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第128話 良い人見っけ!

 王都に向けて出発点した日、野営をしていると王都から来た舞台関係者の夫婦と合流した。

 王都の舞台が閉鎖された経緯を知って日本人の有名な役者と同じようなことやってんだと、良く言えば親近感が湧いた。

 悪く言えば…ろくでなしの○野郎か?


 不祥事を起こしてもいつの間にかしれっと復帰するのは、伝統芸能継承者が少なすぎて業界内で競争の原理が機能していないせいだろう。

 これが替わりは幾らでも居る業界なら、セクハラ、パワハラでイメージの落ちた人は勝手に淘汰されていくんだけどね。


 まぁ芸能界は異世界でも問題アリアリって事が分かったから、温泉旅館のアイドルグループもそう言う問題を起こさないよう褌を締め直さなきゃ。

 ちなみにコッチじゃトランクス穿いてるけどね。男性用のボクサーパンツみたいな立体縫製の商品が無いんだよ。


 何故か女性用のはお洒落な現代的な商品が販売されてるんだけど。

 ま、これは間違いなく召喚された女性の勇者達の努力の賜物だと思う。

 一方の召喚された男はそれ程下着に拘りがなかったのか、または拘りがあっても発言力が弱かったか。


 女性用と言えば月に一回来る厄介なアレがある。

 この国ではふんわりしたロングスカートが主流で生理の時でも外からは分からないように対処しているのだが、それでも下着を汚さないように気を使っている。


 紙おむつなどにも使われている水をタップリ吸収する高吸水性ポリマーは、石油由来の商品だから当然この世界には無い。

 だけどね、この世界にはそれに匹敵するような物があるんだよ。


 身の危険を感じると大量の泡を吐いて逃げるワームが居て、その泡を乾かすとサラサラの粉状になる。

 この粉が吸水ポリマーもビックリする程の吸水性能を有しているので、月一度のアレの対処にこれを使ったナプキンを用いるのが一般的らしい。

 そんなのを発明出来たってことは女性勇者達が相当頑張ったか、又は誰かに頑張らせたかだね。

 やはり必要は発明の母と言うヤツだ。


 余談だが、そのワームも牙の採取用ワームと同じく凄い再生能力を持つそうだが、泡以外は役に立たないし劇弱なのであえて倒す必要は無い。

 粉の採取のため、人里離れた山の中で飼育されていて、定期的に行商人が粉を買い取りに行っているのだとか。

 飼育数を増やせば紙おむつも製造可能になるかな?


 ちなみにこのワームの好物はアスパラらしく、アスパラの中の成分がワームの体内で発酵したか、又は何かの化学変化を起こして精製されるのではなかろうか。

 地球でも石油由来の商品から天然素材へシフトする為、アスパラギン酸で実験されているとか…。


 とまぁ、芸能界の話から紙おむつやらアスパラに繋がったのは、いつもの長考モードに入ったせいだから気にしてはいけない。

 俺がフリーズしたのを初めて見たバッシロ夫妻が、俺に何かあったのか?大丈夫か?と慌てていたそうだが。


 長考モードから復帰して、

「えーと、それでお二人はリミエンに到着したら舞台関係のお仕事を希望と言うことでよろしいですか?」

と何事も無かったかのように質問する。


「許可を頂けるなら、是非お願いしたいと思います」


 そう答えたバッシロさんとタイミングを合わせてシアスタさんも頭を下げる。


「現在、温泉旅館は舞台周りの設計を進めているんだけど、何かアドバイスは出来るかな?

 必要な設備や舞台装置なんかが分からないんだよ。演者さんを吊って飛ばせると出来たら面白いんだけど」


 宙吊りの演出はコンサートや舞台なんかで色々使われてるし。

 あれがあると目玉になるんだよね。


「宙を舞うような危険な演出はしませんよ。

 良くて煙幕です。ですが煙たいので換気装置は必須です。

 他には照明器具と拡声魔道具は必須ですし、座席は移動して格納出来るようにするのをお薦めします。

 お金に余裕があれば、地下からせり出す床を作っておくと便利ですね。動かすのは体力勝負ですが」


 残念、宙吊りは無かったか。でも王都の舞台装置のレベルは大体把握出来たかな。


()りですか。それは欲しいですね。

 うん、そう言うアイデアを希望しているのでバッシロさんの採用決定です!」


 バッシロさんが設計出来るとは思わないけど、見たことあるならヒントぐらいは出して貰えると期待しよう。


「奥様の方は?」

「主人は大道具担当だったのですが、私は衣装や小道具の担当でしたので、アイデアと言われても。

 衣装は…私の考えたものは先進的過ぎるとか破廉恥だとかで、使われたことは無いですけど」


 先進的過ぎて破廉恥?

