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第127話 王都から来たのは

 王都行きの一泊目の野営地は、意外と広い空き地だった。

 町、村、宿泊地以外には野営に適した場所は無いだろうと思っていたのだが、軍を動かす際に駐屯地として利用することがあるのだとか。


「アルジェンちゃん! 色々よろしくねっ!」

「任せて安心なのですっ!」


 マーメイドの四人とベルさんはアルジェンの『格納庫』スキルに偽装したアイテムボックスを知っていたが、アルジェンがタイニーハウス、簡易の露天風呂と簡易トイレを何処からか取り出したのを初めて見たケルンさんとステラさんはびっくり仰天玉手箱だ。

 心臓止まりそうなぐらい驚いていたけど、本当に止まってたら労災になるのかな?


「クレストさんが工作機械を取り出したときも驚きましたが、まさか小さな家を持ち運び出来るとは、さすが妖精ですね」

「パパの娘なのでこれぐらい出来て当然なのです!」


 バーベキューが焼き上がるのを待つ間、そのままでも食べられるお摘まみセットにかぶり付いていたアルジェンが食べる手を止め胸を張る。


「これは本当にアルジェンを欲しがる人が出て来てもおかしくないですね」

「私はパパ一筋なのです!

 他の男の所なんて行かないのです!」


 お摘まみで汚れたクチで俺のほっぺにキスをするが、そのクチのサイズだとキスか何か分からない。

 が、頬が汚れたことは良く分かる。


「あ、そう言えばステラさんの旦那さんも一緒に王都に行くって話じゃなかったっけ?」

「パパ、私の話はまだ終わってないのです!」

「勿論アルジェンは誰にも渡さないよ。

 もしアルジェンが欲しいなんて言う人が出て来たら、その人とは戦争だよ」

「嬉しいのです!」


 ベッチャと顔に抱き付き、キスの嵐ではなく油汚れの拡散攻撃…後で『洗浄』を使うのはアルジェンだから構わないけど。


「…話をして良いのかしら?」

とステラさんが俺とアルジェンのどちらに聞いたのか分からないけどそう聞いてくる。


「どうぞ、なのです!」

「なら…夫は伯爵様用の新型馬車の打合せで森のダンジョンに行ってしまったんですよ。

 軽い新素材を使うそうで、それが作れる人がキリアスから来た人の中に居るんだとか」

「あ、もう動いてたのか。まだ材料手配の話も済んでないんだけど」


 アルミニウムの原材料となるボーキサイト粉末を吸い込ませないようにするため、先に防塵マスクを作る予定だが、椰子の実の用途に興味を持ったジョルジュさんに実験を任せている。


 こちらの世界の植物が、地球の物と完全に同じ物であるかは不明である。

 地球産の物なら上手く行っても、コチラ産の物では上手く行かない可能性もある。


 マジックバッグが大量生産出来る物では無いので、椰子の実なんて輸入するのは正直言ってかなり無駄である。

 香辛料や砂糖キビ、綿やカカオなど輸入する方が余程役に立つ。

 カカオは生活必需品である…勿論異論は認めない。


 ジョルジュさんの実験が上手くいけば、椰子の実畑と加工工場をシャリア伯爵領の近くに作りたい。

 出来れば伯爵領内の陸地が良いのだが、その範囲で椰子の生育に適した土地があるのか全くの不明だ。


「主人も新しい物好きで、それが伯爵様の馬車となると居ても立ってもいられなかったようです。

 リミエンの鍛冶師ギルドでも新素材の研究は行われていますけど、いつも王都ギルドの後塵を拝するだけですから、向こうより先に開発出来るのなら少しでも早く動くべきだろうと輸送業ギルドも後押ししていますし」


 くれぐれも先走り過ぎて、粉塵被害の患者を出さないでもらいたいものだ。

 吸い込んだ粉塵が肺の中に残るなら、治癒魔法でも治らないと思うからね。


 でもアルミ合金が作れるなら、輸送業ギルドにもかなりの恩恵があるのは間違いない。

 木箱をアルミケースに変えれば荷物の軽量化が計れるので一度に運べる量が増える。

 つまり収益アップや輸送効率アップが望めるのだ。


 アルミ合金フレームにすれば軽くて丈夫な馬車が作れるのだから、最大積載量の増加も見込める。

 鉄パイプフレームのラクーンとアルミフレームのアルバッサ(仮)、どちらが軽く出来るかな?


