寝てたところを起こされて機嫌悪かったんだからさ」

「そんなの誰も知らないし」

「それはそうだね。

 なので、これからもよろしく」


 まさか…本気で俺達に付いてくるつもり?


「今の流れでよろしくと言われても」

「僕と君らの仲だし、その辺は酌み取って欲しいんだけど」

「では、これでベル隊長に被疑者の引き渡しが完了したと言うことで宜しいでしょうか?」

「そうだね、ご苦労さん」

「では失礼します」


 副隊長の弟の副隊長がベルさんに敬礼をしてギルドを出て言った…結局彼の名前を聞かなかったよ。

 で、さっき被疑者って言われたよね?

 俺達は悪くないのに酷くない?


「はいはーい、皆ちゅうも~く!」


 ベルさんが副隊長を見送ってから、すぐに手をパンパンと叩いてそう言った。

 それだけで、今までずっとざわついていたロビーが一瞬で静まり返る。


「そう言うことで、クレスト君が王都に居る間は僕が責任持って監視してるから。

 アヤノ君達『紅のマーメイド』の四人には、王都で一番の女性パーティーの『戦女神ディエス・ヴィクトワール』に監視させるから大丈夫だ」


 誰それ? なんかやたら強そうな人達の気がする。

 そのパーティーのこともだけど、なんか事前にアレコレと画策してるみたいで腹が立つ。


「それともう一つ。

 このギルドには市民の安全を脅かす重大な欠陥を有している事が本日発覚した。

 特別治安維持部隊として、このギルドをこのまま放置することは出来ないと判断し、サービス停止期間を設けることとする」


 ここでまたロビーがざわつき始めた。

 ギルドがサービス停止になったら、冒険者は仕事が無くなる訳だから当たり前だ。


 ここで管理者としては残念なグレックリーさんが階段を降りてくる。

 お前、ずっと上で様子見ながらスタンバイしてただろ。


「では、ここからは儂が…現ギルドマスターで当冒険者ギルド最後のギルドマスター、クラッドリー・デュランが説明しよう」

「はい、拍手~パチパチ…

 あれ? みんなノリが悪いよ」


 拍手をしたのはベルさんだけだ。

 今の流れで呑気に拍手する気にならないよね?

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