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第11話 黒き侵入者達

 魔界蟲本体さんがアルジェンとスライム一匹との交換を申し出てきた。

 アルジェンがまさか本体さんの意思を無視して俺達に付いて来ていたとは思いもよらなかったが、俺がそのことを知るより先にスライム達が了承していたのだ。


 『クレールドリューヌ』と名付けたスライムを魔界蟲本体さんのアシスタントとして残し、ダンジョン最奥から今日で一週間。


 何事も無くやって来れたのは、恐らくダンジョン管理者の魔界蟲本体さんのお陰だろう。

 管理者権限で魔物の配置を自由に変更可能だからね。


 でも退屈過ぎて死にそうだと愚痴を溢していると、もうすぐダンジョンの入り口って所までやって来て、ようやくトラブルの予感。

 

 何? 嬉しいのかって?

 …そんな訳ない…だろ。


 サーヤさんとカーラさんの声で、誰かがこのダンジョンに侵入してきたことを知る。

 馬車を降りようとした俺の手を押さえたエマさんが、

「あなたは出たらダメよ」

と俺に釘を刺してくれる。


「一号車のグランドスライム、状況を伝えて欲しいのです!」


 アルジェンが人間では不可能なスライムとの無線連絡を行い、前方に文字通り突如武装集団が現れたと報告を受ける。


 現在、所属不明の人間の数は七人。

 だが転送ゲートはまだ開いたままなので追加の可能性ありとのことだ。


 対するこちら側だが、ベルさんと『気高き女戦士の鎧(ブリュンヒルド)』を瞬間的に装着したセリカさんの二人が『牙馬』の前に向かっている。

 サーヤさんとカーラさんはいつでも攻撃が出来るように待機。

 ルケイドは一号車の中で、オリビアさんは馬車の上に陣取った。


 アヤノさんは俺とエマさんの護衛として馬車に残り、ラビィは状況を見て動くようだ。


 敵(仮)が前方からしか出てこないのであれば、この配置で十分だろう。

 サーヤさん、カーラさん、オリビアさんの遠距離攻撃能力はノーラクローダにこそダメージをさして与えられなかったものの、人間相手なら過剰戦力といって良い筈。

 なんせ俺の渡した装備でバリバリに強化されているんだからね。



 私達の前方を走る一号車が突如急停止を掛けてサーヤとカーラが緊急事態を告げると、私は手綱を握るアヤノに、

「私が出る。

 クレストさんとエマさんをお願い」

と言って御者台を降りる。


「『ブリュンヒルド』装着!」


 私の全身が光ったかと思えば、私の体はクレストさんから頂いたブリュンヒルドに覆われる。

 全身を包むこの鎧がクレストさんに守られているような感覚を私に与えてくれるの。


「『ヒルドベイル!』」


 更に左腕には長さ一メトルを超える細長い盾を装着する。

 見た目に反してとても軽いのに、どんな攻撃をも跳ね返すこの盾があれば、私はいつでもあの人の盾になれる。


 一号車からはベルさんが手脚の装備を付けて降りてきた。

 牙馬の隣を走っていたラビィにはクレストさん達のいる二号車の護衛を頼み、ベルさんと前に出る。


 ダンジョンとダンジョンの間には実は魔力的な繋がりがあって、転送システムを稼働出来るだけの魔力があれば人をダンジョンからダンジョンへと送り込むことが可能らしいの。

 これはクレストさんが一度ダンジョン管理者になったからこそ知り得た情報よ。


 私とベルさんが最前線に立つ。

 ベルさんはこのパーティーの中では最強、いえ、コンラッド王国の中でも両手の指に入るぐらいの実力者。


 そして後ろにはサーヤとカーラ、そしてオリビアさんが待機している。

 この布陣なら目の前の十人少々がもし襲い掛かってきたとしても、後れを取ることはないわ。


 右手にクレストさんから頂いた片手剣を持ち、正体不明の人達とゆっくり距離を詰める。


 正体不明…そう、まさにその言葉が彼らを現すにはぴったり。

 全身に黒い布のような服を纏い、額だけは鉢巻きのようなものを巻いている。

 そして顔も目の辺りだけしか見えないように覆っているのよ。


「コイツら…ニンジャー部隊か?」

とベルさんが小声で呟く。


 噂に聞くニンジャー部隊とは、コンラッド王国を陰から守る特殊部隊のことで、その存在は明らかにはされていない。

 でも何故か緑と茶色と黒に染められた装束を着ていてるとか、一日に二百キロメトルも走るとか、そんな怪しい噂が流れているのよね。


「でもカラーリングが違ってるから、ニンジャーではないか。

 セリカ君、十分気を付けて。

 暗器で顔を狙ってくるかも知れないから」


 どうやらベルさんもこの人達が敵対勢力であると考えているようね。


「人が居るだと?」

「しかもダンジョンに馬車だと?」


 前方に立つ不審者達の話し声が耳に入った。

 どうやら言葉は通じるようだけど、少しイントネーションが違うのはコンラッド王国じゃなくて外国から来たってことね。


「おかしら、本当にこの場所が目的地で合ってんすかね?」

「馬鹿野郎っ!

