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状況が変わる③

 冒険者を辞めた俺だが、今でも冒険者の知り合いに伝手がある。

 それも当然だ。史郎らと組んではいたものの、知り合いの中だけで小さくまとまっていれば、どこかで壁にぶち当たり、行き詰まる。

 だから周囲のパーティと交流を持ち、ネットにはない情報を互いに交換し合い、共闘関係のようなものを作っていく事もある。


 もちろん、同業者なのでライバル意識はある。

 自分たちの稼ぎを増やすのが優先の初心者時代に足の引っ張り合いをすることにメリットは無く、付き合いを持てそうな冒険者とはできるだけ良い関係を作るようにしていた。


 そしてそれはパーティ単位であったり、個人単位であったりする。

 やっぱり個人の相性というものが有るので、パーティとしては付き合いがあるけど、個人間では関わらない、とかな。

 中には話の通じない、こっちの足を引っ張ってきそうな奴もいたが、そういった奴らを徐々にパージしていくと、俺だってそれなりに深い付き合いをする相手もいたという訳だ。



 俺はそんな知人の一人、「雲野(くもの) 蔵人(くらんど)」に連絡を取る。


「もしもし。一文字だ」

「あぁ、九朗か。何か用――ではないな。遠野(史郎)の事でいいか?」

「そういう事だ」


 蔵人は後衛アタッカーの魔法使いで、俺にとっては攻撃魔法の師匠的存在の男だ。

 もちろん現役の冒険者で、昔は俺たちと同じぐらいのパーティに所属していた。今となっては、比べる間もないほど差が付いてしまったようだがな。

 蔵人が冒険者になったのは、一攫千金のため。金にがめつくやや守銭奴的な部分が有るものの、その分約束事にはうるさく、公平公正な性格をしていた。

 とにかく、俺にしてみれば数少ない、安心して頼れる人間である。



「俺たちも今日になって気が付いたところだな。悪いが、昨日までは全く気が付かなかった」


 こちらの要件を察すると、すぐにスマホの向こうで謝る蔵人。


「言い訳をさせてもらうが、遠野がパーティを解散したといっても本人がそれを言いふらしたりしなければ分からないんだ。奴の元仲間の誰もが、俺たちの所へ挨拶に来なかったって言うのもある」

「そういう事もあるだろうな。そこまで気合いを入れて調べるように頼んだわけでもないし。気が付かなかったのは良いんだ。

 それよりも、だ。史郎の様子はどうだ? 暴発しそうとか、そういった気配は無いのか?」


 情報収集を頼んではいたが、相手は冒険者であって、興信所の人間でも探偵でもない。

 調査をするにしても本業の片手間、そして本職ではないので調査能力もお察し。

 それで高精度な情報を求める方がおかしい。


 ただ、同業者だからこそ分かりそうな情報があれば買うという約束で、信用できる相手だからお願いをした。

 史郎への警戒は、その程度という話でもある。



「昨日見かけた時。わりかし追い詰められた顔をしてたな、あれは。

 仲間(見栄を張る相手)もいなくなったんだし、そろそろキレるかもしれん。この間の事件で九朗の居場所はバレている。いつ、押しかけるか分からない。そんな気がするぞ」

「そこまで、か?」

「その前に見た時は、ちょっと焦った感じではあったが、そこまででも無かったんだけどな。でも、昨日の遠野はもう駄目だ。終わってる(・・・・・)

「なら、昨日のうちに連絡が欲しかったよ……」

「悪いな。昨日は仕事上がりで疲れていたんだよ。それに、奴はこれから仕事に向かうって状態だったんでな」


 けれど、史郎の状態は非常に悪く、そのうち俺の所に突撃しかねないと蔵人は言った。

 だったらもっと早くに連絡して欲しかったが、蔵人はそこまで慌てる状況でも無いと考え、連絡を翌日の今日に回していた。俺から電話をかけていなければ、蔵人から連絡を入れていたと言うが、もう終わった話である。



 それにしても、だ。


「そんなに追い込まれるほど、周りのあたりはキツかったのか?」

「その時は大して興味も無かったからよく見てなかった部分もあるぞ。今思い返しても、そこまで酷いとは思わない程度だ。

 俺たちの場合もこれまでの協力関係を白紙にして、合同でのダンジョンアタックをやらなくなったとか、その程度で済ませていただけだからな」

「いや。一カ所だけならともかく、周囲の連中みんなからそんな態度を取られたら、かなり堪えると思うぞ」

「そうは言うがな。あんな事をする奴と付き合いを持ちたいとは思えん。これは俺だけじゃなく、パーティの総意だ。

 たった一度の過ちとは言え、晒され方も悪かった。こっちの心証は最悪だったんだぞ」


 蔵人の言わんとする事は分かる。

 不正で信用を失った取引相手と長々契約を続ける会社が無いように、一瞬で大企業の社長が謝罪会見に追い込まれるような状態に、史郎はなってしまったのだ。

 そうなれば見限るのも当然で、付き合い続けるメリットが無くデメリットばかりであれば、多少の情、縁があっても切り捨てる。

 こればかりは、どうしようもない。





 誠心誠意、謝ったからといっても、信用は回復しない。どれだけ反省しようが、当面の間、悪評はついて回る。

 史郎は徐々に信頼を積み重ね、信用の回復に努めていたはずだ。そこに俺の話がニュースで流れ、悪評が再燃し、これまでの苦労がご破算にされ、さらにダメージを負ってしまった。


 頼れる相手も無いままで。



 史郎の家族が史郎を見捨てる事は無いと思うので、それが暴発をしないための、最後の鎖として残っているのだろう。

 こちらとしては、史郎に煩わされたくないので、どうにか上手くやって欲しい。俺と関わらないどこかで幸せになってくれればそれでいい。


 俺はそんな風に考えているのに、なんでこうなるかね?


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