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第115話 人魚焼き…?

 エメルダ雑貨店でパッチン爪切りのネリッパーの販売が開始された。

 併せてエメルダさんがネイルケアの担当に就任だ。


 たらふく食べて満足したエメルダさんは、予定変更して商業ギルドに爪切りの占有販売権の申請に向かい、俺もエリスちゃんは予定通りガバルドシオンへとやって来た。


「食べ過ぎた…」

と言ってお腹を押さえるエリスちゃんになんでも言葉を掛ければ良い?

 一人で銀貨五枚のブランチって俺でも経験無いんだけど。

 そのうちルケイドに生薬百%の胃薬を作ってもらおうかな。


「おっきいお店! あっ!アレかわいい!」


 エリスちゃんが初めて入ったガバルドシオンにそう感想を述べると、気になった商品へと一直線だ。

 目的を忘れていそうな彼女は暫く放置しようか。


「オーナー、おはよう御座います」

と店番の女の子に挨拶をされるが、表向きのオーナーはスイナロ爺なので訂正しておく。

 分かったか分からないかがよく分からない返事をする女の子に、取り敢えずバルドーさんを呼んできてもらう。


 夕べのうちに今日の予定を話していたようで、

「思ったより来るのが遅かったな。

 それにエメルダがおらんが?」

とバルドーさんが店内をキョロキョロ。


 爪切りの話をすると、エリスちゃんの行動に顔を顰めたバルドーさんだが新しい商売になりそうだと喜んでいた。


 その後で奥の金物工房で人形焼きの型の試作を見せてもらう。


「サンプルは…多分魚だよね…サメ?」

「人魚だよっ!」


 ギズさんがジョークの通じない奴め!って顔をするけど、俺には彼が主張する人魚ではなく深海に住むサメにしか見えなかった。


「やだなぁ、ジョークですよジョーズ」

「アンタねぇ…オヤジギャグは言ったら負けよ」


 おぶっ…手厳しい指摘だぜ。


「とまぁ、この人魚の代わりにエリスちゃんには何か可愛い型の原型を作ってもらおうって顔を訳だ」

「確かにこの不細工な人魚は食べたいと思わないわね」

「不細工て…ヒデえ言われようだ」


 ギズさんがプクーッと頬を脹らませるが、三十前のお兄さんのやることかょ。

 ちなみにこの人形焼きの型だが、人形の部分は取り外し式で他の人形と交換可能になっている。

 今ならジャンボタコ焼きと呪いの人魚を焼くことが出来る。

 ジャンボタコ焼きは火の通りが遅いので、屋台で売るには向いていないだろう。


「話を聞いて、幾つかキャラを作ってみたわよ」

とシオンさんが植物紙に鉛筆(シャープンペン)で書いたキャラを見せてくれた。


 シンプルなマンガ肉を持ってくるあたり、ギズさんよりよく理解しているようだ。

 複雑な造型は不可能なので、如何に単純で分かり易いキャラにするかがポイントなのだ。

 そう言う意味では、この作業にはゆるキャラの玩具を作ったシオンさんの方がギズさんより適任だろう。


 だがマンガ肉では骨の部分が損した感を醸し出すので採用はしない。

 なるべく正方形に近い形で成形した方がお客様にも喜ばれるのだ。ま、その分だけ材料が多くなるけどね。

 ちなみに何故人形焼きを屋台で出すかと言えば、作るのが簡単で焼けるのも早いからだ。


 屋台で出すなら一度に大量に出来る焼きそばか、一度に沢山作れるタコ焼きや回転焼きみたいなものを個人的にオススメする。

 ただし熱いので夏場にはやりたくない。


 クッシュさんが人形焼きの話を聞いて、パンケーキでもワッフルでもない生地を用意してくれたらしく、とりあえず…呪いの人魚焼きとジャンボタコ焼き擬きを目を閉じて食べてみた。


「なにこれ! 美味しいよっ!」

と感動してか、エリスちゃんがバンバン俺の背中を叩く。痛くはないけど、食ってる時にやらないでほしい。

 それよりさっき食べ過ぎたと言ってて、まだ食うつもり?


