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第99話 馬車鉄道を考えよう!

 家に戻ると伯爵様からのお使いが来ていた。

 どうやら一番の目的はお金が欲しい…だったようだ。

 我が家のタンス預金に幾らあるのか知らないけど、金貨を二十枚もポッと渡せるとはビックリだ。


 ロエリエさんを見送ってから、やっとお待ちかねの夕食となる。

 我が家の八人掛けのテーブルだが、俺、ロイ、ブリュナーさん、ラビィ、その対面にエマさん、ルーチェ、シエルさんが座る。


 そしてラビィの前のテーブルの上にアルジェンとドランさんが陣取る。

 これにオリビアさんが加わったらラビィ達は別の小さなテーブルを使うことになるかな?

 マローネ一匹だけ足下で猫マンマだ。


 ドランさんはマローネ形態から元のクリスタルドラゴン形態に戻っていた。

 これならそれ程場所も取らないなと、おかしな納得をしなければわが家では生きていけないらしい。


「アルジェン、このテーブルではタイプ・テヴァで遊んだらダメだからな」

「…パパのイケず、なのです!」


 先に釘を刺しておかないと、アルジェンは何を遣らかすか分からないからね。


「ドランと合体して高速鉄道になるのはどうなのです?」

「もっとダメ。被害を増やしてどうするんだよ?」


 俺とエマさんが居ない間にさんざんアルジェンとドランさんが遊んだらしく、シエルさんに怒られたらしいが自業自得だ。

 だがミニミニ魔界蟲さんは色々な変形が出来るのだ。アルジェンに頼んでミニカーのような馬車に変身させたミニミニ魔界蟲さんがテーブルの上を動き回る。


「馬車鉄道は良い考えですね。

 町中でも主要道路にレールを敷設すれば馬車を利用できます」

「重たい荷物を持ち運ぶ際に使いたいですね」


 ロエリエさんが帰り間際に置いていった伯爵様からの手紙に、リミエンから貯水池リゾートまでの移動時間短縮案があれば教えて欲しいと書いてあったのだ。


 そこで披露したのが馬車鉄道で、ブリュナーさんとシエルさんには好印象らしい。

 この世界で実現可能な案を考えると、やはりこれしか思い付かない。


 でも貯水池迄の道路には既に整備も終わっているのでこれ以上の手を加えるのは難しい。そうなると、道路から少し外れた位置に線路を新しく作るしかない。


 またお金が掛かることを考えたもんだ、リミエン伯爵は金遣いが荒いぞと言いたくなるが、馬車鉄道なら複線を用意しておけば安全に高速運行が出来るのだから悪い手ではないのかも。


 しかも二頭立ての馬車で二十人以上を一度に運べるのだから、道路の混雑の回避も出来そうだ。

 その分、駅が人で混みそうだけど。


 だけどねぇ、町中に作るのなら分からないこともないが、貯水池行きの高速鉄道なんて採算が取れないから辞めた方が良いと思う。

 交通インフラ整備は結局のところ、何年で元手を回収するか、そしてどうやって維持し続けるかが大事なんだ。


 百周年記念式典後も、馬車鉄道の需要が赤字にならないだけあるかは全然分からない。

 徒歩で一時間、距離にして約五キロメトルの道路は普通の馬車でも四十分ぐらいか。

 レールを敷いた専用道路を作れば三十分、馬の頑張り次第で二十分代前半になるかも。


 馬車で片道二十分ならちょっと遊びに行こうかって気になるかな。

 駅まで行くのが面倒かも知れないのと、駅での待ち時間が必要だけどね。


 線路の他にも駅舎が必要か。

 町を拡張してタイニーハウスをたくさん並べる計画があるそうだから、ついでにそこに駅舎も作れば場所的にはオッケーか?


 物理的な問題はクリア出来そうな気がしてきたが、線路を作ったとして運賃はどうする?

 五キロぐらいは平気で歩くのがこの世界の人達だ。

 そう言う人達が一時間歩くことに対して払える対価はハウマッチ?


