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第131話 薔薇の名は…

 魔物騒ぎで薔薇を栽培していたお宅に行ったら、ローズヒップティーをご馳走になった。

 たくさん獲れたらお店でも出せるのに残念だ。


 薔薇の魔物が俺の頭にまるで髪飾りのように乗っかって滅茶苦茶恥ずかしいが、退けようとしてもペチッと蔦で手を叩いて拒否をするのだ。

 一体これは何の罰ゲームだろ?


 サーヤさんに笑われながら連れて行かれた食堂は、旨い、安い、早いでは無く普通、普通、少し遅いの普通の普通のお店だった。

 料理が届く迄に皆が薔薇の魔物を観察すると、雄しべ雌しべ部分がどうやらクチに該当するものらしく、花弁は自由に動かせるとのことだった。

 しかも雑食性!

 誰だよ、薔薇の魔物に肉をあげた人は?

 まさか、この世界の花は基本的に食虫植物的なやつなのか?


『ズルイです!

 パパの頭は私の指定席なのです!』

「俺の頭を指定席にするのは間違ってるけどな」

『何を言ってるんですか!

 おっπルダーオン出来るのは世界でも私しか居ないのです!』

「頭で遊ぶのはやめて欲しいんだけど」

「何言ってるのよ。こんな面白いことして。

 これで遊ぶなって無理無理」

「そうそう、さすがクレたん、どこに行っても何かやらかしてくれるんだよね!」


 今、主に俺の頭で遊んでいるのはサーヤカーラの二人組だ。さっきのセリフは中のアルジェンに言ったつもりなんだけど。


「それでこの子、どうするの?

 これから王都に行くのよ。頭に付けたままで行くつもり?」

「さすがにそれは無理。いずれ飽きて動いてくれると思うけど」


 男が頭に可愛らしい花の飾りを付けて謁見とか、有り得ないどころの話じゃないよ。

 伝説になるに決まってる。


「花の魔物よね…リミエンでは聞いたことないわね」

「僕も長いこと冒険者をやってるけど、聞いたことが無いな。

 植物や昆虫は種類が多くて、新種は今でも時々発見されてるそうだから、その薔薇の魔物も新種かもね。

 ちょうど王都行くんだし、王都のギルドに寄って調べてみようか。クレスト君を紹介しておきたいしさ」


 アヤノさんもベルさんも、薔薇の魔物を見るのは初めてらしい。弱い魔物だから、狩られないようひっそり暮らしていたのかもね。


「ところで名前は?

 薔薇だからロゼとかロゼッタとか?」

「私ならソーンにするかな」

「ピンク色だからピン子とかどうよ?」

「ベルバラン、クラーマ」

『薔薇…難しいお題なのです…ビオ・ランテ』

「いつもこうやって考えるのですか?

 それなら私も一案出します。ダーズンはどうでしょうかね」

「なるほど、それなら私も一つ。バルクでお願いします」

「みんな考えすぎだよ。ハナコで良くないかい?」


 マーメイドの四人とアルジェン、それにケルンさんとステラさんまで参戦してきた。

 ベルさん? ハナコはいくらなんでもないでしょ?

 

「考えすぎね…単純にバラ、ピース、薔薇の特徴はトゲと渦みたいに巻いた花弁、それと香り…」


 それまでずっと首を振っていた薔薇の魔物が、最後に頷くように反応を示した。

 いや、その前に薔薇なのに耳があったの?


「ソレトちゃん?」

「そこじゃ無いと思うけど。カオリ?」


 試しにそう呼ぶとメッチャ反応!

 何故にカオリでそんなに喜ぶ?

 と言うか、どこに筋肉が付いてんだよ?


「クレストさんの付ける名前って、カグヤにハルミにカオリよね…良く分からないけど、独特のネーミングよね。

 それを喜ぶ方も不思議だけど」

「きっとクレたんと似た者同士なのよ。類は魔物を呼ぶのよ」


 何所が似てるのかちょっと理解出来ないんですけどね。


 俺達がカオリを囲んでワイワイ騒いでいるところに大皿に乗った料理が運ばれてきた。


「これは…ピザ? のってるのはチーズ?」

「知ってるのかい? この辺りは水牛の魔物を飼育しててね。

 イチジクを混ぜたりレモン汁を混ぜたりして出来たのがこの水牛チーズ、モッサリラチーズだよ」

「モッサリラ…面白い名前だね」


 そこはモッツァレラじゃねえのかよ?