 ただ、鉄パイプの方が補修も簡単だし製造もラクな気がするから、アルバッサはワンオフとして一部の金持ち専用にするのが良いだろう。

 それでもタイタニウムフレームのカラバッサよりお安くなるかも知れないんだよね。


 少し真面目な話を始めると、アルジェンはサッサとマーメイドの四人の中に飛んで行った。

 ちなみに下半身は馬に変身していたのでケンタウロスなのだが、あれって羽根で飛べたっけ?


 設定が混ざって何が正しいのか分からなくなってきた。

 余談だがマンガのキャラの中には羽根のあるサジタリウスもあるが、マントを羽根と見間違えたのかもね。


 アルジェンの手は射手だけに弓を持っているけど、フォークを矢の代わりにつがえるのは怖いからやめて欲しい。

 案の定、狙った肉を外して野菜に突き刺さり涙顔だが自己責任だ。刺した物は食べきるのが我が家のルール。好き嫌いせず残さず食べてもらおうか。


 そうやって楽しく晩御飯を食べていると、進行方向から一組の若い男女が歩いて来た。

 先に気が付いていたアルジェンはタイニーハウスに姿を隠している。


「こんばんは。こちらにお泊まりですか?」


 俺達に少し警戒する様子を見せる二人に先に声を掛ける。

 この先にある町から来たのか、それとも近くの村から来たのか。

 大きな皮袋を一つずつ背負って歩いているが、行商人には見えない。どちらかと言うと、引っ越しか夜逃げをしている感じだな。


「早くリミエンに行きたいので、少し休んだら出て行きます」

と男性が言うが、女性の方は明らかに疲れている様子だ。


「無理をすると逆に遅くなりますよ。

 リミエンにはどんな用事です?

 物によっては力添えをしますけど」


 余計なお節介かも知れないけど、俺でも役に立つことなら多少の手助けぐらいはしても構わないだろう。

 情けは人のためならず、きっといつか俺の力になってくれる筈。


「四角い馬車…? 商業ギルドの旗はゴールドで…そちらのお方の馬車ですか?」


 男性の指はベルさんを指しているので、

「僕は護衛でただの御者だよ。オーナーはそちらの若い方」

とベルさんが否定した。

 大金貨級がただの御者な訳ないけど、話をややこしくするからスルーしよう。


 俺は商業ギルドの派遣社員に過ぎないんだけど、普通に考えてゴールドカードを持たされるのはおかしいよね。

 少し納得の行かない様子の二人だが、それより焼けた肉の匂いが気になるらしい。


「良ければ一緒に食べせんか?

 たくさんありますから。それにかなりお疲れのようですし」


 今のところベルさんがこの二人を危険人物と判断した様子は見せていない。

 もし盗賊の類だとしても、かなり腕の悪い素人だろう。

 どう見ても足手纏いにしかならない女性を連れて盗賊だ!金を出せ!と言われてもマジで対応に困る。


 セリカさんがチラッと俺を見て、木皿に焼けた肉と野菜を取って二人に渡すと、アヤノさんが椅子を用意する。

 フォークとグラスに注いだワインの水割りも二人分用意すると、信じられないような顔をした二人だが食欲には抗えなかったようだ。


 しばらく二人の食事の音だけが響き、その間にスライムの二匹が俺達の使った食器を綺麗にしてくれた。実に便利で優秀なスライム達だ。


「俺達は王都で働いていたんです」


 食事の終わてフォークを置いた男性が事情を話し始める。


「先々月の初旬のことです。

 劇団トップ俳優のタイシャンさんのセクハラがリークされまして…」

「ちょっと待った…まずは自己紹介して欲しかったけど、劇団に勤めてたの?」

「はい。私はバッシロと申しまして、裏方を色々やっておりました」

「妻のシアスタです。お肉、美味しかったです!」


 シアスタさんも休憩して少し元気になったようだが、王都から徒歩で?

 片道六日なら二百キロオーバーの距離なのに、良く歩きで来る気になったもんだよ。


「またいつかお肉を食べさせてください。

 で、その時は彼一人が退団して事件は収まったのですが、その後、彼と親戚関係の俳優のモンスキーさんが痴呆の両親の…」

「もういいょ、とんでもない人達が集まってたったって分かったから。色々やばい、かなりヤバイ。消されるかもっ!」

「はぃ…先輩による後輩の虐め問題が劇団に留めを刺しまして…劇団は潰され、私達は職を失ったのです」


 まさか王都の劇団で何処かで聞いたような事件が起きてたとは。

 そう言う華々しい世界には憑き物なの?


