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第8話 修理も出来ます。演出もします。

 アルジェンがダンジョン管理者となった魔界蟲と交信し、魔界方面のダンジョンに繋がる転送システムが一ヶ月程で出来ることが判明した。


 ただし行ったきりで帰って来られる保証が無い。ラビィがどう言う判断を下すか分からないが、彼の思いを尊重しよう。

 案外リンゴに釣られてこちらに残る可能性もある。


 それとアルジェンが俺の使っていた魔法を使えることも発覚した。

 油でベトベトだった襟元と袖口も一瞬で元通り!

 分体補正で威力が落ちているらしいが、セリカさんの腕を治した『エクストラヒール』まで使えると言う。


 アルジェンには攻撃魔法を使わせたく無いが、本人が試射させてくれと俺の周りを蠅みたいにパタパタと…。


「誰が蠅みたい?」

「言ってないだろ?」

「心の声が聞こえた気がするっ!」


 ここにもエスパーが居たのか。


「そう言えば、クレスト君って攻撃魔法は使えないって、ずっと言ってたよね?

 何とかションって魔法見せて貰える?」

「オシッコしてるみたいな名前ね」


 俺の頭に乗ってご満足なアルジェンだが、踵でゲシゲシとオデコを蹴るのはやめて欲しいものだし、○○ションって付く単語はとても多いから変な想像はしないように。


「名前は『ボルカニック・イラプション』だよ。

 火山噴火を起こさせる魔法なんだけど。

 勿論本物の噴火にはとても及ばないから」

「でもその魔法でクレストさん…」


 エマさんが俺の首に掛かったペンダントをそっと手に取る。革紐は当然燃え尽きたけど、『アイテムボックス』には革紐も沢山入っていたので適当な紐で吊している。


 エマさんの手の上でランタンの灯りを受けて光るペンダント。

 白金の地とグリーンガーネットは無傷だけど、金の三日月だけ溶け落ちちゃったんだよね。

 『カルセド宝飾店』のハウラさんがレアスキルで作ってくれたんだけど、なんと言って謝ろうかな。


 このペンダントの由来を聞いたアルジェンが一度パタパタと何処かへ飛んで行った。

 アイツも結構自由人だなと苦笑しながら後ろ姿を見送ると、

「やっぱりアルジェンちゃんのスカートは短すぎます!」

とエマさんに目隠しされてしまう。


「人間言うのは面倒やな。

 ワイら見てみ。気にせえへんで」

とラビィがゴロンと横になる…そう言われると逆に気になる。コイツにはオムツ穿かせるかな。


 それから皆で談笑しながら一時間以上経ったと思うが、アルジェンが帰って来ない。


「何かあったのかしら?」

とエマさんが気になり始めて落ち着かない。

 こう言う時、『大丈夫、気にしなくても平気だから』と言おうものならエマさんとの間で冷戦が始まる可能性が高い。


 気にならないとしても、

「魔界蟲と言っても分体だしね。それに夜だし」

と気遣う振りをしつつ、

「もう少しだけ待って、戻らなかったら探してみよう。

 この辺りからは魔物を排除してあるから、そう危険は無い筈なんだ」

と提案する。


 それで完全に納得した訳ではないと思うけど、直ぐに動き出そうとしなかったのは俺を信頼してくれている証なのかな?


 それから静かに時間が過ぎ、

「そろそろ探してみようか」

と痺れを切らしたエマさんが立ち上がった所でパタパタ羽音を立てながらアルジェンが戻ってきた。

 顔には出さないけど、ナイスタイミングとアルジェンを内心だけで賞賛しておく。


「パパっ! 溶けた金を本体さんに回収してもらったの!

 これでパパのペンダントが直せるのっ!」


 アルジェンの言葉と手にした小さな金の棒に皆が驚き目を丸くした。

 更にアルジェンがこう続ける。


「ママの手にペンダントを置いて。

 ママの魔力を使って、パパのペンダントを直すの!

