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第105話 ゼリー対プリン?

 スレニアさんとイスルさんの暴走で、俺の好みのサイズをバラしてしまった…。


「…バストのお菓子って、普通はプリンで作ると思うけど」


 微妙な空気を払拭しようと思ったのか、ルケイドがそんなことを呟くように言った。


「プリンですか!

 あのプルプルした触感に滑らかな舌触り。確かに巨乳に似ていますね」

てコリゴニーさんも相槌を打つが、ひょっとしてこの人は巨乳好き?

 揉むような仕草をしないのは精神的に大人になっているからだろう。これがスイナロ爺なら確実に両手でモミモミしているだろう。


「でもプリンよりゼリーの方が、水分量の変化で硬さを調整しやすいと思うんだよね」

と、地味な実験の苦にならない学者タイプのルケイドがゼリーを推す。


「それならまず見た目でプリンに対抗出来るように、ミルクと卵液の茶色系の何かでそれっぽく色を付け、肌のようにしてみますかね。

 紅茶だと香りが出るので、なるべく匂いの無い着色料が良いですね」

「トップはチェリーを使うの?」

「噛んだ時の歯応えがもう少し欲しいですね。

 それに乗せただけだと…やっつけ感があるので、もう少し工夫があった方が良いでしょう。

 昨日クレストさんが試食した乾燥ゼリーで形を作って、ピンク色を付けられればリアルですよね」


 何故か男二人がパイゼリー作りに情熱を注ぎ始めたが、マジでそれを販売するつもりか?

 ネタ商品としてはアリだが、商業ギルド主導でやってるのにエロい方向からスタートするのはおかしくないか?

 絶対サンプルを見たレイドルさんが待ったを掛けるって。

 ビデオやDVDの普及にアダルトビデオが一役買った世界とは違うのだ。


 それにしても、意外とコリゴニーさんはエロい物好きなのか。

 パイゼリーの次はダッチワイフ作りを始めたりしないよね?


 キリアスには魔道知能搭載の身替わり君なんてモノがあるから、かなりリアルなモノが出来そうだ。

 ルケイドもコリゴニーさんに引き摺られてそっちの道に進んだりしないか心配だが、本人にその気があるなら止めはしない…先輩なら止めろって?


 それと、ゼリーイコールエロい食べ物って思われるようになるのは阻止しないとね。

 その為にも、ルケイド・コリゴニー組よりインパクトのある商品を開発せねば…。


 …ダメだ、全然思い付かねぇ。


 パンケーキは匂いで客の意識を持ってくることが出来たが、ゼリーは匂いで釣る作戦は使えない。

 そうなると、当たり前だけど見た目と味で勝負だよな。


 ゼリーの透明感や涼やかさを活かしたオーソドックスなモノより、中に別の色のゼリーや角切りのフルーツを入れて彩りで視線を集めるような物を作ればパイゼリーより売れると思う。


 それか、金魚が泳いでいるようなお菓子のパクリはどうだろう?

 でも、コッチに金魚っているのかな?

 あれは品種改良で生み出した魚だからな。


 バストの話になって完全に無視された形になったドランさんが、試食品の入ったカップに頭を突っ込みジュルジュルと食べ始めた。

 尻尾が左右に激しく揺れているのは、彼がご機嫌な証拠だ。


『うまっ! なんですか、これは!

 岩蜥蜴からこんな旨い物が出来るとは!

 考えたクレストさんには脳出る平和賞を差し上げないと!』

「脳は出さないから。

 スイーツで平和賞って貰えるのか?

 馬鹿売れしたら経済学賞? 違う気がする」


 ヒット商品を生み出して賞が貰えるのは社内のみ。ノーベル賞なんて無理無理。

 と言うか、勇者はノーベル賞もちゃんと伝えていないのかょ。


「ノーは出さないんですね!

 それならブラジャー型の入れ物に入れて、ブラ アンド ピースって名前で売り出しましょう!」

とコリゴニーさんがはしゃぎ出した。

 まさか、脳じゃなくてNOに異世界翻訳で誤訳されたのか?

