表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/194

第120話 執務室でお仕事です

 ブリュナーさんが屋台の搬送に付いて不備があることを指摘した翌日、ブリュナーのシゴキを受けた後にサラリーマン生活のように商業ギルドの執務室で朝の仕事をする…何故かここに来るのが日課になりつつある。


 おかしくない?

 どうして俺のチェックが必要なんだよ?


 貯水池関連事業は確かに俺が言い出したけど、あれって元々冒険者ギルドか商業ギルドかが案は無いかって聞いてきたんだよ。

 出された案を精査し、ゴーの判断なら肉付けしてくのが役人の仕事じゃないの?


 それが何で資材の計算書のチェックまでしなきゃなんないんだょ…あ、ここ足し算間違えてら。

 俺は算盤が使えないから教えられないし、電卓なんて作り方も分からない。

 ここは計算ドリルを作って各自で学習してもらうのが一番か。


 ブツブツ言いながら計算ミスの赤ペン先生していると、

「助けて、クレえもーん!」

とメイベル部長がノックもソコソコに入って来た。


「クレえもんって…?」

「クレストさんが時々○えもんって言ってるし。ヘルプ求める時の決めゼリフだよね?」


 いい歳こいたお姉さんが可愛く小首を傾げないのっ!


 小首はともかく…


「嘘ッ! 頼れるお兄ちゃんってクレストさん?」

とドアから首を出して驚いていたのは昨日あったばかりのアルバス君だ。


「頼れるお兄ちゃん…フムフム、嬉しいようで嬉しくないから、お引き取りを」

「コラコラコラ、可愛いメイドさんと家庭教師と凄腕料理人の三人を手配した恩を仇で返すつもりかしらね?」


 それは貴女の仕事だから当然でしょう、と思ってもクチに出さないけど。

 仕方なく二人に椅子を勧め、ちょっと偉くなった気分を味わってから要件を聞くことにした。


「お困りごと相談窓口の開設も今後視野に入れてもらうとして、今回はどんな要件で?

 それになんでアルバス君を連れて来てるの?」

「相談員になってくれると前向きな回答、ありがとうございます」

「あ、相談員は別の人を当ててよ。

 俺に常識が無いのは知ってるでしょ?」


 自分でそんなことを言うのも何だが、俺に相談員なんて勤まる訳がないよね。

 生粋のリミエンっ子や法律の専門家を置かないと絶対失敗するって。


「あ…そうだったわ…歩く非常識の塊だったわ」

「え? 常識が無いのに助けて貰うの?

 めちゃくちゃヤバくない?」


 何気に二人の言い分に精神的ダメージを受けた気がするが、蒸し返すと更に追い打ちを食らうのだ。


「ゴホン、常識は得てして解決策の妨げになる事がある。寧ろとらわれない自由な発想が必要なんだょ」

「常識の無い人は大抵そう言うけど、まぁ良いわ。

 昨日屋台に行ってね、そこで」

「先にアルバス君の話をお願いしたいんだけど」


 屋台と言う単語で彼女の悩みがピンと来たので、こちらは既に解決済みと考えて良いだろう。

 それよりどうしてアルバス君を連れて来たのかが気になって仕方ない。


「どうしようかな~」

「ぶりっ子しても可愛くないですょ」

「…ソレハ、ドウイウイミ、カシラ?」


 おぅ…言ってはイケない一言だったみたい…


 テレビなら『しばらくお待ちください』のテロップが出て、爽やかな映像が流れるシーンに突入。


「暴力じゃ何も解決しませんよ!」

とアルバス君のクチから出なければ、あの世に行ってたかも。

 川の向こうでニコニコと手を振る骸骨さんが見えた気がするよ。


「いいか、アルバス君。女性には言ってはイケない一言があるのだ。

 もし言えば、命の保証は無いから気を付けたまぇ」

「あらあら、一体誰のオクチが言ってるのかしらね」

「それは良いから、僕の話ですよね?

