遠征②
「これから向かうのは、『アンデッドダンジョン』だ」
色々と考えた結果、攻略対象はゾンビとスケルトンが歩き回る『アンデッドダンジョン』に決まった。
見た目が悪いモンスター、巨大芋虫や巨大毛虫というのは、見た目の気持ち悪さだけが問題ではなく、毒を使う危険な連中だったからだ。
原神たちに毒の類は効かないので、彼女らは気にしなくても良いんだけど、俺が駄目なのだ。
長居すると、肺だけでなく目や鼻から毒が回り、死にはしないが酷い事になるそうだ。
防毒用のゴーグルとマスクを使えば大丈夫なんだけど、何度も挑むわけじゃないからな。いちいち買って挑む気にもならないし、貸出品とかも使いたくない。
そんな訳で、見た目と臭いだけ我慢すればいい『アンデッドダンジョン』を選んでみた。
アンデッドダンジョンがあるのは、俺のいる長野県ではなく、お隣の県である。
その為、高速も使いつつ、車を3時間ほど走らせる事になった。
「はぁ。運転って、やっぱり体が固まるよな」
高速を使っている間はまだマシだが、家の近くと目的地近くは、どちらも山の中で僻地だ。
道がちゃんと整備されていない、デコボコとした状態だったので、スピードが出せず運転には気を遣わないといけなかったので、かなり時間がかかった。
位置関係的に何度も来たいと思えるものではなく、このダンジョンに来るのはこれっきりとなるだろう。
「よく来てくださいました!」
アンデッドダンジョンの前に行くと、そこの土地の管理者から大いに歓迎された。
アンデッドダンジョンの不人気ぶりはゴブリンダンジョンの比ではなく、ゴブリンダンジョンの攻略依頼費用を10万円とするなら、同規模のアンデッドダンジョンは50万円はかかると言われる。それぐらい嫌われているダンジョンなのだ。
今回、俺は情報規制を対価に、タダでダンジョンを攻略すると告げている。
こちらの事情はダンジョン関係者なら大体分かってもらえるので、特に揉める事も無く話はついている。
こっちとしては、お金を貰うと税金の関係で面倒な事になるので、それを避けたいっていう考えもあるんだけどな。そこまで話す必要もないので、言ってはいない。
「ダンジョン内部の、詳しいお話を聞かせてもらえると――」
「申し訳ありません! ワタクシ、ダンジョンに入る勇気など欠片も持ち合わせていないので」
ダンジョン前で、管理人からダンジョン内部について最後の確認をする。
ネット上に載っている情報だけでは分からない話も、現地で直接やり取りをすると分る事がある。
ただ、ここの管理人さんはダンジョンに直接潜ることをしないため、目新しい話は聞けずに終わる。
ここに来た冒険者も、ゾンビとかの相手をして精神的に疲れてしまうため、管理人さんとはあまり話をしないで終わるようだ。
一般的な人がゾンビと相対できる訳もない。だから、そういう事もある。
情報が無いのであれば、仕方がない。
俺たちは事前情報を信じてダンジョンに踏み込んだ。
「うっわ。文字通り、空気が違うな」
踏み込んだ先にあったのは、霧が立ち込める、薄暗い森。
異臭がするので、マスクにきつめの匂いがする塗り薬を塗って臭さを誤魔化す。
「これが持ち出せれば、お金になるんだろうけど」
目の前の森にあるのは、杉とかのような、まっすぐに生えた木だ。
俺が両腕を回しても届かないぐらい太いので、建材としてはかなり高級な部類に入るだろう。
しかし、通常、ダンジョン内部の物は土の一粒ですら持ち出せない。
生えている木々を持ち出せれば売れると思うんだけど、それは叶わない。
勿体ないとは思うものの、ダンジョン内に家を建てる気分にはならないし、家の中にゾンビが湧いたら最悪なので、やる奴がいたら凄いと尊敬するよ。
「っと。いきなりの歓迎会だな」
俺がダンジョン入り口の近くで森を観察していると、森の奥から人影が浮かんできた。
動きが遅いので、ゾンビのようである。しかも、団体さんだ。
「光織、六花、晴海。ゾンビは頭、脳味噌のあたりをどうにかするまで動くから、注意するように」
森という環境は、武器を振り回すのに向かない。
槍がメインウェポンの三人には、やや不利な環境である。
だったら伐採してしまえと思われるのだが、それは悪手だ。
ダンジョンの地形は再生しないが、木々は成長する。切り株があればそこから、切り株を取り除いたとしても他所から種でも持って来られて、また木が生えるので無駄なのだ。
伐採した結果は、足場に転がる丸太という障害物を追加する効果しかないのである。
……現在も、そうやって切り倒された丸太がそれなりに転がっている。
まずは三人に、こういった場所での戦い方を教えるとしようかな。
魔法抜きでも戦い方次第だ。上手い戦い方を学ばないと、無駄に消耗するし。
俺は鬼鉄の剣を手にすると、前に出てゾンビに切りかかるのだった。