 儂のことは隊長と呼べと言っておるだろ!」

「へい! すいません、おかしらっ!

 あっ…親方…じゃなくて、なんだっけ?」

「大将だよな?」

「あー、それそれ!」

「儂は厨房で客相手に料理など作らんわい!」


 不審者達からそんな緊張感の無い会話が聞こえてきたわ。

 その様子を見る限りでは、とても訓練の行き届いたニンジャー部隊とは考えられないわね。


「じゃあ、そこに馬車が二台あるのは偶然ってことだな」

「それにしても立派な馬車だ。

 余程の金持ちに違いない」


 音は聞こえないけど、舌舐めずりしているように思えるわね。


「だが、おかしいな。

 報告だとこのダンジョンはまだ調査段階で、一般人は立ち入れない筈」

「おかしら、そんなこと言っても金貨級冒険者の奴が俺らを見てボーと突っ立ってると思いやす?

 俺ら、どう見ても怪しい格好っしょ?」


 その服、怪しいって自覚はあったんだ。少し安心したわよ。


「大将だっ! 早く覚えろっ」

「すんません、おかしら!…えっ?」

「ちがっ…隊長だっ…ったく…もぅ。

 で、そこの馬車の連中は欲に目が眩んで入って来たか、それとも…」


 自称隊長が自分を大将と言ったことを誤魔化そうとしているのを、部下達は温かい目で見ているわ…この人達は何しに来たのかしら?


「銀貨級冒険者が調査に入ると言う報告もあったっしょ? その連中?」

「まぁどうでも良い。

 姿を見られちまった以上は生きて返すな。

 ただし、お」

「女騎士は殺すなよ!」

「んな…俺の決めぜりふを取るな!」


 女騎士? それは私のことかしら?


「リアル『くっころ』さんなんざ、滅多に味わえねえからな!」


 くっころさんとは何のことかしら?

 実在するのかは不明だけど、大魔王なら、く、でななく、ピ、の筈…。


 いけない、奴らの温い雰囲気に当てられて油断してたわ。

 コイツらは敵として対処しなければならない存在!

 右手の剣を軽く握り直す。ここは私が食い止めてみせる!


「みんなっ! 手加減無しの本気を出せ!

 ゴブリンの群れとの遭遇戦だ!」


 ベルさんがそう声を張り上げた。

 敢えてゴブリンと言っているのは、人の姿をしているけど人と思うな、そう言ってるのね。


 私達は魔物との戦闘経験はあっても、人との実戦経験が無いことをこの人は知っているからこその気遣いね。


 そうよ、この人達は私達を殺し、犯すケダモノなのよ!


 サーヤの矢が後ろから発射されたのが開戦の合図となり、黒装束のゴブリンの達が一斉に駆けだした。


「早いっ!」


 私の予想より遙かに早く走るゴブリン達が、群れをなしてベルさんに襲い掛かる。

 キーンと言う金属同士がぶつかり合い、その直後に悲鳴が聞こえて何か黒い物が宙を舞ったわ。

 どうやらベルさんが敵の腕を切り落としたみたい。


「コイツ! 強いっ!」


 腕を落とされた仲間のフォローに入った男達が必死にベルさんに食らい付き、数の優位を活かそうとベルさんに取り囲む。


 だけど、それでも不敵に笑うベルさんに、

「何がおかしいっ!?」

と黒装束の一人が叫ぶ。


「そこっ! 雑魚は纏めてお掃除よっ!

 『ハリケーン』!」


 クレストさんがカーラに渡した眼鏡はね、視覚情報を元に魔法制御を最適化する能力を持つ魔道具だったの。

 範囲型魔法の範囲指定制御を肩代わりしてくれる優れ物で、この眼鏡のお陰でカーラはベルさんを巻き込むことなく強力な竜巻の魔法を放つことが可能なの。


 カーラの一撃で五人組がグルグルと回りながら宙に舞い上がり、天井付近まで巻き上げられたところで竜巻がすうっと消える。

 こうなれば、後は自然落下で地面に激突するだけ。


「サーヤ! オリビアさん!

