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その後の話

 魔法植物についてのレポートが発表されると、俺の周りが騒がしくなった。


「「「うちの研究も手伝ってくれ!!」」」


 地方の研究に手を貸す魔法使いの数が足りていない。そういう話である。



「一文字君は人気だな。私の方は、全く注目されていないのにね」

「魔法植物が、何の注目も浴びませんでしたからね」


 そして、魔法植物は用途がはっきりしないため、反応が今ひとつだった。

 研究の主役、レポートを書いた四宮教授の評価は無いに等しい。協力者である俺の名前が広まったぐらいで、研究内容は「ああ、そうなんだ」と冷ややかな目で見られている。



 ここはポーションを完成させ、世の連中の度肝を抜いてやりたい。

 そう考えていたんだけど。


「簡単にできるなら、すでに誰かが作っている。そういう話」

「研究に楽な話など、どこにも無いのだよ! 数千万円をつぎ込み年単位で研究をしても成果が出ないなんてザラだからね!!」


 これについては、気長に頑張るしか無い。

 魔法植物のレポートは挙げたんだから、他の誰かが先に何か見つけるかもしれないけど、その時はその時。



 そんな風に考えていたところで、この話に関わっていない及川准教授がどこか気まずげで言い難そうに声をかけてきた。


「ふと思ったんですが。これって、ゴブリンポーションの品質鑑定に使えませんか?

 ほら、枯れさせてしまうものと、そうでないもの。その区別を付けるために植物を使うというのは、可能だと思うのですけれど。

 これまでの動物実験では上手くいかなかった鑑定も、植物なら上手くいきそうな気がするんですよ」


 ゴブリンポーションは品質が安定しておらず、マウスなどを使った少量の投与では判断が付かない事が分かっている。

 これが植物相手であれば? もしかしたら、上手くいくのではないか。

 及川准教授はそっち方面の専門家では無いが、一人の研究者としてそんな事を言い出した。

 研究者って、知的好奇心が人一倍強いからね。そういう事もある。


「たしか、植物を使った鑑定も研究されていたけど、失敗だったはずですよ」

「ああ、もう結果が一つ出ていたのは知っていますが。ただ、研究というのは、一つの失敗が世に出た後、その失敗を乗り越えるために頭を使う事を言うんです。失敗一つで諦めるようでは、研究者とは言えませんね」


 その道のりは困難でも、迷わず歩き続けるのが研究者。

 爽やかな笑顔で言い切る及川准教授に、俺は言えるのは一つだけ。


「タイタンの改良と、原神の強化装備の件はどんな感じですか?」

「起案はできました。後は試作と検証、そのフィードバックですよ」


 本業を疎かにしないで欲しいと、そういう話だ。

 及川准教授には鴻上さんと組んでロボット開発をメインに頑張ってもらっているので、俺としてはそっちに集中して欲しいと考えている。

 すると、及川准教授は「順調に進めていますよ」と笑顔を向け、問題ないと告げた。

 そして、冷ややかな目で俺を見た。


「そもそも、この件は報告書を出しているではありませんか」

「そうですけど。ここで新しい仕事を入れるというのは、無理をさせるようで、その……」

「本業に影響を及ぼすほど、のめり込みはしませんよ。私にとっては畑違いの分野ですからね。息抜き、趣味の範囲に収めますよ」


 報告書をもらってはいるんだけど、ちゃんと目を通しているんだけど、それでも心配になるんだよ。

 ほら、仕事をさせすぎる経営者は良くないって言うだろ?

 俺としては、タイタンの改良と、その次(・・・)の開発だけでかなり負荷をかけている自覚があるんだよ!


 及川准教授は問題ないと俺の言葉を軽く流し趣味の範囲とうそぶくが、それはそれでどうかと思う。

 研究に次ぐ研究で、私生活が研究一色にならないものかね。家族との時間は確保しているのだろうか。

 まぁ、独り身の俺が心配する事でも無いような気がするけど。





「ところで、一文字さんは他の研究に手を貸すんですか? ずいぶんお誘いを頂いていたようですが」

「しませんよ。移動だけでも時間がかかるし、拘束時間は長いし。そういう事ばかりしていると、光織たちが拗ねます(・・・・)


 そういう訳だから、俺も新しい仕事を抱える気は無い。

 お金の心配などする必要も無いから、どれだけ断っても痛くない。

 それにこっちが興味を持つような研究であれば手を貸す事も考えていたけど、拘束時間が長すぎて話にならなかったのだ。


 話を受けるメリットよりも、デメリットが大きすぎる。

 せめて研究所が近所にあるとか、もうちょっとこちらの負担が小さくないと貸したくても貸せないのが現状だ。


 新しい出会いは有意義だけど、かといって、今身近にいる仲間を後回しにするのは良くないから。

 今の仲間とちゃんと上手くやって、その余力で新しい出会いを求めるぐらいが俺にとって最善なのだ。

 無理をして、今の自分が掴んでいるものを手放すような真似はしたくない。



「うむ! では、今日もよろしく頼むのだよ!」

「ダンジョンが、俺たちを待っている!」


 今日も今日とて、原神やタイタンをダンジョンに挑ませつつ、俺は自分のペースで生きる。

 人材確保とか、新しい事に手を伸ばした状態で、これ以上の荷物は要らないんだ。

 着実に、焦らずやらせてもらうよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] この様子を外から見ているとゴーレムを開発して会社の規模を順調に大きくして新しいポーションの研究を推し進めているベンチャー企業の社長さんみたく見えるから不評とか批判を大量に浴びて仲間からも縁切…
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