表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/194

第133話 副団長とのお喋りです

 王都への道中二日目の夜、宿泊地でスオーリー副団長と合流した。

 バーベキューの匂いに釣られて寄ってくるとは、食い意地の張ったオッサンだよ。


「実はさ、ここに食べ物屋を作ろうかって話をさっきしてたんだよ。

 近くの村の余った野菜とかを調理してお客様に出すのも悪くないだろ?」


 ケルンさんと話しながら考えた駐屯地案を副団長にも話してみると、

「ここに平時、部隊を展開させておくのか。

 訓練にはちょうど良いかもしれんが、宿泊施設の建設にどれだけの時間が必要かのぉ?」

と賛成ではなさそうだ。


 当然その事を忘れていた訳ではない。


「それのことなんだけど、動く建物なんてどう?」

「動く建物だと? そんな物がある訳がなかろ…あぁ、噂のカラバッサとラクーンのことか」


 王都にも話は伝わっていると思ってたけど、副団長も知ってたのか。それなら話が早い。


「ベッドを積んで走ってんだし、オプションでトイレもキッチンも付けられるしね」

「確かに動く建物と言えるかもしれんが…」


 そこで副団長が停車しているラクーンにチラリと目をやる。


「何か問題が?」

「量産型のラクーンでも一台大銀貨五百枚。それを何台買わせるつもりだ?」

「買えるだけ!と言いたいけど、それ言ったら首絞められるからやめとく。

 軍に買ってもらうのは、本体じゃなくて設計図だよ」

「作るのはこちらで好きなだけ…か。そのうち模倣品が出るから、その前に売り付けるのか」

「そりゃ商売だからね。お客様が居て商品があるなら、双方に良い条件で売買するのは当然だよ」


 副団長とシルビーさんが揃って腕組みをするのは、似た者同士だから?

 シルビーさんって若そうなのに、よくこんな怖い顔のオッサンに付いてきたもんだと関心するよ。


「儂の一存で決められるものではないが、その話は本部に伝達してやろう」

「軍に教えるのは、多分軍用に改造すると思うからだ。

 それに国の役に立てるなら、このステラさん達が苦労して開発した甲斐がある。

 これが民間の工房相手なら、何台か売り付けて自分で分解して調べろと言うけどね」

「ふぅむ、オヌシは苦労してないと?」

「頭の中で妄想しただけだから、作るのに比べたら苦労したなんて言えないょ」


 自動車を設計する訳ではないから、パーツ点数はかなり少ないもんね。それにスキル頼りだし。


「クレストさんはそう仰いますけど、新型をゼロから設計するのはそんなに簡単ではありませんよ。

 それを最初は無料で私共に渡そうとしたのですから、どんな裏があるのかと疑いましたけどね」

「タダでだと?!」


 そんなに驚かなくても良いでしょうに。俺は完成品さえ手に入ればそれで良いって思ったから、コレ造ってよ!って持って行ったつもりなんだ。


 ステラさんが初めて会った頃のことを思い出して懐かしそうに話すけど、まだ二、三ヶ月くらいしか経ってない。

 よくそんな短期間でカラバッサとラクーンを作り上げたと感心するよ。多分これも製造系スキルの恩恵あってのことだろう。


 とは言え、鉄パイプのフレームのバギー車からエンジン、変速機、電子制御装置その他諸々取っ払って退化させたような物だから、基本的な原理と構造さえ理解していればそう難しくはないと思う。