 アイツらを撃墜ヨロシク!」


 だけど敵も然る者。大きな布を脚と手に繋いでヒラヒラと飛び始めたの。

 だけど空を飛ぶ敵をサーヤが見逃す訳が無い。


「『アメンボウ!』 ウォーターショット!」


 次々と水の矢を受けて墜ちてくる黒装束達。

 この矢で死ななかったとしても、墜落によって重傷を負う筈。


 取り囲んでいた五人が居なくなったところで、ベルさんが獲物に飛び掛かる狼のように次の敵に剣を振り下ろす。


「まさか『青嵐のベル』か?!」

「ゴブリンにも僕の顔が知れていたとはオドロクよ」

「その余裕、何時まで続くかね?」


 ベルさんが強いと知りながら、たった一人でベルさんの前に立つ黒装束が居るなんて信じられない。

 しかもベルさんの剣を笑みを浮かべながらあっさり躱し続けているの。


「そこの可愛い騎士さんよ。

 よそ見してると御自慢の鎧が壊れちゃうよ」


 私の前には身長二メトル超える大男がやって来たの。

 左右の手に一本ずつ金属の塊が付いた棍棒を持っている。

 棍棒…いえ、これはメイスと呼ばれる立派な武器。頑丈な金属鎧を着た相手に対しては刃物より有効な物なのよ。


「悪いこたぁ言わねえ。さっさと武器を捨てて鎧を脱ぎな。

 そうすりゃ痛い思いはせずに済むぜ。

 いいや、その後にタップリ可愛がってやるから少し痛いかも知れんなぁ、ぐへへ」

「アンタ言われたことは無い?

 気持ち悪い奴だって」

「そりゃ最高の…誉め言葉だぜっ」


 ニヤついた笑みを浮かべながら大男の左右のメイスが間断なく私に向かって振り注ぐ。


 それをヒルドベイルとエターナルファールムと銘打たれた片手剣で受け、時に逸らす。

 だけど私に反撃の機会を与えない辺り、この男はただの力自慢では無くかなりの腕利きのようね。


「可愛い顔して頑張るねぇ。

 だけどねぇ、打撃武器を剣で何度も受ければ刃は潰れるし、曲がって使えなくなるって知らないのかなぁ?

 それにその盾を持つ手も限界だろぉ?

 痩せ我慢は良くないぜ」


 確かに普通の片手剣なら恐らくもう二度、三度とポッキリ折れていても不思議では無いわ。

 でもこの剣は丈夫さに特化した護りの剣。

 その辺の剣と同じにしてもらっては困るのよね。


 大男のさっきの言葉は休憩のつもりだったのかしら?

 それからまた同じように「オラオラオラッ」と気勢を上げて左右のメイスで滅多打ちを始めるの。パワーだけじゃなくてスタミナも尋常ではなさそうね。


 でも何故かしら?

 ベルさんとルベスさんが二人がかりで襲ってきた時の恐怖と脅威に比べれば、こんなのまだ可愛いく思えてくるわ。


「こらっ! ボーノデック!

 そんなんじゃ、くっころ言わせる前に女騎士をやっちまうだろうが!

 もっと頭を使えや!」


 おかしらと呼ばれていた男が後ろで弓を放ちつつ私の前の大男にそう声を掛けた。


「分かったぁ、頭、使うっ!」


 ボーノ何とかがそう返事をすると、まずは右手のメイスを私の盾に押し付け始めたわ。

 そして左手のメイスも同様にエターナルファールムにグイグイ押し付ける。


 何のつもりかと思ったけど、これが憎らしいいことにメイスをいなそうとしても器用に力を逸らしてピタリとくっ付いてくる。

 単なる力自慢ではなく、両手両腕を繊細な力加減で操る技巧派だったみたい。

 これでは私が反撃に出ることも出来ないわよ、腹立たしいわね。


「ぐへへ。やっと捕まえたどぉ。

 ワイの特殊スキル『クリングアーム』はこうやって武器を封じるんだぞぉ。

 そいでなぁ、頭の硬さはキリアス一番なんだぞぉ」

「キリアスっ?!」

「頭使うぞぉ!」


 言うが早いか、身を屈めるようにして放たれた頭突きを間一髪で回避出来たのは、

「姉ちゃん、油断したらあかんて!」

と援護に入ったラビィの一撃がボーノ何とかの内腿を切り裂いてくれたから。


「喋る熊だと! そいつは熊魔族か!」


 おかしらと呼ばれた男がラビィを見てニヤリと笑うと、こう言うの。


「ショボい仕事だと思って出し渋っていたが、コイツはもうボロ儲けの予感しかしないじゃないかっ!

 出し惜しみは無しだ!

 一気に突破するっ!」

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