 勝手に進めますよ?」


 ひょっとして、この三人の中で一番大人なのは最年少のアルバス君だったのかも。

 俺ももう少し大人にならねば、と決意を新たに二人に経緯を話してもらった。


「…と言う訳で、温泉旅館の演し物をやるアイドルにしようと思った訳よ」

「なるほど。おばちゃんのハートを掴むグループを作るってことね」

「そうそう、おばちゃん受けね…あら? 私がおばちゃんって言いたいのかしら?」


 二度目のテロップはアルバス君がメイベル部長の手を止めたことで何とか回避された。


「メイベル部長は誰もが憧れるクールビューティーですよ!

 上司にしたい女性ナンバーワンですから!」

「あら、たまには良いこと言うわね。

 じゃあ、アルバス君は採用ってことで良いかしら?」


 美少女のグループだけだと取り込めるのは男性客だけだから、女性受けするグループも作る予定はある。

 ただ、俺がそっちのグループは好きでは無かったので、どう言った人を集めれば良いのかピンと来ていないのだ。

 でも競合するグループが無いのだから、最初は誰がやっても大差ないかも知れないか。


「分かりました。

 男性アイドルグループ候補生に入ってもらいましょう。

 ですがまだ何もプランが決まってないので、暫くは冒険者として働いてもらいますよ」 


 アイリスさんみたいに歌が上手ければ問題ないが、畑仕事が特技じゃ期待は薄い。

 歌はそこそこでも踊りやトーク、隠し芸なんかが出来ればなぁ。最悪アツアツおでんを食べる芸を…。


「本人も冒険者で食いつなぐつもりだから問題ないわ」

「はい、この後倉庫の片付け作業に行って来ます」


 彼に真面目に働く気があるのなら問題ないか。早めに何か考えなきゃね。


「それで昨日二人の身元引受人になって宿屋を使わせてるのよね?

 対応に差を付けるのは良く無いんじゃないかしら?」

「あの二人はこちらからお願いして来てもらったので当然ですが、アルバス君は違いますよ。

 下積み時代はアルバイトしながらレッスンするのが常識です。

 とは言え、いつまでも宿屋と言うのも不便なので、レイドルさんが勧めていた旅館を使おうかと思っているところです」


 月に大銀貨五十枚の賃料だ。早く満室にしないと赤字の垂れ流しで大損失になってしまう。


「それなら後で話しにいきましょう。彼も喜ぶわ。

 それで次、屋台のことなんだけど」

「それって屋台を貯水池まで運ぶ手段のことですかね?」

「えっ! どうして知ってるのっ?」


 目を大きくして驚くメイベル部長と、控え目に驚くアルバス君。

 我が家の家令を舐めてもらっては困るのだ。まぁ、俺が偉そうに言うことじゃないけどね。


「ウチでもその話題が出ましたからね。

 対策は考えてありますよ…屋台運搬車~っ!」


 お腹のポケットから取り出す仕草でカバンに入れてあったり図面を取り出す。

 アイテムボックスがあるときにやれば良かった…白い目で俺を見る二人を無視して、テーブルに図面を広げる。


 通りに出ている屋台は、大きめのリアカーを改造したような構造だ。

 その車輪をレッカー移動させられる違反車のようにドーリーに乗せて馬車で引っ張るだけのお手軽さだ。


 他にも自動車販売店に新車を運ぶトランスポーターのようなラクーンも考えているが、こちらはまだラフスケッチの段階だ。


「これに屋台を載せれば馬車で運べますよ。

 幸いなことに貯水池までの道路は凸凹がなく綺麗になっているので、小さな車輪でも機能するはずです」


 勿論テスト輸送は必要だけど、多分問題なくイケると思っている。

 それにもしダメでも、半年あれば改良する余裕もあるだろう。


「さすが頼れるお兄ちゃん!」

「凄いよ、クレストさん! 見直しました!」


 えーと、見直されたってことはアルバス君の俺の評価は下の方だった訳だね?

 それとも言葉のチョイスを間違えただけか?