 娘とママの共同作業なんだから、もう絶対壊さないでね!」


 …これは重い。下手なことを言ったりやったりすると喧嘩じゃ済まないパターンだろう。

 首から外したペンダントをエマさんの手のひらにそっと乗せる。

 

「アルジェンちゃん、私は魔法とか使えないけど大丈夫なの?」

とエマさんは少し不安そうだ。


「大丈夫なのです! 魔力さえ貰えれば、私が制御してパパパのパッとやるのです!」


 サムズアップしながら力強く言ったその言葉に俄然やる気を見せるエマさん。

 多分だけど、やる気を出しても魔力は変わらないから。


「エマさん、無理しないでね?」

「ウフフ、私に任せてっ!」


 目力すごっ! これ、完全にハイになってるなぁ。それに見るからに肩に力が入ってる。


 ここは一つ、

「エマさん、肩の力を抜いてーぇ、

 大きく息を吸ぅってーーーぇ」

「フゥーーゥ」

「ゆーっくり吐いてーーーぇ」

「ハァーーァ」


 何故だか見ているだけの皆まで一緒に深呼吸。まるで新しく出来た怪しい宗教みたいだな。


「オッケー、じゃあ今から始めるよーっ!」


 ゴクリと唾を飲み込む。

 アルジェンの手が魔力に覆われ、そしてその手でエマさんの手に触れる。

 その魔力が呼び水となり、エマさんの手も魔力で覆われた。


「『オンアビラウンケン!

 バサラアドバン!』」


 呪文がまさかの密教系?! 後半微妙に間違ってるけど。


 呪文の後に小さな金の棒を三日月のあった所に当てると、ゆっくりと溶けていく。


「『オンアキスビヤーン』」


 金の小さな棒は姿を三日月に変え、ランタンの灯りに金色の光を反射する。


「『ナンマンダーナンマンダー』。 

 はいっ! これにて完了なのです!」


 …何でお前、そんな呪文知ってるんだ?

 腐れ外道の勇者達が伝えたとは思えないんだが。まさか俺の記憶を探ったとか?

 魔界蟲本体さんは俺と融合してたぽいから、記憶まで取り込んだのかも。


 まぁ、それは大した問題じゃない。

 何故なら元通りに戻ったペンダントにエマさんが涙を垂らしているからだ。


「アルジェンちゃん、ありがとう。

 三日月の無いペンダントを見るたびに、またクレストさんが居なくなっちゃうんじゃないかと心配で心配で…」


 そうだったのか。そんなに心配させてたなんて全然気が付かなかったよ。

 一度ペンダントを握り締めたエマさんが俺の首にそれを掛ける。


「これは私とアルジェンちゃんの思いが籠もったペンダントだから。

 絶対に壊したり無くしたりしたらだめだからねっ!」

「うん。分かってる。エマさん、心配掛けてごめんね」


 自然と体が動く。

 気が付くと腕の中にエマさんが居た。


「パパとママは仲良しさんなのです!」


 抱き合う二人の周りを祝福するかのように揚羽蝶の羽根をバタつかせてアルジェンが飛ぶ。

 羽根から舞い散る鱗粉のような金色の光が明里に照らされて幻想的な景色を作り出す。


「もう二度とこのペンダントは壊さないよ」

「うん!」


 もう一度エマさんを抱き寄せる。

 こんなにこの女性を欲しいと思ったのは初めてだろう…エマさんも目を閉じて待っている。

 このままその唇に…。


 しかし…はっと我に帰る。

 

「なぁ、アルジェン…お前の鱗粉、特殊な効果を撒き散らしてないか?」

「ドキッ!

 思ったより切れるの早かったのです!

