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遠征③

 ゾンビに有効な攻撃手段。ゾンビネタで基本中の基本、「頭部の破壊」だ。

 某格闘ロボットも、これをされたら失格となる伝統的な勝利手段。いや、大概の生物は頭を潰されたら死ぬわけだが。

 ゾンビは動く死体だけど、脳みそで物を考え、身体を動かしている不思議な存在。だから頭をどうにかするのである。



「――首狩り」


 実際は動きが遅いゾンビの首を刎ねるだけの、簡単なお仕事となる。

 ハンマーで頭を潰すより、首を刎ねる方がまだマシなのだ。


 頭を潰す武器って、トゲトゲの付いたウォーハンマーとかぐらいだろう。

 で、そのハンマーって威力を出すためには大きく振り回さないといけないんだけど、森の中ではそれも難しい。

 広い場所なら、ハンマーも効率が良いんだけどな。森では不向きなのだ。


 剣の場合だと、多少のコツはいるが、そこまで振り回さなくても威力を出せる。

 ゾンビは動きが遅いので、突きの要領で首を狙えば余裕である。あとは横薙ぎにして上下分断を図るのみ。

 槍でも同じことができるので、光織たちも是非真似して欲しい。



「む? 面倒、だな」


 なお、首を突くとき、首の骨の真ん中に当たると、刃が思わぬ方向に逸れる事があるので、そこだけは注意が必要だ。

 こればかりは慣れていてもどうにもならない。運任せとなる。

 ベテラン、達人であれば骨の継ぎ目を狙うとかできるらしいが、俺にそんな技量は無いのだ。


 対処方法としては、腕力で無理を通す事。

 生きた人間であれば首の肉に刃が絡め取られる事もあるが、ゾンビの肉にそんな力はない。

 よって、力押しこそ正攻法となる。勢いで押し切ってしまうのが一番なのだ。





 アンデッド(死にぞこない)であるゾンビも、倒してしまえば靄になって消える。

 腐肉も腐臭も、まとめて消え去る。


 そう考えると、速攻で殺すのは自身の精神衛生を守るのにも良い行為だ。

 腐臭はマスクで防いでいるとはいえ、ゾンビの姿が消えると、周囲の空気が少しマシになった気分になるよ。

 ダンジョンを出れば一切合切消えてなくなるとはいえ、アンデッドダンジョンの空気が自分にまとわりついているのはやっぱり気分が悪いから、さっさとゾンビを殲滅するべきだな。



「お、ドロップした」


 そうやって数を熟せば、ドロップもそれなりに集まる。

 ゾンビのドロップ品は魔石のみで、クラフトゲームのように腐肉が手に入るといった罰ゲームは無い。

 リアルで腐肉が出てきたら、それこそ誰もゾンビを倒さなくなるだろうな。

 安心して魔石となるトレジャーボックスを袋に入れ、本日の稼ぎに口元を緩める。



 そうしていると、俺の服の裾が引っ張られた。

 光織が、何か言いたげな顔を俺に向ける。


「そろそろ戦ってみたいのか?」


 そうやって問いかけると、三人そろって首を縦に振る。

 手本を見ているだけでは我慢できなくなったようだ。大体動きは理解したから、あとは実戦で試していきたいと言っているように見えた。


「なら、行ってこい!」


 近くの敵は一通り殲滅した。

 なので、この場で戦うべく、少し声を張り上げゾンビを呼び寄せる。

 いきなり森の奥に踏み込むより、すぐに逃げられる入り口近くで練習だ。

 森の奥に行くと、囲まれるから嫌なんだよ。

 安全確保のためにも、深入りはしたくないのだ。



 俺が声を上げた事で、ゾンビたちが寄って来た。

 数が多すぎれば魔法で間引く事も考えたが、今のところ、それは必要なさそうだ。

 光織たちは難なくゾンビの首を刎ね、着実に数を削っている。


「うん。安定しているな」


 心臓狙いができるゴブリンの時よりも難易度高めのはずなのだが、光織たちは苦戦することなく戦闘を継続している。

 ロボットだからか、俺と何度も行った戦闘訓練からか。

 三人の戦いぶりは危な気が無い。


「これでもまだ、光織たちには簡単なのかもな」


 レベルアップしていない通常の原神をここに連れてきた場合、どの程度戦えるのだろうか?

 そう考えると、ここは難易度が高い気がする。普通の原神に同じレベルの戦いができるかどうかは疑問である。


 なにせ、ここは霧の出ている森の中。視界が利かないし、体温が周囲と同じゾンビでは赤外線センサーも効果が弱い。

 ある程度の戦闘経験、音響センサーを使った独特の感知手段を必要とする。戦場の全体把握がし辛いのだ。

 この環境下で戦うにはレベルアップではなく、純粋な戦闘経験が必要になると思われた。



「戦闘データがコピーできれば楽になるんだけどね」


 本来、原神はロボットであり、戦闘データは後継機と共有が可能なはずであった。

 しかし光織たちは独自進化を遂げたので、それができない。

 光織たちの経験は、光織たちだけの物なのだ。コピーなどという手段が許されない以上、他の原神に頑張ってもらうしかない。


「そういえば、自衛隊に原神が配備されたはずなんだろう。だったら、そっちが戦闘データを回収しているはずだな」


 そこで思い出したのが、自衛隊に納品された原神たち。

 俺はそれを見ていないが、300体も発注がかかったという話であった。

 あれからすでに2ヶ月以上経っている。

 300体フルに納品されたという事は無いだろうが、100体ぐらいは納品されていても不思議はない。

 配備された原神はアンデッドダンジョンを含む不人気ダンジョンの攻略に使われているはずだ。


 それならば、相応に経験を積んだ原神が出来上がっているのだろうな。

 俺は暢気に、そんなことを考えていた。

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