 もし前者だったらどうしてくれようか。毎日ブリュナーさんの教練に付き合わせるのが良いかもね。


「アルバス君、キミはさっきまで俺のことをどう思ってたんだ?」

「それは…僕達をアイアンゴーレムや赤熱の皇帝から救ってくれた恩人だけど、やることがイチイチ人間離れしてると言うか、突拍子もないと言うか…」


 ギリギリセーフ? あまり酷い評価では無かったか。

 それならブリュナーブートキャンプ送りは無しにしてやるか。


「今はメイベル部長がクレストさんを頼りにしてるのが分かりました!

 強いだけじゃなくて、意外にも頭が良かったのでビックリしました!」

「よし、明日から我が家でやってる朝の訓練に参加するように。

 冒険者なら、町の外での活動も出来るようになる為には、ある程度の戦闘能力も身に付けないといけないからね」


 ゴブリン程度はアクビしながらでもワンパンケーオー出来るぐらいにならなきゃね。

 でも、これってあの仕事を殆どしてない衛兵隊長と同じ考え方かな?


「クレストさん、そっちの話は後にして欲しいのよね。こう見えても私も忙しいのよ」


 メイベル部長がそう言ってクチを尖らせるので、素直に従っておこう。


「分かりました。

 では屋台運搬車の件ですね?」

「それそれ! この図面を持って行ったら作れるのね?」

「えぇ、ラファクト鋼材店ならラクーンに牽かせるようにすると思いますよ」

「ラファクトね、すぐに図面を持って行かせるわ」


 後で鋼材店に寄ろうと思っていたので、持って行ってくれるのなら手間が省けて丁度良い。

 問題はお金の話だな。


「開発費・製作費は商業ギルドか輸送業ギルドで持ってもらえますよね?

 それと、テスト大会では輸送費用もそちら負担でお願いしますね」

「そう言う話は私に振らないでちょうだい。

 レイドルに伝えとくから」


 メイベル部長がそう言うと、そそくさと逃げるように図面を抱いて部屋を出て行った。

 

「クレストさんって商業ギルドの偉い人だったんだ。ビックリしたよ」

とメイベル部長を見送ったアルバス君が感心したようにそう言った。


「それは違うぞ。俺はここの正式な職員じゃない。

 何故か知らないうちにこの部屋を用意されてて、仕事まで任されている。全く訳が分からないよ」

「今は冒険者として働いてないんでしょ?

 就職活動せずにプータローじゃなくなったんだから、凄く有難いんことじゃないの?

 奥さんと子供と召使いも居るんだから、ちゃんと働かないとダメだよ」


 子供のくせに正論言いやがる。これに反論したら大人気ないよな。


「それに愛人も囲ってるし、温泉旅館にエッチなことする施設も作るんでしょ?

 お金があるって羨ましいよ」

「愛人なんて居ないし、悪い噂を信じるなよ。

 エッチなことする施設って何だよ?」

「『洗浄剤の国』とか言う噂だよ。

 勇者が好きなやつだって。お風呂で何をやるんだろね?」


 子供はそんなの知らなくても良いんだよっ!

 そりゃ中には旅館やホテルで男女の営みをする人も居るだろうけど、公営の温泉旅館にエッチな施設なんて作る訳が…あれか、少子高齢化対策ってか?

 それとも公営の風俗店…?

 確かに儲かるけど…まさか本当にそんなの作らないよね?

 温泉旅館の図面を見せてもらいに行ってくるか。



 ブリッジが…もといオリビアが盗賊達を蹂躙していた頃、二つの派閥が論争を繰り返していた。


「スイーツで胸を作るなんておかしいわ!

 ハレンチよっ!」

「あの弾力はまさに胸だぞ。これを活かすには胸を作るしかあるまい。

 しかも配合次第でサイズまで変更出来るのだ。変態貴族共が飛び付かん訳がない」 


 ここは商業ギルドに用意された俺の執務室だ。

 何故俺の部屋でそんな議論をしているのか、些か疑問である。


 更に言うと、ギルドのお偉いさん達の休憩スペースとして利用されている節がある。そんな事で利用されると、俺の方が気が休まらないのだが。


「メイベル、良く考えてみろ。今ウチには金が幾らあっても足りん状況だぞ。

 しかし売れば確実に儲かる商品が転がっているんだ」

「レイドル、だからと言って公的機関である商業ギルドが胸の形のスイーツなんて販売許可するのは納得行かないわ」


 俺としてはやはりゼリーってところに違和感があって、どうせならプリンの方が…えっ?