 まさかこの人、転生者?


「シアスタさん、膝上丈のスカートってどうです?

 お願いしたらデザインして貰えます?」

「それ…良いんですか?

 王都では猛烈なダメ出しが」

「採用です!

 いやー、いい人ゲット! 超ラッキーです」


 こちらの世界の人達のように相手の手を取って上下にブンブン。これをやれば俺が転生者だと今は気付かれないだろう。

 気が付かれているとしても、『貴方、転生者ですね?』とは聞かないだろう。


 今まで王都に転生者が居るって話は聞いた事が無い。

 と言うことは、彼女は地球の知識を広めようとアレコレやってこなかったってこと。

 なのにここで俺を転生者と断じれば、それは彼女が自分も転生者だとバラすことになる。


「シアスタは私の妻だが…」

とバッシロさんが俺を軽く睨む。

 やだなぁ、人妻に手を出すわけが無いじゃないですか。

 嫉妬するなんてカワイーねぇ。あ、まだ手を取ったままだった…サーセン。


「またそうやって勝手に決めて。

 怒られないの?」

「温泉旅館が成功すれば問題無い!

 評価は歴史がするものさ」

「何カッコつけてんだか。

 そんな向こう見ずに突っ走ってたら、いつか転んで大怪我するわよ。

 ただでさえ、リミエンでなければ投獄されてるって噂なんだから気を付けてよね」


 そんな噂が流れてたんだ。ギルドでも言われたから間違ってはいないことだけど、噂で面白おかしく語られるのはヤダなぁ。


「今のところは何とかなっているのは、クレスト君自身がリミエンに富をもたらしているからだね。

 カラバッサとラクーンの設計、マナバッテリーとマナジェネレーターの原理を見付けていなかったら、伯爵やレイドルも庇いきれなかったのは事実だよ」

と珍しくベルさんが真面目な顔だ。


 あれ、冗談じゃなかったの?

 笑いながら言われてたから、多分冗談かと軽く聞き流してた。


 今更だけど、ベルさんはそう言う裏情報を知れる立場の人だったんだね。ギルドの役職は無いけど、大金貨級の特権みたいなものか?

 それとも単にライエルさんがリークしただけか?

 ベルさんが王都に行くのって、まさか俺の監視役で同行してるとは言わないよね?


「ソレとは別にして、この二人をクレスト君が身元引受人と雇用主になって面倒を見るなら、誰も文句は言わないさ。

 その旨を城門の衛兵隊宛てに一筆書いて渡しておけば良い。

 それと当面の生活費を渡しておくこと。

 当面住む場所は例のアパートの空き部屋にすれば良い」


 ベルさんにアパートの話はしてないんだけど、まさか住むつもり?

 三階の良い部屋でも六畳程しかないから、きっとベルさんには物足りないだろうね。


「そうしましょうか。

 そうと決まれば、二人とも今夜はゆっくり休んでください。

 上司、つまり俺が王都に向かっている最中なので、急いでリミエンに行く必要は無いですよ。

 明日からは無理の無いように歩いてください。

 手紙を書いておくので、リミエンの衛兵詰め所に到着したら、我が家の家令のブリュナーさんに迎えに来るようにと伝えてください」


 ブリュナーさんは優秀な人だから、任せておけば俺が居なくても良い感じにやってくれる。


 ゴベンチャーは除くとして、アパートには温泉旅館関係者が集まってるから打合せもスムーズに行くんじゃないかな?