 ま、チーズの名前なんて何でも良いけどね。


「まぁ、あんまり町から出る商品じゃないんだけどね。

 後はソーセージを持ってきてやるから待ってな…よ…最近の薔薇はピザを食うのか…やべー、俺、熱出てんのか?」

「残念、正常だから気にしないでょ」

「そうかい、そりゃ良かった。

 アンタもオモシロいことやってるな。

 最近リミエンで話題になってるクレストって人に似てるようだけど、有名人がウチみたいなショボい店に来る訳ないわなー、ハッハッハッ!」


 そのクレストが目の前に居る俺だと思うけど。

 ま、教える必要もないし、熱いうちにピザ食おう!



 あのお店でお持ち帰り用のピザまで買ってしまった。モッサリナが意外と旨かったのだ。

 水牛は何処かの農地の作業用に繁殖させているそうで、米の栽培をしている湿地帯の方へ販売しているのではないかと想像する。


 馬車置き場に戻り、駐車料金を支払う。

 駐車した時間を計るタイマーは無いので、少々アバウトな時間計算で請求されるのが当たり前。

 ステラさんは管理人と顔見知りなのでぼったくられる心配は無いが、初めて利用する人はそうと知らずにお高い駐車料金を払うそうだ。


「ステラがギルドの制服を着て御者を勤めるとは、随分角が取れたもんだ」


 そう言ってガハハと管理人が笑う。


「訳ありの上客だよ。それに今回はこの新型のお披露目と商談も兼ねてんだょ。

 アンタの給料じゃ逆立ちしても買えないょ」

「これ、噂のラッコだろ?

 前輪が動かせるとか、魔道具じゃないんだよな?」

「ラッコじゃなくてラクーンだよ。

 それにこれは魔道具じゃないよ。技術の進歩の成果だよ。

 この国の馬車はそのうちこのタイプの馬車に変わるからな」

「それが本当なら馬車屋はボロ儲けだな。俺も駐車場の管理人を辞めてソッチに雇って貰おうか」

「技術試験に合格出来たらな雇ってあげるさ」


 へぇ、馬車工房に就職するのに試験があるのか。中途採用だからか?

 自動車整備士の国家資格みたいな物も無いから、応募者の力量が分からないもんね。工員を育てる学校なんて無いから、基本的に仕事しながら技術を学ぶしかないんだよな。


 ウチのロイはどうなるのか。今から不安になってきた。

 ブリュナーさんに任せてるけど、聞いた話だとゴブリン戦も疲れさせてから始めるとか、結構鬼なんだよね。

 出来れば修羅の道ではなく、工場長への道をシュシュシュと歩んで欲しいんだけど。


 馬車が町を出てから、車内でアルジェンのお食事タイムだ。

 モッサリナの乗った焼き立てピザを買ったのは、アルジェンがお強請りしてきたのも理由の一つ。勿論晩御飯にも出す予定だけど。


 ペットポジションのカオリがアルジェンの食べているピザに手?を伸ばそうとするが、そこはミニミニ魔界蟲さんを剪定鋏を持ったゴーレムに変形させてブロック!

 カオリが泣きながら俺に抱き付くような仕草を見せる。勿論薔薇は涙を出さないけど。


「そう言や、町の外れで魔物が出るのって珍しいよね?」

「さすがに町の周りは毎日衛兵が巡回していますからね。

 カオリちゃんは種の状態で持ち込まれたのでしょうね」


 丸々一枚完食して顔中ソースまみれになったアルジェンが俺の服をお手拭き替わりに拭くが、後で本人が『浄化』を掛けてくれるので問題無い。

 何か根本的な事を間違っている気がするけど、結果オーライ?

 この子と付き合うのに常識を持ち出すと疲れるだけ、そう悟った者勝ちなのだ。


 何故かテーブルの上で急にアルジェンとカオリが腕相撲を始めたけど、アルジェンが辛くも勝ちを拾った。

 薔薇相手に何してんだろね?


