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第134話 花と…センスは人それぞれです

 肉を焼いていたらスオーリー副団長に襲われた。

 結構な量の肉と野菜を食われてしまったが、ラクーンの売り込みが出来たのだからヨシとしよう。


 副団長達が帰った後、女性陣はモーテルへと向かい、ベルさんとケルンさんは他のキャンプ地利用者達とお話しするとかでまだ外に居る。

 きっと情報交換でもするのだろう。


 馬車に戻ると、

「服が焼き肉の匂いなのです! ジュルリ

 お腹減ったのです!」

とアルジェンが文字通りに飛び付いてきた。


 多分この子のお腹が減ったのは気のせいだと思うが、アルジェンには人間と同じ習慣が身に付いたのだから仕方ない。

 余分に焼いた肉と野菜を馬車の中で食べてもらうことにしよう。


 遊び相手のカオリも肉を食い、ワインの水割りの入ったグラスに花の頭を突っ込んでチューチュー吸いとっていく。

 不思議な光景だが、慣れてしまうと可愛く思えてくるからおかしなものだ。


 花にアルコールをやっても良かったのか不安になってきたが、魔物だから多分問題無いだろう。


「今日の晩御飯も美味しかったのです!

 パパに付いてきて大正解なのです、ダンジョンに居たら食べる喜びなんて知らずに一生を終えたのです!」


 そう言いながら俺の服で手とクチを拭くのはやめてくれ…魔法で綺麗にするのがアルジェンなのは当然としても、やはり何処かで教育を間違ってた気がする。

 で、カオリもマネして薔薇の花の形をした頭?を擦りつけてくるし。


「あ、そうなのです!

 新しい技を開発したので披露するのです!」

「新技? どんなやつ?

 攻撃力あるならダメだぞ、このラクーンは借り物だからな」

「宴会芸なのです!」

「それなら…」


 モソモソと出て来たミニミニ魔界蟲さんにアルジェンが跨がった。普段ならコレが新幹線とか馬車なのだが。


「では、カモーン! カオリちゃーん!」


 アルジェンの掛け声でカオリが触手のような蔦を空に向かって伸ばし始め、クルクルとループさせて長いトンネル(刺あり)を作り出した。

 真ん中辺りのてっぺんにカオリの頭が出ているのがチャームポイントだな。


「行っけー! ミニミニさん!」


 アルジェンはミニミニさんと呼んでたのか…それはまぁどうでも良いが、ミニミニ魔界蟲さんがカオリの作ったトンネルに勢い良く突入していった。

 フェレットがパイプに入って遊ぶのと同じようなものか?

 でも刺付きのトンネルで遊ぶのは危ないからやめさせるべき?


 と思った瞬間、カオリがピカッと光ったのだ。

 眩しさに目を閉じ、そして目を開けると、ミニミニ魔界蟲さんが薔薇で装飾された綺麗な電車のようになっていた…先頭車両が赤い薔薇なので少々気味が悪いが。


「魔道融合、タイプ花列車っ!」


 そう言って腕を上げるアルジェンの服も、カオリの蔦を巻き付けて作った刺付きのパンクなものに変わっていた。

 頭に薔薇の髪飾りを付けて女の子らしさもアピールしている。


 そして馬車の中を縦横無尽に飛んだり走ったり。

 カオリには飛行能力は無いのだが、ミニミニ魔界蟲さんはアルジェンから供給される魔力で飛行能力を有するので、サンタさんの乗ったソリのように空を飛ぶことが出来るのだ。


「どうです! このウルトラビューティフォーな魔道花列車は!」

「うん、面白いけど気持ち悪い」

「ガーン、なのです!」


 やべぇ、素直に感想を言ってしまった。


「パパのセンスはおかしいのです!」

「いや、魔界に咲く花みたいな気もするけどさ、ミニミニ魔界蟲さんの頭にカオリの頭をくっ付けた感じだろ?

 それで花が飛んで来るんだからそう思うって。

 もし花列車にするなら、タイプ・テヴァみたいな形の列車に花の装飾を施すんだよ」


 ブー垂れるアルジェンに、メモ帳に小さな花を沢山取り付けて飾り付けた花列車の絵を書いてやる。


「それだと地味なのです!

 インパクトが無いとお客様は乗らないのです!」

「サイズ感を考えてくれよな。このラクーンの先頭に同じ大きさのカオリの頭を付けたらどうなる?」


 そちらの絵も書いてやると、

「気持ち悪いのです! まるで魔界の乗り物なのです! 食われそうなのです!」

と納得してくれたようで一安心。


 それにしても、ラビィやドランさんと遊んでいた時は単に上に乗るだけだったのに、今じゃ普通に融合的な合体まで出来るようになったのか。


 リミエンに戻ったら、蝶の羽根の生えた子熊が薔薇の王冠を乗せ、空を飛びながらお散歩するようになるかも。

 実に不気味な光景だな。


「ところで分離するときはどうやるの?」

「それなら…」


 アルジェンがカオリで出来た服を脱ぎ、先頭車両のカオリに服を被せるとあっという間に元通りに。

 それなら合体するときのトンネルの演出、無くても良いのでは?