「月の売り上げ目標を大銀貨五百枚と仮定し、月の利用人数も五百人と想定したら一人大銀貨一枚のお値段だ。

 これだと高過ぎて完全にアウトだよ。

 高くても往復で銀貨一枚迄に抑えなきゃ。

 貯水池に毎月五千人、毎日百七十人近くを乗せてトントンってとこだ。

 それだけの利用があるか…うん、無さそうだよね」

「そうなると…貯水池行きの馬車鉄道は無理となります。

 やはり町中を巡回する環状線か、東西と南北を結ぶ複数の路線を用意する方がまだ採算の目途が立つでしょうか」

「それもどうだろうね?

 町の中に通しても、今の住民の数だと赤字は間違いないと俺は思うよ」


 絶対的な利用者数が少なすぎるんだよ。

 リミエンなんて都市部と近場の村を合わせて一万人ぐらいしか居ないんだ。

 冒険者は市民の数には含まれていない人が多いけど。


「採算が取れるにはダンジョンまでレールを敷いて、ダンジョンに冒険者をドンドン送り込むしかないか」

「なるほど、往復の労力を軽減させる訳ですね」


 貯水池ダンジョンは現在魔石工場と化して稼動中だ。

 雨の日は現地に行くのもイヤになるけど、馬車が使えるなら雨の日でも行ってみようって気になるだろう。


 また、戦闘を繰り返して疲れた体で歩いて帰るのは一苦労だ。

 そんな冒険者達の前に鉄道馬車があったなら…僅かのお金で安全にリミエンに戻ることが出来るのなら、飛び付かない筈がない。


 問題はこのダンジョンに潜る冒険者がどれだけ居るかだが…何か見落としている気がしてきた。


「パパ! 食事中に考え事はナッシングなのです!」

とミニカー馬車に乗ったアルジェンが俺の前まで走ってきてビシッと指を差す。


「そうね。せっかくのシチューが冷えちゃうわ」

「そやで。あのダンジョンのニジマスも焼き立ては旨かったで!

 鮭は高級品やからそうは食べられへんけど、ニジマスなら毎日でも狩りに行きたいわ。

 明日、カラバッサ出してくれへんか?」

「さすがに毎日は無理だよ。

 片道で半日、往復だけで一日だから最低一泊二日で行かないと。

 ラビィが行くなら、マーメイドの四人でも誘って行けば良いよ。

 御者も出来るしね。あ、アルジェンが居ないからフルセットにしないとね」


 フルセットとは移動式トイレの車輌を牽引することを指すのだが、トイレ付きとは言いたく無いので格好つけてそう呼んでいるだけだ。

 いずれは移動式シャワールームを作ろうかと計画中だ。


「でも急に明日行こうって誘っても、彼女達にも都合はあるわよ。

 前もって行く日を決めておかないと」

とすかさずエマさんにメッと言われた。


「それもそうやな。

 ワイ独りやと動かせへんしなぁ。

 あんちゃんは忙しいんか?」

「お陰様でね。明日は商業ギルドと領主館に行かなきゃならないんだ」

「冒険者なんやろ?

 なんでそなんとこ行くん?」

「兼業冒険者だから仕方ない…のかな?」


 冒険者で一旗揚げようって人達にはボコられそうなセリフだけど。


「それだけ親方様は多彩な才能をお持ちで、多くの方が親方様の発想力に期待しているからですよ」

 

 ブリュナーさんの評価が凄すぎて恥ずかしい。俺の発想って、前世の記憶のお陰だもん、ズルしてるのと同じだからね。


「そうだよね。馬車に乗ったままトイレに行けるようにするなんて、普通は思い付かないって」


 ロイがミニミニ魔界蟲ミニカー馬車を腕に乗せて遊びながらそう言うと、

「貯水池ダンジョン行きの馬車鉄道?にもトイレ付けるの?」

と聞いてきた。


「まだダンジョン行きの鉄道馬車は決定じゃないよ」

「そうなんだ。

 森のダンジョンまで鉄道馬車で行けるようになったら、ラビィも一人でニジマス狩りに行けるのにね」

「そやな!

 あんちゃんもニジマス食いたいやろ!

 森のダンジョンまで鉄道馬車を通してくれへんか?」

「ラビィ程は食いたいとは思ってないけど」


 ラビィがニジマスを狩る姿って、木彫りの熊の姿と同じなのか?

 それともパシッと片手で叩いて捕まえるのか?