 それに転生者の錬金術師と金属加工特化のビステルさんのタッグが超強力な助っ人になってるし。


「リミエンでは工房の再編が進んでいるそうですね。

 確かステラさんが代表のモルターズもボルグスと合併したのですよね?」


 事情通ぶってか、シルビーさんがそう聞くと、当事者がハハッと笑ってその話は無しにしましょうと手を振った。

 詳しい話となると、資金難のことにも言及することになるので避けたのだと思う。


「再編と言うより、あれじゃ、クレストの関係者を少しでも纏めておこうと商業ギルドが悪知恵を働かせたんじゃろ。

 行き先が少ない方が監視もしやすいからの」

「それマジか?!」


 ガバルドシオンは確かにレイドル副部長が発案した物だ。

 三軒の工房を行き来するよりラクだし、商品開発も捗ると思って同意したんだけど、そんな裏があったとは。

 でもレイドル副部長に聞いても『気付かんお前が馬鹿なだけだ』と平然と言われそうだ。


 貴族の一言一言が地雷になるから気を付けてください、みたいなことをマダムファブーロが言ってたけど、まさか既に目の前でばら撒かれた地雷を踏んでいたとは。


 と言うことは、商業ギルドに俺用の執務室を用意されていたのも同じことなのか?

 正規の職員でもない俺が事務所で書類仕事するなんておかしいんだよ。それがまさか監禁目的って…知らなけりゃ良かった事実(仮)だ。

 

「マジかどうかはレイドルに聞け。

 根性は少々捩じ曲がっとるが、悪い事を考える奴ではない…んじゃないか?」

「そこは言い切って欲しかったよ。

 商業ギルドはゴールドカード持ちに執務室を与えるってのは本当なの?」

「それは本当じゃろ。

 その者宛ての書類が各方面から山ほど来るんじゃから、本人に処理させたくなるじゃろ。

 誰か宛ての手紙や意見要望、問い合わせが無関係なオヌシのもとにに来てみぃ。オヌシだってその者に直接届けて処理させたくなる筈じゃ」


 なるほど、メールやお客様相談窓口やご意見箱が無いから、窓口として商業ギルドを使ってるのか。

 確かに『またアイツ宛かよ、イラッ』となって不思議じゃないな。


 俺が見た書類はリミエン商会やガバルドシオン関連の問い合わせが多かったけど、中には『子熊さんを抱っこさせて欲しい』って要望や、モデルルーム見学の問い合わせとかも混じってたな。


 貯水池周りのことはレイドル副部長とライエルさんが処理してだろうし、ラクーン関係は輸送業ギルドに届いているんだろう。


 市民にとってギルドが身近なお役所的な役割も果たしていると考えれば良いってことか。

 それなら住民票の発行みたいな行政サービスも商業ギルドで出来たらラクなのに。


「それでオッ…スオーリー副団長は今度はどんな用事でここに?

 やっぱりこないだのキャラバン襲撃事件の調査?」

「面倒なことに、そう言うことじゃ」

「税金から給料出てるんだから、面倒とか言わないの」


自衛隊幹部が市民の前でそんなこと言ってみろ。三秒で更迭決定だぞ。

 ここの軍隊は捜査権も持ってるから、詳しくは知らないけど警察予備隊みたいなもんか?


「その税金で温泉旅館を造らせ、運用させようとするオヌシも同類じゃろうが」


 おっと、これはグサッとブーメランだぜ。


「しかもオヌシの案で酒池肉林の舞台をやるそうじゃな」

「それは誤解も良いところだ。

 普通に歌と踊りとお笑いで盛り上げようとしてるだけだぞ…で、オッサン、なんでワイン樽を持って帰ろうとしてんだよ?」


 まだ中味の残っている三リットルクラスのワイン樽を抱えて嬉しそうに立ち上がる副団長に待ったをかける。


「部下にもお裾分けしてやらんと士気が下がるじゃろうが」

「それなら請求書を回しておきますよ。

 ひとり占めをしないか、シルビーさんが見張って…てコッチは寝てるし」

「仕方ない、スマンがステラ殿、シルビーを担いでやってくれんか。儂がやるとセクハラで訴えられるからのぉ」

「世知辛ぇ世の中だな。軍でもそんなのかょ」

「当たり前じゃ。何処ぞのボケどもが『エスでぇ爺っす』とか言うルールを作りおってな。ゴミやら人権やら、どうのこうのとやたら煩いんじゃ。どうにかしてくれ」

「エスで…爺っす…はぁ、もぅ好きにしてくれ」


 王都の政治家の中にも最近の転生者か転移者が居るってことか。そういう頭でっかちぽい人との接点はノーサンキューだ。

 人生事なかれ主義のなぁなぁで生きてくのが一番ラクなんだよ。なのに、せっかくの異世界にそんな意味不明なルールを持ち込むなって誰だって思うだろ?


