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第111話 森のダンジョンの平和な一日

「カーツ! 今日は本当にコボルトダンジョンに入っても問題無いんだよね?」


 今日は週に一日の休養日となったゴベンチャーの面々が森のダンジョンの例の爆心地に出来た入り口前に集合していた。


「ちゃんとギルドの出張所の姉ちゃんに確認とったぞ。

 大銅貨級の冒険者パーティーは一階部分に限り侵入可能ってな」


 自信満々に答えるのはゴベンチャーのリーダーのカーツだ。彼が好きな色は赤。


「それなら大丈夫か。

 一階にはコボルトしか出ないんだよな?

 コボルトはゴブリンより弱いらしいけど、噛まれたらヤバいってよ。俺らは弱いんだから、気を付けて行動するようにな」

と仲間に注意を促すのはサブリーダーのアキラだ。

 アキラなど日本人の名前は勇者経由で伝わっているので、この世界でもメジャーである。

アキラの好きに色は青。


「どんな相手にも油断は禁物。みんな、ちゃんと食いもんと水は持ったかもう一回確認しとけよ。

 俺の分はあてにしないようにな」

とダンジョンで収穫したバナナを食べながら話すのは五人の中で一番の大食いのガンタだ。

 気は優しくて力持ちタイプ、好きな色は黄色だ。


「ダンジョンに潜るのは半日の予定だし、マップも貰ってるから、それ程心配はいらないわ」

と少し不機嫌そうに言うのはゴベンチャーの唯一の女性のペディーだ。

 今日は果物狩りに行こうと予定を組んでいたのに、急遽コボルトダンジョン行きをカーツに告げられたのだから不機嫌なのは当然だ。

 好きな色はピンクで好きな果物は桃だ。


「そうそう、早いとこ行って早いとこ帰ってこようよ。

 明日の家畜系魔物捕獲作戦にも参加するんだから、疲れは残さないようにしないとね。

 戦闘は四人に任せるけどね」

「キューちゃん、プリティ!キューちゃん、凄い!」


 九官鳥のような黒い体に黄色の肉垂れがあり、嘴がオレンジ色の鳥を肩に乗せているのはパーティー最年少のスカージだ。

 勿論九官鳥の名前はキューちゃんで、好きな色は緑色である。


「ヨシ!

 じゃあダンジョンに突入開始だ!」


 気合いの入ったカーツの号令に従い、四人もカーツの後ろを付いて石で出来た入り口をくぐる。


 しばらくは下り坂の長い一本道が続くことは分かっているが、初めてのダンジョンアタックに緊張したカーツはマップに何度も視線を落とす。


 ゆっくりとゆっくりと、確実に一歩を踏み締める彼らだが…その彼らを出迎えたのは…


「オラオラ、ファイアーナックルゥーッ!」

「こっちは飛び火座真空斬りっ!」

「甘いわっ! 目がトンフレンチっ!」


 三人の子供達が炎の技と魔法で華麗にコボルトを蹂躙する様子だったのだ…。


「あ、ゴベンチャーだ!」

「お仕事サボリ中なの?」

「今日は非番って言ってたわよ。アンタラ、しっかりしなさいよ」


 黒焦げのコボルトがダンジョンの床にスッと消える前に子供達は手持ちのナイフで魔石を取り出し手を真っ赤に染めたがお構いなしだ。


「お兄ちゃん達、リポップ間隔は約三百拍だからね~っ。

 おらおら、次の部屋に行くぞぉ」


 嵐のように去って行く子供達を茫然と見送り、言葉を無くすゴベンチャーだった。



「お頭! 川から引いてくる水路はこんな感じで良いんすかね?」

「そうだな…よし!お前らも養殖されるニジマスの気持ちになって考えてみろ」


 ダンジョン名産品として売り出す予定のニジマスを養殖する為、水路や貯水池を作る担当を任されたお頭チームは初めての経験に戸惑っていた。


 釣り糸を垂らせば入れ食い状態の全く擦れていないニジマス達を養殖する意味が分からないのだ。


「川に行けば幾らでも釣れるものをわざわざ育てるのか?」

「無駄な事をすると思うなよ。

 でも総隊長肝いりの一大事業なんだぞ」


 そもそも養殖と言うものがよく分かっていないお頭達には、何をどうすればと悩むばかりだ。

 とにかく池を幾つか作れば良いのだろうと、予定地に杭を打ってロープを張っていく。


「水路を掘る必要は無いんすかね?」

「よく分からんが、ダンジョン様にお願いすれば良いらしい。

 ダンジョンが貯め込んだ魔力を使って地形を変えてくれると聞かされたが」

「そんな事があるんすね…で、どうやってお願いするのか聞いてやす?」

「そう言えば…どうやるんだ?」


 自分に聞かれても困る!と言う顔で部下達を眺めた後、とりあえず並んで土下座をしながら手を合わせてみようか?と投げやりに始めたお願いの儀式だが…


 彼らがその場を離れて数時間後にそこを訪れると、希望通りに水路と大きな池が出来ていたのだ。



「牛、豚、羊、馬を確保出来ないかと…相談が来ている…んだけど…」


 商業ギルド出張所に勤務する若手職員がミハル村の外れにある牧場を訪れた。

 元捕虜の男性が牛飼いだったと言う事で、キリアスから連れて来た数頭の牛を彼に任せていたのだが…


「なんじゃこりゃーっ?