 抵抗に成功するのは普通もっと遅いの…あ…」

「お前なぁ…」

「だってパパはヘタレで奥手だから手助けしないとって思ったのです!」


 コイツ、絶対わざとやってるな…。

 それにしても精神に作用する特殊効果のある鱗粉か。欲しがる奴も多いだろうな。

 絶対人には言えないやつだよ。

 でも子供が欲しくても出来ない夫婦とかには役に立ちそうだな。


 まだ目を閉じたままのエマさんの唇にそっと指で触れる。今はこれで精一杯。

 目を開け、少し恥ずかしそうなエマさんを軽く抱き寄せ、オデコにチュッとキスをする。


「アルジェンちゃん、もうこんなイタズラしちゃダメよ」

「はーい。分かったのです。でも私もパパとママにチューってしたいのです!」

「ふふ、じゃあ私からどうぞ」


 エマさんも嬉しそうだし、まぁこれはこれでヨシとするか。

 さすがにアルジェンにキスされてもそれがキスかどうかも分からないし。


 それにしても、魔界蟲からこんな子が産まれてくるなんてな。全くの予想外だよ。

 俺の中に居た時は全く意思を感じなかったと言うのに。それとも中から俺達を観察していたのかな?

 どうせ本体さんに聞いても教えてくれないだろう。考えるのは無駄だし、今日はさっさと寝るか。



『おお、死んでしまうとはなにごとだ!』


「うるせえ、ぼけ! 誰だよ!」


『儂じゃよ儂!』


「儂儂詐欺なんて聞いたこと無いぞ!」


『だってしょーがないじゃないか!』


「すまん、今俺寝てる筈なんだが」


『知っておるぞ、夢枕に立っておるからな。

 復活してから調子はどうか、聞いてみたくてな。

 それに随分変わった魔界蟲を連れておるようじゃ。分体を人に付ける魔界蟲なんぞ初めて見たぞ。

 魔界蟲がダンジョン管理者に収まったことも不可思議じゃが』


「神様だからってプライベート覗き見してんじゃねえよ。

 まさかアレの行為の最中も見るつもりじゃないよな?」


『なっ、何の行為のことかな、見る予定は少ししかないぞ』


「てめえ! 見る気満々だな! 帰れ!」


『この後エマとの行為を夢に見て、夢の中で発射しても知らんぞ。今のお主は自分で洗浄は出来んのじゃろ。

 何と言って分体にお願いするのか楽しみじゃ』


「…見せる夢を選べると言いたいのか?」


『儂ぐらいの神位を持てば、それぐらいはお茶の子ホイホイじゃ。

 毎晩夢精は恥ずかしいよのぉ』


 神様だからと言って、何でもやって良いと言う訳じゃないと思う。

 ましてや覗き見や夢のコントロールなんて許す訳にはいかない。

 だけど俺には神に対処する力なんて無い。


『その体を作ったのは儂じゃよ。

 言うなれば、お主は儂の子供も同然。元気にやっとるか、異常はないか気になって仕方ないのは本音なんじゃ』


「今のとこ大丈夫。それと夢のコントロールは無しだぞ。やったらお前の股間を蹴飛ばしてやるから」


『随分と威勢が良いのぉ。さすがにそれは御免じゃから、勘弁してやろう』


「たまに健康診断するのは構わない。その代わり変な手段は使うなよ」


『それで結構。二・七四秒で終わらせてやるわい』


「中途半端だな。三秒、四秒ぐらいならやるからゆっくりやってくれ」


『それは良かった。

 ところでお茶の子とはなんじゃ?』


「自分でネットで調べろ! 寝るっ!」


『ケチっ! 帰るっ!』


 そんな夢を見た気がするが、多分ただの夢だろう。

 回復ポイントに改造した古い方のタイニーハウスで一人で寝ていた筈だが、体の上の重量と熱を感じて目が覚めた。


「あの…エマさん、何で?」


 予想外にも程がある。俺の上に居たのはなんとエマさんだった…しかも服を着ていない…。


 まさかアルジェンの鱗粉の効果が残っていたのか?

 身動ぎすると、張りのあるCカップの胸の感触が伝わってきて心地よい…この刺激に下半身が反応するのは当然だろうし、それは男性としての機能が正常な証拠。


「やん、何か当たってる…のです」


 静まる方が無理だよ。しかし寝起きにこれは心臓に悪い…けど、何か違和感。

 まさかと思うけど…。

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