 その前脚だと釣りは出来ないよね。

 でもラビィがあのダンジョンに行くなら、リンゴは取り放題だから俺の懐は痛まないし、悪いことではないな。

 けど料金設定が難しいな。熊割とかあるのかな?


「そうだ、クレ兄はそのうち工場建てるんだよね?

 鉄道馬車で行けるようにするの?」


 ロイは初めて会った時の俺の言ったことを覚えていたのか。

 

「もし工場を建てたら、定期運行馬車を出すつもりだったんだけどね」


 石鹸工場はリミエンの城壁内ではなく、俺が橋を架け替えた川の近くに作る予定である。

 土地も決まっているし、既に商業ギルドと土木建築ギルドの双方から承認済みだ。

 その工場の通勤にも馬車鉄道が使えるな。


 毎日の通勤の足になるなら、儲けにならない無料の定期運行馬車より馬車鉄道の方が良いに決まっている。

 通勤電車代わりに使うって言う視点が抜けていたのか。

 馬車鉄道を作って線路沿いに工場を誘致すれば、利用者も次第に増えてくる。これは良いかも知れないな。


「ロイ、工場長になるつもりはあるか?」

「何を急に?

 今は冒険者になって少しでも多く稼ごうかと思ってる」

「それなら森のダンジョンまで路線を延ばすべきか」

「そやで! ニジマス食い放題や!」


 この熊、どれだけニジマスが好きなんだろうね。確かに旨かったけど、食い放題は御勘弁かな。

 食い意地の張ったラビィだけでなく、ロイとルーチェの為にも馬車鉄道を導入するのが良さそうだと思うけど、約四十キロメトルの距離を工事するとどれだけの費用になるんだろう?

 さすがに伯爵様だってそこまで延長するのはうんとは言わない筈。


「ところでその馬車鉄道って、鉄で道を作るの?」

とごく当たり前の質問がエマさんから出て来た。


「馬車の専用道路なんだよね?

 ラクーンを走らせれば良いと思うけど」

「車輪を溝に嵌めれば溝に沿ってしか動けなくなりますね。我が家の門扉と同じようなレール溝を掘るだけで良いのでは?」


 我が家の門扉は、一センチの深さに掘られた溝に五ミリの厚さの板を敷いて、その上を門扉のローラーがコロコロと通る構造になっている。

 板は凵の字型になっていて、ローラーの左右方向の動きを拘束している。

 この板は摩耗すれば簡単に交換出来るので、メンテナンスも簡単だ。


 この構造をそのまま採用するとレールの交換が必要になるのか。

 運賃で職員の給料とメンテナンス費用を稼ぎ、かつ建設費も回収するとなると償還出来るのに何十年掛かるか見当が付かないな。

 何処かに片腕片脚が義手義足の錬金術師は居ないかな?


 カラバッサの車輪ならレール溝は摩耗しないけど、車輪に貼り付けてある緩衝材の摩耗が心配だ。

 リミエンに住む錬金術師達にそれの補修が出来るなら良いんだけど。


 予算云々を考える前に、一つずつ出来ることと出来ないことを明確にしていく必要があるようだな。


「私がパパパと『大地変形』で作れば、予算なんておやつ代で済むのです!」

とミニカー馬車に乗るアルジェンが提案してくれる。

 億を超えるおやつ代とは豪勢だな。


「それをやると、また親方様がレイドル副部長に叱られますよ。ネチネチと」

「アルジェン、サービスでそんな物を作ったらね、国中からアルジェンに同じ物を作ってくれって依頼が殺到するんだ。

 そうなったら、この家に居られる時間が無くなるけど、それでも良いの?」

「それは困るのです!

 サービス反対なのです!」


 分かってくれたようで助かる。レイドルさんにネチネチ言われるのはストレスにしかならないもんね。


 お金を除外すれば実現可能性の高い案になりそうだから、伯爵様からの宿題の回答は馬車鉄道で良いだろう。


「夜中にコッソリとミニミニ魔界蟲さんに作らせるのです!

 それならバレないのです!」

「…ここに居る人しか知らない事だから、絶対俺が怒られるんだけどね」

「連帯責任なのです!」

「そうだけどさ…その言葉、便利に使いすぎ」


 アルジェン、本当に分かってるのかな?

 

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