 良い仕事し過ぎるだろ、この世界の翻訳機能は。


「着色料、貰ってきまーす!」

とスレニアさんがシュタッと敬礼してテストキッチンから出ていった。

 本格的にパイゼリーを作って売るつもりか。


 バスト型にするなら、ゼリーよりお餅や求肥の方が弾力は出るんだよね。

 でも賞味期限の問題を考えると、冷蔵保存の可能なゼリーの方が有利なのか。

 むむむ…困った…お餅だと硬くなるし、作るのが面倒くさい。それに食べ慣れないお餅だから、喉に詰める事故も起きそうだ。


 モチモチ感を出すならデンプンか…芋餅ならジャガイモと片栗粉だな…あ、片栗粉が無い!

 仕方ない、芋を磨り潰してデンプンを採取するしかないか。


「長考に入ったクレストさんは放置して、ゼリーの実験を続けますよ!」

と俺がモチモチの感触を出すための方法を考えている間に、イスルさんの指示のもとに舌触りでは無く手触りをバストに似せたゼリー作りが始まっていた。

 もう好きにしてくれ…。



 商業ギルドでの予想外の展開にドッと疲れたまま貴族達の多く暮らす区画へと脚を運ぶ。


 そして唯一の知り合いであるマダムを訪問した。

 ちなみにドランさんにこれからどこに行くのかと問われ、お勉強に行くと言ったらポケットから這い出てそそくさと我が家へと戻っていった。

 つまり今は独りぼっち…溜息つき放題だ。


 ドアを開けるとすぐに昨日あったばかりのフォリアンさんが出迎えてくれた。


「あら、クレスト様。まだ服は出来ておりませんよ」

「分かってます。実は…」


 恐る恐る紹介状を彼女に手渡す。

 レイドルさんがこの店を指定していたのはこう言うことだったのか…と納得だ。

 貴族相手の衣装を作るってことは、貴族達の対応にも慣れている訳だし、マナーに詳しいのも当然だ。


「そちらの方のお客様も紹介されると事前に連絡を頂戴しておりましたが、まさかこちらもクレスト様だとは思いませんでしたわ。

 新しい玩具を陛下に献上なさるとのことで、おめでとうございます。

 王城から名指しの連絡が来ているとは、まだお若いのに随分な御活躍をされたのですね」


 上品に笑う姿は如何にも貴族然とした様子で、俺みたいな中流の一般ピープルとは違う世界の住人だと改めて思った。


「ですが、目上の方への態度や喋り方は全然なっていないとのことですね。

 それでは結婚するお相手の方にも迷惑をかけますでしょうし、上司となるレイドル様も肩身の狭い思いをされるでしょう」

「はいっ? レイドルさんが上司って?」


 聞いてないし!

 そもそも商業ギルドに就職したつもりは無いんだけど。

 いつの間にか内定を通り越して強制入社な訳?

 本人の意思はどうすんの?


「では、不肖ながら私がクレスト様をゴールドカードのトリプルスター持ちとして相応しい対応が取れるように指導いたすます」


 そして取り出した赤い縁の眼鏡を静かにかけると、キラリと輝かせ…。


 …。

 …。

 …。


 クチから魂が抜けるまでコッテリネットリ指導されました…。


「今日は此処までとします。

 明日も同じ時間に来ること。もし来なかったらどうして差し上げようかしら…そうね、私の裏の顔を見せてあげましょう」


 そう言って口元を隠してホホホと笑った後、赤縁の教育ママ眼鏡を外す。


「あら、クレスト様、どうなさいました?

 お疲れのご様子ですが」


 えーとぉ、この人、眼鏡を外すとさっきまでの記憶がなくなるタイプの人か?


「それはマダムの方が良くご存知かと」

「あら、そうなのですか?

 ごめんなさいね、時々記憶が無くなるものでして」


 …そんな訳あるかい。

 そんな小芝居をするのは二つの商売の切り替えの為か?

 さっきはまでは容赦なくビンタを食らわせ、罵り、鞭打ってきたけど、今は服飾店の主人モードだからそんなことはしませんアピールなのかも。


 マナー教室の授業内容は、まぁごく一般的な物だった。若干の異世界アレンジが入っているけど、基本的に偉い人に対しては丁寧な言葉遣いをすれば何とかなる筈。

 それがまともに出来ないとはねぇ…社会人経験がないと、身に付かないものなのかも。


 一応俺だって日本に居たときはそれなりに暮らしていたから、マナーぐらいは知っている。

 でも二重人格は治ってもなお骸骨さんの性格に引っ張られているのか、口調は余程意識していないと相手が偉い人でもぞんざいになる時がある。

 伯爵様にはそれなりに丁寧な口調で話せているけど、スオーリー副団長やレイドル副部長にはタメ口だからね。

 まさかあの二人をお友達認定してるのか?


