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第9話 一度別れを告げるのです。

 アルジェンの活躍で俺のペンダントの三日月が綺麗に元通りになった。何と言って御礼を言えば良いのか。

 エマさんの魔力も籠められたそのペンダントは、俺の宝物と言っても良いだろう。 


 そして翌朝、古い方のタイニーハウスで一人で寝ていた筈だが、目を覚ますと何故かエマさんが抱き着いていた。


 だが僅かに感じる違和感。


 薄ら目を開けたエマさん(仮)だが、さっき聞いた声はエマさんの声とは違う気がする。

 いや…声そのものは同じなんだが、でも微妙なイントネーションが違うんだよな。


 少しの間、ボーとしていたエマさん(仮)が覚醒すると、

「あ、パパ! おはようなのです!

 でもサイズ感が変?

 パパ、小さくなったのです?」

と特に驚いた様子も見せずに体を起こす。


 そのお陰でエマさんの立体データで作られのであろう全身を生でマジマジと見ることに。

 スラリとしながらもバランスの良い肉付きは実に俺の好みであり、これでも俺は健常な男の子なので直ぐに飛び付きたい気分になったのだが、鋼の自制心をフル動員する。


「やっぱりアルジェンだったのか!

 何かおかしいと思ったよ」


 そう、この子はアルジェン…。


 見た目はエマさんでも中身は魔界蟲…中身が高校生探偵の子供より百倍はエグいだろう。


 俺の言葉に小首を傾げ、何が?と言う表情を見せると、

「パパが小さくなったんじゃなくて、私が大きくなったのです!?

 やった!

 これでパパとラブラブ出来るのです!」

と小躍りしたアルジェンが勢い良く抱き着いてきた。


「やらないよっ!」

とは言ったものの、アルジェンだと分かっていても見た目はエマさん…綺麗な体に見蕩れて危うくガシッと抱かれそうになったが、両手でブロック!


 手に伝わる二つの感触は予想以上に弾力があって…いや、これを以上は言うわけには…。


「アルジェン、ストップ!

 どうしてエマさんの体になってるのかは後にして。

 元の姿に戻れる?」


 このまま誘惑され続けたら、自制に失敗するかも知れない。

 とにかく元のフィギュアサイズに戻って服を着て貰おう。


「ブー、パパのケチなのですっ!

 ブリュナーって人について行ったお店の女の人は良くて、どうして私はだめなのです!?」


 魔界蟲さん、頼むからその記憶をアルジェンから消してくれよ!

 そもそもあの時はお前の本体のせいで体がおかしくなってたんだしさ。


「娘に手を出す親は地獄に墜ちるからダメなんだよ。俺が地獄に行くのはいやだよね?」

「勿論なのです!

 じゃあやってみるのです…精神統一…アブラカブルナ・カロリーカット…」


 咄嗟に言った嘘に納得してくれたみたいで、おかしな呪文をアルジェンが唱えると見る見るうちに小さくなっていく。


「エッサホイサッサ!」


 最後にお猿の籠屋の掛け声でゴスロリメイド衣裳もキチンと着てくれたのはマジックショーみたいで面白いのだが、どれも呪文がおかしいと思う。

 もう少しファンタジー風なチョイスはなかったのか?


 その言葉のデータベースが俺の記憶から引用したのか、それとも魔界蟲が元々持っていたのかは分からない。


 しかし朝っぱらからアルジェンに翻弄されるとは…まさかこの行動は毎日やらないよね?

 

「でさ、ママの体はどうだったのです?

 ムラムラ、ビンビン来たのです!

 私で良かったらいつでも構わないのです!」

「だから、やらないって!」


 一体なんなんだろうね、この発想は?

 魔界蟲が俺に興味を持っているのか、それとも人間と触れ合えるようになってソチラ方面に興味を持ったのか。


「…ハロー、本体さん。失敗しちゃったのです」


 …お前らなぁ…そんなに俺とチョメチョメしたかったのか?


「……ふむふむ、ママの遺伝子と高濃度魔力で出来た私は完全なママなのです?

 あとはパパの同意があればオッケーなのです?

 ……え? それはさすがにマズいのですっ!