「それで何故リミエンに行こうとしてるの?」

「リミエンは現在進行形のコンラッドの中で一番発展している領地です。

 そして近いうちに新しい舞台施設が完成すると聞きまして、そこなら我々も力になれるのではないかと。

 ダメならダメで、農地開拓に参加すればどうにか食べていけると思いまして」


 王都にも温泉旅館の舞台の話が届いているのか。多分商業ギルドが意図的に流してるんだろ。


「で、劇団関係者って沢山居るんでしょ?

 バッシロさん達だけリミエンに行くの?」

「私達は家出も同然の状況で王都に出て来ましたから帰る場所がありませんし。

 それに舞台の提案者のクレスト氏は無類の女好きとの噂で、それならリミエンの舞台も直ぐに潰れるだろうと他の人達は動かないのです」


 えーと…まだ俺は名乗ってなかったけど、今から名乗って大丈夫?


「ちなみに聞くけど、俺ってそんなに女好きに見える?」

「そうですね…下半身は普通ですかね。

 性格的には少々拗らせた感じはありますが」

「拗れてるのはチューニ病が原因だから気にしないで」

「はぁ…それはご愁傷様です…もしかして…クレストさん?」

「残念ながら正解」

「…今のは無かったことでお願いします」


 気まずい空気が流れる…

 シーン…


「ハイハイ、お皿片しますよーっ」


 その空気を割ってくれたのは頼れるリーダーのアヤノさんだ。

 両手にスライム達を乗せて楽しそう。懐くと甘えてくるんだよね。

 古い角質も食べてくれるからお肌も綺麗に…新しい商売の予感? でもそのシーンはかなり同人っぽくて夜想曲の仲間入りになっちゃうかも。


「クレストさんの悪い噂は妬んだ人が流してるんだよ。リミエンの人達は信じてないから。

 ちなみにクレストさんは腿を見るのが好きなんだって」

「良い趣味してますね!」


 ここで同好の士を発見か?!


「あなたっ!」

と、シアスタさんがピシャリ。

 喜んでいたバッシロさんが一瞬でクシュンと萎れた。


「俺はソッチは普通だから気にしなくて大丈夫だよ」

「そうでもないですよ。

 クレストさんって、四人ぐらいは妻を持てと事あるごとに権利者から説教されてるのにまだ一人に拘ってるんです。

 そう言うところは可愛いですけど、相手の気持ちも考えてあげたらと良い思いますよ」


 スライムに皿を掃除させながらアヤノさんが話に入ってくるが、初対面の二人は話よりもスライムの方が気になるようだ。

 ウチの子は間違ってお皿を溶かすヘマはしないのだ。教えたらホントに覚えてくれてビックリしたよ。


「奥さん側も自分以外に妻が居るのはイヤな気がしないの?」

「それは勿論、相手によりますよ。仲が良い人なら全然問題ないです。

 エマさん、オリビアさん、セリカが相手なら私も嫁の仲間入りしたいと思います。

 結婚したら生活が一変すると言いますけど、気の知れた仲間が同じ妻の立場なら、結婚してからも楽しいでしょうね。クレストさん的に言うと、寧ろウエルカムですよ」


 アヤノさんがそこまで突っ込んだ事を言うのは初めてかな。

 何か意識の変化があったのか?


「家督を争って血みどろの抗争をさせないようにとか思ってるなら、それはそうならないようにコントロールするのがクレストさんの人徳の見せ所です」


 俺にそんな自信は無いし、争って奪う価値のある遺産を残せるのかな?

 願わくば養子のロイ、ルーチェと嫡子が仲良くやって欲しい。

 恐らく戦闘能力に関しては、二人に叶う子は簡単に生まれてこないと思うけど。


 四人の奥さんか…勧められる理由は分かるけど、それと俺の中の倫理観がまだ折り合いが付かないんだよね。

 エマさんは初対面でビビッと来たから問題無かったし、それこそ彼女との結婚は寧ろウェルカムだ。


 でも今はどうやってオリビアさんとの関係を、結婚ではない方向に上手く持っていこうかって悩んでるんだよね。

 地球に居た時にはこんな経験無かったし。良い答えがあれば誰か教えてよ…。

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