 そして翌朝のことだ。


「えーと…貴女はカオリ?」


 アルジェンと二人で俺を起こしたのは、体が人の姿のマネキン、頭が薔薇のアルジェンと同じぐらいの大きさの魔物だった。

 軽くホラー映像である。


「……」


 俺の問い掛けにコクコクと頷くので、カオリが進化したと思って間違いない。

 昨日までのフラワーなロック的な姿の方がまだ抵抗なく受け入れられるのは、やはりあの玩具を知っているからか。


「なぁ、昨日の姿に戻ることは出来るのか?」

「……?」


 カオリが小首を傾げるような動きを見せるが、多分言葉が理解出来ていないのだろう。


「進化した姿の方が可愛いのです!」

「体が人間ぽいから、顔も欲しいよ。そう言う姿に進化は出来ないのか?」

「…多分まだ経験値不足なのです」


 冗談のつもりで聞いてみたんだけど、経験値が溜まれば更に進化出来るなんて、貰い物なのにこの子やたらハイスペック過ぎませんかね?


 隣で寝ていたベルさんとケルンさんも、寝起きに不気味な姿を見せられてドン引きしてるし。


「これはカオリちゃんが進化したのかい?

 コレは可愛いね」

「そうですね、御者台にマスコットとして飾っておきたいですよ」


 どうやらドン引きでは無かったらしい。この世界の可愛い基準が良く分からん。

 それともこの二人の感覚がおかしいだけなのかも。


 それから軽く体を動かしてから皆で朝食の支度を始める。

 この宿泊施設ではカオリを馬車から出していないので、仲間達もその間にカオリの話を出すことは無い。


 アルジェンもカオリも特に馬車から出る必要が無い…つまり物を食べても出す物がガス的な物しか無い…ので、様子を聞きたそうに女性陣がウズウズしているのが良く分かる。


「アルジェンと仲良く遊んでるから、休憩の時に見てやってよ。面白いことになってるから」

「それは楽しみね!」

「早く見たいね!」


 それだけの会話で終わる筈だったのだが、

「何が面白いのじゃ?」

と野太い壮年男性の声が…。


「オッサン、どんだけ地獄耳なんだよ?」

「儂に隠し事をしようとは十年早いぞ。

 で、飯はなんじゃ?」


 スオーリー副団長が朝食の催促に来てしまったのだ。

 仕方なく新商品のハム巻きパンケーキと、野菜とベーコン入りのコンソメ風スープを出してやる。


「部下と同じ飯を食うのが士気を上げるコツじゃないのか?」

「それはそれ、じゃのぉ。

 ここに旨いもんがあると分かっておるのに、マズイ飯を食う必要はあるまい」

「我が儘な隊長さんだ…て、シルビーさんが探してるぞ」


 シルビーさんが副団長を呼ぶ声が聞こえ始めると、すぐにこちらにやってきた。


「副団長、急に消えないでください、ニンジャー部隊でもないのに」

「シルビーも食え食え。コイツの飯は旨いぞ」


 副団長がテーブルの空いた場所を指すと、シルビーさんも躊躇うことなく座って皿を取る。

 少しは遠慮する仕草を見せようよ。


「…ふぅ、ここは天国です」

と言いながら、食後のレモンティーを楽しみながらマッタリするシルビーさんは、なんだかんだで副団長と似た者同士のようだ。


 別の隊員がマッタリしている二人を呼びに来て、ペコペコと頭を下げながら二人を連行していく。


「この国の防衛は、本当に大丈夫なのか心配になってきたよ」

「いや、普段から何もかもガチガチなのも考え物だからね。

 やるときはやる、そう言う人だから大丈夫…の筈だよ」

「ベルさん、それは擁護になってないよね?」

「僕も軍のことは詳しく知らないからね。

 でもかなりの実力主義らしくてね、家柄だけで上に行けるほど甘くはないのは間違いないからさ」


 副団長はブリュナーさんと笑顔で戦えるんだから、武力面での実力は確かだと思うけど。

 それ以外の面も大事だよ。面倒なことは全部人任せにしてないよね?


 そこはかとなく不安な気持ちになりながら…主に部下達の精神面でだけど…スライム達に食器洗いを任せて出発の準備を整える。


 他の施設利用者達も同じタイミングで動き始めるので出口は少しだけ馬車で渋滞だ。

 その脇を馬に乗った副団長が通過して行き、俺達のラクーンに併走する。


「後一日、森の調査を続けたら儂らも王都に戻るからな。面白い物も見せて貰うから覚えておおけょ。

 では王都でまた会おうぞ!」


 そう言うとこちらの返事を聞かずにさっさと走り去って行く。なんて自由な人なんだろね。

 副団長の後ろを数機の軍馬が付いて走って行く中にシルビーさんも居て、一度手を振ってから先へと進んで行った。

 馬の扱いは俺よりかなり上手いようだ。俺なんて馬に乗ってると前しか見れないし。


「あの強い人、また居たのですね。

 パパと運命の赤いワイヤーで繋がっているのかも知れないのです」

「そんなワイヤーがあるなら、さっさと切る方に一票入れるよ」

「ミニミニさんの鋏でも縁は切れないのです」


 物理的な鋏で切れる縁なら世話ないよ。

 でも、この世の中はそう言う見えない縁が絡み合って作られているのも事実な訳で。

 副団長とは良縁と言っても良いだろうけど、相手にすると必要以上に疲れるから会うのはたまにで良い。


 王都では謁見の他にビリーとの面会を予定して貰っているから、それに副団長も同席するだろう。

 気弱なアイツがどう変わったか、会うのが楽しみだよ…あ、ちょいと待てよ、今の俺だとアイツと握手したら手の骨が折れるかも…。

 会っても握手はNGでお願いしなきゃ。

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