「人魚の方はオヤツ系、ボール型のは味付きの挽肉とキャベツ入りの惣菜系だね。

 どちらもイケるよ。大ヒット間違いないね」


 味覚の確かなクッシュさんの仕事だから当然か。


「うん、あとは型だけか。

 そうだなぁ…鼠、牛、虎、兎、ドラゴン、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪…」

「蛇は絶対ダメ! アンタ何考えてんの?」

「そうよねっ! それに食べ物に鼠は気持ち悪いわね」

「だよねっ!」


 干支シリーズは女性からのクレームで無理みたいだな。

 でもシオンさんとエリスちゃんは仲良さそうだし、後は二人に任せよう。


 機嫌良く店を出てから、商業ギルドに顔を出すとニコニコ顔のエメルダさんとロビーでバッタリ。

 占有販売権の交渉はスムーズに終わったらしい。

 そのうち元祖ネイリストの称号をエメルダさんが持つのは確実だろうね。


 所詮爪切りだと言っても、現代社会で使ってる物を再現してるんだから売れるのは当然だ。

 寧ろ他の転生者、召喚者が何故爪切りに手を出さなかった?

 どう間違っても兵器には転用出来ない商品なんだけど。


「クレストさん、爪の次は髪をお願いしますね」

と欲望ダダ漏れの隠す気ゼロでエメルダさんが催促してきたけど、これは俺も納得だ。

 この国では散髪には剃刀を使うので、見ていると結構怖いから目を閉じて終わるのを待つのだ。

 理容師の使う理容鋏と手動バリカンが必要か。


 少々自信が無いので、

「爪のケアは机とネリッパーとヤスリがあれば、雑貨店の中で出来るけど。

 髪は切ったら床じゅうが髪の毛だらけになるからお薦めはしないよ。

 うん、専門店に任せた方が良いから」

と逃げておく。


「言い訳ぽいけど、分かった事にしておきましょう。

 じゃあ、私は雑貨店に戻るから。

 あぁ、洗浄剤と紙の工場は着工が始まってて、半年後には販売開始に入るらしいわね」

「販売開始? 製造開始じゃなくて?」

「ええ、待ったなしでやるみたい。

 多分、マジックハンドコンテストの開催に合わせて売り始めるつもりだと思うわ」


 今が五月だから半年後は十一月だ。元々は年末まで研究して、年明けから製造開始予定だったのだから、かなりの前倒しだ。


「それもあるけど、多分チャムさんに渡る情報を抑える為ですね」

「…それね、思ったけど言わなかったのよ」

「済みません。俺、皆と違ってエスパーじゃないんで」

「マミー・イトウ?」


 小首を傾げて真顔のエメルダさんに罪は無い。

 勇者の皆様、本当に一回復活してください! 俺が丁寧にトドメを刺して上げますからっ!


 良く分からないけど、と笑いながら手を振ってエメルダさんが商業ギルドを出て行く。

 それを待っていたかのように、ジョルジュさんが俺のもとにやって来ると、

「早ければ明後日に荷物が到着しますよっ!」

と喜びを顔いっぱいに浮かべ、俺の手を取って上下にブンブン!


「喜ぶのは荷物が到着してからにしましょう。

 まだ何があるか分かりませんよ」


 無いとは思いたいが、盗賊や魔物の襲撃の可能性はゼロではない。まだ気を緩めるには早いのだ。

 リミエン伯爵が頑張ってくれていると言っても、今は開発でかなりのお金を使っているし、人員もそちらに割いている。

 街道の安全確保に回せる軍も冒険者も減っているのだ。


「こちらから迎えを出します。大事な初荷ですから」


 初荷の意味が少し違うけど、まぁ気分の問題だ。俺にとって初めての荷物だから間違いだと思わない。


「考え過ぎですよ」

とジョルジュさんは必要無いと手を左右に振るが、彼がここに来た経緯を考えると考え過ぎと言われても簡単には引けない。


「いえ、こちらの都合ですから経費もこちらで出しますし。

 確か、ここにも冒険者ギルドの簡易窓口があったかな」

「そうですか。それでは私も商隊宛てに手紙を出しましょう。

 彼らを信じていない訳ではありませんが、より安全になるなら問題無いでしょう」


 ジョルジュさんが自分の部屋に戻って手紙を書いている間に、冒険者ギルドの簡易窓口で緊急の指名依頼を発行しよう。

 頼む先はオリビアさんだ。彼女の光輪なら守れない物は無いと思う。


 一階ロビーの端に小さな冒険者ギルドの旗が自己主張している。

 ドアをコンコンとノックして、中から男性の声で返事があったのでガチャリと開ける。


「あっ!」


 二人同時に声を出したのは、そこに居たのがトッド君だったからだ。


「…左遷?」

「サーセン? 昨日のことを謝ってるの?」


 異世界翻訳機能様、誤変換ありがとうございます!