「冗談は置いて置きましょうか。

 クレスト様は基本的なことはご存知なようですから、後はその知識を実践するだけでございます。それには反復練習をするしかありません」

「つまり、まだ何度もレッスンを受ける必要があると?」


 冗談じゃない。異世界に来てマナー教室通いなんて初めて聞いたぞ。


「ごく自然にお話し出来るようになれば、ご褒美として夜の相手のレッスンも致しますので、それを目指して頑張ってください」

「それはノーウェルカムです!」

「あら、私ではご不満でしょうか?」


 不満とかそう言う問題じゃないよね。

 確かに四捨五入で三十歳のマダムは子持ちにしては、彼女はやたら美人で魅力的だけどさ。


「貴族の中にはそちらの教育も必要な方が居られますから、男性の受講者にはサービスも兼ねて受けて頂くことになっております」


 おかしな性癖の持ち主が何かやらかさないようにってか。

 そんな教育が必要って…確かに誰も教えてくれないのなら必要なのか。小学校でも少しだけ教えるもんな。


「俺はノーマルなので大丈夫です。エマさんに聞いてください!」

「あら、もうそちらの方は経験済みでしたのね? 隅に置けませんね」


 口元を隠してオホホと笑うマダムに苦笑しか出ない。

 そちら方面は割とオープンな人なのか、それとも動物の交尾程度にしか思っていないのか。

 ここには貴族専門の風俗店も在るぐらいだから、深く考えるだけ無駄だと思うことにしよう。


「それにしても、クレスト様は良く色々な商品を次々と思い付くのですね。

 当店のメイドが新しいハンガーを作っていただいたと大変喜んでおりましたよ。

 洗濯挟みが不要で、スライドして幅が変えられるので便利ですし、お店の方に注文させて頂いておりますのよ」


 これならガバルドシオンの常連客になってくれそうな感じだな。


「ただし。この店のお客様の目に届く場所に置けるような出来ではありませんので、もう少しお洒落な雰囲気のある品物にしていただけないかしら?」


 物干し竿に使うハンガーにお洒落を求められても困るなぁ。

 でもお店で使うハンガーには掛ける物によって使い分けられているから、幾つか地球産のアイデアのハンガーを作ってみようか。

 ご注文のお洒落要素は、ガバルドシオンで作った品物を外注に出して施せば良いと思う。


「お店やキッチンでの困り事や、もっとラクになったら良いと思うような事があれば、またガバルドシオンの方にご連絡ください。

 職人達と検討して、対策の出来る物なら作ってみますから」

「あら、それは助かるわね。使用人達に聞いてみますわ。

 良い方を紹介してくれたレイドル様に感謝差し上げなければなりませんわね」


 レイドルさんに感謝すると言われると少しだけ微妙な気になるが、それをクチに出すとレッスンの成果が無いと言われそうだ。

 余計な事は言わずに聞き流すに限る。


「一つ忘れていたわ。

 冒険者ギルドの職員が膝上までしか丈のないスカートを穿いて町中を走り回っているそうだけど、クレスト様は関係していないのかしら?」


 それは質問ではなく、間違いなく俺の仕業だと確信しているように見える。


「あれはアイリスさんと言って、キリアスから来た人です。

 あのスカートは本人が歩きやすいようにと支給された制服を勝手に改造したものです。

 事務仕事が苦手なので俺の部下扱いにされまして、仕方なく配達業務をさせています」

「虐めではないかと噂されていますよ」

「もし本人に会える機会があれば聞いてみてください。ギルドの中にいるより喜んでいる筈ですから」


 コンラッドでは膝丈までのスカートは販売されていないから、アイリスさんはかなり目立っているだろう。

 彼女の性格を知らなければ、見た目の良い女性に破廉恥な格好をさせて虐めているように思われるとは思っていなかったが。


「あのスカートを流行らせるお積もりで?」

「そうですね。俺もキリアスの出なので、短いスカートが普通でしたから。それに材料も少なくて済むので、選択肢としてアリだと思います。

 コンラッドの女性に急には受け入れて貰えないかも知れませんけどね。

 でも勝算はありますよ」


 温泉旅館の部隊に上がるアイドル達にミニスカートを穿いて貰うつもりだし。

 ツイッギーがミニスカートを流行らせたように、コンラッドでも流行ることを期待しよう。

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