「あっ、カオリを栽培してたオバサンが、薔薇の実を乾燥させた物を飲ませてくれたんですけど、ケルンさんは飲んだことあります?」


 商品の目利きの出来るケルンさんに貰ったローズヒップの粉末を見せて聞いてみた。


「いぇ、私がいつも回っている村には薔薇なんて咲いていませんからね。

 薔薇とは全然違いますが、ローゼムと言う花の実のお茶なら一部の村にもありましたよ。

 お茶としては酸味が強いのですが、料理の付け合わせにすると口直しに良い塩梅です」


 オクラの花にそっくりな花を咲かせるのがローゼムと言う植物で、ハイビスカスティーと呼ばれるけど実はローゼムを使っているのだとか。


 異世界に来ても知った植物があると安心する。

 もし見た目はリンゴだけど味は蜜柑みたいなら果物だったら、転生者の頭は混乱して社会生活に支障をきたすかもね。


「四時のオヤツで試飲してもらいますね。

 気に入るようなら、帰りにあのオバサンの家に寄って増産を頼もうか」


 蜂蜜ならリミエン周辺でも結構作られている。そりゃ、野菜作ってたら花が咲くんだから、有効利用しないとね。


 人気が出るなら、ローゼムティーもローズヒップティーも色が綺麗だから、お客様に出すなら透明なグラスに注いで出したいけど、ガラスはお値段が高いし割れるからなぁ。

 早いとこガラスに代わる安上がりな透明素材を見付けなきゃしなきゃダメか。


 スライムの皮ってどうにかしてティーカップに使えるようにならないのかな?

 実は焼くと硬くなるとか…そんなことは無いか。初心者魔法使いが火の攻撃魔法の的に使うのがスライムらしいからね。


「薔薇のくせになかなかやるのです!」


 腕相撲では勝ったけど、普通の相撲でカオリに負けたアルジェンがポンポンとカオリの頭?の花を叩いていた。

 柳腰じゃないけど、蔦相手に押し相撲してもダメだと思うよ。


 それから二人?が仲良くシートに移動すると、お腹いっぱいな上に運動して疲れたようで一緒に眠り始めた。


「まるで子供のようですな」


 微笑ましい姿にケルンさんもホッコリ。

 まさかロックな薔薇の玩具を作ろうなんて考えてないよね?

 でもアルジェンのお陰で、俺の頭の上を指定席にしようとしていたカオリを穏便に降ろすことがら出来たんだから、とりあえず感謝だね。

 残念ながら、『浄化』を掛ける前に寝ちゃったけど。


 ところで今更だけど、カオリに目ってあるのかな?

 植物には光を感じるセンサー的な目はあるそうだけど、相撲したりピザを食べたりお茶を飲むんだから、明らかに目があってもおかしくないよね。さすがに鼻は無いと思うけど。


 しかし…蟲にトカゲみたいなドラゴンに薔薇の花…俺に集まってくる魔物って、なんか違うんだよね。

 普通ならモフモフ系でしょ?

 それがツルツル、スベスベ、トゲトゲと来たもんだ。次こそはモフモフ系の魔物をゲットしてやるからな!


 誰ですか? 蜘蛛や毛虫もモフモフとか言ってる変態さんは…? あんなのモフモフとは認めませんからねっ!

 そもそもあの毛は何の為に生えてんだ?

 そう言や、巨大カブトムシのゲラーナにも産毛みたいなのが生えてたな…魔物も魔石が無けりゃただの虫ってか。


 虫と言えば、カオリの葉っぱに害虫が付かないように防虫剤で予防しとくべきかな。

 それとも一緒にテントウ虫の魔物も飼っておくとか?

 カオリなら猫が毛繕いするみたいに自力でケア出来る気もするけど、どうなんだろうね?


 コイツらのお陰で少しは馬車の中で退屈しのぎが出来るけど、それでもやはり時間を持て余す。

 ケルンさんに冒険者時代の話をしてもらおかな。荷物運びのアルバイトから本物の冒険者にクラスチェンジしたそうだし。

 でも人の過去の話を蒸し返すと、人によっては嫌がることもあるから聞きづらいんだょ。


 ここは村を回ってる時の話を聞かせてもらおう。さっきのローゼムティーみたいな話が聞けるかも知れないし。

 新しい商品が生まれると、村の現金収入アップに繋がるからイヤとは言わないだろうし。


 俺も暇が出来たらケルンさんと一緒に村巡りをしてみようかな。

 そうなる日が来るかどうかは分からないけど、(キリアスを除いたら)リミエンから森のダンジョンまでしか移動したことが無い俺だから、きっと新しい発見があると思うよ。

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