 どこのツムゴロー王国じゃ?!」


 いつの間にか作られた予想外の広大な放牧地に、これまたいつの間に集めたのか牛、牛、牛…豚、豚、豚…他にも犬や猫は当たり前、狐に狸にカンガルー?


「あ、こんにちは、商業ギルドの何とかさん」

「何とかさんじゃなくて、エニマルです。覚えてくださいよ、ロアンさん」

「アッシは中々人の名前は覚えらなくて。実は頭悪いんすか? まさか魔薬の治療の副作用とか?」

「知らないし。

 それよりこの牧場、いつの間にこんなに大きくなったんです?

 それに家畜も家畜じゃ無いのも凄い数」

「それなんすよ、アッシが毎日もっと広い牧場が欲しい牧場が欲しいとお祈りしてたら、いつの間にかこんなに広くなってたんすよ」

「そんな訳ないでしょ?

 でも一人で出来る大きさでもないか」


 見渡すかぎりの牧草地、無数の家畜にスライムも。


「あっ! またアイツらケンカしてらぁ! ちょっと止めて来やす!」


 エニマルを残して狐と狸とカンガルーの三つ巴のケンカの現場に直行したロアンが三匹の毛まみれになって戻っくると、豚の群れに囲まれ身動きの取れなくなっていたエニマルが半ベソになっていた。


「あー、ソイツら押しくらパン遊びが好きなんすよ。気が済むまでその状態なんす」


 約半時間の押しくら饅頭で、ギルド職員のエニマルは歩く元気すら無くし、ダンジョン産の魔馬が牽く荷馬車に乗せられギルドへと戻るのだった。



「砂鉄集めは順調に進んでいるし、魔道炉も正常に稼働している。

 鉄、鋼はこのダンジョンで自給出来そうだ」

「そうか。食堂のおばちゃん達から鍋と包丁の追加を要求されててな。悪いが幾つか作ってくれるか?」

「どんな鍋が必要なのか分からん。後で食堂に行ってみる。

 それよりはアイアンゴーレムの残骸が邪魔くさい。とっととインゴットに変えた方が良くないか?」


 ルーファスは工場を視察した後、鋼鉄王の息子の一人であるアレニムに鍋と包丁の製作を依頼しに来ていた。


「アイアンゴーレムは普通の鉄より融点が高いんだよな。材料が鉄だけじゃ無い筈だが、何かに使えるか?」

「『錬金冶金』を使えば変質も出来る。よほどイヤラシイ古代技術を使った産物でも無い限りは、何にでも加工出来るぞ。

 だが、まぁやはりお勧めは鋼の武具だな」


 普通は手に入らないアイアンゴーレムの素材を扱う事が出来るチャンスなのだ。

 思う存分楽しませて貰おうと秘かに企むアレニムと、武具の調達に頭を悩ませていたルーファスの思惑が一致したのはこの瞬間だ。


「クレスト親衛隊の装備一式、任せても?」

「ダサい隊名だな。それにあの坊やは親衛隊なんて欲してないだろ?

