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第10話 まさかのトレードです。

 アルジェンは等身大のエマさんに変身可能なハイスペックだった。

 声までそっくりなのは、体の内側まで完全に再現している…マジで遺伝子から再現していると考えてよいのだろう。


 寝起きに全裸は心臓に悪い…いや、エマさん本人なら俺だって男の子だから寧ろウェルカムなんだけど。


 でもアルジェンは俺の好みに合わせて作られた魔界蟲の分体ってことだからな…ただし性格までは俺の好み通りに再現出来なかったようだけど。


 朝食を終えて、いよいよ世界樹と泉のあるこの地を発つ時が来た。

 最後に魔界蟲本体にお別れを告げているとアルジェンが飛んで来て、動けない自分の変わりにスライムを一匹置いていって欲しいと頼まれたと言うのだ。


 そう言うことは前もって言って欲しかったけど、魔界蟲に段取りとか分かる筈もないか。


 でもウチの子はスライムの中でもかなり優秀だと思うんだよね。

 今は俺が魔力を無くしているからこの子達とのリンクは切れているけど、スライムの目と耳をリンクして今までピンチを乗り切ったこともあるから、簡単にオッケーとは言い難い。


 とは言え、俺の身替わりになってくれた魔界蟲への恩返しって意味で、受けても良いのかも。


「……えっ? 手脚になるのは本当は私の役目だったのです?」


 まさかコイツ、勝手に出て来て勝手に俺に付いて来ようとしてたのか?

 魔界蟲が手脚にするつもりだったのなら、随分ハイスペックな分体にも納得だよ。


「ちなみにアルジェンがここに残るって選択肢は無いのか?

 本体もそっちの方が」

「今更何言ってんですか!なのです。

 私の裸をあんなに見ておいてパパは酷いでのす! 痴漢で変態で人でなしと言われても仕方ないのです!」


 見たのはエマさんの…だけどね。

 でもアルジェンとスライムじゃ、どう考えてもアルジェンの方が出来ることは多そうだし。

 スライムが魔界蟲の手脚になっても大丈夫なのかな?


「もし私をここに置いて行くと言うのなら、ママの裸を見てソコの棒が立ってたことをバラすのです!」


 グハッ! 俺の股間を指差しやがって…。

 コイツ…可愛い顔して遣ることえげつないだろ!

 エマさんにそんなのバラされたら、恥ずかしさで悶え死ぬ自信があるぞ。


「本人達が良ければ構わないけど」

「それなら了承貰ってるのですっ!

 準備は万全なのです!」


 いつの間に決めたんだ?って言う疑問はあるが、魔界蟲ならウチの子達とも会話が出来るのだろう。その能力は少し羨ましいな。


 でもそうか、本人が納得しているのなら仕方ない…エマさんに恥ずかしいことをバラされない為にも、三匹のうち一匹だけアルジェンと交換ってことにしよう。


 ストレージベストのポケットから一匹ずつ取り出して地面に並べる。

 でもやっぱり本当は三匹共連れて帰りたい。撫でてやると戯れ付いてきて可愛いんだよ。


「どの子が行くのか決まってる?」

「真ん中のスライムダンクちゃん!

 ちなみに右側がグランドスライムちゃん、左側がオニオンスライムちゃんなのです!」

「本人達がそう付けてたのか?」

「私命名なのです!」


 ちょっと強引なネーミングだよね?

 ちなみにこの子達に名前を付けなかったのは、名前を付けたとしても俺には見分けが付かないからなんだよね。


「そう…見分けは付くの?」

「勿論なのです!」


 自信満々に答えるもんだから試してみたくなる。


「アルジェン、アッチに何か飛んでない?」

とアルジェンの後ろを勢い良く指さす。

 彼女が振り返ってキョロキョロしている間に小細工は完了!


「何処なのです?」

「…気のせいだったみたい。ごめんね」

「まさかパパ、飛蚊症の可能性があるのです?」


 まさかの飛蚊症かよ…お陰でファンタジー感が台無しだな。

 まぁそれは置いておこう。


「で…この真ん中の子がスライムダンクちゃんだね?」

「あれ? パパ…スライムダンクちゃんとグランドスライムちゃんが入れ替わっているのです」


 へぇ、本当に見分けがついてるんだ。

 アルジェンは悪戯好きかも知れないけど、嘘を付くって概念が無いのかもな。


「俺には見分けが付かないのに、アルジェンは凄いな」

と素直に褒める。


 動物園の飼育員さんなら同じ顔の動物でも見分けられるかも知れないけど、さすがにスライムは無理でしょ。


「スライムと言えど、個体差はあるのです。

 この子達は同じ個体から分裂した子達なので、見た目には殆ど変わらないのです。

 人間に区別は付かないのです!」


 なるほど。と言うことは、魔力的な違いなのかもね。

 でも魔力だって同じ個体から分裂したら同じ魔力になる気がするけど。分裂すると魔力に何か記号的な物が付くのかな?