「言っとくけど、悪いのはお前の方だ」

「はい…ルシエンさんとライエルさんに怒られました」


 冒険者ギルドはサービス業だ。

 そこで働く職員が人の話をろくに聞かずに殴りかかるようでは、個人に対して教育が行き届いていないと言うレベルでは済まなされない。

 全職員に対して再度徹底した指導を行い、再発防止に努めなければ顧客が安心して利用できなくなるのだ。


 トッド君はまだ見習いだから大事にはなっていないと思うが、キリアスの三人組は何かとトラブルを起こす体質らしい。

 まさかルーファスさん、厄介払いの為に三人をリミエンに派遣したんじゃないよね?


 冗談は置いといて、依頼票の発行手続きをトッド君に頼む。


「オリビアさんヘの指名依頼ですか。

 愛人に現金を渡すのに依頼を使わないでくださいよ」

と真顔のトッド君の頭に拳骨を落とした俺に罪は無い!



 マナー教室からの帰り道、『お米を食べようプロジェクト』案を持ってカミュウ魔道具店へ。

 ここは異世界なのに、更に別の意味で異世界感が半端ない…人感センサーで魔道具の照明が灯る場違いな程に近代的なカミュウさんのお店に苦笑する。


「こんにちは」

と笑顔でイルクさんが出迎えてくれた後、最近定番になりつつあるダンジョン迷子事件を弄られてから本題に入る。


「刈り取った穀物の脱穀は分かりますけど、籾摺り、セイマイですか?

 初めて聞きましたね。

 ライスを食べるためには余分な作業が必要なんですね」


 テーブルに置いた籾付きの米を両手に掬ってその感触を楽しむようだ。

 麦と違って米は実が固いので、籾摺りで籾だけ取り除くことが可能なのだ。

 麦は籾取りをせずそのまま砕いて籾を取り除く。どっちがラクかは単純比較出来ないが、どちらにせよ面倒な作業を施すことによって米も麦も食べられるようになるのだ。


「小麦粉だって作るのに結構な時間が掛かるでしょ。

 ライスは籾さえ取り除けば、粉にしなくても食べられるからお得なんだよ」


 玄米の方が健康のためにお勧めだけど、少しパサパサ感があったり独特な風味が嫌われるみたいだね。


 生粋のコチラの世界産のイルクさんにお米の説明をしても無理なので、リューターさんに出てきて貰おう。

 カミュウさんと二人で出て来たリューターさんが籾付きの米に反応して、カミュウさんを置きざりにしてテーブルに来た。


「クレストさん、これは?」

と米を一掴みして嬉しそうな顔をする。米を知ってる事を隠そうよ。

 俺は良いけど、他の人に転生者だとバレないように生きてきたんだろ?


「穀物店で普通に売ってましたよ。

 麦と違って処理が面倒なので、全然売れていないそうですけど」


 リミエンの食料自給率はほぼ百%で、海洋資源のみ他の領から買っていた筈。

 だったが、麦芽糖に高濃度アルコールの生産を始めたことで麦の消費量が爆上がりした現状、麦の不足が考えられるのだ。

 そうなった犯人が俺だと言うのは置いておこう。


「これを持って来たのは、主食を麦に頼る現状から脱却する必要があるからなんです。

 大量の移住者問題を抱えてまして、安く手に入るコレを簡単に食べられるようにしたいと思いまして」


 俺が食べたいとは言わない。麦以外の穀物が必要な理由を言い訳に使うのだ。


「森のダンジョンの件ですか。

 それでこの店に来たのは?」

「人力では大変なので、手っ取り早く魔道具を作ろうかと。

 取りあえず足踏み式で設計した機械の図面がこちらでして。おいおい動力として魔道具を使えるように手を加えて貰いたくて」


 米の用途を聞いたイルクさんとカミュウさんも図面を覗き込む。

 足踏み機構は動力としてポピュラーな物だが、そこを無くして直接回転させる機構に変更すれば済む。

 ただしトランスミッションが必要かも知れないので、そこはプロに任せよう。


 脱穀機、籾摺り機、精米機の三台を食い入るように見つめてから、

「機械本体の製造は鍛冶師に頼みますが、魔道具化はこちらで請け負いましょう」

とリューターさんが親指を立ててニッコリ。

 イルクさんとカミュウさんはマナジェネレーターとマナバッテリー作りで忙しいからと言って、この件はリューターさんに一任することにした。


 俺のネット情報で設計した機械が本当に使えるかは分からないが、米食いたい願望のあるリューターさんの情熱で乗り切って貰おうか。

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