息抜き、寄り道
史郎関連の話。
情報が回ってくるのが遅れた理由の一つは、俺が消極的で、史郎の話を内心で避けていたからだろう。
だって、史郎と関わるとロクな事にならないから。
わざわざ疲れる事をしたくない。
関わらないのが最善なんだ。
本気で関わりたくなければちゃんと情報を仕入れて、手を打ち、接触を避けるのが普通なんだけど。
積極的に動かず、面倒事を後回しにした、見ないフリをしたのが悪かったんだろうな。
「結果、もっと疲れる事になるのが分かっていても、動けないんですよね」
「それは仕方が無いのではないかな。精神的に疲れる事なんて、やりたがる人の方が少ないのだよ」
史郎周りのゴタゴタに巻き込まれそうだと、遅れて動き出した俺は息抜きをしていた。
「あ、こっちは良い感じですね」
「本当かね!? これは凄い発見なのだよ!!」
やっているのは、植物の世話。
四宮教授がダンジョン内で栽培している薬草のチェックである。
一抱え程度のサイズの栽培ハウスの中では、明かりに照らされたヨモギ。
俺はそのヨモギに魔力を流し、その魔力の通り具合を確認していた。
魔力の通りは以前より強く、実験が上手くいっている。
何パターンか試した中ではゴブリンメタルを使ったのがアウトで、ポーションを使ったものの方が育ちが良い。
まぁ、ポーションの品質にムラがあるせいで、ポーションを試したものは失敗も多いんだけどね。
「うむ! 高い買い物だったが、その値段分の仕事をしてくれるのだから、満足だね!!」
とはいえ、俺が担当しているのは魔力関連のみであり、一般的な植物の世話、水やりや追肥などではない。
雑草だって、こちらが持ち込まなければ存在しないダンジョン内では抜く必要も無かった。
何より、栽培に使われているのは完全自動循環型の栽培ハウスだ。人間が手を入れる必要など無い。
土の代わりになるものを入れて、必要な水や光、栄養は全部機械管理。植物の要求分は中身の育ち具合から計算できるみたいだから凄いよね。
四宮教授も養分や水分の補充、装置の点検をしているのであって、植物の世話は機械がやっている。それが最善なのだ。
下手に人が手を入れる方が、よっぽど植物に優しくないのであった。
「結局、魔法植物を育てようとすれば、ダンジョン内と言う事なんでしょうね」
「やはり、モンスターを倒しているかどうかが重要なのだね。あと、ヨモギよりも金属が優先されるようだから、今回はゴブリンメタルを排除するか、もっと粒子を細かくするか。いやぁ、大変だよ!」
「どういう事ですか?」
「ゴブリンメタルが植物に吸収されていれば話は違ったんだろう。今回のヨモギには適用されなかったが、他の植物はどうなのだろうね? これはそういう話なのだよ」
「……卵の殻や貝殻の粉末を撒くようにはいかないわけですか」
「うむ!」
結果を分析してみると、ポーションはダンジョン栽培に良い影響を与えた、事もある。
ゴブリンメタルは、今回は悪い影響があった。
魔石は全く関係無い。損をしただけだ。
方向性は決まったので、今後はポーションの消費先ができたと喜ぼう。
「ちなみに、ポーションの品質を確認する方法は無いのかね? 品質のバラツキをどうにか出来れば、もう少し実験も捗るのだが?」
「それが出来れば、俺は億万長者ですよ。そんな方法があるなら、とっくに実用化されています」
まぁ、ゴブリン印のポーションはハズレが混ざるので、使うとオーバードーズで枯れてしまう事もある。
一部の学者はそれをどうにかする手段を探しているが、どうにかなったという話を聞いた事は無い。だからこそ、扱いが難しい。
「仕方が無い。通常のポーションを使えば安定するだろうし、失敗を受け入れるか、コストを考えないかはそれぞれ選択すれば良いのかな?
商業活動なら、それも当たり前の話だったね」
ゴブリンのポーションで失敗するなら、もっと良いポーションを使えば良い。
自分で試す気は無いけど、この研究成果は後で四宮教授がレポートに挙げて発表するから、きっと誰かがやってくれるだろう。
俺たちは俺たちで好きに研究をして、手が届かない部分は他の誰かに任せる。
そのために、学会があるんだから。最大限に利用するためにも、精々好奇心を刺激するような、愉快な結果が出る事を祈ろう。
「ところで、だね。こうやって実験で成果物が得られたという事は、次のステップに進められるのではないかな?」
「奇遇ですね。今、俺もそう考えていたところです」
今回の実験で、栽培によるヨモギの魔法植物化ができた。
安定して魔法植物を増やす目処が付いたのだ。
つまり、栽培されるヨモギは消費していい。
ヨモギを使ったポーションの生産に取りかかれる。
ダンジョン産のような、回復効果のあるポーションを作れるかどうかは未知数だが、ちょっと面白くなってきたな。