 ……やだ、ひくーっ! 逆レイ…ダメなのです」


 泉の上で回っているだけの筈の魔界蟲本体さんだが、何故かエロ同人漫画を描いてる人に思えてくる。

 あ、漫画と言えばビステルさんにお願いされてるんだよな。


 ビステルさんが読みたい漫画の版をビステルさんに作らせる訳にも行かないし。印刷機もだけど、製本機も考えないと。

 発行部数が数えられる程度なら手作業もありだけど、大量生産ならオフセット輪転機なんだよな。


 でもあんなのはこの世界にはそぐわないから、もっとファンタジー風の印刷魔道具を作りたい。

 完成には五年、十年は覚悟しなきゃいけないだろうな。


「パパ? あー、これが噂のパパの長考タイムなのです!」


 ウムと納得した様子のアルジェンだが、そんなに長い時間考えてはいない筈。


「あっ…そうなのです!

 行くよーっ、パイルダーオーン!

 ムニュっ!」


 頭の上をパタパタ飛んだ後、頭の上から少し離れた高さでホバリングをやめて頭に落ちて遊び始めたようだ。

 当たる感触が足の裏ではなく広い範囲ぽいので、お腹辺りから着地しているのだろう。


「ママ、御免!

 Cサイズのパイじゃ、パパは感じてくれないのですっ!」


 …パイ違い…だな。

 胸から着地しても身長二十センチ程のアルジェンだと、どんな胸でも結果は変わらないだろうけど。


 コンコン。

 ドアがノックされ、返事をすると少し顔を引き攣らせたエマさんが入ってきた。


「…話せば分かるからっ!

 アルジェン、説明よろしく!」


 この後どうなったかは想像にお任せを…。



 いつもは朝の遅いエマさんだが、今日はエマさんより俺の方が起きるのが遅かったようだ。


 既に朝食の準備は調っていて俺待ちだったらしく、起こしに来たタイミング…アルジェンにはエマさんの接近が分かっていたようで最後のセリフを言ったらしい。


「アルジェンちゃん、明日からママと寝ましょう」

「えー…あっ!三人で並んで寝れば皆嬉しいのです!」


 どうやらこの世界には川の字になると言う言葉は無いようだ。


「寝相悪かったらどうしよう?

 アルジェンちゃんを潰しちゃうかも」

「大丈夫なのです! 私、寝てる間はママになれるみたいなのです!」

「えっ? どう言うこと?」


 出来ればそれは皆の前で言わないで欲しい。でもこう言う時に限ってコイツはエスパーにならないんだよな。

 そりゃもう嬉しそうに裸で抱き着いたことを喋ってくれたもんだから、暫くまともにエマさんの顔を見れないな…。


「魔界蟲って凄いんだね」

「エヘン! 今頃になって私の凄さが分かるのは遅すぎるのです! ダメオジなのです!」


 ベルさんはアルジェンが凄いと言ってるのではなく、アルジェンを作り出した魔界蟲が凄いと言っていると思うけど。

 魔界蟲に元々こんな機能があったのか、それともダンジョン管理者になってから得た能力なのかは分からない。

 それにどうしてこんな可愛い分体を生み出すことが出来たのかも気になる。


「なぁ、どうしてアルジェンってそんなに可愛い姿で産まれたのか分かる?」


 ここは直球で聞くに限る。

 今朝の騒動でエマさんのデータで作った体を見たことはバッチリとバラされたんだ…もうこれ以上の爆弾は無いだろう。


「ハロー、本体さん聞こえてるのです?

 ……ふむふむ、パパが本体さんに『強くて可愛い子になってくれたら良いのに』的な願望を持ってたからなのです。

 ……なるほど! だからパパの理想を分析して私を作ったと…まさに私はパーフェクトなパパの愛人なのです!」


 愛人は違うと思うが、俺にそんな願望あったかな?

 そりゃグルグル回っているだけのドリルみたいなのが中に居るより、可愛い女の子が居る方が良いに決まってるだろ。


「クレたん…真正のロリコンだったの?」

「ボディの作りは魔力節約の為にツルペタなので、それは間違った認識なのです!

 パパはただのムッツリなのです!

 この太腿を見るだけで、ご飯が食べられる人なのです!」


 余計なことは言わんで宜しい!

 お前のせいで女性陣がドン引きしてるじゃねえか!