 ルーファス組がこのダンジョンのどの魔物にも負けない事が一番重要だ。その為の装備なら作ってやるぞ」

「…それもそうだな。

 このダンジョンの探索はまだほんの一部しか出来ていない。

 どんな魔物にも負けない武具を作ってくれ」

「武具に頼りっきりになるのは三流だな」

「そりゃそうだ。まずはマーメイドの四人にも負けないようなパーティーを作ることから始めるか」


 ルーファスの脳裏にはあの時彼らの前に立ち塞がった彼女達の凛々しい姿が焼き付いている。

 勿論ベルやラビィ、オリビアもその中に居るのだが、ルケイドは…残念ながらルーファスの中では戦闘要員扱いではないらしい。


 チート級の防御力を誇るセリカが目立ちがちだが、他の三人も決して侮れない装備をクレストから与えられている。

 『錬金冶金』が彼女達の装備を超える武具を作る事が出来るかどうかは全く不明であるが、アレニムの言った通り武具のみに頼るようなルーファス達ではない。

 毎日狩りや伐採による鍛練を怠らない彼らが、『青嵐』と肩を並べて語られるようになる日がいずれ来るかも知れないだろう。



「おばちゃん! 今日はアテモヤ無いの?」


 食堂に並んだ腹ペコ達がトレイの上のラインナップを見てブー垂れている。


「あれは横っ跳びする白いサルの縄張りにあるんだってさ。そんなに食べたきゃ自分で採りに行きな」

「横っ跳び? なんだよ、その猿。気持ち悪っ!」

「クレスト様と遣り合った猿だよ。

 和解してアテモヤを分けて貰ったらしい。場所は知らないけど、見付けたらキチンと猿に許可を得てから採ってきなよ。でなきゃクレスト様が猿に怒られちまう」


 クレストが持ち帰ったアテモヤを一度夕食に出したところ、思わぬ人気が出ていたのだ。

 ベローシファカ自体は然程強い魔物では無いが、ひとたび戦闘に入れば仲間を呼び寄せ集団で襲い掛かってくる厄介な相手である。


 クレストが相手にしたのはまだ若い個体で、アソビに夢中で群れから離れていた為に仲間を呼べなかっただけである。

 そうでなければ数の暴力によって、クレストは二度目の敗北を喫っしていただろう。


「猿に許可を取るって…そんなの無理だろ?」

「それなら次にクレスト様が来た時にお願いするしかないさね。一人で三百個も採って来たのにはビックリしたけどさ」


 途中からあのベローシファカもアテモヤ狩りを手伝っていたのだが、それは言っても信じて貰えないだろうとクレストがおばちゃんに話していないだけだ。


「クレスト様~早く来てくださいっ!」


 突如食堂の中では怪しげなクレスト乞いの儀式が始まったのだが、その効果は如何ほどか…商業ギルドと冒険者ギルドを行き来する事になったクレスト次第だろう。


 そんな平和な村にアイリスと言う爆弾娘がやって来た。


「はぁ~やっと到着~。でもお尻が痛い!

 これ絶対痔になるやつ!」

「だからクッションを重ねて敷かないとダメって言ったじゃないですか!」


 そんな賑やかな二人組がダンジョンの中のキャンプ村に到着したのは昼食の休憩時間が終わった後で、住民達はそれぞれの作業場に散っていたので村の中は比較的静かになっている。

 そうとは知らず、短期間で作られたとは思えない建物の数々や高く積まれた出荷待ちの木材を目にして二人組は目を丸くした。


「通りに人がほとんど居ないね。

 みんな魔物に食べられたのかな?」

「そんな訳無いですよ!

 何恐いこと言ってんですか!

 遠くの方でコーン コーンって音がしてるのは木を伐ってる証拠です!」

「やだなぁ、メルちゃん本気にしちゃって。

 勿論、冗談ょ冗談」


 勿論アイリスは本気だったのだが。


「えーと、広場の所にギルド会館が出来てるらしいから、そこに行きましょう」

「探検するのが先じゃない?

 せっかくダンジョンに来たんだよ」

「遊びに来てるんじゃないですよ!

 私は依頼を請けて来てるんです!

 それに貴女の監視監督も仰せつかってますからね!

 分かったらシャキシャキ動く!」

「はぁーい…ケチなんだから、ブー」


 一本道を歩き進めれば必然的に村の中心部であるミハル広場に辿り着く。

 仕事が終わったミハルはいつもこの場に根をおろすのだが、伐採チームとして外に出ているので今はこの場に居ない。


 だがここまで来れば、工場から聞こえる金属音で誰か働いているのがすぐに分かる。


「工場まで建てたんだ。ここに永住するつもりなのかしら?」

「総隊長が居るから魔物なんて恐くない訳だし。

 ダンジョンの中なら雨も降らないし、果物は取り放題だし、意外と快適かも」


 ルーファス達はいずれこのダンジョンから出て暮らし始めるつもりであるが、木材、果物、養殖関連事業は継続する予定だ。


「アイリスさんがこのダンジョンに住んでくれたら、リミエンとしては嬉しいことなんですけどね」

「私もお仕事なんてせずにコッチで暮らせれたら良いかなって。でもリミエンには美味しい物が沢山あるし…どっちに住もうかな?」


 メルにけなされたことに気が付かない幸せなアイリスだった。

「パパ! 今日の話はいったい何なのです?!

 手抜きですか! ネタ切れですか!

 作者の頭はどうかしたのですか?!」

「ただの息抜きだと思うよ。

 アイリスやハーフエルフ達のせいでペースが乱れてるみたいだし。

 ここだけの話、レイドルのオッサンと話してるシーンが一番書きやすいらしいよ」

「選りに選って読者には全カットしても良いと思われるシーンじゃないです?

 まさかパパと出来てる…とかないです?

 そっち系のタグは付けていない筈なのです!」

「変なこと言うなって! オッサンとなんて絶対イヤだ!」

「ハーレムタグも付いていないのは…どうなのです?

 オリビアパパまで出て来て売り込みしちゃったじゃないですか!

 これでオリビア嫁にはいらんと言ったら、全国のオリビアファン三人ぐらいから抗議が来るのです!」

「三人って…そんなに居るのか?」

「パパ…言ってて悲しくないのです?

 もっと多いと反論すべきなのです…でも反論したところで…事実は覆らないのです。

 寧ろ早くアルジェンのフィギュア化を!」

「寝言は寝てから…だね。寝る前に歯を磨いとけよ」

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