 そう言う問題じゃないって?


 それよりプリンの柔らかさって、卵白を使うかどうかで変わるんだっけ?

 帰ったらブリュナーさんに試してもらおうか。

 でも牛乳も卵もスイーツ作りでたくさん消費するだけの供給量がないから、プリンの市販はかなり先になる。

 それなら先行してゼリーを販売するべきだな。


「おい、言い出しっぺはどう思っている?

 オマエの意見を言え」


 突然レイドルさんがこちらに話題を振ってきた。

 偉そうな言い方にカチンときたが、下手に言い返すと何を言われるか分からないのでそこはセーブする。


「あのさ、ゼリーをどんな器に入れて売るのかってところが議論されてないよね?

 容器から出してお皿に盛ったら胸の形になるのは面白いと思うけど、店頭に並ぶのは器に入った状態でしょ」

「器か…確かにそちらは決まっていないな」

「そうだわ、商品自体の形しか話は出てないわね」


 コッチの世界は透明なプラスチック容器が安く作れる訳じゃない。

 日本で市販されてるゼリーの器って大半は透明だし、形に拘るならやはり器にも拘ってもらいたい。


 ブロック作りに使うブラバ樹脂は白いからゼリーの容器には使えない。

 ガラスは論外だし、バイオマスプラスチックなんて新素材が簡単に出来るとは思えない。


 ただ、シャリア伯爵領ではガラスに変わる素材として蟹の甲羅を使った素材の製造を始めていて、貯水池のメインスタジアムとなる競技場の屋根に使う予定だけどね。

 

 そんな最先端技術による素材でゼリーの容器を作るなんて、一体どんな無駄遣いだよ。

 これがゼリーでなく、羊羹なら竹の入れ物でも風情があって良いのにね。


「透明な素材が取れる魔物って居ないの?」

「スライムの皮か、昆虫の羽根だな。透明度ならスライム一択だな」

「スライムの皮…ね」


 俺のポケットに水晶みたいなのが二匹入ってますよ。

 さすがにウチの子をゼリー容器に使う訳にはいかないが、スライムなら捕獲も難しくないから良い案かもな。


「小さなスライムなら幾らでも湧いてくる。

 そうか、スライムの皮とスライムの魔石を使えば…だが封はどうする?

 縫い付ける訳にはいかんぞ」

「木の板にペタッと貼り付けたら?」

「ゼリーに木の匂いが移るわよ。

 それに糊じゃスライムの皮はくっ付かないわよ」


 そうだったのか。綺麗に封が出来ないんじゃ、スライムの皮に入れたゼリーは販売出来ないや。隙間があったら菌が入るからね。

 スライム皮の変わりに、レジン樹脂みたいな物を探すしかないのか。


「暫くは変態共に売り付けて容器の開発資金を徴収するか」

「器の開発の為に胸を売る…何か違う気がするわね」

「だが仕方あるまい。

 金が幾らあってもアイツのせいで足りないんだからな」


 俺を指さすなって! 失敬な副部長だぜ。


「ところでこのバストゼリーだが、クレストはどうだ?」

「どうって?」

「買うか買わないか。

 改良点やバリエーションなど、意見はないのか?」

「個人的にはゼリーよりプリン派だな。

 あと、胸の形に拘るのはどうかと思うけど。

 お尻でも人形でも良いんだ、色んな形に作れるんだし」

「メイベル、次の新商品は尻プリンだ」

「はぁ、クレストさんはプリンプリンなお尻がお好みな訳ね。

 遂に変態紳士の仲間入り…」


 …何で俺がディスられなきゃならないんだろ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