 試しにもう三回、同じようにスライム当てクイズをやってみたけど全問正解。

 アルジェンの能力は本物だと言わざるを得ないね。


 アルジェン命名スライムダンクちゃんを両手に大切に持ち、魔界蟲本体さんの待つ泉の前に。

 ちなみにアルジェンは俺の頭に座り、たまに踵で俺のオデコや瞼の上辺りを蹴っているので少し鬱陶しい。


 頭からアルジェンを追い払い、泉の前にスライムダンクちゃんをそっと降ろすと触手を出して俺の手に絡めてくる。

 まるで握手をしているかのようだ。

 頭?を撫でてやると、猫が体をスリスリとこすり付けるように動く。


 スライムにも触感はあるんだろうなと思いつつ、

「じゃあスライムダンク、ここでお別れだよ」

と言うとイヤイヤするような素振りを見せる。


「嘘っ! 私の付けた名前はイヤなのです?!

 名作漫画から取ったのに…残念なのです」

とアルジェンが項垂れた。


 嫌がってるのは別れじゃなくて名前かよ。

 俺もアルジェンのネーミングセンスはどうかと思うからなぁ。


「そうだな…それなら『クレールドリューヌ』なんてどうかな?

 月の光って意味の、勇者の世界の言語でそれっぽく付けてみたけど。お店の名前みたいで長いかな?」


「私の名前より凄そうです! 狡いのです!」

「この子の方が付き合いも長いんだし。それにお前の代わりに働いてくれるんだから。

 それともこの子と交代するか?」

「やっぱりパパは狡賢いのです!」


 アルジェンが俺の頭をポカポカと叩くと意外と痛い。まさか強化系のスキルを使ってないだろうな?


 俺の手に触手を絡めて体をスリスリしていたスライムのクレールドリューヌだが、触手を引っ込めるとチカチカと体を光らせた。


「パパに今までありがとうって言ってるのです」

と通訳が入ったが、何となくそんな気がした。


「あぁ、俺の方こそ世話になったな。

 元気でな」


 発光を終えたスライムが泉の上を進み始めるので見送りながら手を振る。

 水のように見えるが水ではないのか、クレールドリューヌの体は沈むことなく本体さんの方へと進んで行く。


 やがて中央の水面でグルグルと回る本体さんの元へと辿り着くと、本体さんを飲み込むように包んでしまった。

 スライムの中でも変わらず静かに回り続ける本体さん。

 暫く様子を見ていたが、特に何も変わることはない。


「よし、じゃあ行こうか!」

「うんっ!」


 ずっと今まで一緒に居たウチの子だが、これも巣立ちの一種だと思うことにしよう。

 クレールドリューヌが居なくなるのは寂しい気もするが、代わりにアルジェンが仲間になったのでチャラと言うか、お釣りが来るかも。


 アルジェンは本来俺に付いてくる予定では無かったらしいが、名前を付けたせいか愛着も感じてるし、置いて行っても付いてくるだろう。


 少々相手をすると疲れるところもあるが、俺の使っていた魔法を使えると言うので側に居てもらうメリットは大きいだろう。


「クレストさん、遅かったね。

 何かあったの?」

と心配そうにエマさんが聞いてきたのでさっきあったことを話すと、

「スライムも綺麗だったけどアルジェンちゃんはこうやってお話しも出来るし、あなたの役に立つわよ」

と少し親バカになりつつある。


「はい!なのです!

 スライムダンク改めクレールドリューヌに負けないよう、役に立ってみせるのです!

 今日からパパの夜の相手を務めるのです!」

「それはしなくて良いからっ!」

「そうよ! さすがにそれはダメよ!