「そう言えば…商業ギルドからの文面で、アイドルグループのプロデュースがどうとかあったけど…まさかこんなスカートを穿いた子をステージに立たせるつもりだったの?!」

「破廉恥です!」


 さすがにエマさんとオリビアさんには、太腿を見せるファッションは受け入れられないみたいだね。


「でも見慣れると、確かに可愛いと思うわ」

「胸ばかりチラチラ見られるぐらいなら、腿ぐらいは問題ないかと」

「そうよね。ショートパンツにニーハイロングブーツを穿いてるみたいな感じだと思えば。

 腿の所のフリルとかリボンは可愛いよ」

「ルケたん言ってたみたいに、見せパンを穿けば問題はないでしょ。

 いきなりこの長さは無理かも知れないけど、すぐ慣れるって」


 意外にもマーメイドの四人は腿見せ容認派か。村がソッチ方面にも割とおおらかな生活習慣だからかな。


「それにこれ、クレたんの趣味なんだよ。

 エマっち、この意味分かるよね?

 オリビアさん…スカート一つで人生を変えられるチャンスが来るかもよ?」


 カーラさんは一体何処から来た悪魔だよ?

 ミニスカートなんかで人生を狂わしちゃダメだから!

 でもオリビアさんって家庭教師だったから…って、何処かのアダ○トビデオの設定かいっ!


「スカート一つで私の人生が…それなら試してみても…」


 オリビアさん、無理して穿いたらダメだから。でも一体どう言う方向に変えようと思ってるんだろうね?

 スカート一つで過去の自分とお別れ…さすがにそんな選択はしないで欲しい。


「さぁ、クレスト君の太腿好きが発覚したところで、そろそろここを出発しようか。

 帰り道も来た時と同様、トラブル無しの保障は無いからね」

「…ベルさんもこの服を着た女の子達を見たら俺みたいになるから。

 なっ、ルケイド!」


 こうなったら男全員道連れにしてやるぜ!


「僕は元々ミニスカート賛成派だから。

 新しいファッションは人や物を動かす力があると思うんだ。

 ベルさんも気に入るよ」

「反対とは言ってないよ!

 斥候や暗殺者は動きやすくて音を立てない服を好むから、こう言うのは着てくれる筈!」


 暗殺者って…ベルさんにはそんな職業の知り合いが居るのね?


 それから逃げるように男性二人が荷物を片付け始めた。あっという間に出発の準備が完了するだろう。

 俺は奥に聳え立つ世界樹に手を合わせる。そうやると御神木を拝むような気分になるね。


 この世界には木や物に神様が宿るようには考えられていないし、俺も信心深い訳ではない。

 でも本当に神様に会った以上、神様の存在を疑うことは出来ないし、性格はイマイチだとしても多少は敬う気持ちもある。

 この世界樹にあのエロ神様が居るのかも知れないんだし。


 何処からともなく吹く風が世界樹の葉を揺らし、受け取ってくれと言うように一枚だけ葉が目の前をゆっくりと揺蕩(たゆた)う。

 右手を出すとそこにヒラリと舞い降りた木の葉は巨木に似合わず小さかった。

 手のひらから少し溢れるぐらいのその葉は魔法の光で出来ていたのか、数秒も立たないうちに言葉通りに手のひらの上で消滅していく。


 これが世界樹流のお別れの挨拶なのかもな。


 もう一度世界樹に手を合わせて頭を下げ、次は水面でグルグルと回り続ける魔界蟲に向き合う。


「お前が何を考えているのか分からないけど、身替わりになってくれてありがとな。

 俺にはお前に大したことはしてやれないけど、お前の健康を祈っているから。

 ああ、それとこれ以上アルジェンに変なデータを渡してくれるなよ。

 出来ればアルジェンからエマさんの立体データを削除して欲しいんだが」


 勿論魔界蟲からは何も反応が返ってこない。

 コイツとは意思疎通も全然出来ないし、もし出来たとしても人間とは違う価値観なんだろう。


 俺を迎えに来たのか、アルジェンがパタパタと羽根を羽ばたかせながら飛んできた。


「あー、パパ、本体さんからお願いがあるのです。

 自分は動けないから、手脚となって働いて貰うスライムを一匹置いていって欲しいのですっ!」


 えっ? そんなの今頃になってから言うなよ。

 ウチの子だって大事な仲間なのに。

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