 でもエスで爺っすの人が中枢に居るってことは、年齢的にも二十歳は楽勝で過ぎてる訳だ。

 転移者ならもっと話題になってる筈だが、コンラッド王国には転移者は報告されていないから恐らく転生者。

 本家SDGsが提唱された年から考えても年齢が合わない。ってことは転生するときに産まれる年は、人によってバラ付きがあるってことだ。

 そりゃ世界が違うんだから、多少の時間軸のズレはあってもおかしくないのかも。


 俺もたまにエコって言葉をウッカリ使ってしまうけど、そう言う概念が元々無いこの世界の人達には理解されないんだよね。

 異世界翻訳機能さんも類似の言葉に置き換えようと苦労してるんだろうな。


 そんな事を考えているうちに、オッサンは軽い足取りで自分達の借りているモーテルへと帰って行った。


「まさかクレストさんがスオーリー副団長殿と仲良しだとは知りませんでしたよ。

 堅物で有名な人ですからね」

「そうなの? 最初から割とフレンドリーだったと思うけど。

 多分、嫌いな人が共通だったのかもね」


 勿論あの衛兵隊長のことである。副隊長はまともな人なのに、隊長があれじゃ可哀想だよ。

 聞いた話だとそこそこ腕が立って男爵家以上の人が隊長になるらしい。性格なんかは関係無いんだよね。

 町に来て初日に貴族にケンカ売ったんだから、嫌われて当然だって?

 でもケンカ売ったのは俺じゃなくて骸骨さんだし…。


「多分、初日の騒ぎが原因でしょうね」

「やっぱりそう思う?」


 ケルンさんも俺と同じ意見みたいだね。

 副団長には、敵の敵は味方みたいな感じでお友達認定されたのかもな。


「軍とのパイプは商売する上で非常に重要ですからね、良好な関係を保つことが一番ですよ」

「でも俺は今のとこリミエン以外で活動する予定は無…くもないか。王都はパスだけどね」

「王都以外にお店を展開するのですか?」

「いや、店じゃなくて西隣の領に温泉があるそうだから、そこに旅館を作ろうかなって思ってた。

 木材の買い出し依頼が来てたんだよね。取り消しになったけど」


 アルジェンの能力を公表すれば、俺も戦力として認められるのは確実だけど、今のところアルジェンが使える魔法は『浄化』と『殺菌』だけだと思わせておきたいのだ。


 ルーファスさん達、ハーフエルフ達にもそのことは良く言い含めてある。

 治癒魔法が使える人を軍が独占していた状態は解除されたらしいが、それでもまだ軍属として生活する人の方が多いらしい。

 生活が安定してるってのはやはり魅力なんだろう。日に一度か二度、治癒魔法を使えば生活できるんだからね。


 だけど軍もその状態は良くないと分かっているので、治癒魔法使い達を軍から追い出す方向にシフトしていると聞いている。

 

「西隣と言えば地獄巡りですか。

 お湯が赤かったり青かったり、吹き出す蒸気があったりと不気味なそうですよ」

「うん、それが目当てだよ。きっと流行ると思うけど、それは暇になってからの取り組みになるだろうね」

「ハハッ、いつのことになるか分かりませんが、楽しみにしてますよ」


 別府の町みたいな温泉地を目指すんだから、そう短い時間での完成は無理だと思う。

 焦らずノンビリやっていくよ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