表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/522

遠征④

「お。スケルトンも出てきたか」


 光織たちがしばらくゾンビの相手をしていると、敵の中にスケルトンが混ざるようになってきた。

 スケルトンとの戦い方は教えていなかったので、いったん後退するように指示を出し、俺が相手をする事にした。


 スケルトンは、言ってしまえば腐肉の無いゾンビである。

 モンスターとしてのランクはゾンビと同じ。見た目は骨で、腐肉が無い分体が軽くスピードがあり、攻撃が当てにくい。ゾンビの腐肉はデッドウェイトなのである。


 防御力に関しては、首を刎ねても倒せない分、高くなったと見るべきか。当たれば簡単に倒せるんだけどな。


「スケルトンの弱点は、頭蓋骨の中!」


 そんな攻撃を当てにくいスケルトンを倒すには、頭蓋骨の中を攻撃する事。

 ハンマー系の武器があれば頭蓋骨を砕くけど、剣や槍なら、眼窩を突いて脳みそがある位置をかき回すだけでいい。



 動きが遅い分、初心者視点ではゾンビの方が楽な相手である。

 しかしスケルトンを相手に求められるのは早さだけでいいから、目が慣れてしまえばスケルトンの方が楽な相手になる。……それに、こいつは臭くないし。


 俺も駆け出しのころは、ゾンビやスケルトン相手に特訓をしたものだ。魔石収入で稼ぎも悪くないから、臭いのさえ我慢できるなら、低レベルゾンビやスケルトンは初心者向けのモンスターだと思う。



 5回ほど手本を見せた所で俺は後方に下がり、もう一度、戦闘を光織たちに任せる。


 正確な槍捌きは、光織たち原神の得意とするところだ。

 無駄のない動きでゾンビに紛れ込んだスケルトンを次々に倒していく。


「……いや、これ、俺よりも手際が良いな」


 元々の技量が高かった事もあり、光織たちの動きは先ほどの俺と比較しても、劣ってなどいない。

 むしろ俺以上に効率良く作業(・・)を進めている。

 動きに無駄がなさすぎる分、対人戦では読まれやすい単調な攻撃であるが、スケルトン相手であればそれでも十分に通じる。


 駆け引きが必要になるのは、ここよりも上の難易度、動物系モンスターを相手にするところからだ。

 今の光織たちの実力は、同期の駆け出し冒険者の中でトップクラスと言えるだろう。

 冒険者全体で見ればまだまだだが、ダンジョンに潜ってから1年も経たない頃にここまで戦えるのは“天才”と評価していい。



 これ、下手に自我持ちロボットが増えると、冒険者が一掃されかねないな。

 近い将来、俺は自我持ちロボットが量産される事で度肝を抜かれる事になるのだが、この時はそんな事も知らずに、未来の冒険者が危うい程度に考えていた。





 入り口付近で2時間と少し戦い続けると、俺が声を上げてもモンスターが襲って来なくなった。


「ここは打ち止めだな」


 モンスターは、侵入者である人間がいると襲い掛かってくる。

 だいたいの雑魚モンスターはダンジョンの奥からもこちらを探して襲い掛かってくるのだが、中には土地に縛られたモンスターも存在していて、一定エリア内でしか人間を襲わないというパターンもある。

 特に強いモンスターはその傾向があり、ボスモンスターなどと言われるダンジョンで最強のモンスターは一番奥で動かないのがほとんどだ。


 ここでモンスターが出てこなくなったという事は、自由に動けるモンスターが一掃されたと見ていいだろう。

 もっと戦いたければ、奥に踏み込むしかない。


「よし。これでノルマ達成だ。帰るぞ」


 宝箱(トレジャーボックス)は33個ほど手に入れた。

 倒した敵は200より上、300には届かない程度だった。モンスター10体につき宝箱を1個か2個落した計算になり、ドロップ率はそれなりに高かったようで、運がいい。

 ゴブリンだと、ドロップがもっと渋いからなー。本当に、ゴブリンは稼ぎにならない。



 ゾンビやスケルトンの魔石は、5000円ぐらいで売れる。

 宝箱には3~5個の魔石が入っているので、平均値を4と仮定すれば1個2万円、132万円の稼ぎになる。

 まぁ、そこそこの稼ぎだ。


 普通の冒険者は、1時間も2時間も、連続でモンスターと戦えない。

 一人で戦う訳でもないし、収入は頭割り。武器も手入れが必要だ。

 そう考えると、経費を差っ引いてしまえば、実益は4~5万円ぐらいじゃないだろうか。

 日給として見れば高額だけど、キツい思いをして、命をかけた対価と考えると安いと言わざるを得ない。


 仕方がないんだけど、冒険者から割に合わないという考えを持たれるのは、そういう理由だな。

 不人気ダンジョンとなるわけである。



「おお、お帰りなさい。それで、どうでした? モンスターは間引いてもらえたのでしょうか?」


 ダンジョンから出ると、すぐに管理人さんがやって来た。

 こちらの戦果がどれほどの物だったかを確認してくる。


 俺が手に入れた宝箱を見せると、それだけモンスターを倒してくれたのだと喜び、何度も頭を下げる。

 普段やって来る冒険者たちはここまで頑張ってはくれないようで、この半分も倒してはいないようだ。中には他のダンジョンで手に入れた宝箱で誤魔化そうとした連中もいたらしい。

 不人気ダンジョンとはいえ、なかなか面倒臭い話である。



「こちらとしても、魔石稼ぎにちょうどいいので、また来ることもあると思いますよ」

「その時は、是非お願いします!」


 正直な事を言えば、俺がアンデッドダンジョンに入るのは御免だ。もう行きたくない。

 けど、俺ではなく、タイタンとかをここに来させるのはアリじゃないかと、途中で考えを改めた。


 俺に被害がなければそれでいいのである。

 そういう意味では「人のやりたがらない仕事を任せる」という、ロボットらしい活躍をしてもらえば良い訳だ。

 アンデッドダンジョンは、そいう言う意味では都合が良かった。



 一瞬だけ、このダンジョンも買ってしまおうかという考えが頭をよぎる。

 ただ、長期アンデッドダンジョンを管理するというのは――あまり、嬉しくない。企業ならそれもアリなのだろうが、個人では手に余る。

 俺は今のダンジョンを管理する人間であり、ここに常駐できないのだから責任が持てないのだ。


 いくつかの事業プラン、例えばタイタンの貸し出しなども考えたが、その考えはいったん頭から退ける。

 そういう事は帰ってからだな。

 四宮教授や、他の仲間と相談してから考えよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