 私がアルジェンちゃんからクレストさんを守らないと!」


 これは先が思いやられるな…。

 多分、アルジェンには知識があるけど体験したことが無いから、どんな物なのか興味を持っているだけなんだろうね。


「もう馬車出して良い?」

と御者台に座るアヤノさんが聞いてきたのは、ずっと俺待ちだったせいだ。

 お願いします、と声を掛けようとすると突然アルジェンが叫んだのだ。


「ちょっと待つであります!

 あんなにたくさんご飯を置いて行くのは勿体ないのです!

 いらないのなら私が貰って行くのです!」

と窓からまだ積み上げたままの魔物を指さすのだ。


「えっ!? 今から食べるの? そんな時間は無いよ!」


 アヤノさんが慌てて拒否すると、

「『格納庫』に全部纏めて入れるのです!

 直ぐに終わるので待って欲しいのです!」

と行って飛んで行くと、物凄い勢いで手当たり次第に収納していく。


 魔法だけじゃなくて『格納庫』まで使えるのには正直驚いた。

 昨夜ペンダントを直したのが『錬金術』だとすれば、俺の持つ他のスキルも使えるのかな?

 もし『描画』スキルが使えるのなら、二人で設計三昧の生活も送れそうだ。


 言葉通りに全ての魔物を収納するのかと思っていたが、意外と残して馬車に戻ってきた。


「二割は本体さんとクレールドリューヌにプレゼントすることになったので置いてきたのです!」


 容量の問題かと思ったのだが違ったのか。

 もし容量に余裕があるなら、牽引しているタイニーハウスも持ち帰ってもらいたいのだが。


「本体さんがそこに置いてある大量のガラクタは保管しておくと言っているのです」

「それは助かるな」

「次に来たときに持って帰れば良いのです!」


 まだ用途の判らないアイテムが幾つかあって、置いて帰るにしても少し気掛かりだったんだよ。

 保管しておいてくれるのなら、お言葉に甘えさせてもらおう。


「今度こそ出発してもいいかな?」

「いいとも!なのです!」

「アヤノ、行きまーすっ!」


 客室には俺とエマさんとアルジェンの三人しか居ない。皆の気遣いでそうなったのだが、アルジェンが居るのでイチャイチャは出来ないからね。


 アヤノさんが御者台と客室を仕切る壁にある小窓を閉めようとしたのは、まさか俺とエマさんがお花畑モードに入って、聞きたくない声が聞こえてくるとでも思ったからか?


 馬車を曳く二頭の牙を持つ馬『牙馬』は本来気性が荒く、人が飼い慣らすことは不可能らしい。

 普通の馬から産まれることのある『牙馬』は先祖帰りだと考えられている。胎内で魔素や魔力の影響を受けただけかも知れないけど。


 その希少なこの馬が二頭で曳くこの馬車もダンジョンのドロップアイテムの一つだ。

 それを俺がダンジョン管理者権限で魔改造したカスタムカーなので、タイタニウムフレームを持つカラバッサと比べても遜色はない乗り心地だ。

 まさか自分も乗ることになるとは思っていなかったが、軽快に且つ快適に走る馬車に良い仕事をしたもんだと自分を褒める。


 ちなみに手綱はアヤノさん、もう一台の馬車はサーヤさんが握っているが、道案内はスライム達がやるそうで、分かれ道も迷わずスイスイと進んでいく。


 順調に進めば片道一週間。

 地下にワンフロアで片道一週間も掛かるダンジョンがあることにびっくりだが、地下なのに天井は灯り石と呼ばれる不思議な石のお陰で外と同じ明るさが保たれている。

 時間と共に明るくなったり暗くなったりするので、ダンジョン内でも生活リズムを保つことが出来るのは有難い。


 何もかも順調過ぎて退屈だと言うのは贅沢な悩みだと思うが、馬車の窓から見える景色はずっと変わらない。

 これが気の緩みを誘う罠では無いかとも疑ってしまうのだが、魔界蟲が気を効かせたのか本当に何ごともない。

 そして六日目のお昼休憩を終え、さぁ今からラストスパートだ!と言う段階で、前を行くサーヤさんの馬車が急停止を掛けたのだ。


「前方約五十メトル!

 何かが出て来てるっ!」

「景色がグニャッて! えっ! 人っ!

 武器を手に持ってる! やる気かも!」


 サーヤさんとカーラさんが緊迫の声を上げ、今までのダレきった空気が一気に消し飛ぶ。


「…楽しそうね? あなたは出たらダメよ」


 こんな楽しそうなイベントに不参加なんて…。

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