 コンラッド出身の人もやっと雇えたし。

 これからはバッシロさんをリーダーにして動いてもらおう。

 王都から戻ったら、俺は方向性だけクチ出す感じの会長職に就けば良いかな。


 演者はまだ足りてないけど、運良く外堀は埋まって来たような気がする。

 最初は学校の発表会レベルの演し物でも良いんだし、それこそ無理せずステップアップしていけば良いだろう。


「ところで…この野営地にあの建物は常設されているのですか?」

とバッシロさんがタイニーハウスを指さした。

 そりゃ、無いはずの物があるんだから気になるよね。


「いえ、あれは運んで来たものですょ。

 まだ正式には業務契約も守秘契約も結んでないんですけど、今から見る物は暫くの間は口外無用で願います。

 うっかり喋ると…色々後悔するかも知れませんよ」

「…犯罪行為で無い限り、雇い主の不利益になることはしませんよ。こちらも商売人ですから」

「それなら結構」


 タイニーハウスでマーメイドの残り三人とケルンさんに遊んでもらっていたアルジェンに出て来てもらう。


「秘密兵器のアルジェンです。この子のスキルでこの建物を運んでもらっています」

「新しい仲間になったのですね?

 私は妖精のアルジェンです! 宜しくなのです!」


 ホバリングをやめていつものように肩の上に立ち、ビシッとポーズを決める。

 よく不安定な肩の上に立っていられるな、と関心するが、飛行能力を備えているならバランス感覚が発達しててもおかしくないか。


「妖精なんてホントに居たんですね」

「可愛らしいわね」

「パパの娘だから、当然なのです!」

「アルジェンちゃんの存在は、今のところ非公開なのですね?」

「えぇ、能力ゆえ欲しがる人が出てくるだろうから。

 なので、時期を見てお偉いさんの方から保護令を出してもらう感じになってます」


 新しい条令を作っても、それを市民に広めるのが難しいのだ。

 日本でも同じだけど、テレビもネットもないからハードルは何倍もの高さになるから。


「もしパパとのお約束を破ると、私が毎晩パパの夢枕に立ってヒソヒソ泣くのです!」

と嬉しくない冗談を言う。


「何で俺の夢枕に出てくるんだよ?

 かなり迷惑だぞ」

「多分可能だからなのです!

 それだけパパが好きなのです!」


 俺の中に入ってくることが出来るんだから、夢も操作出来ると?

 まさかサキュバス的な能力なんて持ってないよね?

 アルジェンがアダルトチックな方向に進化を遂げて行くのではないかと心配になってきた。



 その夜はそれ以降、他の旅行者が野営地を訪れることは無かった。

 スライムとアルジェンの警戒網を設置…単にスライムを出してもおくだけだ…し、簡易露天風呂に入って疲れを癒す。


 お湯使い放題なのは有難いが、魔石のストックは大丈夫かとアルジェンに聞いてみると、ミニミニ魔界蟲さんが遊んでいる時にマナをチャージしているから問題ないと教えられた。

 あの列車や馬車の中に魔石を入れていたらしい。実にエコだな。


 その後、タイニーハウスに女性、ラクーンに男性と別れて就寝となった。

 ロングタイプのラクーンにベルさん、ケルンさん、そしてバッシロさん、ショートタイプに俺とアルジェン。

 アルジェンが男性かと言われると、見た目は女性だけどどちらでもないんだよね。


 翌朝、早くに目が覚めて回された腕に気が付く。どうやら久しぶりにアルジェンが人のサイズになって眠っていたようだ。


 見た目は美少女だが中味は魔界蟲なので、裸になっていても変な気は起こさない。

 胸はエマさんのデータを基に再現したとのことで、確かに見た目はそっくりなのだが、悲しいことに下半身はマネキンと同じ。


 生殖機能も無ければ、食べた物も完全にエネルギーに変換出来る究極のエコボディである。

 そもそも魔界蟲は食べ物を摂取する必要はなく、魔力を吸収することで生きていけるのだから、消化吸収系の器官が根本的に人とは違うのだ。

 だけど俺とエマさんの遺伝子情報を十分サンプリングすれば、試験管ベイビーを生み出すことが可能なんじゃないかと思えてしまう。

 

 いや、パパ大好きっ子だから俺のクローンを大量生産しないか心配になってきた。

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